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車・バイクに限らずあらゆる「モビリティ」に取り組むホンダが、ASIMOなどのロボティクス技術を使った新たな乗り物、ハンズフリーパーソナルモビリティ「UNI-ONE」の事業化を決定した。UNI-CUBから続くこの新しい移動体が、「移動用小型車」として公道を走る。
- ■試乗・文:ノア セレン
- ■協力:Honda
行きついた形と定まった用途
一人で乗って体重移動だけで全方向へと進むことができる乗り物として、UNI-CUBをご存じの読者は多いだろう。ペンギンのような愛らしい姿の乗り物を足の間に挟むように乗り、オフィス内をスイスイ走るような映像を見たことがあるかもしれない。またそれの最新型「UNI-ONE」が法人向けに事業化をスタートさせたことも、つい最近のテレビや新聞で知った人も多いはず。
ASIMOの技術がいよいよ一般的に感じられるのか!と喜びがある一方で、UNI-CUBを知る人からすれば随分と大型化したな、とも感じていることだろう。そうなのだ、UNI-CUBまでは一輪でスイスイ走る未来っぽさや軽快さがあったのだが、UNI-ONEは二輪なのであり、その分車格も大きく、より安定した乗り物になったのだ。
ホンダの二輪、となっただけでバイク界に生きる我々からするとぐっと親近感を覚えてしまうのだが、なぜそうなったかというとやはり様々な環境で安心して多くの人に使ってもらえるためである。オフィスでスイスイ乗るだけではなく、目的地で利用するモビリティという使用目的がはっきりした今、誰にでも安心して乗れるということが重視されるのは当然のこと。初めて乗る人でも、お年寄りでも子供でも、怖がらずに乗りこなしてもらうには「転倒」があってはならない。そんなわけでUNI-ONEは二輪となり、これまでに想定されたオフィス内などだけではなく、例えばテーマパークや遊園地、ショッピングモール、あるいは2030年ごろにはいくつも作られているとされる「大型スマートシティ」内での移動という屋外での使用も含めた目的に向かって動き出したのだ。
二輪ではあるがバイクのように前後の二輪ではなく左右の二輪、とはいえ他にはない新たなチャレンジという意味ではいかにもホンダらしい。どこか親しみを持って応援したくなるではないか。
UNI-ONEならではの世界
パーソナルモビリティとしてはすでに電動の車いす(今では随分カジュアルなものも多数ある)や、屋外使用ではセニアカーなども思い浮かぶ。それらとUNI-ONEの違いはどこにあるのだろう。
UNI-ONEは「移動用小型車」という形式認定を取得しているのが一つのポイント。これは車体サイズや動力源、最高速などが定められており、これを満たすことで「歩行者」と同等の扱いとなる認定であるため、あらゆる施設内で使えるだけでなく、歩道などでも合法的に走ることができるのだ。
ただこの「移動用小型車」認定(車体後ろ側の緑色のステッカー)を受けていなくても、電動車いすやセニアカーも扱いは歩行者であり、サイズ的制約はあるものの歩行者が行けるところには同じように合法的に入っていける。
しかしハンズフリーであることはUNI-ONEならではの強みだ。セニアカーにはハンドルが、電動車いすにはジョイスティックがあり、いずれもこれを操作して移動、止まって買い物など何かしらの作業をする、という乗り物なのに対し、UNI-ONEは常にハンズフリー。体を傾けることで直感的に移動できるため、「移動するための操作」から解放されるのだ。よって両手で何かを持つこともできるし、歩行者と手をつないで進むこともできる。移動というものが意図的なものから、歩くかのような自然なものになるのだ。
歩行者として溶け込む
ASIMOの技術がとうとう日常に、という事実にドキドキするし、実際に発表会では「これは乗れるロボットですね」という言葉もあった。ではそんなロボットは歩行者としてどう溶け込んでいくのだろう。
これまでのパーソナルモビリティは扱いこそ歩行者ながら、その実態はあくまで乗り物であり、走行する際は「歩行者にぶつからない」ことが最重要。そのためには様々なセンサーを搭載するなどして衝突を防ぐ取り組みがなされてきたモデルも多い。しかしUNI-ONEでは乗り物ではなく、まさに歩行者として存在するべくそういったセンサー類は備えていない。そもそもUNI-ONEが想定するような人込みでの使用でセンサー類があっては緊急停止ばかりを起こしてしまい自由に動き回ることは難しくなる。
そこで、まずUNI-ONEは着座位置を高く設定。乗車している人の目線はほぼ歩行者に近くなり、乗り手は人込みに埋もれることなく周りを見回せ、またほかの歩行者からすれば存在を認識しやすくなっている。そのうえで、例えほかの歩行者にぶつかるようなことがあっても衝撃を吸収できるよう外装部品を柔らかなものに設定し、さらにいざぶつかると人間どうしがぶつかったときのように、自然とフラッとよろめく動きをすることで衝撃を和らげるのだ。まさに「乗り物」ではなく「歩行者」いや、さらに言えば「歩行車」だろうか。歩行するかのように無意識に操作でき、そして同様に無意識的に歩行している歩行者に溶け込む歩行車なのである。
サービス契約は保険含めたパッケージ
ここまで読んで「乗ってみたい」と思った方も多いだろう。もしくはすでにどこかで乗ったことがあり、「あれとはどう違うの?」と思っている人もいるかもしれない。
後者はかなり乗り物好きの人だろうが、2022年の国際ロボット展で公開されてからはモビリティリゾートもてぎなどでも試乗できる場面があった。二輪で、重心位置の移動で自在に動けるという意味では今回のものと同じなのだが、事業化に向けて先述した衝撃吸収性を持たせた柔らかな外装の採用や作動音の低減、あるいは緊急停車時に補助輪で着地する際の衝撃を和らげるなど細部を煮詰めている。
そして前者だが、残念ながらUNI-ONEは個人で購入することはできない。UNI-ONEは日本国内の法人を対象に、本体、交換式バッテリー、メンテナンスや保険をパッケージとした「サービス契約」の形で販売される。
早速の導入先として、大分県の「サンリオキャラクターパーク ハーモニーランド」が決定。42ヘクタールもある広大な敷地には親子3世代で訪れるお客様も多く、サンリオが掲げる「みんな仲良く」をUNI-ONEがサポート。「誰も何もあきらめなくて良い施設を目指す」と、発表会に登壇した株式会社サンリオエンターテイメント 代表取締役社長の小巻亜矢さんは力を込めた。
なおこのほかにも9施設が現在導入を予定しており、その中にはモビリティリゾートもてぎも入っているため、一般の人は遠くない将来にもてぎで体験ができるようになるはずだ。
走行性能
ライダー諸兄としては、ではどんな走りをするのか、と気になるだろう。UNI-ONEで二輪になったことで転倒を回避し、かなり安定した乗り物になったとされるが、しかし乗り味や自在感は一輪だったUNI-CUBとあまり変わらない。縦方向のホイールに、さらに横方向の小さなバンドのようなものがついていることで常にバランスをとってくれる。
体を前に傾ければ前に進み、左右にひねれば左右に方向転換する様は、視線を向けた方向に自然と進むバイクかのよう。体を真横に傾ければ真横に平行移動するのはセニアカーや電動車いすにはない動きでなかなか面白い。また操作に慣れればその場で方向転換もできるというが、短い試乗時間ではそこまで乗りこなすことはできず、設定されたスラローム路を左右に方向を変えながら進むだけでもなかなか難しかった。またバックも難しく、どうしてもまっすぐ下がれずに傾いてしまう。歩くかのように直感的に扱うにはそれなりに慣れや練習が必要になるだろう。
速度は6㎞/hまで出すことが可能だが、現時点では4.5km/hのリミッターがつく。タイヤやサスペンションはとてもフレキシブルな特性が持たせてあり、建物内の大理石やガラスなどのツルツルした床、あるいは屋外の濡れた路面でも耐スリップ性は高く、また一方でテーマパークにあるような石畳なども走破可能。オフロードも学校のグラウンドや芝生程度なら可能だという。そしてこれだけの路面に対応しつつもタイヤの耐摩耗性も高く、リース期間満了の6年間で交換を必要とすることはないらしい。
リチウムイオンの交換式バッテリーで走れる時間は約3時間。バッテリーは2時間程度で満充電にできる。車両重量は80㎏で、乗員の最大重量は110㎏とされている。
カッコいいことをアピールしたい
車輪が2つになったのに、1を意味する「ユニ」とまたまた1を意味する「ワン」を組み合わせた名前とはこれいかに? と申し上げたら、「ユニはほかにもユニークやユニバーサルといった意味もあるんですよ(笑)」と教えてくれた。そのユニークさこそが、UNI-ONEの最大の魅力だろう。
パーソナルモビリティとしては、最初に書いたように電動車いすやセニアカーがすでに存在している。それに対してUNI-ONEの魅力は、様々なロボティクス由来の最新技術はさておき、何よりも近未来的な存在感がおしゃれでカッコいいことに思えた。
例えば地方のショッピングモールやテーマパークで、おばあちゃんと一緒に回りたいとき、電動車いすよりもUNI-ONEのほうが「乗ってみようかしら」と思ってくれそうな気がする。また年齢や体力に関係なくやはり誰でも「なんだアレは⁇」「乗れるかな⁇」と直感的に興味をひかれそうではないか。体力がないから乗る、体が不自由だから乗る、というだけでなく、便利だから、楽しそうだから、未来を経験してみたいから、乗る。そんな部分にバイクとも通じるような何かを見た気がする。
(取材・文:ノア セレン)