サスペンションブランド/SHOWA、ブレーキブランド/NISSIN、吸気システムや制御システムを展開するKEIHIN、自動車部品メーカーの日立オートモティブが経営統合し2021年に誕生した日立Astemo。EICMA参加は、SHOWA時代を合わせると今年で丸10年となります。EICMA2024では二輪車の安全・安心やカーボンニュートラルの実現に貢献するADASやEVなど幅広い技術と製品を展示しました。ここではそれらを紹介しよう。
■文・写真:河野正士 ■写真協力:日立Astemo
参加10年目を迎えると、EICMAの顔とも言える風格がともなってきた日立Astemo。二輪完成車メーカーとの取引が主な業務であるために、われわれ一般ライダーからすると馴染みがないかもしれませんが、私たちが乗っているバイクをよーく見れば、NISSIN/SHOWA/KEIHINなど、日立Astemoのブランドが走りを支えてくれているかもしれません。
またさまざまなメーカーやチームのレース活動も支えていて、EICMAでは日立Astemoと関わりが深いライダーがブースを訪れ、サインや写真撮影に応えるなど、ファンサービスを行っています。
今年はスーパーバイク世界選手権を戦うカワサキのファクトリーチーム/Kawasaki WorldSBK Teamのアレックス・ローズがやって来て、彼が乗ったファクトリーマシン/Kawasaki Ninja ZX-10RRの展示台にサインを残していったようです。またモトクロス世界選手権を戦うホンダのファクトリーチーム/Team HRCのCRF450Rや、モトクロス・イタリア選手権に参戦しMX1クラスでタイトルを獲得したドゥカティのファクトリーチーム/Ducati Corse OffroadのDesmo450MXも日立Astemoブースに展示されました。
それでは、EICMA2024日立Astemoブースに展示された新技術&新製品を紹介します。
●新しいFフォークとブレーキの関係
機能協調デザインをコンセプトにしたコンセプトモデル
まず目を引いたのは、速報/その2でも紹介した、SHOWA&NISSINとの共同開発による新しいサスペンション&ブレーキシステムのコンセプトモデル。詳細は速報に書いているので、そちらをご覧下さい。
で、それとともに注目して頂きたいのが、サスペンションの「SHOWA」とブレーキの「NISSIN」に関し、さらなる高付加価値を持つハイパフォーマンス製品のブランドのシンボルマークが発表されたこと。アルファベットの「A」をアレンジした新しいシンボルマークは、「SHOWA」および「NISSIN」のロゴと組み合わせて使用されます。それに合わせて「SHOWA」と「NISSIN」のロゴマークも、少しだけ変更され、両ブランドのロゴが同じフォントで揃えられています。
まずはレースの現場からこの新ロゴを使用していくとのこと。2025年シーズンの各レースで、このロゴマークを探してみて下さい。
●停車を関知して自動で車高を下げるHIGHTFLEXがさらに進化
電子制御サスEERAも第二世代に!
日立Astemoの電子制御サスペンション/SHOWA EERA(ショーワ・イーラ)は、停車や発進に合わせて自動で車高を調整するHEIGHTFLEX(ハイトフレックス)機能も追加できます。
車格が大きなアドベンチャーモデルやツーリングモデルの車高を自動に上げ下げする、言わば“足着き改善機構”は、HEIGHTFLEXによって初めて市場投入されました。いまや各メーカーがさまざまな技術を使って同様の機構を採用していますが、日立Astemoがこの新しい市場を開拓した、と言ってもいいでしょう。
そのHEIGHTFLEXをさらに進化させたのが、ギアポンプ式のサスペンションスプリングアジャスター。EICMA2023ではリアショックユニットにギアポンプ式スプリングアジャスターを採用しましたが、EICMA2024ではフロントフォークにも同様のポンプユニットを内蔵しました。
ギアポンプ式スプリングアジャスターの最大のメリットは、高頻度高速作動の実現。サスペンションを下げるときは一気に減衰力を抜けば良いので、減速時などのサスペンションの動きに合わせて、素早く、そして自然に車高を下げることができます。問題はサスペンションを上げるとき。初期型HIGHTFLEXのセルフポンプ式スプリングアジャスターはショックユニットの動きをポンプとして利用するために、上昇は路面状況に左右され、ある程度の走行距離が必要でした。また第二世代HIGHTFLEXが採用したABSモジュレーターをオイルポンプとして流用する方式は、コストを抑えながら、サスペンション上昇もセルフポンプ式にくらべ速くなりました。
ギアポンプ式スプリングアジャスターは上昇スピードを大幅に短縮し、5〜7秒で上昇が完了。しかもEICMA2024会場では、その上昇を体感できるデモンストレーション用車両も用意されていました。
意外にも、このシステムはいつからいくらで売るんだと、アフターパーツと思い込んで詳細を聞いてくる来場者が多かったのです。欧州のライダーは身体が大きく、また足も長いことから、足着き性なんて気にしないと言われていましたが、いまでは多くの人が足着き性を気にしていている証拠。新型車両の開発にも足着き性の改善は欠かせない項目となったと話している、メーカー系エンジニアを思い出しました。
ギアポンプ式スプリングアジャスターの最大のメリットは、高頻度高速作動の実現。サスペンションを下げるときは一気に減衰力を抜けば良いので、減速時などのサスペンションの動きに合わせて、素早く、そして自然に車高を下げることができます。問題はサスペンションを上げるとき。初期型HIGHTFLEXのセルフポンプ式スプリングアジャスターはショックユニットの動きをポンプとして利用するために、上昇は路面状況に左右され、ある程度の走行距離が必要でした。また第二世代HIGHTFLEXが採用したABSモジュレーターをオイルポンプとして流用する方式は、コストを抑えながら、サスペンション上昇もセルフポンプ式にくらべ速くなりました。
意外にも、このシステムはいつからいくらで売るんだと、アフターパーツと思い込んで詳細を聞いてくる来場者が多かったのです。欧州のライダーは身体が大きく、また足も長いことから、足着き性なんて気にしないと言われていましたが、いまでは多くの人が足着き性を気にしていている証拠。新型車両の開発にも足着き性の改善は欠かせない項目となったと話している、メーカー系エンジニアを思い出しました。
そしてサスペンション周りで、もうひとつ新世代となったのが電子制御サスペンションシステム/SHOWA EERAです。EICMA2023で、減衰力を可変するアクチュエータの制御基板をリアサスペンションユニットに組み込み、その制御基板にGセンサーを組み込むことで、これまで別体で必要だったサスペンション制御用ECUとストロークセンサーが廃止可能に。このシステムを活かせば、コスト競争力が求められる小中排気量車両にも、電子制御サスペンションシステムを搭載可能になることはもちろん、リアサスペンションのみを電子制御サス化することでも、そのメリットを享受できることをアピールしました。
EICMA2024では、その制御ユニットをフロントフォークにも搭載。前後サスペンション単体はもちろん、前後セットで採用可能とし、 SHOWA EERA ジェネレーション2ファミリーを広げ、幅広いモデルキャラクターや価格帯の車両の電子制御サスペンシ ョンシステム搭載を可能としました。
●握れば分かる!
新型ブレーキキャリパーの剛性感
これはオフロード用競技車両のブレーキの進化を体感できる展示。各メーカーの最新モデル/2025年モデルに採用されているNISSINのブレーキキャリバーとマスターシリンダーのセットを中心に、実際にブレーキレバーを握って、旧モデルとの違いを体感できるのです。
また連続ブレーキによって起きるブレーキキャリパーの高温状態を擬似的に再現し、そのときに発生するフロントブレーキレバーのストローク変化量の違いを体感。これは旧モデルと25年モデルを体感できたのですが、25年モデルの変化量の少なさは、すぐに分かりました。この進化の理由は、ブレーキキャリパー内のシール取付溝の設計を新しくしたこと。ディスクブレーキは、ブレーキレバーを操作したときの油圧変化によってブレーキキャリパー内にあるピストンが動きます。そのピストンがブレーキパッドをブレーキディスクに押しつけてブレーキが効くのですが、連続ブレーキによってブレーキキャリパーが高温になっても油圧を維持しながら、コントロール性も維持するのはとても難しいのです。ライダーの詳細なレバー操作を伝えるキモはシールの素材はもちろん、シールを取り付ける溝の形状も影響するんですねぇ。
またこの体感展示には、現在開発中の、2026年以降のモデルに装着を予定している新型キャリパーも体感することができました。そのブレーキキャリパーは、2025年モデルのパフォーマンスを維持しながら、従来モデルに比べて約15%/重量にして約50gの軽量化を実現していること。そのブレーキキャリパーは、削り出しの切削痕がバッチリ残っていて、得も言われぬ迫力がありました。
●よりコンパクトに、より効率的になった
EVパワートレインとマネージメントユニット
EICMA2023で発表した「E Axle(イーアクスル)」は、二輪車の EV化に欠かせないモーター/ギアボックス/インバーターを一体化した日立Astemoの電動パワートレインシステム。エンジンを搭載している小型バイク&小型スクーターのプラットフォームをそのまま活かして、動力源をエンジンから「E Axle」に置き換えるだけで、簡単にEVバイク化できるという、画期的なパッケージなのです。
日立Astemoは2022年に「E Axle」を発表して以来、このパッケージを進化させてきました。EICMA2024では、ユニットのさらなる小型化を実現した最新バージョンの「E Axle」を発表しました。
小型化実現のキモは、インバーターの自然冷却の効率化を進めたことによる、冷却用ファンの取外しとギアボックスの小型化。さらにはインバーターをパワートレイン下からモーターの軸方向に対して横置きに配置。それによってインバーター内に回転角センサーを内蔵することが可能になり、ユニットのさらなる小型化とともに部品点数の削減も実現しています。
これらの進化によって「E Axle」は重量11kgを実現。出力的に同等の125〜150ccエンジンが18〜20kgであることを考えると、大幅な軽量化を実現しています。「E Axle」ユニットを小型軽量化することで、バッテリーの搭載スペースをより広く確保し、それによる車両重量増加の負担を最小限におさえることを目的としているそうです。メインターゲットは、いまや世界最大の二輪市場であり、国を挙げてEV化を進めているインドとのこと。
また動力源である「E Axle」をコントロールする「EMU/EVシステム・マネージメント・ユニット」、そしてバッテリーを制御する「BMS/バッテリー・マネージメント・システム」も開発を継続中。とくにBMSはEV化には重要なアイテムです。
BMSは、基本的には充放電を管理するシステム。バッテリーを監視し、急速充電を含めて最適な充放電を行うことでバッテリーのパフォーマンスやライフを最適化します。日立Astemoは、既に四輪でBMSの開発と市販車搭載に実績があり、四輪のシステムをそのまま二輪に流用することで、迅速に市販EVバイクへの対応が可能。現在、四輪用BMSは技術レベルが高く、そこで開発した高性能なBMSをそのまま二輪に流用できることが最大のメリットとなります。
一般的なEV開発ではモーターを中心とした動力ユニット/EMS/BMSを個別に調達し、それぞれを組み合わせて独自で制御プログラムを構築しなければなりません。それをパッケージで提供できることで、開発コストとスピードを大幅に短縮できることが日立Astemoの強みなんですね。
これらの進化によって「E Axle」は重量11kgを実現。出力的に同等の125〜150ccエンジンが18〜20kgであることを考えると、大幅な軽量化を実現しています。「E Axle」ユニットを小型軽量化することで、バッテリーの搭載スペースをより広く確保し、それによる車両重量増加の負担を最小限におさえることを目的としているそうです。メインターゲットは、いまや世界最大の二輪市場であり、国を挙げてEV化を進めているインドとのこと。
BMSは、基本的には充放電を管理するシステム。バッテリーを監視し、急速充電を含めて最適な充放電を行うことでバッテリーのパフォーマンスやライフを最適化します。日立Astemoは、既に四輪でBMSの開発と市販車搭載に実績があり、四輪のシステムをそのまま二輪に流用することで、迅速に市販EVバイクへの対応が可能。現在、四輪用BMSは技術レベルが高く、そこで開発した高性能なBMSをそのまま二輪に流用できることが最大のメリットとなります。
●進化するステレオカメラを使った二輪ADAS
世界初の二輪車用路面感知機能を追加
日立Astemoはこれまでも、前方検知用ステレオカメラを使った二輪車用ADASのコンセプトモデルを発表。ステレオカメラとADAS用ECUを分散配置を実現するとともに、2眼ヘッドライトのように2つのカメラを切り離して車体に搭載可能にして両搭載性を大幅に向上させました。
EICMA2024では、そのステレオカメラがどのように前方検知を行っているか、デモ車両に搭載したカメラが、日立Astemoブース前を歩くEICMA来場者を関知。車体前を行き来する様子をモニターしながら、そこまでの距離をリアルタイム表示しました。
実走行では、そのステレオカメラが検知した前方走行車両や障害物、車線や道路標識などの情報を制御ユニットに送り、それに合わせてライダーへの注意信号の発信や、速度管理など制御技術と連携しています。画面に映るバイクの周りの状況は、普段のライディング時に私たちライダーが常に注意を払っている状態と同じ。その複雑な状況をカメラ&コンピューターでサポートしてくれるのは、心強いですね。
また新しい技術として路面感知機能を追加しました。インドをはじめとする東南アジア、また欧州には市街地での速度抑制のためにスピードバンプと呼ばれる、道路を横断するこぶが設置されています。しかしそれに気がつかずにオーバースピードで侵入してしまうと非常に危険。そこで、それをカメラで検知して、制御で速度抑制を行ったり、ライダーへインフォメーションを出したりして、市街地での走行安全性を高めるのが目的とのこと。これ、僕も欧州やインドで走行したときに経験がありますが、気づかずにスピードバンプに侵入して、ヒヤッとしたことが何度もあります。事前に標識がないスピードバンプも沢山ありますから、これが実搭載されると良いですね。
あと製品展示で気になったのは「96V仕様のEVバイク用インバーター」。すでにインドで生産がスタートしたとのこと。96Vといえば、小型のEVスクーターではないですね…あ、もしかして発表されたばかりの“アレ用”…かな?
こういった技術系の発表や展示が数多くあるのもEICMAの楽しいところ。そこで得た情報を紡いで行くと、次世代のバイクの姿が見えてくる。あ、いや、想像が膨らみます!
(文・写真:河野正士)