Facebookページ
Twitter
Youtube

名車図鑑



CRF1000L Africa Twin復活記念 HONDAアフリカツイン大全 その3

■文──松井 勉(モーターサイクル・ジャーナリスト) ■撮影ー依田 麗 ■協力──ホンダモーターサイクルジャパンhttp://www.honda.co.jp/motor/
ホンダアドベンチャーバイクの歴史雑学を見る。アフリカツインへの道と、その仲間たち。
アフリカツインの仲間たち編

パリ・ダカレーサー、NXR750がアフリカツインへと繋がる始点だとすれば、そのNXR750への道に深く関わった市販モデルもある……。 
 ホンダはこれまで多くのアドベンチャーモデルを出してきた。そうした歴史と周辺モデルを知ることで、よりアフリカツインのキャラクターが明瞭になるのではないか。1983年に登場したXLV750Rを始点とした周辺モデル達の活躍を振り返りたい。

空冷45度V型エンジンはNXR750へと続く発火点だった。

1983年 XLV750R
1983年 XLV750R

 ホンダにとって750クラスのデュアルパーパスモデルの始点となったのがこのXLV750Rだ。1983年当時に発売されていたXLX250Rあたりとライトカウル、フロントフェンダーの意匠に共通性があり、その後、アフリカツインが歩んだデザインはまだ想像ができない。しかし、このバイクのエンジンは、1984年にデビューを果たすAMAダートトラックレースを走るワークスレーサー、RS750Dのベースへ繋がるものとなっている。空冷45度V型2気筒、OHC3バルブ、ツインプラグ、そして位相クランクを入れたエンジンスタイルは、その後、NXR→アフリカツインへと引き継がれる。NXR750もエンジンの小型化を狙って水冷化した45度V型2気筒を搭載したが、よりよいトラクション特性を得るため、位相クランクで270度の不等間隔爆発としていたのはお馴染み。この点でCRF1000Lのエンジンに与えられた不等間隔爆発の出発点だったモデルでもある。1983年8月10日より限定300台で発売される。

●エンジン:空冷V型2気筒SOHC3バルブ ●総排気量(内径×行程):749㏄(79.5×75.5mm) ●最高出力:55ps/7000rpm ●最大トルク:6.0kg-m /5500rpm ●圧縮比:8.4 ●変速機:5速リターン ●全長×全幅×全高:2335×890×1230mm ●軸距離:1480mm ●乾燥重量:195㎏ ●燃料タンク容量:19L ●タイヤ前・後:90/90-21 54S・130/80-17 65S ●発売当時価格:75万円 ●発売日:1983年8月10日 300台限定発売

NXR以前のダカールマシンをオマージュ。

1985年 XL600R Pharaoh
1985年 XL600R Pharaoh

1985年 XL600R Pharaoh
1985年 XL600R Pharaoh

 1985年8月31日より限定300台で販売されたXL600Rファラオ。空冷OHC4バルブ単気筒の特徴は、放射状に吸排気バルブを配置したRFVCヘッドと、吸気の流速に応じて通過ポートが変わるツインキャブを装備したこと。当時のXRシリーズから始まった空冷エンジンへの探求はこのモデルにも及んだ。
 97.0mm×80.0mmのボア×ストロークを持つエンジンは、ケースからシリンダーまで全てを赤く塗られていた。始動はスターターモーターとキック始動の併用とすることでビッグシングルの取り扱いをよりイージーにした。
 技術的要素は同年に発表されたXLR250Rと同様で、足周りをゴールドで彩った点にも共通点がある。しかし、28リッターを飲み込むビッグタンク、硝子レンズにH4バルブ(HI/LOとも35W)を備えたデュアルライトを備えたフロントマスクは当時のダカールレーサーを思わせるもの。レプリカ色の強いモデルだけあって、海外でも人気が高かった(海外ではXL600Lの車名で親しまれた。白・赤カラーは日本向け)。

1985年 XL600R Pharaoh
あと2年ほどでオフロードモデルも前後ともディスクブレーキ、という時代になる時期のファラオは、ロッド式のドラムを採用する。リアスイングアームはアルミ角パイプ製。リアにもチューブレスリムを採用する。異物が刺さったとき等、一気に空気が抜けにくい、チューブ入りよりもバネ下重量が軽くなるなどのメリットがあった。ただし、当時タイヤの選択肢はOEMに限られ、よりオフ性能の高いタイヤを履くにはチューブを入れる必要があった。
1985年 XL600R Pharaoh
229mmのストロークを持つフロントサス。アウターチューブ、リムはゴールド。アルマイト調の色調がファラオの足周りの特徴。フォークブーツはレッドでコントラストが新鮮。新しいトライとしてはホイールリムのセンターにリブを立て、ハブ側にスポークニップルを装備することでチューブレスリムとしたこと。スポークホイールでチューブレスという時代を造った装備だ。ブレーキキャリパーはデュアルピストンの片押しタイプ。

1985年 XL600R Pharaoh
Radial Four Valve Combustion Chamberの頭文字をとったRFVCと刻まれたヘッドカバーが印象的。キックアームを備えるが、一筋縄には掛からなかった。スキッドプレートを標準装備するなどオフロードライディングを想起させた。
1985年 XL600R Pharaoh
左に速度計+オド、トリップメーター、右に小ぶりな回転計を備えるシンプルなメーター周り。オフロード系モデルから回転計が消え去る過渡期にあったファラオ。丸メーターから角メーターへとデザイン意匠が移行する時期でもあった。

1985年 XL600R Pharaoh
ダカールレーサーではライト下にオイルクーラーを備えるが、その意匠がそのまま使われたファラオ。フレキシブルステーを持つ角形のウインカー。デュアルライトは当時「耐久、エンデュランス、ラリー」を想起させた。オンオフモデルのヘッドライトは大きくて重たいよりプアでも軽くてオフロードで必須の軽量化を優先した時代だっただけに余計に「ものすごい光量」との評判になった。限定発売だったこと、当時の免許取得環境からもごく一部のライダーが享受できた性能の一つだ。
1985年 XL600R Pharaoh
28リットルを飲み込む燃料タンク。キー付きキャップも高級感を持たせたブラック仕上げとなる。その後、水冷時代にはビッグタンクはシリンダー脇まで低く重心を下げたが、ファラオの時代はシリンダーヘッドと被らない位置に搭載されたため、搭載する燃料の量により、バイクの重心高が変わり、ライディングにもそれを考慮した走りが必要だった。

1985年 XL600R Pharaoh
幅を抑えるため少し縦長になったタンクの影響でシートの前後長はやや短い意匠に。しかし、これも当時のパリ・ダカレーサーを思わせるデザイン。シート表皮の上部をバックスキン調にしたのは当時のパリ・ダカレーサーのそれにならったもの。採用の理由は諸説あるが、サハラ砂漠の太陽に照らされた時でもバックスキンだと座った時に熱くない、長時間のライディングで尻の痛みを和らげる、などがある。リアキャリアは樹脂製のものをいち早く採用。シート上面と高さを合わせたことで使い勝手の良いキャリアだった。
●エンジン:水冷4ストローク単気筒SOHC4バルブ ●総排気量(内径×行程):591㏄(97.0×80.0mm) ●最高出力:42ps/6500rpm ●最大トルク:4.8kg-m /6000rpm ●圧縮比:8.8 ●変速機:5速リターン ●全長×全幅×全高:2205×865×1195mm ●軸距離:1445mm ●乾燥重量:156㎏ ●燃料タンク容量:28L ●タイヤ前・後:3.00-21-4PR・5.10-17-4PR ●発売当時価格:54万8000円 ●発売日:1985年8月31日 300台限定発売
1987年 TRANSALP 600V
1987年 TRANSALP 600V

1987年 TRANSALP 600V
1987年 TRANSALP 600V

 1987年4月10日から発売されたトランザルプ600は国内300台の限定モデルとして送り出された。アフリカツイン登場前夜、このオンオフツアラーはヨーロッパを中心に人気を博し、単気筒600㏄モデル中心だったこのセグメントに大きな可能性をもたらした。
 多くの国境をまたぐヨーロッパアルプスを巡るオールローダーをイメージすると同時に、アドベンチャーモデルとしての可能性を探った秀作といえるのがこのトランザルプだ。技術面には、86年、87年のパリ・ダカに勝利を収めたNXR750で培ったものが投入された。位相クランクで不等間隔爆発の水冷OHC3バルブV型2気筒エンジンを、角形断面フレームで構成されるセミダブルクレードルフレームに搭載。空力特性に優れたフェアリング、18リットルを飲み込む大容量タンク、ライダー、パッセンジャーともに快適なシート、前200mm、後190mmと長いストロークを持つサスペンションを搭載。その走りは名前の通り、アスファルトのワインディングでも多いに性能を発揮した。オンロードでの走りは劇的で、アフリカツインが出た後も、独自の進化を続け、海外での需要、人気に応えていた。

 そのコンセプトはそのままに、エンジンを400㏄にスケールダウンした弟分として1991年に登場したのがトランザルプ400V。限定販売が常だった兄貴分達に対し、国内で常時ラインナップされた点で、現在のアドベンチャーバイクの礎を築いた隠れた名車とも言える一台だ。

1987年 TRANSALP 600V
タンク、フェアリングに覆われた車体からはVツインエンジンのリアバンクしか見ることができない。シリンダーの造形には空冷フィンの名残が見て取れる。バイクらしさに冷却フィンがあった時代の名残か。アンダーガード風のシルバーのパネルがエンジン下部を覆うが、樹脂製で、ハードなオフロード走行は想定していないことが解る。
1987年 TRANSALP 600V
XL600Rファラオと同型の樹脂製キャリアを備える。シートはライダー、パッセンジャーの座面が最適化された形状で、一体成形ながら、ロングツーリングでの心地よさを出している。後に初期型アフリカツインのデザイン開発をしたエンジニアは「トランザルプはアルプス越えを楽しみ、地中海を渡ってアフリカにはその一部のライダーが出かけるコンセプト。アフリカツインは、地中海を渡り、パリ・ダカのコースをしっかり走って旅ができる走破性を持たせたバイク」と2台の違いを表現した。

1987年 TRANSALP 600V
カウルセンターに据えられたメーターパネル。冒険、大自然、というより洗練されたセグメントの登場を予感されるものだった。速度計と回転計のシンプルな中に、各種のワーニングランプを配置したもの。
1987年 TRANSALP 600V
18リットル入りの燃料タンクと車体前部を印象付けるフェアリングへのつながりは一体感があるもの。それまでのオンオフモデルには無かった造形だ。タンクとシートの継ぎ目はしっかり絞られ、足付き性の良さに一役買った。

1987年 TRANSALP 600V
フロント21インチの前輪ながら、接地感の伝達とハンドリングレスポンスが絶妙なトランザルプのフロント周り。ディスクプレートはドリルドディスクと2ピストンキャリパーを組み合わせる。正立フォークのストロークは200mm。
1987年 TRANSALP 600V
スティール製角断面スイングアームを持つトランザルプ。モノショックとプロリンクの組み合わせで、長いストロークながら舗装路ではしっかりした走りを見せた。リアブレーキはドラム。1986年の年末に国内で行われた試乗会の場は鈴鹿サーキットの東コース。CBR1000Fと同時に行われたが、直線ではさすがに離されるが、1,2コーナー、S字ではトランザルプがリッタースポーツバイクに食らいつく姿が見られた。

1987年 TRANSALP 600V
1987年 TRANSALP 600V
パリ・ダカレーサー、NXR750の風味を出しているのはマフラーエンドの2本出し部分かもれない。1986年型のNXRと印象がダブる。マフラーから出る音は歯切れが良く、心地良いもの。

●エンジン:空冷4ストロークV型2気筒SOHC3バルブ ●総排気量(内径×行程):583㏄(75.0×66.0mm) ●最高出力:52ps/8000rpm ●最大トルク:5.4kg-m/6000rpm ●圧縮比:9.2 ●変速機:5速リターン ●全長×全幅×全高:2265×875×1275mm ●軸距離:1505mm ●乾燥重量:177㎏ ●燃料タンク容量:18L ●タイヤ前・後:90/90-21 54S・130/80-17 65S ●発売当時価格:59万8000円 ●発売日:1987年4月10日 300台限定発売
1991年 TRANSALP400V
1991年 TRANSALP400V

1991年 TRANSALP400V
1991年 TRANSALP400V

1991年 TRANSALP400V
初期型トランザルプ600Vの外観意匠はそのままに、各部をアップデイトした中期型をベースにしたトランザルプ400V。メーターパネルのデザインはさらに一体感を高めたものに。角形基調のメーターとなり、インナーカウルの面積に馴染んだ意匠となっている。プッシュキャンセルのトリップメーターは、使い勝手が良いものだった。この後、1994年3月にはフロント周りのデザイン、快適性を向上させた後期型に発展する。
1991年 TRANSALP400V
ドラムからピンスライドタイプのディスクブレーキへと進化した400V。サイドカバーにはRALLY TOURINGの文字が躍る。体躯は600と同じなだけに、大型免許を目指すライダーも多くこのバイクに乗って「大きさ」慣れをしたという。

1991年 TRANSALP400V
シルバーとなったエンジン。シリンダーフィンは、空冷フィンの意匠をイメージさせるものの、その数は初期型トランザルプ600Vのそれとは異なるもの。
●エンジン:水冷4ストロークV型2気筒SOHC3バルブ ●総排気量(内径×行程):398㏄(64.0×62.0mm) ●最高出力:37ps/8500rpm ●最大トルク:3.5kg-m/6500rpm ●圧縮比:10.0 ●変速機:5速リターン ●全長×全幅×全高:2265×875×1310mm ●軸距離:1510mm ●乾燥重量:183㎏ ●燃料タンク容量:18L ●タイヤ前・後:90/90-21 54S・130/80-17 65S ●発売当時価格:57万9000円 ●発売日:1991年10月16日
1998年 NX650S DOMINATOR
1998年 NX650S DOMINATOR

1998年 NX650S DOMINATOR
1998年 NX650S DOMINATOR

 NX650Sドミネーターは海外市場向けにリリースされたモデル。空冷SOHC4バルブ644㏄単気筒を角断面セミダブルクレードルフレームに搭載したモデルだ。XL600Rファラオ同様、フレームをオイルタンクに使うドライサンプエンジンは、XR系の流れも汲むもので、RFVCを採用したドーム型燃焼室を採る。1987年に販売開始されたAX-1の海外輸出仕様に使われた名前がNX250であり、デュアルパーパスモデルでありながら、フレームマウントのフェアリングを装備すると同時に、ダカールマシンライクな風味ではないキャラクター付けをされたモデル群だ。
 XR、XL風でもXRV風でもない新時代のシングルデュアルパーパスモデル、それがドミネーターだった。

1998年 NX650S DOMINATOR
ゴールドのリム、ディスクカバー、ダウンフェンダー。シングルエンジンのスポーツバイク、コミューター、そしてツーリングバイクとしての素養を持たせ、高級感を与えたもの。
1998年 NX650S DOMINATOR
空冷エンジンの特性はXR系などと比較するとマイルド。フラットトルクで扱いやすいもの。160キロ台の車体に対して充分なパンチ力も持つ。

1998年 NX650S DOMINATOR
17インチの後輪はディスクブレーキを備える。リアフレームに着脱式のタンデムステップが取りつけられる。
1998年 NX650S DOMINATOR
NX650Sドミネーター、一つの見所がこのデュアルマフラー。代々、2本エキゾーストを採用してきたホンダのシングルエンジン、2ポートから出たヘッドパイプは集合され、シート下で分割される。

1998年 NX650S DOMINATOR
ブラッシュ的書体、蛍光色をアレンジした配色にその時代を感じるドミネーターの文字。タンクからカウルサイドに続くパネルのつながりは、スリムな中にもボリューム感がある。
1998年 NX650S DOMINATOR
アフリカツイン系のレプリカ色はなく、むしろトランザルプなどと同様、オンとオフのクロスオーバーを匂わせるメーターパネル。

1998年 NX650S DOMINATOR
カウルの形状に合わせてスラントした角型ライト。カウルにビルトインされたウインカー、XL、XR系に採用されるものと同型のナックルガード、スクリーンにはエア抜きの穴も見られるなど、小型ながら機能的なカウルでライダーの快適性を上げる手法は、新型Africa Twinのそれと同じだ。
1998年 NX650S DOMINATOR
グリップハンドルとキャリアが実用性も高めているドミネーターのリアセクション。シートの形状も含めて、ここにもトランザルプと同種のクロスオーバー性が見て取れる。
●エンジン:空冷4ストローク単気筒SOHC4バルブ ●総排気量(内径×行程):644㏄(100.0×82.0mm) ●最高出力:43.5ps/6000rpm ●最大トルク:5.65kg-m /5000rpm ●圧縮比:8.3 ●変速機:5速リターン●全長×全幅×全高:2185×890×1220mm ●軸距離:1440mm ●乾燥重量:165㎏ ●燃料タンク容量:16L ●タイヤ前・後:90/90-21 130/90-17 ●発売当時価格:輸出車 

[アフリカツイン大全 その2へ|その3]

[CRF1000L アフリカツインインプレッションへ](※PCサイトへ移動します)

[新車プロファイル2016 CRF1000L AfricaTwin<ABS>/<DCT> 車両解説へ](※PCサイトへ移動します)

2016/04/14掲載