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試乗・解説






■試乗・文:中村浩史 ■撮影:赤松 孝 ■協力:カワサキモータースジャパン ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp、クシタニ https://www.kushitani.co.jp

 2017年の東京モーターショーでデビューしたカワサキZ900RS。
 登場した当初は、Z1/Z2を意識したレトロスタイルというだけで賛否両論。「いいナ、これ」という声と同じくらい「なんだよ結局Z2レプリカじゃんか」という声が少なからずあったのは事実でした。
 これ、ほぼ第一印象で決まっちゃいますからね。カッコいいのは大事ですが、全国のZ900RSユーザー予備軍は、まだショー出展時の展示車とか、写真でしか見たことがなかった段階、それだけでカッコいい、カッコ悪い、って判断している時期です。カッコいいじゃん、いやぁレトロ復活なだけじゃない? なんてね。

 けれど、その後の人気はもうご存知の通り。Z900RSは2017年12月発売の2018年モデルから、連続してベストセラーの座を獲得。あれからずっと大人気で、2023年にもベストセラーの座は揺るがず、とうとう6年連続ベストセラーを獲得しました。きっと、2024年も変わらないでしょう。それくらい、街でも高速道路でもツーリング先でも、さらにイベントやショー、ミーティングでも、本当にZ900RSをよく見かけます。
 そして、現在のカワサキラインアップには、そのZ900RS誕生のきっかけになったモデルも販売されています。それがZ900。日本発売は2018年4月ですから、Z900RSよりも後に日本市場にデビューしているんですが、Z900は海外専売の2017年モデルとして誕生していますから、Z900RSよりも先に生まれているんです。

 カワサキの狙いとしては、ベースモデルのZ900と、レトロスタイリングバージョンのZ900RS、という区分け。日本市場では圧倒的にZ900RSが人気ですが、これは海外になると逆転します、レトロスタイリングって、海外市場ではあまり注目されませんからね。
 そのZ900、カワサキZ一連の「SUGOMI」デザインを採用し、ちょっとイカツい雰囲気。派生したZ900RSとはちょっと違うスポーツ性を持っているモデルです。

#Z900

 まずパッとまたがったポジションがコンパクト。Z900の方がハンドルが低く、タンク上面も盛り上がりと低い形状に変化しているから、グッと抑え込んでいる感じです。走り出してみても、車体がコンパクトでハンドリングが軽い感じがするのは、ホイールベースが15mm、Z900の方が短いから。
 そんな1.5cmでわかるかぁ? って自問自答してみたんですが、Z900はスタイリングの関係からか、全長も全幅も全高も、Z900RSよりも小さく短い。車両重量も、2kgほど軽いです。キャスターもわずかばかりZ900の方が立っていて、トレールはZ900の方が長いのは、オフセットを大きめに取ってあるんでしょう。タイヤ銘柄も、試乗車にダンロップ・ロードスポーツ2が装着されていて、操舵感が軽い。だからZ900のコンパクトさは実感しやすいです。

 パワーフィーリングもZ900の方が元気。これはまず、Z900の方が出力が大きく、Z900RSの111PS/8500rpmに対して、Z900は125PS/9500rpm。トルクは同じ数字ながら、発生回転数がZ900RSの方が低い。これは、Z900の方が高回転まで回ってハイパワー、Z900RSの方が低回転からトルクがある、という関係。それでも、Z900の方が低回転からのダッシュ力を感じるのは、Z900の方がファイナルがショート――ドリブンスプロケットが2丁大きいからです。もちろん、その分Z900RSの方が最高速度寄り――同じスピードならばZ900RSの方が回転数が低いのです。ミッションでいえば、1速のギアレシオだけZ900RSの方がショートに設定されていて、6速のギアレシオは、Z900RSの方がロング。両車の性格付けを、きちんと専用設定しているんですね。

#Z900

 いざ走り出してみると、やはりZ900の方はスポーツ性が高められています。ひと回りコンパクトに感じる車体で、動きもZ900の方がシャープ。これは、上にも書いたタイヤ銘柄の違いもあるかもしれません。Z900がダンロップ・ロードスポーツ2、Z900RSがダンロップGPR300で、タイヤの性格も、ロードスポーツの方がややスポーティな設定ですから。

 パワー感はものすごく、Z900RSが低回転から最大トルクを出しているとはいえ、Z900も低回転からのトルクが大きく、スムーズ。バーグラフ表示のタコメーターが2000rpmあたり以下しか指していない時でも、スムーズにパワーが立ち上がっていきます。わざと大きくスロットルを開けると、オッと体を持っていかれるほどです。

 ちょっとイジワルで、とんとんとシフトアップしてトップ6速に入れて、エンジンがぎくしゃくするまで回転を落としてみても、2000rpm以下でもノッキングは感じられません。そこからアクセルを開けてみてもスムーズに加速する。トルクのある、使用範囲の広いエンジン特性です。

 高速道路に乗り入れると、トップギア6速で100km/hクルージングは4100rpmくらい。Z900RSの同じスピード域は3900rpmくらいですから、やはりトップギアクルージングはZ900RSの方がエンジン回転数は低い。これが、カタログデータの燃費の差になっているようです。ちなみにWMTCモード燃費(=国際統一バイク用計測燃費)では、Z900RSが18.8km/Lで、Z900が18.0km/Lです。
 さらにZ900RSとの差でいえば、最近増えてきた120km/h制限の高速道路を走る時、Z900の方が走行風の整流効果がありますね。特徴的なヘッドライトとメーターバイザーが適度にプロテクションしてくれている印象でした。

#Z900

 ワインディングを走ってみると、やはりZ900のフットワークの良さは感じられて、Z900RSの絶対的な安定感のある重厚な動きとはかなり違います。もちろん、ガンガンにワインディングを攻めるバイクではないんですが、操舵感が軽いZ900の方が、フルバンク近くまで持って行きやすい印象。それも、車体設定やタイヤのキャラクターに沿っているんだと思います。
 さらに今回試乗したZ900は、オーリンズ製リアサスを使用したプラザエディションで、その動きの良さも好印象の一因なのだと思います。ちなみにこの「プラザエディション」は、オーリンズのOHLINS S46 Type DR1LSショックが標準装備されていて、スタンダードよりも4万4000円だけアップ。おトクです!
 とはいえ、Z900のフロント回りの低さの方がスポーツライディングには合っていますね。Z900RSはもう少し鷹揚で、のんびり走るのが似合っている。これは、体重移動がしやすいスリムなシートのZ900と、クラシックな形状のダブルシートのZ900RSという風に、カワサキが想定した違いなんでしょう。

 Z900は、決してZ900RSの「あんまり飾らないバージョン」なだけではありません。900ccという立派なビッグバイクの質量を感じさせないスポーツバイク。そのZ900をベースに、もう少しのんびり乗れるバイクとしたのがZ900RSという区分けなんだと思います。
 さらに、両者の違いは価格にも現れていて、Z900の方が20万円ほどお安い! これは大きいですね。

 大人気Z900RSに乗るもヨシ、その双子の「人気のない方」(注:日本では、ですよ)を選ぶもヨシ。Z900RSをどんどんカスタムしていってひゅんひゅん走るバイクにするのも、Z900でそこを超えていくのも楽しいですね。
 オレ、みんなが乗ってない方がいいなぁ、ってZ900を選ぶクロウトライダーも多い気がします。
(試乗・文:中村浩史、撮影:赤松 孝)

#Z900

#Z900
#Z900
Z900RSと共通のスチールダイヤモンドフレーム。エンジンをストレスメンバーとしているため、軽量コンパクトなフレームづくりができる。写真は前期モデルで、スイングアームピボットまわりの剛性が見直されている。現在はこの車体色は販売していない。

#Z900
#Z900
エンジンはZ900RSよりもパワフル、出力特性も専用設定された水冷並列4気筒DOHC4バルブエンジン。アシスト&スリッパークラッチを採用し、シフトダウンの時にバックトルクをうまく逃がしつつ、クラッチレバー操作も軽くなっている。ライディングモードとトラクションコントロールも採用。

#Z900
マフラーデザインもZ900専用。Z900RSはオーソドックスな長円形メッキサイレンサーを持つが、Z900は異形断面の黒サイレンサーにヒートガードを装備する。
#Z900
φ300mmペタル形ディスクローターに4ピストンキャリパーの組み合わせ。フォークはφ41mm倒立で、伸び側のみの減衰力調整機構付き。Z900RSは真円ローターにラジアルマウントのモノブロックキャリパーを採用し、フォークも圧側減衰力調整が追加される。

#Z900
アルミスイングアームを採用。本文中にもあるとおり、Z900はZ900RSよりもファイナルレシオがショートに設定されていて、RSよりも加速型といえる。リアサスは車体に対して水平近くにマウントされる、カワサキ独自のホリゾンタルバック方式。
#Z900
Z900に設定されている「カワサキプラザ」エディションは、オーリンズ製リアサスを標準装備。スタンダードから4万4000円のみのアップでオーリンズ! はおトク。サス本体はS46TypeDR1LSで、量販店では15万円ほどで販売されている。

#Z900
SUGOMIデザインを強調しているのが、このヘッドライトデザイン。ヘッドライト、ポジションランプ、ウィンカーはLEDを採用。写真はハイビーム点灯時。
#Z900
テールランプ、ナンバープレート灯もLEDを採用。ウィンカーもスリムな形状に変更され、ブレーキランプが「Z」形に点灯するカワサキの遊び心も健在。シートはアクセサリーでライダー側/タンデム側ともハイシートが用意されている。

#Z900
バックライト色を写真の黒と白に変更できるデジタルメーター。スマホとBluetooth接続でき、ライディングログ保存や走行ルート、距離や走行時間も連携でき、ツーリング先でその日の走行経路をプレイバックするなどの楽しみも。
#Z900
タンク上面を持ち上げてから、シートに向けて落とし込む形状のフューエルタンク。Z900RSよりもニーグリップや車体のホールドがしやすく、そこもスポーツライディング向き。シュラウド形状も変更されている。

#GSX-S/R Meeting
#GSX-S/R Meeting
Z900RSが正統ダブルシート形状なのに対し、スリムで足が降ろしやすいシート。シートエンドがハネ上げられ、そこもスポーティイメージを強調している。タンデムシート下にはETC2.0車載器が標準装備されている。

#Z900
#Z900
●Z900 主要諸元
■エンジン種類:水冷4ストローク4気筒DOHC4バルブ ■総排気量:948cm3 ■ボア×ストローク:73.4×56.0mm ■圧縮比:11.8 ■最高出力:92kw(125PS)/9,500rpm ■最大トルク:98N・m(10.0kgf・m)/7,700rpm ■全長×全幅×全高:2,070×825×1,080mm ■ホイールベース:1,455mm ■最低地上高:145mm ■シート高:800mm ■車両重量:213kg ■燃料タンク容量:17L ■変速機形式:常時噛合式6段リターン ■タイヤ(前・後):120/70R17M/C・180/55R17M/C ■ブレーキ(前/後):油圧式ダブルディスク(ABS)/油圧式シングルディスク(ABS) ■懸架方式(前・後):テレスコピック式(倒立)・スイングアーム式 ■フレーム:ダイヤモンド ■車体色:キャンディパーシモンレッド × エボニー ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):1,276,000円 ※試乗車はZ900 PLAZA EDITION 1,320,000円

[『Z900試乗インプレッション記事 ノア セレン』へ]

[『Z900試乗インプレッション記事 松井 勉』へ]

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2024/11/06掲載