ハーレー・ダビッドソン2023モデルの中での注目株が新型FXBR『ブレイクアウト』である。ハーレー最大排気量のVツインエンジンと240/40R18の極太リアタイヤを履いた迫力のチョッパースタイルを味わった感想をお伝えしよう。
ハーレー・ダビッドソン史上最大排気量エンジンを積む現行のブレイクアウト。ミルウォーキーエイト117と名付けられたこの空油冷式OHV4バルブVツインエンジンの排気量は1923ccとあとちょっとで2リッターだ。もうダウンサイジング流行りのクルマと変わらない。乗っていると、誰が言ったか「排気量アップに勝るチューンなし」という言葉が思い浮かんでしまう。
アクセルを開けると低回転域からシャキっとした加速を生み出すトルクがたまらない。1868ccとこれより少し排気量が小さいミルウォーキーエイト114とははっきりとフィーリングが異なり、間違いなく加速の迫力はこっちに軍配が上がる。どっちが優れているという話じゃなく、これは“違い”の話。好みや使い方で評価は人それぞれだと前提にして、新しもの好きな個人的な感想としてミルウォーキーエイト117エンジンには大いに惹かれてしまう。
この分厚いトルクがアクセルを開けてドカンといきなり出てきたら驚くけれど、右手の開度と比例するように滑らかに出てきて盛り上がっていくので、加減速が多い混雑した街中でもスムーズな走行ができてギクシャクせずに走れる。168Nmの最大トルクは車両重量310kgを軽々と加速させながらも扱いは楽だから困らない。かなり雑にアクセルを急開しても240ミリとそのへんのミニバンより太い18インチリアタイヤが確実にグリップして前に押し出してくれる。
高いギアで回転数を落としてのクルージングもいいし、積極的に右手をひねって回転を上げつつ加速をエンジョイするのもいい。シフトチェンジのタッチの良さと確実さも含めて、実に上手く仕上げられたエンジンだと思う。またがって走り出してしまえば手こずることはないと太鼓判を押そう。いろんなバイクを乗ってきたベテランだからそんなことを言えるんだ、と思うでしょ。いやいや、そうじゃない。低速でトロトロと走っても低重心なのが幸いして安定していてフラフラしないで多くの人が普通に操れると思う。乗りにくそうと思ったなら、それは思い違い。
御しやすい印象はそれだけに終わらず、しっかりと効くフロントブレーキを強くかけての急な減速でもフレームと足周りはガッチリしているから積極的に走行するおもしろさもちゃんと味わえる。左右にリーンさせていく動き出しで引っかかったり操作が重すぎることはなく、レーンチェンジなどフットワークは想像した以上にクセがない。リアタイヤが倒れ始めて21インチのフロントタイヤが付いてくるような感じ。実にクルーザーらしい直進安定性の良いたおやかなハンドリングだ。
コーナリングでも手を焼くことはない。バイクを寝かせていくとハンドルが内側に切れていくセルフステアは急すぎず適度で自然。エンジン特性と低重心の安定感もあってUターンも恐れる必要はない。左右26.8°とリーンアングルはそれほど深くないけれど交差点を普通に曲がっていけるだけはあるし、ストリートでさして困ることはなく動ける。クセというか、この太いリアタイヤの特性で一般的なバイクと比べると立ちが強めかな。起き上がりこぼしのように直立に戻りたがる。逆に言えば、それがビギナーにとって安心感につながりそうだ。
ミドルクラスのバイクを普通に乗れる人なら運転中に困るシーンは少ないと言い切ってしまおう。特別な運転テクニックはいらない。時速40キロからセットできるクルーズコントロールを働かせて、生命感のあるはっきりとした鼓動と、低く太い音に包まれて風を受けながら進んでいくのが実に気持ちよかった。洗練されすぎていない良い意味での粗野なところが機械だけど生命感があって楽しい。これはハーレーブランド特有のキャラクターであり魅力である。
(試乗・文:濱矢文夫)
■エンジン種類:ミルウォーキーエイト117 ■総排気量:1,923cc ■ボア×ストローク:103.5×114.3mm ■圧縮比:10.2 ■最高出力:102HP(76kW)/ 5,050rpm ■最大トルク:168Nm/3,500rpm ■全長×全幅×全高:2,370×──×──mm ■軸間距離:1,695mm ■シート高:665mm ■車両重量:310kg ■燃料タンク容量:約18.9L ■変速機形式: 6段リターン■タイヤ(前・後):130/60B21 63h・240/40R18 79V ■ブレーキ(前/後):シングルディスク+4ポットキャリパー/シングルディスク+2ポットキャリパー ■懸架方式(前・後):正立型テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:ビビッドブラック、モノトーン ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):3,264,800円~
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