「普通自動二輪免許でも乗れるハーレー」としてデビューしたX350とその兄弟車のX500。既に人気となっているこの２台が、2025年は新色の「コズミックブルー」を追加し、価格据え置きで登場した。機能面では去年モデルと同じなのだが、改めてその魅力を伝えたい。
- ■試乗･文：ノア セレン ■写真：Harley-Davidson Japan
- ■撮影協力：ハーレーダビッドソン幕張
- ■協力：Harley-Davidson Japan
- ■ウエア協力：アライヘルメットhttps://www.arai.co.jp/jpn/top.html
- カドヤ https://ekadoya.com/
- アルパインスターズhttps://www.okada-ridemoto.com/brand/Alpinestars/
おさらい
「チューメンで乗れるハーレーが出たらしいぞ」という感覚のまま、あまりこの新生Xシリーズについてそれ以上知ろうとしなかった人たちに向けて、まずはどんなバイクなのかおさらいしておこう。
エンジンは350cc／500ccの水冷パラツインを搭載。ちょっと詳しい人ならば中国の「QJモーター」が製造を担当しているのもご存知だろう。水冷パラツインでDOHC４バルブとくれば非常にモダンな構成であり他社も多く手掛けている形式ながら、個性的なのはクランクが流行りの270°ではなく、360°設定ということだ。これは今や少数派で、国産では唯一W800系のみが採用、外国車でも非常にレアとなっている。かつてはバーチカルツインの英車や初期のBMWのFシリーズが採用していた設定であり、スムーズで低中速トルクが得意な形式とされている。なお２気筒の爆発間隔は一定となり、それはBMWのボクサーと同じということだ。
車体も極めてモダン。前後17インチのラジアルタイヤを備え、フロントには倒立フォーク、リアはモノショック。エンジン形式こそ350と500で共通ながら、車体はフレームから別物であり前後サスも仕様はそれぞれ異なっているため、細やかな作り込みが為されているのも特徴だ。シンプルなメーターや国産車と同様で馴染みやすいスイッチ類など含めて、どこにも無理がない、スタンダードなモデルとなっている。
ハーレーであることは、一度置いておこう
「ハーレー」というワードに対してどんな印象を持っているかは人それぞれだろう。
憧れの外車メーカー、「いつかはハーレー」といった、バイク界における一つの頂点として捉えている人も多いはずだし、実際には乗れなくとも羨望のまなざしでハーレーライダーを眺めているという人も多いことだろう。
一方で、クルーザーモデルがほとんどのため、バイクではスポーツがしたいという人や、国産車の付き合いやすさや維持管理のしやすさには代えられない、という人にとっては、ハーレーというのは選択肢に入ってこなかったかもしれない。
この２パターンをひとまず「肯定派」「敬遠派」としておこう。ただここではこういった派閥はひとまず置いておいて、ハーレーであることも忘れて、なんとも素晴らしいこのＸというバイクをまずは褒めたい。メーカー名など無意味にしてしまうほど、オールラウンドで優しく、かつ楽しいバイクなのである。
普通自動二輪免許で乗れる350
Ｘシリーズは、やはり免許の関係を主な理由に350の方がメインであり販売数も多い。いわゆる400ccクラスということになるわけだが、このカテゴリーは各外国車メーカーの参入もあって近年にわかに盛り上がっている。
そんな400ccクラスにハーレーは競合外国車メーカーが選択するシングルではなくパラツインで参入。国産ではパラツインもあるが、それらは皆180°クランクなのに対してＸは360°クランクとすることで、他社にはないスムーズさや上質感、個性も獲得しているのだ。
低中回転域が得意とされている360°クランクだが、X350は低中回転域だけでなく全回転域でとてもスムーズで気持ちのいい回り方をする。ギア比が全体的に低いこともあって、発進はとてもイージー。ラフにクラッチを放してもストトっと発進してくれ自然な流れで２速、３速とシフトアップしていけるし、その時ミッションのタッチも良好。早々にトップギアに入れることもでき、そのトップギアが40km／hでも粘るし、そのまま120km／hオーバーまで力強く加速も続けてくれる。そのフレキシビリティはまるで４気筒かのようでライバルにはない上質さも生んでいる。
車体はとてもコンパクト。ハンドルとシートの関係は国産車のようにナチュラルでシート高も低いため乗り出すまでのハードルは低い。ただステップだけは妙にバックステップで、膝の強めの曲りは少し慣れが必要なのと、筆者のように長身だと一回り大きい500の方がしっくりくる可能性はある。ハンドリングやサスペンション、ブレーキ性能はいい意味でとても普通。強い個性があるわけではないが、初心者が乗っても「オットット」となる場面は思いつかないし、ベテランが乗っても「これはちょっと？？」という違和感もない。本当に極まっとうなスタンダードバイクなのである。
それでいて、特に350はハンドリングにカッチリしたダイレクト感があるのも特徴。ワインディングでペースを上げていくと、「もうちょっと良いタイヤを履いてみようかな」という気にさせるスポーティさも持っているのだ。また高回転域を使っているとエンジンの反応もなかなかエキサイティングで、打てば響く感じがさらに気持ちを盛り上げてくれる。既にこのX350でサーキット走行を楽しんでいる人たちもいるようだがその気持ちも十分にわかる。普通自動二輪免許で乗れるからといってビギナーだけに向けたものではなく、こういった中間排気量のバイクを遊び倒したいというベテランでもしっかりと楽しみを見出すことができるパッケージなのだ。
見た目同様に性格も違う500
乗るには大型自動二輪免許が必要となる500は、価格的にも69万9800円の350に対して83万9800円と少しハードルが高い。ただ排気量が違うだけでなく、トラッカーイメージの350に対してアメリカンロードスタースタイルとなっているため、性能の違いよりもルックスで選ぶ人もいそうだ。
兄弟車でいながら、乗り味もかなり違うのが面白い。排気量があるためパワーには余裕がある一方で、350ではトップギアで40km／hほどまで落としても大丈夫なのに対して、500ではそこまで速度が落ちるとギクシャクしてしまい、350ほどのフレキシビリティはない。逆にだからこそツインらしさのようなものはより濃厚で、どこまでもスムーズな350に対してより個性的にも感じられる。回していった時の力強さはかなりのもので、360°クランクらしい頼もしい中回転域トルクを繋いでいけば鋭い加速も可能だ。
車体もかなり印象が違う。ハンドルはワイドでアップ、ステップはバック度合いが強い350に対してこちらはミッドコンと呼びたいほど自然な位置にあり、本当に極自然なライディングポジションがとれる。シート高は350の777mmに対して820mmあるし、全体的にも一回り大柄ではあるものの、それもまた余裕となっていて大らかな乗り味を実現している。
φ50mmという極太の倒立フォークにより剛性感が高そうな印象だが、500は350よりもしなやかなハンドリングも特徴だ。よりアップライトなポジションに合わせてか、フロント周りをクニャクニャとしならせて曲がっていくような印象があり、それでいてバンク中の安定感は350よりも高い。ホイールサイズやタイヤ銘柄は同一なのに、ワインディングを走ると500の方がワンランク高いペースが可能なのだ。こんな特性を知ってしまうと、ベテランライダーや既にハーレーオーナーである人も「一台手元に置いておきたい」と思うことだろう。
カスタムとハーレー文化
ハーレーと言えば、カスタムも楽しんで自分色に染めていく、といった文化もあるかと思う。Ｘの２台もまた、カスタムを楽しむ素材として楽しめるだろう。350と500ではスタイリングが違うこともありその方向性は違うだろうが、特に350の方はマフラーをはじめ、最近ではホイールまで登場するなど、カスタム文化がすでに盛んだ。もともとがトラッカースタイルのため、スポーティ方向のカスタムパーツが多いような印象だが、それもまたスポーティなハーレーというカッコ良さがあるし、オレンジ基調のウェアなども合わせてアクティブなイメージを楽しみたい。
対する500は、今回の試乗拠点となったハーレーダビッドソン幕張にカスタム車が置いてあったが、リア周りのナンバーステーを移設したりしただけでずいぶんとイメージがカッコ良くなりカスタム感が強かった。スポーツのイメージが薄い500の方がいわゆるハーレーらしいカスタムも楽しみやすいかもしれない。筆者だったらタンデム性能や積載性能を向上させるバックレストにナンバーステーも一体化させ、リア周りをすっきりとさせたいな、そしてワイドなハンドルはもう少しナローにしてみようか……などと既に妄想が始まっていたのだから、やはり何かそういうカスタム心をくすぐるものがあるのだろう。
Ｘをきっかけにハーレーディーラーにも出入りするわけだから、アパレルも含めて存分にハーレー観を楽しみたい。
「敬遠派」が「肯定派」に
鼓動感や強めの個性こそがハーレーの世界、という向きがあるのと同時に、低いシート高やエンストのしにくさ、ストリートやツーリングなど常用域での付き合いやすさや低い速度域での充足感もまたハーレーというブランドが持つ魅力だろう。Ｘの２台は鼓動感や強い個性は持っていないものの、それ以外の魅力ではハーレーらしいと感じる部分も確かにあった。その他にも、細部にしっかりとHARLEY-DAVIDSONと刻印されていたり、灯火類などもより大排気量モデルと共通であったりと、細かな部分に確かなハーレーらしさがちりばめられているのも嬉しい。
一方でそういった部分を無視すれば、ハーレーではない、ただの良いバイクとして付き合うこともできる。「肯定派」にも「敬遠派」にもしっかりとアピールがあるのだ。
そんなことを訴えるのは、実は筆者は「敬遠派」だったから。ハーレーというブランドの面白さは理解しつつも、自分のバイクライフにフィットするカテゴリーではないな、と思ってきたのだ。しかし同時にバイクだけではなくハーレーがもつ文化的カッコ良さに対する憧れも持ち続けてきた。そんな筆者はX500にベタぼれ。現在の国内外新車ラインナップの中で一番欲しいモデルですらある。「……これを買えば、自分もハーレー文化に触れるきっかけになるかな！」と喜んでいる面もあるわけだ。
Ｘシリーズは肯定派も敬遠派も、ビギナーもベテランも、分け隔てなく楽しませてくれるナイスバランスの本当に良くできたモデルである。既にハーレーオーナーでありセカンドバイクを欲しい人はもちろんのこと、「何か気軽で面白いバイクがないかな」と思っていた人も是非、そして「これをきっかけにハーレーの世界をのぞいてみようかな？」と思っている人にも、是非とも薦めたい。
「肯定派」を喜ばす、ちりばめられた「ハーレーらしさ」
「敬遠派」も納得の、シンプルで良いバイク
■エンジン種類：水冷4スト並列2気筒DOHC4バルブ ■総排気量：353cm3 ■ボア×ストローク:70.5×45.2mm ■圧縮比:11.9 ■最高出力: 27kW (36HP)/8500rpm ■最大トルク:31Nm/7000rpm ■全長×全幅×全高:2,110×─×─mm ■軸間距離:1,410mm ■シート高:777mm ■車重:195㎏ ■燃料タンク容量13.5L ■変速機:6段リターン ■ブレーキ（前・後）：ダブルディスク・シングルディスク ■タイヤ（前・後）：120/70 ZR17 Ｒ・160/60 ZR17 ■車体色：ダイナミックオレンジ、コスミックブルー、ドラマチックブラック、パールホワイト ■車両本体価格(税込)：699,800円
■エンジン種類：水冷4スト並列2気筒DOHC4バルブ ■総排気量：500cm3 ■ボア×ストローク:69×66.8mm ■圧縮比:11.5 ■最高出力: 35kW(47HP)/8500rpm ■最大トルク:46Nm/6000rpm■全長×全幅×全高:2,135×─×─mm■軸間距離:1,485mm■シート高:820mm ■車重:208㎏ ■燃料タンク容量13.1L ■変速機:6段リターン ■ブレーキ（前・後）：ダブルディスク・シングルディスク ■タイヤ（前・後）：120/70-ZR17/58W・160/60-ZR17 ■車体色：ダイナミックオレンジ、コスミックブルー、ドラマチックブラック、パールホワイト ■車両本体価格(税込)：839,800円