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試乗・解説

crf1100l_africa_twin_run
初代モデル登場から3年半という
異例の早さでフルモデルチェンジしたアフリカツイン。
アドベンチャー=オフロードも走れる、なんて思わなくていい。
アフリカツインは、日本の歴史最高のツーリングバイクなのかもしれないのだ。
■文:中村浩史 ■撮影:松川 忍 ■協力:ホンダモーターサイクルジャパン https://www.honda.co.jp/motor/

 
 新生アフリカツインが登場したのは2016年春。もちろん、Vツイン750cc時代からの伝統のブランドのリニューアルなのと同時に、BMWのGSシリーズが独走する「アドベンチャーバイク」カテゴリーに参戦すべく、15年ぶりに新生、発売したのは明らかなモデルだ。
 水冷並列2気筒の1000cc新設計エンジンを採用し、アフリカツインは世界中でヒット。もちろん、GSの牙城を崩すということもあっただろうけれど、GSとともに「アドベンチャーバイク」カテゴリーのファン層を拡大したように感じる。
 特に日本では、今までアドベンチャーってカテゴリーがそうメジャーではなかったのに、アフリカツイン登場のあとから、まぁGSもアフリカツインも本当によく見かけるようになった。相乗効果か、スズキのVストローム1000/650も良く見るように。近い将来、ヤマハもスーパーテネレを700ccで復活登場させるらしいし──。
 この「アドベンチャーバイク」カテゴリーは、意外と日本という風土に合っているような気がする。「狭いニッポン そんなに急いでどこへ行く」なんて揶揄されることもあるけれど、いやいや日本だって広いぜ。
 ヨーロッパなんかでは、もちろんまだ未舗装路の面積も多いから、アドベンチャー=ダート走行も含むロングツーリングバイクって捕えられがちだけれど、日本でダートを、それもアフリカツインで走るなんて人、絶対少数だろうし。とにかく日本では「長距離をずっと走る」って用途で、この「アドベンチャー」カテゴリーが見直されている、または広がり始めた、とみていいと思う。

 そのアフリカツインが早くもモデルチェンジを果たした。正確に言うと、16年デビュー、18年にビッグタンクのアドベンチャースポーツをタイプ追加しているから、えええ、早すぎるー、と思ったけれど、これはホンダのスケジュールどおり。アフリカツインをさらに魅力アップさせる、という狙いで、エンジン、車体を一新。さらにアフリカツインの個性を伸ばすためか、スタンダードのアフリカツイン/DCT(=デュアル・クラッチ・トランスミッション)という従来のラインアップに、アドベンチャースポーツとアドベンチャースポーツESを追加。スタンダードとESには、サスペンションストローク伸ばした「S」バージョンを2020年5月31日までの期間限定の受注専用モデルとして追加した。
 これでCRF1100Lシリーズは①アフリカツイン/DCT ②アフリカツイン・アドベンチャースポーツ/DCT ③アフリカツイン・アドベンチャースポーツES/ES-DCTの3モデル6ラインアップ。バリエーションは、スタンダードをベースに、フューエルタンクを18L→24Lとしたコーナリングランプ付きカウルのモデルがアドベンチャースポーツ、さらにアドベンチャースポーツをベースに電子制御サスペンションを追加したのがES、この3モデルにそれぞれDCTバージョンがある、という6タイプ。
 今回の試乗で使用したのはビッグタンク/コーナリングランプ付きの電子制御サスペンション、アドベンチャースポーツESのDCTタイプ。アフリカツインシリーズのトップグレードモデルだ。
 

 

 新アフリカツインは、まずエンジンをほぼ新作。従来モデルの998ccから1082ccとすることで、排気量を8%アップし、パワーは7%アップ。排気量が上がると、エンジン単体重量は上がるものなんだけれど、逆にマニュアルミッションで2.5kg、DCTで2.2kgも軽量化している。
 フレームは、一見変わりないと思うけれど、ほぼすべてを刷新。従来モデルのよさを受け継ぎながらさらに軽量化。さらにフレーム左右のクロスパイプを廃止して、フレームのしなやかさ(=剛性を落とす)を求めた。これで、路面からのショックを柔らかく受け止め、結果ハンドリングや操作感を軽く感じられるという。
 これがもう、すぐにわかるのはパワーアップ! 100cc弱の排気量アップで、こんなにトルクが大きくなるか!って感じだった。はは~ん、これは低回転時のダッシュ力を上げるために、1~2速のミッション比や2次減速比を変えてきた(いわゆるドリブンスプロケットを大きくしたりでファイナルをショートにしたり)かな、と思ったらさにあらず! ミッションでは5~6速を変えてきただけだった。
 となると、これはエンジンの「素」の性能がアップしたっていうこと。パワーモードは、ツアー/アーバン/グラベル/オフロードの4モードで、さらにDCTモデルではAT/MTが選べ、ATはD(ドライブ)/S(スポーツ)の2モードが選択可能。Sモードもレベル1~3が選べ、レベル1が中回転域トルク型/レベル2が中間/レベル3が高回転域パワー型。選択の組み合わせは無限だけれど、いろいろとカチカチ変更しながら走った今回は、結局はパワーモードT/DCTはDで走ることが多かった。実際のオーナーも、きっとこうだ。
 

 
 試乗が終わってしばらく経った今でも、アフリカツインはとにかくパワフル、って印象が残っている。発進時、ローギア相当の時にガツンとアクセルを開けると、従来モデルより明らかに状態が後ろに持っていかれる加速感。とはいえ、アクセル開度に敏感すぎることもなく、クルージング時にはゆったり走りたい時にゆったり、キツ目に走りたい時はキツ目に走ってくれる。
 ライダーの意志が右手にあらわれちゃうのだろうけれど、アフリカツインはそこに忠実に走る。意志が通じちゃうような錯覚にとらわれてしまうのが、Newアフリカツインなのだ。従来モデルは、アクセルの動きに一瞬のラグがあって、それが穏やかに走りたい時にいい作用をしていたんだけれど、新型はもっとダイレクト。ここが新型のキモなのだ。
 

 
 車体の変更は、微細なところまでアフリカツインの魅力をアップさせるもので、1日や2日、500km走ったくらいではとても体感できるものではない。ただひとつはっきりわかるのは、車重が軽くなったこと。実は、従来モデルのスタンダードと新型モデルのスタンダード同士を比べると6kgほど軽量化されているんだけれど、私がいちばん乗り込んだ、従来モデルのDCTモデルと、今回乗ったアドベンチャースポーツESのDCTモデルでは、8kgほど新型の方が重い──のに、軽く感じるのだ。気のせいじゃない、わりとはっきり「あ、軽くなった」と感じて、あとでカタログ数値を見て愕然とするというパターン。
 けれど、車重っていうのは、実際の質量ではなくて、身体で動かすときの体感重量が印象に残るものなので、まさにそれが、新型のモデルチェンジ内容なのだと思う。サブフレームがアルミ製となって、メインフレームのねじれ/前後方向の剛性をコントロールし、シートレール幅を狭めて足着きを良くして、サスペンションの動きを良くするだけで、車重ってグンと軽く感じるものなのだ。
 特に、今回のアドベンチャースポーツESに採用された電子制御サスペンションは、乗り心地がすこぶるいい! ES=電子制御は、走行中のストロークスピードや走行状況をセンシングしてサスペンションの動きをコントロールするもので、カンタンに言えば高スピード設定のサスペンションのまま低速で走る反力の強い硬さ、低スピード設定のサスペンションのまま高速で走る落ち着きのなさを、いい方向に両立してくれる。これはオフロードとオンロードの設定差の両立も同じで、街を走っている時はソフトに、高速道路をクルージングしているときにはピシッと安定してくれる。これはプリロードアジャスターも別に設定されていて、ライダー個人に合わせる楽しみもある。これぞ、従来モデルにはなかったものだ。
 

 
 私がツーリングバイクの完成度を考えるとき「東京から九州まで走って行けって言われたらナニ選ぶ?」って評価軸がある。片道約1200km、初めて九州まで走って行ったのは、まだ大型免許を取りたてのころ、自分の愛車GS650Gで。次は取材でCBR1000Fで、ZZ-R1100で、それにハヤブサで、CB1300SFで、KTMの1190アドベンチャーで走った。大阪まで片道600kmとなると、ゴールドウイング1800、BMWの1200cc時代のGSなんかで走ったっけ。
 今、その答えにいちばん近いのがアフリカツインだ。従来モデルの1000ccのマニュアルミッション車でも、新型1100ccアドベンチャースポーツESのDCTでもいいな。長距離を走る快適さ、1週間ぶんくらいの荷物を積んで、クルージングスピードも燃費も合わせた総合性能で、私の中では今、アフリカツインがトップにいる。ちなみに、今回の実走燃費は、一般道→高速道路→バイパスを約500kmで約25Km/L。
 

 
 アドベンチャーバイクカテゴリーとはいえ、アフリカツインとはいえ、みんながみんなダートをばんばん走るものではないはずだ。オフなんかまったく走らないオーナーもいるだろうし、走ってもせいぜい10~20%(それだってスゴい割合だけれど)って使い方がほとんどだと思う。
 もちろん、出かけた先にちょっとダート路面があって「あぁ、こっちに進めばものすごい絶景が見えるはずなのになぁ」って時、たとえばCBR1000RRだったら諦めるだろうし、CB1300SFではダートの入り口にちょっと入って行って……引き返しちゃう。そんなときのアドベンチャー、そんなときのアフリカツイン。
 いままで踏み込んでいなかったエリアまで走れるようになる。まだまだ日本が広くなるね。
 

 
 ちなみに税抜き価格はスタンダードのアフリカツイン147万円/アフリカツインDCTがSTD比10万円高で157万円、アドベンチャースポーツがSTD比17万円高の164万円、アドベンチャースポーツDCTが174万円、アドベンチャースポーツESがSTD比30万円高の177万円、そして今回試乗したアドベンチャースポーツES-DCTが187万円、消費税込みでは205万7000円! ちなみにBMW R1250GSアドベンチャーは消費税込み271万8000円、うーむアフリカツインが割安に感じてしまいますねぇ。
(試乗・文:中村浩史)
 

ライダーの身長は178cm。写真の上でクリックすると両足着き時の状態が見られます。

 

先代のCRF1000Lから1100ccに排気量アップしたアフリカツイン専用ユニット。SOHC4バルブ並列2気筒で、同じボアのままストロークを伸ばして約100cc排気量アップしているのに、エンジン単体重量は2kg以上も軽量化! ちなみにマニュアルミッションとDCTの比率は約半々だそう。DCTをオフロードで、という新しい楽しみを生み出してくれた。

 

DCTは走行状況をリアルタイムでセンシングするIMU(慣性センサー)を採用し、シフトタイミングをよりライダーの感性に近づけた。従来モデルと比べるとさらに停止状態からの走り出し、変速フィーリングがよりスムーズになった。
アドベンチャースポーツはスタンダードの18Lの6L増、24Lタンクを標準装備。今回の試乗ではフルタンク400km走行でも燃料残はまだ余裕。ガソリン24Lとなると20kg近くの重量があるが、満タン時も重心が高くなる感覚は少なかった。

 

見逃せない変更点のひとつがタイヤのチューブレス化。ブレーキは4ピストンキャリパー+φ310mmローターをダブルで装着し、ABSはオンorオフロード用の2モードで、オフロード走行用にリアブレーキのABSをオフにできる。ESに標準装備される電子制御サスペンションは、走行中の状況に合わせて減衰力(動きスピードや硬さ)を最適化してくれる。

 

リアブレーキはφ256mmローターに片押しピストンキャリパー。スイングアーム下、写真では黒いカバーがある部分に、パーキング専用ブレーキのキャリパーが装着されている。マフラーにはCBR1000RRと同様の排気バルブが新設され、低/高回転で排気経路を変更。低回転では2系統、高回転では1系統で効率よく排気する。

 

アドベンチャースポーツは、手動で5段階に高さを調節できるスクリーンを標準装備。スタンダードは固定式ショートスクリーンで、純正アクセサリーとして175mm高いハイスクリーン(2万円+税)も販売されている。スクリーンLO時はヘルメットに走行風が当たり、Hi時はほぼ頭頂部までプロテクションする。

 

従来モデルよりシート幅が約20mmスリムとなって、足を下ろしやすく、足つき性が向上。シートは830/810mmに2段階調節でき、純正アクセサリーとして販売されているローシートを使えば805/785mmにできる。タンデムシート部はキーで取り外しでき、ライダー側は取り付け部が2段階で、シート高が調整できる仕組み。

 

アドベンチャースポーツの魅力のひとつは、アルミリアキャリア。タンデムシートと高さがフラットで、純正アクセサリーとして販売されるトップボックスなしでも荷物が積みやすい! 純正アクセサリーはトップボックスのほか、左右パニアケースも用意されている。
タンデムシート下にはETC2.0車載器を標準装備。2段式メーターの下段部分にETCのインジケーターランプが表示される。

 

メイン液晶は6.5インチの大型TFTディスプレイ。基本画面表示は写真の3パターンで、パワー/エンジンブレーキ/トラクションコントロール/Gスイッチ/ABSモード/サスペンションインジケーターを表示。写真左部分にはオド&ツイントリップ、平均速度や平均燃費、瞬間燃費などを表示。ゴールドウィングに続いて、iPhoneユーザーはAppleCarPlayアプリを使用できる。iPhoneの地図アプリをここに表示させることも可能だ。

 

Bluetoothで接続することで、電話とオーディオ機能も、この液晶ディスプレイでコントロールできる。Bluetoothインカムを使用していれば、オーディオ再生をこのタッチパネルで行なえる。

 

右スイッチはセル&キルスイッチに、AT/MT切替、ニュートラルスイッチとDモードSスイッチに、クルーズコントロールのON/OFFスイッチとスピードUP/DOWNノブ。左スイッチには…もうこれは慣れるしかないんだけれど、パワーモードやエンジンブレーキコントロールなどの電子制御、ディスプレイ画面変更などのスイッチが並ぶ。

 

■CRF1100L Africa Twin 主要諸元
全長×全幅×全高:2,310×960×1,355mm、ホイールベース:1,560mm、最低地上高:210mm、シート高:830mm、車両重量:226kg、燃料消費率32.0km/L(国交省届出値 定地燃費値 60km/h 2名乗車時)、21.3km/L(WMTCモード値 クラス3-2 1名乗車時)、エンジン:水冷4ストローク直列2気筒SOHC(ユニカム)4バルブ、総排気量:1,082cm3、最高出力75kW(102PS)/7,500rpm、105N・m(10.7kgf・m)/6,250rpm、燃料タンク容量:18L、タイヤサイズ:前90/90-21M/C 54H、後150/70R18M/C 70H。メーカー希望小売価格:1,617,000円~。

 



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2020/03/09掲載