スズキが久しぶりに放ったブランニューモデルは、大型モデルに初めて投入した並列2気筒エンジンモデル。
エンジンの素性だけでなく、車体設計も考えてのまったく新しいパラレルツインモデルだ。
古くて新しい技術を投入!
さかのぼって調べてみると「スクーターではない」ミッション車で、スズキがオールニューエンジンを投入するのは20年3月のジクサー250以来、大型モデルで言うとさらに前、2007年3月のBandit1250の水冷エンジン以来です。Banditもその前の油冷エンジン車の車体を使用していたから、新設計の車体ともなると、2001年のGSX1400以来、ってことになるかもしれません。
しばらく前にGSX-S750が生産終了となった時、じきに次期ミドルクラスのスポーツバイクが発売される、と思ってはいました。スズキの750ccクラスの4気筒は、もう20年も前の設計で、どんどん厳しくなる排出ガス規制にパスするのが難しくなっていましたから、新規エンジン開発は避けられない道でしたからね。
けれど、それが新設計パラレルツインだとは、正直言って驚きました。ミドルクラスでパラツインといえば、ホンダNCシリーズや新登場のトランザルプ750、ヤマハMT-07、カワサキは空冷のW800、ZとNinja650がありますね。スズキはSVとVストロームがありますが、それは2気筒ではあってもVツイン。スズキは新しい時代のミドルクラススポーツバイクに、並列2気筒エンジンを選んだ、ってことなんでしょう。
それにしても思い切った攻めのデザインで登場しましたね。GSX-8S、早くも「ハチエス」ってニックネームで呼びたいニューモデルは、縦配列の6角形LEDヘッドライト、エッジの効いたラジエターシュラウドもまとってのデビューです。
780ccの並列2気筒エンジンは、最高出力80ps、最大トルク7.7kg-mは、ごく平均的な出力です。車両重量202kgも、GSX-S750より10kg軽く、SV650よりも3kg重いだけの、驚くべきスペックでもない。けれどハチエスは、乗った瞬間から「オッ」と思わせる軽快さと俊敏さ、それにパンチある力が印象的でした。
並列2気筒のキャラクターといえば、やはりエンジン単体重量が軽いこと、車体左右幅がスリムになることが挙げられますが、このハチエスはさらにエンジン前後長も詰めて、ホイールベースの中のスイングアーム長を長めに取ってある印象があります。この車体構成と270度クランクでトラクションの良さを狙っているんだと思います。
さらに2気筒エンジンと言えば、4気筒に比べると低回転からのトルクが厚い印象があります。トルクが厚いというか反応がダイレクトで、4気筒エンジンによくある、アクセルを開けた瞬間の、ほんの一瞬のラグがない。ハチエスも、アクセル開度が大きくても小さくても、軽い車体をパッと前に進めるパンチ力があります。
さらに、ここにもハチエスに採用されている270度クランクの特性もあって、スルスルスルッと出るよりもパンチ力が感じられるフィーリングです。なのに不等間隔爆発っぽい振動が感じられないのは、スズキが特許申請したという新開発の2軸バランサーのおかげで、物足りないくらい振動がないんです。こういう特性って、マフラー替えるとすんごい気持ちのいいパルス感になるんですよね。
ハチエスのトルクは、アイドリング域すぐ上から。そこから中回転あたりまでの力の出方がスムーズで、パワーの出方はフラットカーブのまま、5500rpmあたりからぐんとひと伸び。これ、SV650のフラットトルクに一枚上乗せしたようなパワーフィーリングです。
高速道路に乗り入れると、加速して一定回転でクルージングを始めると、エンジンがスーッと落ち着いて無振動っぽいクルージングが味わえます。トップギア6速で100km/hは4200rpmくらい、120km/hは5000rpmほどで、すごく穏やかでスムーズなクルージングです。120km/hくらいなら風圧もそう気にならないから、ハチエスでのツーリングも快適でしょうね!
そのままワインディングに踏み入れて、もうすこし攻めた走りをしたんですが、ここでも新しい並列2気筒モデルの狙いが理解できました。SVよりもGSX-Sよりも、もっと手の内に入ってくるというか、思い通りにコントロールしやすいバイクです。
低回転からスピードを上げていくと、街中よりもアクセル開度が大きいと、スタタタタッと俊敏なダッシュが味わえます。そこからブレーキングしていくと、体重移動だけで自然にステアリングが切れていくような感覚で、フロントからぐいぐいとか、リアを振り出して曲がるようなアクションはなく、あくまでも自然に、です。
特にRの小さいコーナーをクリアするのが気持ちよかった! ストップ&ゴーが続くようなワインディングで、低スピードだけど高めのギアで連続クリアしていくのが楽しいバイクです。
ペースを上げて、メリハリつけて直線→ブレーキング→コーナーっていうアクションをするとくるくる曲がってくれるし、ペースを上げずにだらーっと走ると、穏やか~に走れます。安定感がある操舵感というか、こういうキャラクターって、誰にでも勧められる特性だと思うんです。
逆にこれ、もっと攻めたいオーナーには少し物足りないかもしれないけれど、そういう向きはGSX-Rを選べばいいんです。街中をラクに、高速道路を快適に乗りついで、ワインディングでくりくり曲がって帰るようなツーリングをしたい時、やっぱりハチエスみたいなエンジン、ハンドリングがイイ。
SVよりもスポーツよりで、GSX-S750よりも幅広く乗れそうな新スポーツバイク。すでに、このエンジンと車体を使ったアドベンチャー、Vストローム800DEが発売されているけれど、次は例えばカウル付きでもう少しスポーツに振ったGSX-8Rとか、もっとオーセンティックなネイキッドGSX800E、なんてバリエーションも見てみたい気がします。それだけ、この新設計エンジン&フレームが、可能性を持ったポテンシャルだってことですね。
(試乗・文:中村浩史、撮影:森 浩輔)
■エンジン種類:水冷4ストローク直列2気筒DOHC4バルブ ■総排気量:775㎤ ■最高出力:59kW(80PS)/8,500pm ■最大トルク:76N・m(7.7kgf・m)/6,800rpm ■変速機:6段リターン ■全長×全幅×全高:2,115mm×775mm×1,105mm ■軸間距離:1,465mm ■シート高:810mm ■車両重量:202kg ■燃料タンク容量:14L ■タイヤ(前・後):120/70ZR17 M/C 58W・180/55-17 M/C 73W ■ブレーキ(前/後):油圧式ダブルディスク/油圧式ディスク ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:パールコズミックブルー、パールテックホワイト、グラススパークルブラック×マットブラックメタリックNo.2 ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):106万7000円
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