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試乗・解説

YAMAHA TMAX560/560TECH MAX 『出でよ、TMAXをスマートに使いこなす 都会のビジネスマンたち』
スーパースポーツスクーターというジャンルを確立させた
唯一のブランド・ヤマハTMAXも生誕20周年!
最新型は560ccと排気量をスープアップして
快適性アップ、快速性アップ。
今度の560はちょっとヤンチャだぞ。
■試乗・文:中村浩史 ■撮影:松川 忍 ■協力:ヤマハhttps://www.yamaha-motor.co.jp/mc/

 
 初めてTMAXを見てからもう20年になるんだ! 
 日本でビッグスクーターがもてはやされ始めたのが95年登場のヤマハ・マジェスティ。もちろん、250ccスクーターという点で言えば、それ以前にフリーウェイやフュージョンも存在したけれど、マジェスティの人気は爆発的だった。
 スクーターが便利なのはみんな知っていて、それをそのまま大排気量にしてみたらどーお、って実験に成功したのがヤマハだった、ってこと。大排気量=重くなる、とスクーターの運動性は大丈夫? パワーが出たときのドライブはどうする? そんな難題を解決してのデビューだったはずだ。
 

 
 その20年前、初めて見たTMAXはおかしな乗り物だった。スクーターなのにシートは高いし、収納スペースも小さい、それでいてカッコいい。スクーターといえば、当時はスポーツといちばん遠いところにいる感じがしていたのに、そこにスポーツテイストを持ち込んだのがTMAXだったように思う。
 乗り味もスクーターとしては異色で、それはフロントフォークがきちんとダブルチューブ(それ以外のスクーターは自転車のようにトップブリッジからアンダーブラケットまで1本でそこから枝分かれしてホイール左右に伸びるタイプ)だったり、スイングアームとエンジンが一体じゃなかったり、ステップフロアでオートマチックである以外は、「普通の」オートバイの形状をしていたからだろう。
 それまでのスクーターといえば、やっぱりエンジンをマウントしているリアが重く、小径ホイールのクセがぬぐいきれない乗り物、というイメージがあった。だから便利さはみんな知っていても、あくまでもコミューターでしかなかった。
 

 
 それをひっくり返したのがTMAX。運動性能の良さは、今までのスクーターにはありえなかった前後の重量配分や、深いバンク角、上にも挙げたスイングアームやフロントフォークの構造のおかげによるもので、40psそこそこの水冷ツインで、「快足スポーツスクーター」というジャンルを確立。便利さとスポーツ性、そのバランスは排気量クラスやカテゴリーによってそれぞれだけれど、スクーターなのに便利さを捨ててでもスポーツ性を譲らなかった、というのがTMAXの歴史なのだ。
 今でこそXMAX(250cc)とともに、ヤマハラインアップの中で「スポーツスクーター」カテゴリーに収まっているTMAXだけれど、デビュー当初は「スクーター」とは別に、「スポーツバイク」に入れられていたのは有名な話だ。
 

 
 そのTMAXも、モデルチェンジを重ねてもう20年! 500ccだった排気量は530ccを経て、現行モデルではついに560ccまでスープアップ! その進化の過程で、キャブレターはインジェクションに、ブレーキはシングルからダブルディスクへ、フレームはアルミダイキャスト製になり、14インチバイアスタイヤは15インチラジアルに、さらに正立フォークは倒立フォークにまで進化。今ではスマートキー、LEDヘッドライト、トラクションコントロール、パワーモード、クルーズコントロール、電動スクリーンまで装備した最新フル電子制御モデルだ。

 そして第7世代と呼ばれる現行モデルは、モデルチェンジされたばかりの560ccバージョン。実はつい先日にTMAX530の試乗を済ませたばかりで、なんと記憶がフレッシュな中での比較試乗だろう。
 TMAX560は、先代のTMAX530から排気量をアップ、「平成32年版」新排出ガス規制をパスして前後サスペンションをリセッティング、シートまわりのデザイン変更がモデルチェンジ内容。TMAX530でSX/DXの2本立てだったグレードが、TMAX560とTMAX560 TECH-MAXの2本立てに変更された。
 

 
 まずは560ccとなって2psアップとなったエンジンパワーに驚いた! このモデルチェンジは、てっきり新規排出ガス規制パスするために触媒機能を強化し、そのパワーロスを補うがための排気量アップとばかり思っていたのに、出足からガン!ときた。カタログ数値では車両重量が微増しているというのに、体感では軽量化した感じ。それも5~10kgくらいの軽量化で、その効果がはっきり出足や加速に現れる――そんなパワーアップに感じられたのだ。
 ハンドリングは従来のTMAXシリーズのテイストを失わず、低重心で安定感が強く、けれど体重移動などで「曲げる」意志を入力すると、とたんに軽快になる。それがTMAXテイストだ。
 倒立フォークを採用したモデルあたりから、ブレーキングも安定して強い! TMAXのブレーキングは、前後ブレーキングで車体全体がスッと低くなるような安定感の上にあるもので、怖さがない。この前後左右のカタマリ感あるブレーキング特性は、おそらくすべてのスポーツバイクが目指しているフィーリングだと思う。怖さがなく、短距離でビタッと停まるからね。
 もちろん、ワインディングに入ったって、スクーターらしからぬ運動性を見せて快適に走れるTMAXだけれど、ワインディングではスポーツバイクの楽しさとは異質なもの。ハッキリ言って排気量が半分のYZF-R25の方が楽しいもの。それはしょうがないけれど、その気持ちよく走っているR25を、同じペースでばんばん追っかけられる恐るべき唯一のスクーターが、このTMAXなのだ。
 

 
 大きく世代を分けて第7世代に当たるTMAXだけれど、その間にスポーツスクーターを軸に、スピードスター側とコンフォートランナー側に少しずつ振れてきた歴史がある。この第7世代は、明らかに前者。第6世代の530をベースに、さらに快速側に振った感じで、スロットルをカパ開けするとあわわわわ、って加速にビビることになる。上質にしつけられたヤンチャ者――そんな感じ。
 それでもライダー側がクルージングモードに頭を切り替えて走ると、実に快適にスポーツランができる。たとえば100km/hで走っていて、加速イッパツ、で前車の前に出るとか、そういったアクションが大得意なのだ。
 それでも、クルマでいう高級セダンみたいに、優雅にスーッと流す、みたいな乗り方をしたいなら他の年式(例えば530をね)を選んだ方がいいかもしれないね。
 

 
 何度か出張や遊びに出かけたことのあるイタリアとかフランス、スペインで、とにかくTMAX人気が高いことに驚いたことがある。それもミラノとかパリとかマドリッドとか、そういう大都市で、スーツをビシッと着込んだビジネスマンが、街中を走っている姿をよく見かけたものだ。これは、そういう大都市の郊外から100km単位をオートバイ通勤する人たちなのだ、と聞いたことがある。
 そういう用途に、ドンズバなのだ、TMAXは。冬は、レッグスペースを覆っちゃうスクータースカートみたいなやつつけて、革靴とスーツでカッコよく出勤するヨーロッパのTMAX使いたち。これ、スクーターの機動力が見直されているコロナ禍の日本でも、あたらしいムーブメントになってくれたらいいのにな、とタイムリーなこと考えた試乗となりました。
(試乗・文:中村浩史)
 

 

ライダーの身長は178cm。写真の上でクリックすると、両足着き時の状態が見られます。

 

φ41mmの倒立フォークにφ267mmローターをダブルで装備し、対向4ピストンキャリパーをラジアルマウント。フロントフォークセッティングはやや減衰特性を締め側にリセッティングしているよう。全車ABSを標準装備。

 

フロントよりも大径のφ282mmローターをリアブレーキにセット。スイングアーム下にセットされているのが通常のリアブレーキキャリパーで、対角線上にセットされているのは左ハンドル部で操作するパーキングブレーキ専用キャリパー。
ファイナルドライブはチェーンでもシャフトでもなくベルト。カーボン系繊維の25mm幅で、現行モデルでは変速特性をハイギアード寄り(スプロケットでいうと丁数を減らす方向)に設定し、定常走行でのエンジン回転数を下げている。

 

TECH MAXでは左ハンドルスイッチでスクリーン高を最大135mmまで無段階に変更できる。TMAX560は取り付けボルト差し替えでの2段階可変方式で、高さ55mm差に可変。電動の便利さを知ってしまうとTECH MAXがイイね。

 

ヘッドランプはLED4灯、フロントウィンカーはLED3灯式。このツリ目デザインが、やはりTMAXの顔つきだ。サイドカバー形状も変更し、ライダーフィット感を向上。テール&ブレーキランプを一新し、「T」をデザインした形状に。

 

シート前方にフューエルリッドがあり、その手前にフューエルリッドオープンとシートオープンボタンを装備。ボタンとリッドの開閉節度もよく、こういったひとつひとつの高級感がTMAXの歴史で築かれてきたことになる。

 

収納スペースにはヘルメット頭頂部を下にして収納。初代に比べると、収納スペースもかなり大きくなりました。さらにTECH MAXは、国産モデルでは本当に珍しいシート&グリップヒーターを標準装備。冬のライディングでは神!

 

シートオープンは後ヒンジでモノを収納しやすい。よく見るとヒンジ部分にダンパーがダブルで装備されていて、開閉はかなりスムーズ! こういったところもTMAXの信用につながっている。収納スペース内には小型照明も装備されている。

 

ハンドル下右側にはロックつき小物入れがあり、その奥には12Vの電源供給ソケットも標準装備。左部分は先代530くらいからバッテリーが配置されていて、それ以前はスクリーン前あたりに配置されてアクセス性もかなり悪かった。

 

ステップフロアはさほど広くなく、トンネル部も高いのは、やはりスポーツバイク的構造のせい。足の置き場はバックステップ的ポジションを取りたくとも、シットポイント真下あたりは足置き場スペースが充分に確保されているとは言い難い。
アナログ2眼メーター中央に液晶表示を持つオーソドックスで見やすいメーター。走行モード、オド&ツイントリップ、瞬間&平均燃費などを表示。メニューボタンでスクリーン調整、グリップ&シートヒーターの調節表示画面もあらわれる。

 

左スイッチボタンはメニューボタンと上/下矢印でメーター表示メニューを入れ替え、グリップ&シートヒーター、スクリーン高調整ができる。RES/SETボタンは一番下の時計マークのクルーズコントロール用スピード設定ボタンだ。右ボタンはキルスイッチ/モード切替/ハザード/セルボタン。

 

■YAMAHA TMAX560〈TMAX560 TECH MAX〉(2BL-SJ19J)主要諸元
●全長×全幅×全高:2,200×765×1,420mm、ホイールベース:1,575mm、シート高:800mm●エンジン(J420E):水冷4ストローク2気筒DOHC4バルブ、排気量:561cm3、ボア×ストローク:70.0×73.0mm、最高出力:35kW(48PS)/7,500rpm、最大トルク:56N・m(5.7kgf-m)/5,250rpm、燃料タンク容量:6.6L、燃料供給装置:フューエルインジェクション、燃費消費率:31.7km/L(国交省届出値 定地燃費値 60km/h 2名乗車時)、22.1km/L(WMTCモード値 クラス3 1名乗車時)
●車両重量:127㎏、タイヤ:前120/70R15M/C 56H/後160/60R15M/C 67H、懸架方式:前テレスコピック式、スイングアーム(リンク式)、フレーム形式:ダイヤモンド
●メーカー希望小売価格:1,276,000円~

 



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2020/06/15掲載