■試乗・文:毛野ブースカ
■撮影協力:玉井久義
■協力:スズキ https://www1.suzuki.co.jp/motor/
前編でジクサー150の特徴を見てきたわけだが、「じゃあ150ccの何がいいの?」というモヤッとしたギモンが私だけではなく読者の方々も残っていただろう。また、スペック上の燃費がWMTCモードで50.0㎞/Lというのも非常に気になる。これらのギモンは実走して確かめるしかない。そこで今回のツーリングは、乗り心地・使い心地と、満タンでどこまで走れるかを検証すべく、試乗車を借りてから返却するまでトリップメーターを戻さずに、高速道路から流れのいい一般道、都内の混雑した一般道まで様々な条件下で走ってみた。スペック上の燃費と燃料タンクの容量から換算すると概ね600㎞、燃料警告灯が点く手前で500㎞ほど走れるはずだ。ほど走れるはずだ。その距離から行き先を考えた結果、東京から木更津、館山、勝浦、九十九里を通って銚子まで走り、東京に戻るルートにした。今まで何回も房総半島方面にはツーリングに行っているが、今回の房総半島をぐるりと巡るルートは初めてだ。
午前中に試乗車を借りてきて、木更津に前乗りするために、その日の午後7時00分にアームズマガジン編集部のある新宿を出発。首都高の入口を探すのに迷っているうちに雨が降ってきた。まだ借りてきて20㎞も走っていないのに雨の中を走行する羽目に。ようやく首都高に乗り、ホテルのある木更津金田インターを目指す。雨脚はどんどん強くなり、レインボーブリッジに差し掛かる頃には本降りになっていた。5速・80㎞/hで6,000回転。空冷単気筒ながらエンジン音は静かでメカニカルノイズや振動は少ない。本当はもう少し速度を出してみたかったが、雨脚が強くなってきたので80㎞/hでとどめた。車体は軽いが振られることもなく高速走行でも安定している。この辺の感触は125ccよりも250cc寄り。スロットルのレスポンスも悪くない。東京湾アクアラインに入り、海ほたるで休憩。ここまで約70㎞走ったが、フューエルメーターはまったく減っていなかった。先ほどの雨は止み、ホテルに着く頃には上がっていた。ホテルに無事チェックインし、明日の走行に備えて風呂に入って早く寝た。
翌朝、天気は晴れ曇り。今年は残暑続きで、この日も朝から暑い。午前8時00分、木更津金田インター近くにあるホテルを出発。まず向かったのは富津岬。通勤車両で賑わう県道87号線から県道90号線、そして国道16号線に入る。周囲は工場地帯で殺風景な景色が続く。木更津から約50分走って富津岬に到着。平日ということもあり観光客はほとんどいない。東京湾に面した駐車場からは横浜や東京の京浜地帯が見渡せた。ここまですでに100㎞ほど走ったが、フューエルメーターが減る気配はない。
富津岬を後にして、ここからは館山方面を目指して房総半島を下がっていく。国道16号線から国道465号線を通り、館山に向かう主要ルートである国道127号線(内房なぎさライン)に入る。国道127号線を走ると程なく、右側に東京湾が見えてきた。ここから銚子まではずっと右側に海があるルートを走ることになる。集落が続く海岸沿いの入り組んだ道を走っていくと金谷港が見えてきた。金谷港といえば横須賀(久里浜)と富津(金谷)を約40分で結んでいる「東京湾フェリー」が運航している。当初、東京湾フェリーを使って横須賀から富津に行く、もしくは富津から横須賀に行くルートも考えたが、今回は時間の都合もあって断念した。私も何度か利用しているが、東京・神奈川方面にお住いの方は是非東京湾フェリーを利用して房総半島に向かうことをお薦めする。
金谷港を過ぎるとすぐ房総半島の観光地として有名な「鋸山」が見えてくる。鋸山はロープウエイを利用して山頂まで行くことができ(有料道路はバイク通行禁止)、山頂からは東京湾を一望できる風光明媚なところだ。鋸山の南斜面には日本寺があり断崖絶壁の「地獄のぞき」がある。ここも訪れたことがあり、今回山頂まで行くか迷ったが、この後のスケジュールを考慮して今回はパスした。訪れる際は少し時間に余裕を持って行きたい。鋸山を過ぎて道の駅「富楽里とみうら」に差し掛かったところでフューエルメーターがようやく1目盛り減った。ここまでの走行距離は約134㎞。単純計算すると3リッター弱減ったのだろうか。なかなか優秀な数値だ。しばし道の駅で休憩。
時間は午前10時を過ぎて気温がどんどん上昇していく。比較的空いている一般道を走っているためか熱ダレはなく、都内を走っていると3速、4速で充分な感じだが、流れのいい一般道では5速でちょうどいい。70㎞/hで5,000回転ほどだ。独特な形状のタンクはニーグリップしやすく、長距離でも安定して走行できる。ここからしばらく国道127号線をひた走る。国道127号線と国道128号線の分岐点を過ぎて、洲崎(すのさき)方面に向かう県道257号線(房総フラワーライン)に入る。交通量はグンと減ってかなり流れがいい。洲崎灯台に行こうと思ったが駐車スペースがなかったのでパス。その先にある洲崎神社を参拝した。ここまでの走行距離は約173㎞。すでにいい距離を走っている。
洲崎神社を出て、一服しようと県道257号線沿いにある「たてやま温泉 千里の風」に寄ったところ、メンテナンスのため休館だった。残念。入浴はお預けして先に進む。房総フラワーラインは日本の道100選に選ばれただけあり、ところどころに花が咲き、穏やかな道が続く。県道257号線から今度は国道410号線に進んで外房ルートに入る。ここまで来ると海水浴場が多くなり、南国感の漂う景色が登場する。海風のためか何となく視界が白い。時間はすでに午後0時を過ぎていてお腹が減ってきた。今回のツーリングでは魚料理を食べようと思っていたので、国道410号線沿いにある道の駅「ちくら・潮風王国」で名物のアジフライ定食を食べた。ここまでの走行距離はちょうど200㎞。200㎞ほど走ると普通ならお尻が痛くなる頃だが、ジクサー150のシートは座りやすくお尻が痛くない。ライディングポジションも違和感なく、私の体形に合っているのだろうか。
道の駅「ちくら・潮風王国」を出発したのは午後1時30分。国道410号線を通って国道128号線に入り、銚子に向けてひたすら海沿いを走っていく。当初日帰りで東京まで戻る予定だったが、銚子に着くのが夜になってしまいそうなので、九十九里近辺で1泊して翌朝に銚子に向かうことにした。若かったら無理しているだろうが、50歳を過ぎると無理は利かない(というか無理するのは止めよう)。今宵の宿がある長生村まで約100㎞。房総半島は想像していたよりも大きい。
日差しが照り付ける中、国道128号線(外房黒潮ライン)を淡々と走る。鴨川シーワールドがある鴨川を通過。近年、気温が都心よりも約5度くらい低いことが知られるようになった勝浦を通過。海風のせいか確かにこの近辺は涼しく感じた。海水浴のシーズンが終わり、海水浴場にはサーファー以外はいない。御宿に差し掛かる手前で走行距離は約266㎞になった。午後4時を過ぎてさすがに疲れてきたので、ふと目に入った日帰り入浴施設「御宿の湯」に入ることにした。
「御宿の湯」は千葉県夷隅郡御宿町浜にある日帰り入浴施設だ。近くには「月の沙漠記念像」などがある。人気のない館内に入って受付に寄ってみたが誰もいない。しばらく待っていると女性スタッフがやって来たので、入浴したいことを告げると「今日はお湯がぬるいけどいい?」と申し訳なさそうに言った。ぬるくてもいいので入湯料1,000円を払って浴室へ。内風呂だけだが、お湯は黒湯で弱アルカリ性低張泉。汗ばんだ身体を洗ってからお湯に浸かると確かにぬるい。近所のおじさんたちも「今日はぬるいよな〜」と言っている。酷暑の中を走ってきた私にはほどよいぬるさ。逆に熱すぎるとツライ。加水なしの源泉かけ流しらしいが、おじさんたちの会話から察するに今日だけがぬるいわけでなはないようだ。理由はいろいろあるだろうが、自然の摂理だから仕方ない。お湯そのものは肌触りよく気持ちいいので、ぬるくない時に来てみたいと思った。
お湯がぬるいとはいえ入浴後の汗は止まらない。一息ついたところで長生村を目指す。国道128号線から本来は県道30号線に入らなければならないところを間違って有料道路の九十九里道路に入ってしまった。出口がなくて焦っているところに雨が降ってきた。泣きっ面に蜂とはこのことか。気づけば長生村を過ぎて白子近辺まで行ってしまった。雨は本降りになり、有料道路下で雨宿りをしながらスマホでルート確認。すぐ近くに県道30号線が走っていることが分かった。レインウエアを着用して県道30号線を走って数㎞戻り、何とか宿に到着。周囲はすっかり暗くなり、皮肉にも到着した頃には雨が止んでいた。
今宵の宿は、千葉県長生郡長生村一松にある日帰り温泉施設「スパ&リゾート九十九里 太陽の里」だ。施設、駐車場ともに大きく、宿泊施設が併設された館内は健康ランド的な雰囲気が漂う。この日の大広間では大衆演劇が開催されていた。この日は本館から歩いて数十秒の離れに宿泊した。宿泊者は何度でも入浴できる。浴室は内風呂、露天風呂ともに広々としておりゆったりくつろげる。露天風呂のみ長生温泉を源泉とした温泉が使われている。お湯は数時間前に入浴した「御宿の湯」と同じ黒湯。こちらはしっかり適温で、滑らかな肌触りとともに時間が経つのを忘れてしまう。離れは完成したばかりらしくきれいで部屋も広い。素泊まりなので、本当は地元料理を味わいたかったが雨でそれどころではなかったので、近くのコンビニで買ってきて済ませた。その代わり朝食は銚子で食べることにした。部屋に戻ると眠くなってきた。長かった一日が終わった。
翌朝、天気は快晴。今日も残暑が厳しそうだ。ツーリング最終日は屏風ヶ浦にある刑部(ぎょうぶ)岬、銚子にある犬吠埼灯台に向かい、銚子港近辺で朝食を食べて房総半島でのミッションは終了。その後は埼玉県の某所に移動して撮影後、東京に戻るスケジュールだ。ここまでの走行距離は約316㎞。フューエルメーターはあと3つになった。昨日の走行を振り返ると、流れのいい一般道がメインなのでストレスなく走れた。振動は少なくライディングポジションに無理がない。軽いのも個人的にはポイントが高い。これで荷物が積みやすければいいのだが…。300㎞走っても燃料はまだ余裕がありそうだ。
コンビニで買った軽食を食べてから午前7時30分に出発。ここからは県道30号線をしばらく走ることになる。県道30号線は海岸線からやや離れているので海は見えないが、穏やかな風と照り付ける太陽が海沿いの雰囲気を醸し出している。長生村から約1時間30分かかって刑部岬に到着。ここでしばし撮影。展望スペースからは九十九里浜と太平洋が一望でき、数々の選景に選ばれている映えスポットだ。訪れる方が意外と少なく、銚子に行った際は是非訪れてほしい。
刑部岬を後にして、いよいよ犬吠埼灯台に向かう。流れはいいが、犬吠埼灯台まではやや起伏のある道が続く。発進時のレスポンスは250㏄と変わらないものの坂道になるとやや力不足を感じることがあり、ギア選びがポイントになりそうだ。刑部岬から30分ほどで犬吠埼灯台に到着した。走行距離は約384㎞に達し、フューエルメーターは残り2目盛りとなった。カタログスペックから換算すると7.6リットル消費したことになる。ここからどの段階で燃料警告灯が点灯するか興味深い。犬吠埼灯台から朝食を食べるべく銚子港に移動。午前中から営業している港近くの食堂「浜めし」で刺身定食を食べた。これで房総半島ミッションはクリアした。あとは国道124号線、利根水郷ライン(国道356号線)、国道6号線を走って目的地に向かい、東京に戻るだけだ。
佐原香取市、成田市、印西市、我孫子市を通過して柏市に差し掛かって走行距離が490㎞を過ぎたところで燃料警告灯が点灯した。これからまだまだ走るので、とりあえず給油することにした。給油したところ8.65リットルしか減っていなかった。ここまで494㎞走ったのでリッター約57㎞走ったことになる。流れのいい一般道が多かったとはいえ、この数値はすごい! カタログスペックを上回る数値を出したことはもちろん、実際にリッター50㎞を叩き出したことに驚いてしまった。説明書を見ると残り3リッターになったところで燃料警告灯が点灯すると記載されており、正しく表示されたことになる。もしこのままの燃費を維持して走ったとしたら665㎞走れる。トリップメーターは戻さずに燃料を満タンにして走行開始。ここからは渋滞が増える都市部になるので燃費はやや悪くなるはずだ。埼玉県の某所で撮影後、東京に戻ったのは午後8時を過ぎていた。
返却日は都内を10数㎞走り、最終的な走行距離は約594㎞、フューエルメーターが1目盛り減っていた。給油したところ2.44リットル減っていた。最終的な燃費はリッター約53㎞だった。ほぼカタログスペックに近い数値となった。高速道路を走れてガソリン12リットルで600㎞近く走れるバイクはなかなか見当たらない。そんな上々の結果を踏まえて、私なりに125ccと250ccと比べた際のジクサー150のメリットを考えてみた。
- ●125㏄と比べた際のメリット
- ・高速道路を走れる
- ・交通の流れに乗りやすく、ペースの速い道でも流れに乗りやすい
- ・燃費はさほど変わりない(GSX-R 125と比較した場合)
- ・本体費用が安い(GSX-R 125は453,200円、GSX-S 125は420,200円)
- ●250㏄と比べた際のメリット
- ・燃費がいい(Vストローム250はリッター約37㎞)
- ・本体費用が安い(ジクサー250は481,800円、Vストローム250は668,800円)
- ・車体がコンパクトで軽い(ジクサー250は154㎏、Vストローム250は191㎏)
これらを踏まえてジクサー150は、MT車で通勤・通学(普段使い)をメインにして、週末100〜150㎞くらい離れたところに高速道路を使ってプラッとツーリングに出かけるような使い方をしたい人にお薦めのバイクではないだろうか。高速道路を走れて燃費が良く、肩ひじ張れずに乗れるのが何よりも魅力だろう。インドではもっぱら普段使いだろうが日本ではマルチに使える。オンからオフまで充実したバイクライフを送ることができる、そんなバイクだと思った。う〜ん、スズキは憎いバイクを作ってくれたなあ。
(試乗・文:毛野ブースカ 撮影協力:玉井久義)