Facebookページ
Twitter
Youtube

試乗・解説

Kawasaki Ninja ZX-4R SE リアルワールド・ボーイズレーサー
■試乗・文:ノア セレン ■撮影・富樫秀明 ■協力:カワサキモータースジャパンhttps://www.kawasaki-motors.com/ ■ウエア協力 アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html Alpinestars https://www.okada-ridemoto.com/brand/Alpinestars/




カワサキ注目の新型車種ZX-4Rについてはサーキット試乗の様子を既に本サイトでレポートしている(https://mr-bike.jp/mb/archives/39481)。250cc版と共通車体というコンパクトなマシンに77馬力のエンジン。高回転域を鳴かせて走るその世界観は大変に楽しかったが、では公道ではどうだったのだろうか。

ボーイズレーサー、なんて言葉があったなぁ!

 かつて、四輪のハッチバックを元気に走らせたりカスタムしたりする向きを「ボーイズレーサー」と呼んでいた時期があったと記憶する。排気量が過大ではなく、軽量でスポーティに走らせられるハッチバックたちは、海外でも「ホットハッチ」なんて言われしっかりと文化になっていた。
 しかしその言葉に「ボーイズ」とつくため、どうも「若者のオモチャ」「より本格的なものへと移るための足掛かり」といった印象も付きまとう気がする。ところがその実、ホットハッチの魅力に取りつかれたのは「ボーイズ」だけではなく「いい大人」も含まれていたのだ。ZX-4Rに乗りそんなことを連想したのは、このバイクが手に余るような超高性能ではなくエントリーユーザーにも優しいのに、ベテランライダーでもしっかりと楽しむことができる奥深さを持っていたからだ。
 ホットハッチ文化には「排気量の小さいもの」や「頂点モデルではないもの」を敢えて選び、「ちょっと不利な立場なのに、頂点モデルを喰っちまうぞ」といった、若干ひねくれたドライバー/ライダー心理もあることだろう。実際にはコンパクトさや軽量さなどから、場面によっては決して不利な立場でもないのだけれど……。
 

 

無慈悲に速い600や1000とは違った温かみがある

 ZX-4Rは何と比べて良いのかがわからない。兄弟車種である250と比べれば、共通の車体ゆえ「コンパクトなのにパワフル」という印象になるし、兄貴分と言えるZX-6Rと比べると「親しみやすい車体/エンジン設定ながらパワー的に譲るのはしょうがない」といった印象になるだろう。そんな印象は250と600の中間ゾーンをしっかり埋めている、という証明でもある。今までは250ccからその次はもう600ccという排気量の飛躍があったが、長らく手薄になっていた400ccクラスに4気筒スポーツが投入されたことでその繋がりがより自然になったと言える。
 よって何と比べる、ということはしなくていい。長らく(少なくとも4気筒としては)不在となっていた「400ccスポーツ」車の復活なのだ。あえて比べるならば、過去に存在したネイキッドなど、同じ4気筒400ccたちだろうか。
 さて、サーキットではおおむね「手の内感のある車体構成に前代未聞の77馬力エンジンは大変に楽しかったが、意外や高回転志向ですね」という印象(https://mr-bike.jp/mb/archives/39481)だったわけだが、それは公道ではどんな印象だったかと言えば、おおむね同じであった。250ccと共通の車体はコンパクトでしなやかで、600ccや1000ccクラスのスーパースポーツのような腰高感やハードルを高く感じさせる硬質な印象もない。抽象的ではあるが、600ccや1000ccのSSは普通にストリートを走っていても「硬い」「冷たい」といった感触を得ることがあるのに対し、ZX-4RはZX-25R同様にかつてのネイキッド群に通じるような「柔らかさ」「温かみ」が感じられ、それが包容力となっている。足着きの良さ、ハンドル切れ角の大きさといった日常的に助かる設定もその印象を強めているだろう。
 

 
 ただ、77馬力のパワーバンドを使うことなくのんびりとストリートを走っている時は、かつてのネイキッド群のような上質さは少ない。最近まで現役だったホンダのスーパーフォアや、カワサキならZRX(400)やゼファー(400)といった車種は、シートがフカフカ、ハンドル周りに振動も極小、ステップにはゴムが貼られるなど、とにかく「400ccでも大排気量車に負けない高級なライディングフィール/上質感」を追求していたわけで、それに比べるとZX-4Rはもっともっとスポーツにフォーカスした乗り物だ。ライディングポジションは特別キツイというわけではないものの、渋滞にハマったり、もしくは長距離を走っていると左ヒジをタンクに置きたくなるし、飛ばさずに一定速で走り続けていると首の後ろ側が疲れてくるぐらいのスポーティポジションはしている。またエンジンの微振動がステップやハンドルからライダーに伝わってくることもあり、これはあくまでSSモデルを仲間とする「スポーツモデル」であり、かつてのネイキッドたちとは違う乗り物だな、とも感じさせられた。
 

 

回せ回せ! やはりエンジンは高回転がオイシイ

 ネイキッドとは違うな、と、より感じさせられるのはエンジンだ。250cc版よりも排気量が大きくなった分、サーキットでは本当に楽しかった。本格的なパワーバンドが始まるのは13000回転からで、その超高回転域と意外に狭いパワーバンドを維持しながら走るのは素直に「楽し!」かった。一方でその高回転志向エンジンが公道でどう生きるかな? という考えも頭をよぎったのだった。
 実際に公道を走らせると、一般の交通の流れに沿って走っている分には何も問題はない。普通にクラッチを繋いで、低回転域でも普通に加速する。ZX-25Rだって同じだ。しかし車列の先頭に立ち、信号が変わったタイミングで元気に加速していこうと思うと、しっかり6000回転以上は使いたい、という特性だ。かつてのネイキッドたちのように、3000~4000回転も回っていれば十分、トルクにのせてスムーズに加速、という感じではなく、回してこそパワーが湧き出てくる設定。同じ400ccという排気量で、超高回転で77馬力も絞り出すエンジンなのだ。常用域でのトルク特性がピークパワー53馬力のネイキッドと同じというわけにはいかないのは当然だ。
 ただ、この6000~8000回転という領域が使いにくいかと言ったらそうではない。特に大排気量に慣れている人からすれば「ずいぶん回っている」イメージだろうが、ZX-25Rがそうであるように、こういった回転域を日常的に使っていてもうるささやフリクション感、過度の振動などのストレスはないからありがたい。むしろ難しいのは、そこから先は右肩上がりにどんどんとパワーが出てくるため、自制心を持つことの方かもしれない。
 

 

ワインディングと高速道路

 本格的にパワーが湧き出てくるのは1万回転から先だ。そして13000回転からがやっと本気のパワーバンドである。この領域は本当に楽しく、サーキットではもちろんなるべくココを維持して走らせたわけだが、公道となるとこれが合法的にやるのはなかなか難しいと感じることもあった。
 ワインディングでは1万回転以上を維持していれば「打てば響く」機動力を使えるが、最後の馬力を絞り出す13000回転以上を維持するのはなかなか難しい。というのも、速度が乗りすぎてしまうし、パワーバンドそのものが広くはなく、サーキットと違って先のコーナーのアールが不規則な公道ではそこまで回し切れることが少ないのだ。コーナー立ち上がり、直線の手前でしっかりとギアを合わせ、ZX-25Rのように容赦なく高回転域に意識的に「ブチ込む!」といった気概を持って走らせるとシンクロ率が高まり最高なのだが、これはなかなかストイックな世界でもある。もっとも、それが楽しいわけだが。
 

 

エンジンのハイパワーぶりからは600ccクラスのSSモデルに通じるような硬質さもイメージするかもしれないが、エンジンがSSを感じさせるストイックさや硬質さを持っているのに対し、車体や足周りはどこまでもしなやかでとっつきやすい。サーキット試乗でも早い段階で思い切りよく攻め込むことができたが、公道のワインディングにおいても自信を持って走らせることができ、路面状況に関わらず楽しめた。なおサスの柔らかさやシートの低さゆえ、ヒザスリがとても簡単。公道であまり調子に乗って膝を出しているとジーンズに穴を開けることになってしまうので注意。

 
 77馬力、フルブースト80馬力を楽しもうと思ったらやっぱり高速道路だろう。合流車線からワイドオープン、レッドゾーンまでキッチリと引っ張り切って、開けたままクイックシフターで2速に掻き上げればタマラナイ加速と官能的なサウンドに包まれ、まさに気分はボーイズレーサーである。ベテランライダーなら若返るような衝動もあるかもしれない。しかし気を付けたいのはフル加速はせいぜい3速まで、ということ。600ccは「速すぎて開けられないよ」などと言う人もいるが、このZX-4Rだって4速フケ切りで既に200km/hに迫る速度が出てしまう。600ほどハイスピード設定ではないが、それでも非合法領域にいともたやすく踏み込む性能は持っているため、命や免許を守るために自制心も持ち合わせる必要は、確かにある。
 

77馬力ものパワーを浴びるには、ワインディングよりもやはり高速道路だろう。13000回転から先の絞り出すようなピークパワーは本当に楽しいし、185cmの筆者でも窮屈に感じることなくバイクと一体になってハイスピード域が楽しめた。ただ4速フケ切りで200km/hに迫る速度が出てしまうため、公道では自制心を持って走らせたい。

 

ヒザスリを楽しもうじゃないか

 フレンドリーな車体と、意外やストイックなエンジンという組み合わせのZX-4R。車体がフレンドリーだからこそ、ストイックなエンジンを「どう楽しんでやろうか!」という気にさせるという面もあると感じた。まさに250と600の間を埋めるベストなポジションと言えるだろう。これならば公道はもちろん、サーキットだってそのサイズに関わらず楽しみやすい。
 適度なフレンドリーさはシート及び重心の低さによってもたらされている部分も大きいと思う。エンジンは本格的な速さを持っているのに、ライダー重心は地面に近いため常に安心感があるし、シートが低くサスも良く動くためヒザだって突き出してみれば意外なほど早く路面に擦れてしまう。サーキット初心者で、SSモデルで一生懸命ヒザを突き出しても全然擦れずにいる人も多いが、ZX-4Rならヒザスリという楽しみもすぐに達成できるだろう。むしろ長身の人は公道でもいたずらに膝を突き出さない方が良いぐらいである。
 

 
 ZX-25Rもスポーツを身近に感じさせてくれる設定だったが、ZX-4Rは車体はそのままに排気量増大分さらにエキサイティングさをプラスしてくれた。それでいてオッカナビックリにならず、そのスポーツ性を積極的に楽しみたくさせてくれる設定なのだ。
 ZX-25Rに引き続き、それぞれの排気量区分内で4気筒のライバルがいないZX-4R。そういう意味では600や1000以上にプレミアムな存在でもある。スペックや価格からしても、「ボーイズ」の楽しいおもちゃだけにしておくのはもったいなく、「オールドボーイズ」諸兄もまた、この世界観を楽しんでほしいと思う。
(試乗・文:ノア セレン、撮影:富樫秀明)
 

 

ライダーの身長は185cm。写真の上でクリックすると両足着き時の状態が見られます。

 

サーキット試乗ではRRモデルの方を主に乗ったが、今回はよりベーシックなプリロード調整のみのSEモデル。バネレートはRRと同じというが、ストロークは少ないSEモデルは、ライダーの入力度合いに関わらずより車体姿勢が保持されるようで、運動性はむしろ高いと感じる場面もある。ただ攻め込んでいくとリアが若干突っ張るような印象があるため、元気に走りたい時はプリロードを抜いてみると良いかもしれない。
革ツナギを着て積極的に走ったサーキット試乗では気づけなかったが、シートの快適性はなかなかのものだ。ちょうど尻の骨が突き出ている所にクッションが厚めにとってあり、その見た目から想像するよりもずっと長距離は楽だった。

 

サーキットではレーシングブーツのホールド性が良かったステップだが、公道ではネイキッドのようにゴムが貼られていないこともあって、巡航時に足裏に微振動を感じることがあった。なおクイックシフターは加減速時には気持ちよく使えたが、開けたままのシフトダウン、閉じたままのシフトアップには対応していないため、アクセルがパーシャルの一定速巡行からのシフトダウン&追い越し加速、といった場面ではクラッチレバーを操作する必要がある。
フレームスライダーは後付けで購入すると31020円するため、SEに標準装備されるのはありがたい。ちょっとした立ちゴケなどからカウルを守ってくれれば出費を大きく抑えてくれるアイテムだ。

 

メーター内の各情報は左のスイッチボックスでアクセス可能。サーキットではパワーモードのスポーツしか使わなかったが、公道でも同様で、最もスポーティなスポーツモードでも扱いにくさはなかった。むしろレインモードはアクセルに対するレスポンスがかなりゆっくりで、発進でエンストを連発してしまった。素性の良いエンジンのため、慣れてくればスポーツモードしか使わないだろう。ちなみに公道を走り回った今回の試乗での燃費は18km/L。レギュラーガソリン仕様というのもボーイズレーサーにはありがたい設定だ。

 

●ZX-4R SE / ZX-4RR KRT EDITION 主要諸元
■エンジン種類:水冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブ ■総排気量:399cm3 ■ボア×ストローク:57.0×39.1mm ■圧縮比:12.3 ■最高出力:57kW(77PS)【ラムエア加圧時59kW(80PS)】/13,000rpm ■最大トルク:39N・m(4.0kgf・m)/13,000rpm ■全長×全幅×全高:1,990×760×1,100mm ■軸間距離:1,380mm ■シート高:800mm ■車両重量:190 [189]kg ■燃料タンク容量:15L ■変速機形式:6段リターン ■タイヤ(前・後):120/70ZR17M/C 58W・160/60ZR17M/C 69W ■ブレーキ(前・後):油圧式ダブルディスク・油圧式シングルディスク ■車体色:メタリックフラットスパークブラック×メタリックマットグラフェンスチールグレー、キャンディプラズマブルー×メタリックフラットスパークブラック [ライムグリーン×エボニー] ■メーカー希望小売価格:1,122,000[1,155,000]円 ※[ ]はZX-4RR KTR EDITION

 



| 『Ninja ZX-4RR KRT EDITION / ZX-4R SE 試乗インプレッション記事』へ |



| 新車詳報へ |



| カワサキのWEBサイトへ |

2023/12/23掲載