速報では、日本メーカーおよび輸入車メーカーの最新モデルを紹介してきました。そしてトピックスとして、開発車のインタビューや最新技術について紹介しました。そこでEICMA2024トピックスのラスト前ネタとして、統括というか、イベント全体を見てみて感じたことをまとめてみようと思います。かなり個人的な意見が含まれていますので、それを踏まえてご一読いただけると幸いです。
■文・写真:河野正士
2024年は、EICMAが初開催された1914年から数えて110周年を記念するアニバーサリーイヤーということで、主催者は開催前から気合いが入っていました。事前に聞いた話では、イタリアは2026年に冬季オリンピック開催が決まっていて、その名も「ミラノ・コルティナ2026冬季オリンピック」。イタリアで冬季オリンピックが開催されるのはトリノ2006以来20年ぶり。メイン開催地であるコルティナ・ダンペッツォではコルティナ1956以来70年ぶりのオリンピック開催となるようです。コルティナ・ダンペッツォはオーストリアとの国境に近い街で、ミラノからは遠く離れていますが、オリンピック名にミラノを入れて、ミラノの観光にチカラを入れようとイロイロ画策している感がアリアリ。もちろんEICMAもミラノを拠点にしたビッグイベントだから、オリンピック熱に便乗するわけではないのでしょうが、主催者側にチカラが入るのも当然です。
110周年なんですが、開催は81回という理由は、EICMAはかつて2年に1度の奇数年開催だったことも影響しています。しかし2006年から毎年開催にスケジュールを変更。それを見越したように2005年の開催時から、会場を現在と同じRho Fiera(ロー・フィエラ)にある新国際展示場に移したのでした。それによってEICMAは世界最大級のモーターサイクルショーとなり、二輪業界での影響力を強めていきました。
で、世界的なパンデミックを乗り越えてからの110周年アニバーサリーイヤーとなった昨年のEICMA2024。開催前の発表では10パビリオン、45カ国から2100以上のブランドが参加し、会場の総面積は33万平方メートルを超えるという、事前情報のあらゆる項目で過去最高を記録していることをアピールしていました。また会期終了後には、6日間の来場者数は60万人越え。過去最高ではなかったものの、昨年の来場者数を4万人も越え、パンデミック以前の規模を取り戻したと発表しました。パンデミックのあとにEICMA出展を見送ったメーカーがいくつか戻ってきたことも、それに起因しているのかなぁ、と思っています。
ただ僕の個人的な感覚としては、昨年の方が、勢いがあったように感じました。どの部分が……という具体的なところを明記できないのですが、なぜか昨年ほどのパワフルさを感じなかったのです。それには各メーカーが推し進めているデジタルコミュニケーションも原因のひとつと言えるかもしれません。早いメーカーは9月頃から翌年モデルの発表をオンライン上で行い、EICMAのようなフィジカルなショーは、その現車を確認する場所になっているような気がします。ネットで見たバイクは実物を見るとこんな感じなのかぁ!という興奮は、たしかにあると思いますが……会場でアンベールする新型車はショーの華で、そのお披露目の場に立ち合うことにショーの価値があると思っている僕のような人間は旧タイプなんだと思いますが……このような、オンラインでの新型車の先出しは今に始まったことじゃないですが、その濃度は徐々に濃くなり、今年はそれに拍車が掛かったように感じました。
参加を見合わせていた輸入車メーカーが戻ってきたと言っても、じつは本社が出張ってこず、ローカルのイタリアディビジョンの仕切りだったりしてことも、ちょっと気持ちが冷めてしまった原因かもしれません。本社だろうがローカルだろうが、ブースの見た目はさほど変わらないのですが、そのメーカーにおける世界最大のフィジカルショーに対する方針を突きつけられたようで、遙か彼方の極東からやって来た人間としては、その判断に寂しさを感じてしまうのです。
そんな中でも勢いを感じたのが、中国勢です具体的には、QJ Motor、Loncine(ロンシン)、KOVE MOTO(コーベ・モト)、そしてCF MOTOです。QJ Motorは銭江摩托(せっこう・ちぇんじゃん)モーターサイクルが展開するブランドで、自社QJ MotorやKeeway(キーウェイ)といったオリジナルブランドのほか、Benelli(ベネリ)やMorbidelli(モルビデリ)といった欧州ブランドを買収し、展開しています。日本ではハーレーダビッドソンの「X350」「X500」を開発および製造しているブランドとして知られていますよね。KTMがMVアグスタを買収する前には、MVアグスタの中国での販売権を取得したり、当時MVアグスタの鳴りもの入りのアドベンチャーバイクプロジェクト「Lucy Explorer(ラッキーエクスプローラー)」の製造を担当することになっていたりと、いまや二輪車業界でブイブイ言わせているブランドです。そしてEICMA2023ではMVアグスタ「F4」のプラットフォーム(といってもフレームは類似バージョンだった)を使ったコンセプトモデル「SRK1000RC」を発表。今年、「SRK1000RC」の市販バージョンは発表されませんでしたが、エンジンの仕様が異なるスーパースポーツ「SRK1000RR」とネイキッドモデル「SRK1000」を発表。ほかにも921cc/778cc/421ccの並列4気筒エンジン搭載のスポーツモデルも展開しています。
気になる中国勢として名前を挙げたブランドたちは、モトクロッサーに搭載するようなスポーティな水冷単気筒から並列4気筒まで、独自開発したバリエーション豊かなエンジンをラインナップ。CF MOTOに至っては、昨年に並列3気筒のコンセプトエンジンを発表したと思えば、今年はそのエンジンを搭載した市販車を発表。また今年、V4のハイスペック・コンセプトエンジンも発表したので、おそらくは来年に、そのエンジンを搭載した市販モデルが発表されるでしょう。中国ブランドは、小排気量の廉価版モデルとガラパゴス化して中国でのみ流通するEVバイクを展開しているというステレオタイプのイメージは、そろそろ捨てなければならないと感じました。
またそれら中国ブランドは、欧州を拠点とする二輪車メーカーと共同でエンジンや車体を開発していたり、欧州を拠点とするデザインスタジオとタッグを組んだりして、欧州タッチの車体デザインはもちろん、欧州ブランドのような振る舞いでEICMA会場に堂々とブースを展開しています。LoncineはVOGE(ヴォージ)というモデル群を欧州向けブランドとして独立させ、アドベンチャーからスーパースポーツまで、さまざまなモデルを展開しています。LoncineはBMW Motorradの並列2気筒エンジンシリーズ/Fシリーズのエンジンを長く開発および製造してきた実績がありますから、VOGEの各モデルもそのノウハウが注ぎ込まれているのは容易に想像できます。
またCF MOTOがKTMとジョイントベンチャーを起ち上げエンジン開発しているのは有名な話で、KTM790系およびハスクバーナ801系のツインエンジンはCF MOTO製。さらにはKTMグループのデザイン周りを一手に引き受けるオーストリアのデザイン会社KISKA(キスカ)と提携しているほか、CF MOTO欧州にはModena40(モデナ・フォーティ)というデザインスタジオがあり、ドゥカティやアプリリア、MVアグスタで腕を磨いたデザイナーたちが車両をデザインしています。
ユニークなのは、先に紹介したQJ Motorのスーパースポーツ・コンセプト「SRK1000RC」は、MVアグスタがKTM傘下となったことで宙に浮いた、ジョバンニ・カスティリオーニや、当時MVアグスタのデザインディレクターだったエイドリアン・モートンたち旧MVアグスタ・チームが起ち上げたデザインスタジオC-Creative(シークリエイティブ)がデザインしたもの。その意匠を受け継いだ「SRK1000RR」「SRK1000」もC-Creative のデザインと言うことになります。C-Creativeは近年、中国のZNEN(ジーネン)グループとなったイタリアのMoto Morini(モトモリーニ)の車体デザインも手掛けています。
MVアグスタ繋がりで面白い話としては、EICMA2024会場にKOVE Italiaが発表した「Lucy Explorer」カラーのダカール参戦車両450Rallyが展示されていました。現段階でTeam KOVE Italiaはダカール2025に参戦していて、車両はEICMA会場で見たのと同じ「Lucy Explorer」のロゴでデザインされています。またダカールよりも先に開催されたアフリカECOレース2025にもTeam KOVE Italiaは参戦していて、市販車ベースのレース車両800Rally Xも「Lucy Explorer」のロゴでデザインされていました。じつは「Lucy Explorer」は現在もMVアグスタが商標を持っているんです。
EICMA開催時にはまだKTMの負債問題は噂段階で公になっていなかったとは言え、その段階でMVアグスタとKOVEがタッグを組んでいたことは非常に興味深いし、出資先を探しているMVアグスタにとっては、圧倒的な資金力でダカールやスーパーバイク世界選手権WSSP300に参戦する車両を開発しまくるKOVEは、なかなかに魅力的なブランドなんじゃないかなぁ、と思います。
今回は中国勢の話をしましたが、新勢力としてはインド勢も控えています。インド勢もまた、欧州の二輪車メーカーの小排気量車を開発および製造しているし、老舗欧州二輪車ブランドを復活させているし、インドはいまや世界最大の二輪車市場でもあるしと話題盛りだくさん。EICMAなどに出展してグローバルブランドとしての地位を築こうとしているのはロイヤルエンフィールドとHero Moto Corpだけですが、それ以外のブランドが世界市場に打って出てくるのも時間の問題だと思います。いやー、楽しみですねー。
で、ここからはいくつか、会場で感じたトレンドについてお話ししたいと思います。まず気になったのは、スズキが発表した「DR-Z」シリーズが、非常にポジティブに受け入れられていたこと。その多くが、じつは昔にDR-Zを持ってたんだよ的な懐かしマインド。まぁそれは、ヤマハが発表している「XSR900GP」のグラフィックバリエーションに近いかもしれないですね。いずれにしても、欧州は日本同様、二輪免許保有者の高齢化が進んでいて、ジジィ転がし的なネタは世界共通でウケるんだなぁ、と感じました。
それと近いようで遠いような話としては、ホンダの「GB350」も評判が良かったことには少し驚きました。GBのような、“ネオ”ではない、ど真ん中なクラシックスタイルは欧州ではウケない、と言う先入観が僕の中にあったからだと思うのですが……その先入観が造られたのは、スーパースポーツやアドベンチャーバイクが欧州で売れに売れていて、デザイン的にもトンガったものが多かった時代。旧車みたいなデザインのバイクを欧州の街中に置いたら、古い街並みに馴染んでしまって、その辺に停めてある古びたバイクと区別が付かなくなるじゃないか的な、いつ誰から聞いたのか覚えていないような話が僕を支配していましたから。でも欧州でもバイク乗りたちの高齢化&若者のバイク離れが進み、同時に車両のデジタル化や高価格化が進んだ今においては、シンプルで低価格な「GB350」は、トレンドやスタイルや価値がグルグルと回って、新しい価値となっているのかもしれません。そうなると、ロイヤルエンフィールドが発表した「CLASSIC650」も、イイ感じで欧州二輪車市場に馴染むかしれませんね。
そして会場を見て回って強く感じたのが、500ccアドベンチャーモデルと、500cc周りのネイキッドモデルだらけってこと。おもに新興中国メーカーがラインナップしていたのですが、昨年にはロイヤルエンフィールドが新型「ヒマラヤ450」を発表しているし、KTMは「390アドベンチャー」を新しくして、BMWは「コンセプトF450GS」を発表しています(BMWの担当者は市販化を明言していました)。アドベンチャーとは少し違いますが、トライアンフには「タイガースポーツ660」があるし、アプリリアの「トゥアレグ660」のように、新たに発表した457シリーズにもトゥアレグ的モデルが追加されるかもしれません。もちろん、国産メーカーにもこの辺りのアドベンチャー&デュアルパーパスモデルは多数あります。
昨年辺りまでは、SUB 1000ccやSUB100PS、それにソフトスポーツバイクなどと括られた特集を、たくさんの欧米メディアで読むことができました。要するに、排気量1000cc以下で100馬力以下のスポーツバイクおよびアドベンチャーバイクが、欧州バイク市場のトレンドとなっていた、と言うことです。これはパフォーマンスも電子制御技術も価格も、高みに登ってしまったスポーツ&アドベンチャーの最高峰モデルに嫌気が差したライダーたちが熱狂的に支持してきた、低価格でシンプルなメカニズムのバイク群でした。
それがさらに排気量を下げてきた、と言うのがEICMA2024で受けた印象。その理由を分析すると、若い新規ライダーを取り込むためであるのはもちろんのこと、出力上限があるが、車両価格や維持費が安いA2カテゴリーを選ぶベテランライダーも数多く居る欧州において、景気低迷&物価高のなかでバイクライフを楽しむには、この排気量500cc周りのモデルに主戦場が移行してきたのではないか、と思ったのです。
さらにそこには、インド市場を強く意識したモノ造りが二輪車メーカーに染み渡っているのではないかと思います。インドは年間2000万台を売る世界最大の二輪車市場。その大半が150cc以下の小排気量モデルです。しかし経済成長率の上昇とともにより大きな排気量モデルへと移行すると睨んだ世界中の二輪車メーカーがインド市場でのシェア拡大を狙っています。いまのところその主戦場が350ccと500ccになりそうなのです。インドでのプレミアムモデルが、欧州ではエントリー&低コストなモデルとなると、二輪車メーカーがチカラを注ぐ、これ以上ない理由となりますから。この500ccモデルだらけのEICMAが2025年にどう変化するかも、とても興味深いですね。
というところで、僕が妄想を膨らませたEICMA2024トピックのラスト前ネタを終わります。ラストは、さらに細かなトレンド考察と、会場を彩った女子たちを紹介します。
(文・写真:河野正士)
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