ホンダはEICMA2024において、電動バイクのコンセプトモデル「EV Fun Concept(イーヴィー・ファン・コンセプト)」および「EV Urban Concept(イーヴィー・アーバン・コンセプト)」を発表しました。そこでプレス発表会直後に、二輪・パワープロダクツ電動事業統括部の浜松正之さんと、同統括部チーフエンジニアの田中幹二さんに話を聞くことができました。
■文・写真:河野正士 ■協力:Honda
浜松さんは長く海外で営業職に従事し、2024年から現職に就任。田中さんはCBRシリーズやVFR1200F、VFR800F、NCシリーズ、初代CRF1000アフリカツインなどの開発に携わった人物です。
車両発表とときを同じくして公開された2台の電動二輪車コンセプトモデルのプレスリリースを要約すると以下になります。
- ●ホンダは2022年、オートモーティブ2022において「2050年カーボンニュートラル計画」を発表。【2050年にHondaの関わるすべての製品と事業活動全体を通じてカーボンニュートラルを実現することを目標に掲げ、2040年代にはすべての二輪製品でのカーボンニュートラル達成を目標にする】と宣言
- ●またホンダは2023年11月に行った「2023Honda電動二輪事業説明会」のなかで【Hondaは2030年までにグローバルで電動モデルを30機種投入】と発表
- ●「EV Fun Concept」は、その電動二輪事業説明会において発信した“2030年までに30機種投入”のなかの1台。FUN用途を想定したモーターサイクル型電動モデルであり、ホンダ二輪車初の固定式バッテリーを搭載した中型排気量帯相当のネイキッドタイプのスポーツモデルで、2025年に投入を予定
- ●「EV Urban Concept 」は、ホンダが考える都市型電動モビリティを、機能を研ぎ澄ましたデザインやコネクテッド技術、自社開発のバッテリーパックを搭載することで具現化した電動モデル
- ●「EV Fun Concept」と「EV Urban Concept」が加わることで、「2030年までに、グローバルで電動モデルを 30機種投入」する計画に対して、確実に歩みを進めている
ということになります。
今回のインタビューでは、両車両のモーターやバッテリーなど、構成パーツのディテールについては詳細に説明いただくことはできませんでしたが、開発の経緯やホンダの電動事業についてお話を伺いました。それでは、どうぞ。
Q.今回「EV Fun Concept」および「EV Urban Concept」を発表した経緯を教えてください。
浜松:「カーボンニュートラルに取り組むなかで、バイクのEV化はひとつの手段でしかないのですが、いまのところユーザーにとっても我々にとっても、EVがもっとも身近な存在だと考えています。そんな状況の中でユーザーの声を聞くと、バイクらしいEVが欲しい、バイクブランドが作った信頼性高いEVが欲しいという声があります。そのEVバイクの領域において我々ホンダが新たな商品を提供できれば、EVバイクの市場の中で我々の強みを活かせると考えています。そして我々はバイクのNo.1メーカーであり、二輪におけるあらゆる領域でもNo.1でありたい。当然、EVバイクの領域でも勝ちたい、と考えています」
田中:「カーボンニュートラルの実現には、あらゆる選択肢が必要だと考えています。そのなかでどれが主力となるかは、まだ分かりません。しかしEVが先行しているのは事実。だからといって、ほかの選択肢を捨ててEVだけを選択したわけではありません。あらゆる領域において技術の進化を止めない、ということです」
Q.「EV Fun Concept」がモーターサイクル型電動モデルを採用した理由を教えてください。
田中:「車体に跨がって操作するバイクはスポーティで、操作しやすい。ホンダは人車一体という言葉を使い、バイクを操る楽しさを追求しています。それらを総合すると、EV Fun Conceptのようなネイキットスタイルが、もっともバイクとしての楽しさを表現できると考えました。
デザインは未来的な思考を踏まえつつ、でもバイクらしさを大事にしました。たとえばフレームやスイングアームピボットなど、バイクらしいメカニカルな部分を残しつつ、電動ならではのスリム感や
それと合わせた外装デザインを採用して、今までのホンダとは違う方向性でデザインしました。何十年もバイクを造り続けてきたホンダだからこそ実現できるEVバイクのカタチ、と言えるかもしれません」
それと合わせた外装デザインを採用して、今までのホンダとは違う方向性でデザインしました。何十年もバイクを造り続けてきたホンダだからこそ実現できるEVバイクのカタチ、と言えるかもしれません」
Q.EVバイクの開発はどのように行っていますか?
田中:「開発の方法は、ICE(internal combustion engine/インターナル・コンバッション・エンジン/内燃機エンジン)とさほど変わっていません。というのも、我々もモーターサイクル型のEVバイクを開発するのは初めてで、どのような開発方法が良いか探りながら開発しています。ICEとは違う方法、EVバイクらしい開発方法があるはずです。でもそれはEVバイクの開発を進めるなかで明確になって来ると考えています。現状、モーターやバッテリーの制御に関しては開発ボリュームが増えていくことは明白になっていますが、それ以外の部分ではICEの開発と大きく変わっていません。
ホンダの四輪部門とも情報交換を行っています。モーターのコントロールにはそれぞれECUがあり、それに対する制御の知見は四輪が先行しています。その先行技術を共有しながら開発を進めています。あと充電についても知見を共有しています。今回は四輪と共通の充電形式を採用しました。その充電形式は、欧州で言うところの、普通充電のType-2、急速充電はCCS2を搭載。それは四輪のインフラを使用することを前提としているからです。
また回生ブレーキ(アクセルをOFFにしたとき、モーターを発電機として作動させることで、運動エネルギーを電気エネルギーに変換。そのときに発生するモーターの抵抗を減速に利用する仕組み)のコントロールが、ICEとEVの大きな違いです。アクセルを閉じたときにエンジン回転数の減少を利用して減速するエンジンブレーキは、ギア比によってその強弱が変化しますが、回生ブレーキは電子制御によってその強弱をコントロールすることができます。走行シーンによって、回生ブレーキの強弱をコントロールできることは、EVの特徴であり、EVを操る楽しみでもあります。EV自動車で普及している“ワンペダル操作”は、その回生ブレーキを積極的に利用した新しい走行体験です。それがバイクに適しているか、ぜひトライしていくべきだと考えています」
Q.ホンダのEVバイクは、今後どのように発展していくのでしょうか?
田中:「プレスリリースにあるとおり、EV Fun Conceptは2025年に市場投入を予定しています。それはホンダにとって、ICEからEVへと移行する最初のEVバイクであることから、技術的にもスタイルにおいても、そして開発方法においても非常にICE的な要素が大きい車両です。その車両で突然ホンダとしてEVファンバイクのナンバー1を取れるとは思っていません。
現在のEVバイク市場を見ると、ホンダのEVバイクを買うという選択肢がありませんでした。まずはそれを解決しなければならない。したがって「EV Fun Concept」を皮切りに、さまざまなバリエーションを含め、ホンダのEVバイクを認知してもらい、より電動らしいプロダクトを増やしていく予定です」
浜松:「2022に発表した『2050年カーボンニュートラル計画』で、2025年までにEVバイクを市場投入すると言うのが我々の目標のひとつでした。また2030年までにEVバイクを30モデル以上投入する予定です。もちろん我々ホンダは、電動の領域でもナンバー1を取りたいと思っています。それには当然、バリエーション豊かなEVバイクのラインナップが必要です。いまはそのモデルラインナップ拡充計画を進めている最中です。まだ多くのことは言えませんが、今後のホンダにもご期待下さい」
(文・写真:河野正士)