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試乗・解説

初心者から玄人まで 実をとるアナタを満足させる Kawasaki Z900
Z900RSが大人気となり、Zと言えばあのクラシックなRSが思い浮かびこのファイター版の素のZ900は存在すら知らなかったという人もいるかもしれない。しかしやっと正規国内投入されたこのよきスタンダードマシンは、もっとスポットライトを浴びるべき名車なのだ!
■試乗・文:ノア セレン ■撮影:富樫秀明 ■協力:Kawasaki ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、アルパインスターズ https://www.alpinestars.com/




欧州で磨かれたスタンダードの資質

 世の中の「スーパースポーツからカウルを剥ぎ取ってアップハンにしたら楽しいんじゃないか!?」というカスタムシーンに引っ張られ、2003年にメーカー純正「ストリートファイター」として登場したZ1000、その弟分として翌年に登場したのが今回のZ900の先祖となるZ750だった。これはZ1000に対して正立フォークや片押しキャリパーなど見た目的には廉価版の雰囲気がなくもなかったものの、エンジンはボアダウンしたことでロングストローク傾向のトルクフルで使いやすい名機だったのだ。欧州ではスポーツバイクで毎日片道100キロに届こうとする通勤をする人も珍しくないようで、だからこそこういった「便利」で「使える」、実務的なミドルクラススポーツバイクがラインナップされ続けるようだ。

 スタンダードなスポーツバイクとして欧州では特に高く評価されたZ750は、その後倒立フォークを採用するなどモデルチェンジした後、今度はボアをアップしてZ800になり、そして再びストロークアップしこの900へと進化した。エンジンも125馬力を発するに至り、こうなるともうZ1000と差別化も難しいじゃないか、などと思ってしまうわけだが、それでも戦略的な価格やプレミアムクラスである1000とは別路線の付き合いやすさをもってしっかりと立ち位置を堅持。ただ国内ではいかんせん目立たない!
 

 

750から続く付き合いやすさ

 125馬力もあるのに、これほどスッと馴染めるバイクも少ないのではないかと思う。100馬力近辺を発する650ccクラスのバイクは、当然回せば速いものの常用域では驚くようなトルクがあるわけではなく、特に4気筒ならば比較的気軽に乗れると言えるだろう。ただリッタークラスの、しかもスーパースポーツ由来のエンジンを積んだモデルだとたとえアップハンネイキッド形態をしていようが、ちょっと構えて乗らないと怖い目に遭ったりすることも少なくない。

 ところがこのZ900はそれがないのだ。パッと跨ってスッと走り出した時のイメージはあのZ750のソレであり、リッタークラスとも括れてしまいそうな900ccという排気量を感じさせない。当然今や倒立フォークなわけだが、750のしなやかな正立フォークのあの感じが確かに残されていて、ベーシックな設定のハズなのにしっとりとした動きを見せるリアサスやフレンドリーなフレーム剛性と組み合わさり硬質さがどこからも感じられない。
 

 
 エンジンもしかりだ。カワサキはときおり極上なアクセルレスポンスのバイクを出すのだが、これはそんな名車の一台だった。ジワリとアクセルを開ける所が凄くわかりやすく、右手の繊細な動きとリアタイヤの接地面が優秀なダンパーを介しつつ100%連動している感じがあるのは、かつてのフラッグシップ、ZX-14Rと通じるフィーリングでありフルウエットワインディングでも怖いと感じることはなく、いつでも思い通りの動力伝達をすることができたのが嬉しい。
 これはやはり、750がそうであったように日常ユースで使い倒す人や、ビギナーライダーにも気負いなく楽しめるパッケージとなっていると感じる。
 

 

奇をてらわないディメンション

 昔からあるものが必ずしも最良とは限らないものの、バイクのように感性の乗り物だと、なんとなく安心感を得られる構成というのは変わらないものなのではないかと思う。マニアックな話で申し訳ないが例えばトレール値を見ると、RSの98mmに対してZ900は110mmもある。トレールは100mm近辺がスタンダードとされるため、110mmあれば安定志向と言える数値。Z900の、雨でもものともしない高い接地感や安定感、バンク中の信頼度の高さ等は、もちろんこのトレール値だけによるところではないだろうが、これも含めてバイク全体が多くのライダーが昔から「知っている」動きや反応をしてくれると感じる。

 それはディメンションだけでなく低いシート高や自然なハンドル位置、ニーグリップしやすくフィット感の高いタンク形状など、ライダーとバイクが触れる部分の煮つめも効いていることだろう。結果としてゆっくり走っても、活発にアクセルを開けても、都市部をダラダラ進んでも、雨のワインディングをハイペースで楽しんでも、とにかく予想外のことが起きず、常に125馬力が手の内にあり、突飛な反応に驚くようなことがなく安心して高性能を楽しむことができるのだ。
 

 

疑いようのないスポーツ性と、解脱ライダーへのアプローチ

 初代の750の時から変わらないことなのだが、「目立たないわりに良いバイク」感をこの900も纏っている。ただ「良いバイク」というとついつい初心者向けだとか、のんびり走りたい人にとって怖くないパッケージ、といったイメージと結びついてしまいそうで、そうなると本心ではない。
 スポーツバイクの味付け、特にストリート向けのバイクの味付けは本当に難しいものだと思う。サーキットにフォーカスしたバイクならば純粋に速さを追求し、タイムという正解に向かって作り込んでいけばよいが、ストリートモデルだと「フィーリング」というあいまいな要素が生まれてしまい、より様々な使われ方を想定し、より多数のライダー層に「おお~!」と感動してもらわなければいけないという都合が出てくる。
 

 
 これを追求するあまり、バイク本来の性能とは別の所で「演出として」アクセルレスポンスを極端にはっきりさせる設定にしてしまい、結果としてドン突きが生まれ、初めて乗った時は「なんて速いんだ!」と感激するものの実際にワインディングに持って行くと乗りにくくてしょうがない、なんていうモデルがあったり、またはサスが硬くハンドリングがカミソリ過ぎて最初はその軽快さに感動するのに、ツーリング先で雨に逢ってしまったら怖い思いをするだとか、そういったことがまま起きるのである。かといって「普通な」モデルではアピールが足りず、ややもすると「平凡」などと言ってしまうのだから我々ライダーというのは勝手なものだ。
 

 
 しかしZ900はあえてこの「平凡」を追求しているように感じる。噛めば噛むほど味が出てその良さに気付くというか、ヘンな演出がないからこそ純粋にバイクを操るというピュアな部分にアクセスしやすいと思うのだ。そういう意味では初心者向けというよりはむしろ玄人向けだろう。先述した演出の部分を「それはただの演出であり、時としてライダーとバイクの関係を邪魔しかねない」ということに気づいてしまう、解脱したようなストイックなライダーほどこのZ900の本質的な良さに気付き、かつ極上のスポーツ性能を引き出し、満喫できることだろう。

 乗りやすいバイクを、乗りやすいがゆえにツマラナイ、誰が乗っても速く走れてしまってロマンがない、と捉えることもできなくはないのだが、しかし乗りやすいバイクこそ、本当に腕の立つライダーはその先にある快感領域にたどり着くこともできるのである。GPマシンが実はとても乗りやすい、というのと同じだろう。Z900は目立たないかもしれないが、初心者にもお薦めできる懐を併せ持つ、そんな玄人バイクなのである。

 一つだけ希望を言うとすれば、こんな素晴らしいバイクなのだからかつてZ750にハーフカウル付の「S」があったように、今の高速道路網の充実を考慮し900にも「S」仕様を設定してほしいということだろうか。
(試乗・文:ノア セレン)
 

 

ライダーの身長は185cm。写真の上でクリックすると両足着き時の状態が見られます。

 

●Z900 主要諸元
■型式:8BL-ZR900B ■エンジン種類:水冷4ストローク4気筒DOHC4バルブ ■総排気量:948cm3 ■ボア×ストローク:73.4×56.0mm ■圧縮比:11.8 ■最高出力:92kw(125PS)/9,500rpm ■最大トルク:98N・m(10.0kgf・m)/7,700rpm ■全長×全幅×全高:2,070×825×1,080mm ■ホイールベース:1,455mm ■最低地上高:145mm ■シート高:800mm ■車両重量:213kg ■燃料タンク容量:17L ■変速機形式:常時噛合式6段リターン ■タイヤ(前・後):120/70R17M/C・180/55R17M/C ■ブレーキ(前/後):油圧式ダブルディスク(ABS)/油圧式シングルディスク(ABS) ■懸架方式(前・後):テレスコピック式(倒立)・スイングアーム式 ■フレーム:ダイヤモンド■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):1,100,000円

 



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2021/05/24掲載