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試乗・解説






EICMA2024で発表されたロイヤルエンフィールドの新型車「BEAR 650」。2018年に市場投入された、新型並列2気筒エンジンと新開発のダブルクレードルフレームを採用したツインプラットフォームに、オフロードを強く意識した前後足周りを採用したスクランブラーモデルある。その誕生の背景には、アメリカにおけるロイヤルエンフィールドのサクセスストーリーも含まれている。では、その詳細を紹介しよう。

■試乗・文:河野正士 ■写真:ロイヤルエンフィールド ■協力:ロイヤルエンフィールドジャパン(総輸入発売元:ピーシーアイ株式会社) https://www.royalenfield.co.jp/
■ウエア協力:クシタニ

 10月末、僕たち日本人ジャーナリストはロイヤルエンフィールド(以下RE)の新型車「BEAR 650(ベア・ロクゴーマル)」の試乗会に参加するために、米国カリフォルニア州にある砂漠のリゾート地パームスプリングに向かった。でも、出発の約2週間前までは同じカリフォルニア州にある「Big Bear Lake(ビッグ・ベア・レイク)」に向かうはずだった。しかし森林火災によって計画していた試乗ルートを走ることができず、急遽試乗会場がパームスプリングに変更になったのだ。

#BEAR 650

 Big Bear Lakeとは、ロサンジェルスから200kmほど西に走った、サンバーナディーノ山脈の中にある湖。いまは四季を通じてアウトドアのアクティビティが楽しめる場所として人気だ。しかし1921年からBig Bear Lakeは、「Big Bear Motorcycle Run」と呼ばれるレースのゴール地だったのだ。そのレースは毎年新年早々に、LAからBig Bear Lakeまでの約100マイルを駆けるキャノンボールレースとして知られていた。そしてそのレースは、後にビッグベア湖近くの砂漠で開催されるデザートレースに業態を変更。西海岸のバイク乗りたちの間で広く知られる人気のレースだったのだ。

 その「Big Bear Motorcycle Run」の最終回となる1960年大会に、約800人のライダーの頂点に立ったのが、REの単気筒500ccをベースにスクランブラーに仕上げたマシンで参戦したエディ・モルダーだった。当時16歳だった彼は、Checkers Motorcycle Clubというデザートレースやフラットトラックレースに参戦するクラブの一員としてレース活動を行っており(スペインのバイク系アパレルブランド/Fuel MotorcycleとコラボしたBEAR650アパレルにチェッカーフラッグがデザインされているのは、このCheckers Motorcycle Clubのクラブウエアがモチーフになっている)、後にプロライダーとしてTTレースなどで勝利したほか、スタントライダーとして映画にも出演している。

 この勝利をきっかけにREは、北米でモータースポーツに焦点を当てたプロモーション活動を展開。そして1960年、並列2気筒エンジンを搭載していた「CONSTELLATION 700(コンステレーション700)」をベースに、タイヤやサスペンションをアップグレードし、盛り上がっていたモータースポーツへの参戦を視野に入れた新型車を展開した。それが「INTERCEPTER 700(インターセプター700)」であり、REのモデルラインナップで初めて“インターセプター”というモデル名を採用(シリンダーヘッドに「VAX」という刻印があったことからVAXインターセプターとも呼ばれた)。ここからREのインターセプターの歴史が始まったのである。

#BEAR 650
ゼッケン249は若かりし頃のエディ・モルダーと、1960年のBig Bear Motorcycle Runで優勝した、ロイヤルエンフィールドの単気筒500ccをベースにしたスクランブラーマシン。
#BEAR 650
プレゼンテーション会場には、1960年式のVAXインターセプターも展示されていた。

 このINTERCEPTERは、アメリカのモータースポーツシーンで大成功を収めた。多くのトップライダーやCheckers Motorcycle Clubのようなクラブチームが、デザートレースやフラットトラックレースで、INTERCEPTERを使用したのだ。
 またREはINTERCEPTERをベースに、ブロックタイヤやアップハンドルを装着した「INTERCEPTER SCRAMBLER 700(インターセプター・スクランブラー700)」や、ロードタイヤに低いハンドルを装着した「ROAD INTERCEPTER 700(ロード・インターセプター700)」をラインナップ。毎年、各部をアップデートしつつ、エンジンの排気量も拡大していった。

 この「ROAD INTERCEPTER 700」が、2018年にデビューした「INTERCEPTER 650(日本名/INT650)」を復活させるプロジェクトへと繋がっている。

 随分と遠回りの説明になったが、今回REが発表した新型車「BEAR650」は、そのBig Bear Motorcycle Runから始まった米国モータースポーツシーンでの、REの成功を振り返るとともに、「BEAR650」のサイドカバーにある“INT”の文字でも分かるとおり、Big Bear Motorcycle RunがINTの起源であることに敬意を表し、モデル名に“BEAR”の文字が刻まれたのである。新型車のモデル名を聞いたときには「なんで熊?」と疑問に思ったが、パームスプリングでの試乗前夜に行われたEddy Mulder本人と、REの歴史家Gordon Mey(ゴードン・メイ)とのトークセッション、さらには車両設計の責任者であるMark Wells(マーク・ウェルズ)のプレゼンテーションで、その疑問が晴れたのである。

#BEAR 650
トークショーでBig Bear Motorcycle Runで勝利したときを振り返ったエディ・モルダー(左)と、ロイヤルエンフィールドの歴史家ゴードン・メイ(右)。
#BEAR 650
プレゼンテーションを行うマーク・ウェルズ。彼が着るジャケットやキャップは、Fuel MotorcycleとコラボしたBEAR 650アパレル。

 その「BEAR 650」はというと、兄弟モデルであるINT650とは別物とまでは言わないものの、各部のアップデートによってモダンで洗練された乗り味となっていた。なにせINT650から、構成部品の3分の2が新しくなっているというのだから、そうなっていて当然だ。

 エンジンはINT650と同じ、排気量648ccの空油冷4ストロークSOHC4バルブ並列2気筒であり、最高出力もほとんど同じだ。しかし最大トルクを約10%アップするとともに、全域にわたって10%程度のトルクを上乗せしている。それによって低中回転域でのエンジンの鼓動感というか力強さ(僕は”爆発のツブツブ感”と表現するときもある)が増し、低い回転からバッとアクセルを開けたときの加速がとても楽しい。
 INT650およびCONTINENTAL GT650(コンチネンタルGT650)から受け継いだダブルクレードルフレームは、ステアリングヘッド周りに専用ガセットをセット。それによって新たに採用したSHOWA SFF-BP倒立式フロントフォークがオンロードはもちろんオフロードでも、そのパフォーマンスが発揮できるようにフレーム剛性を高めている。

#BEAR 650

 またリアフレームは、シート下で左右のフレームパイプを連結。さらにリアサスペンション取付位置以降を新設計してリア周りのフレーム剛性を高めて、フロント周りとの剛性バランスを再調整している。この新設計のリアフレームは、アクセサリーとしてラインナップされるパニアケースおよびソフトケース、そしてタンデムグリップを装着できるようにして、大きな荷物を搭載して長距離を走るツアラーとしてのパフォーマンスアップも狙っている。

 INT650との違いはほかにもある。450シリーズと同じ6インチの丸型TFTモニターやそのメニューを操作するための左スイッチボックス内のジョイスティック、フルLED化、リアのみABSをカットする走行モードの採用も「BEAR650」独自の装備だ。INT650がブリティッシュクラシックを感じるモデルキャラクターに対して、「BEAR650」はアメリカのデザートレースで活躍したスクランブラーをデザインとパフォーマンスの道しるべにしながら、各所にモダンロードスター的なパフォーマンスパーツや電子デバイスを採用している。それによって「BEAR650」は、REのツインプラットフォームのなかで、そのコンセプトとパフォーマンスを誰もがすぐに理解することができる、土埃が舞うアメリカンイメージとモダンなデザイン&ディテールをミックスしたフレーバーでまとめ上げているのだ。

#BEAR 650

 モダンなキャラクターを狙ったとは言え、フロント19インチホイールのハンドリングは大らかで、スポーツバイクが採用する17インチホイールのハンドリングとは大きく違うし、18インチホイールを採用したINT650とも違う。INT650にもある種の大らかさがあったが、近代的でフロント20mm/リア27mmもストロークの長い前後サスペンションをロードよりにセッティングしたことで、「BEAR650」のハンドリングは、旧車のフロント19インチホイール装着モデルとも違う、かっちり感というか剛性感を感じることができる。それに幅の広いハンドルと、低く前に移動したステップ位置によりゆったりとした膝下ポジションが可能になり、なおかつ低回転域から中回転域までパンチ力というかトルクが増したエンジンの出力特性によって、アクセル操作やライダーアクションに対する車体の反応が良く、それによって車体が軽く、そしてキビキビと動く軽快感が与えられている。

「BEAR650」は、スクランブラースタイルを採用したことで、REツインプラットフォームのなかでキャラクターが明確になり、パフォーマンスにおいてもそのビジュアルイメージを見事にシンクロさせている。このスタイリングとパフォーマンスについて、先述した車両設計の責任者Mark Wellsが、プレゼンテーションでこう語っている。

#BEAR 650

「INT650をベースにしたスクランブラーモデルの計画は、INT650発表直後から温めていたアイディアだ。しかし市場の反応は早く、市場投入直後から世界中の多くのライダーがINT650をベースにしたスクランブラーカスタムを数多く制作した。その反応は、BEAR650のプロジェクトをスタートさせる、我々の後押しとなった。そしてBEAR650のスタイリングとパフォーマンスは、60年代のライダーたちがそうであったように、オンロードバイクをベースにオフロード用にアレンジしたような雰囲気を持たせたかった。そしてBEAR650は、その我々がイメージしたとおりのスタイリングとパフォーマンスに仕上がっている。多くのライダーに、この車両を楽しんで欲しい」
(試乗・文:河野正士、写真:ロイヤルエンフィールド)

#BEAR 650
<#BEAR 650
テスターは身長170cm、体重65kg。

#BEAR 650
エンジンは、RE2気筒モデル共通の、排気量648cc空油冷並列2気筒SOHC4バルブ270度クランク。ブラックアウトしたエンジンは、シリンダーヘッドのみシルバーで仕上げられている。
#BEAR 650
RE2気筒エンジンシリーズ初の2in1タイプのサイレンサーを採用。マッピングの変更のみで、全域にわたって約10%出力トルクが向上している。1本サイレンサーでエンジン周りは大幅に軽量化したが、フレーム補強や倒立フロントフォークなどの採用により、車体重量はINT650比で−1kgに留まっている。

#BEAR 650
SHOWAブランドの倒立フォーク/インナーチューブ径43mmのSFF-BPを採用。ストローク長は130mmで、INT650比でストローク長は20mm伸びている。
#BEAR 650
SHOWAのリアショックユニットを採用。プリロードのみ5段階で調整可能。115mmストロークで、INT650比でストローク長は27mm伸びている。前後サスペンションが伸びたことでグランドクリアランスは184mmと高くなったが、それにともないシート高も830mmとなった。

#BEAR 650
このステアリングステム周りのガセットは、INT650やコンチネンタルGT650にも見られるが、BEAR650は燃料タンク下も含めて専用のガセットが入り、倒立フロントフォークや大径19インチフロントホイール、それに合わせた高剛性の三つ叉類の採用に合わせてフレーム前側の剛性を高めている。
#BEAR 650
燃料タンクは、INT650と共有。カラーリングは、クラシカルな単色系のほかに、このイエローのように、モダンなカラー&グラフィックにもチャレンジしている。ちなみにこのイエロータンクは、タンク前側のネイビーカラーで数字の「6」をデザイン、1/2の数字とともに「650」を表現している。

#BEAR 650
ブルーのシートは、単品で見るとかなり尖ったデザインだが、燃料タンクと合わせるとバランスがいい。シートは、先端の両角が少し張っていて、シートがやや高く感じてしまう。
#BEAR 650
シート下のリアフレーム周り。リアフェンダーが始まるあたりに、左右のリアフレームパイプを繋げる補強を追加。強化したフレーム前側との剛性バランスを取るとともにオフロードでの走破性を高め、またリア周りに荷物を搭載したときのリアフレーム強化にも貢献している。

#BEAR 650
灯火類はすべてLED化。丸型のヘッドライトやテールライト、大型のウインカーなど、灯火類のデザインそのものはクラシカルだが機能は最先端という、REが得意とする手法を採用している。
#BEAR 650
ヒマラヤ450やゲリラ450にも採用されている丸型5インチTFTモニターを採用。専用アプリと連携することで、ナビ画面もこのモニターに表示することができる。このメーターの下側にUSB-Cコネクターも装備する。

#BEAR 650
モニターに表示されるさまざま機能を操作するために、左グリップのスイッチボックスにはジョイスティックを装備。個人的にはもう少しクリック感と言うか、操作時のスティックに剛性感が欲しいが、グローブをしたままでも簡単に操作できるジョイスティックは非常に便利。
#BEAR 650
右スイッチボックスの前側にある「M」ボタンは、人差し指で操作できるライディングモード選択ボタン。出力そのものに変化はないが、リアABSを解除できる走行モードを装備している。

#BEAR 650
<#BEAR 650
ステップは、INT650に比べてやや低く、そして前側に移動している。前後サスペンションの変更で車高そのものが上がっているので、ワインディング走行時でもステップが擦ることはなかった。

#BEAR 650
●Royal Enfield BEAR 650主要諸元
■エンジン形式:空油冷4ストロークSOHC4バルブ並列2気筒 ■総排気量:648㏄■ボア×ストローク:78.0mm×67.8mm ■圧縮比:9.5:1 ■最高出力:34.9kW(47.4PS)/7,150rpm ■最大トルク:56.5Nm/5,150rpm ■全長×全幅×全高:2,216×855×1,160mm ■ホイールベース:1,460mm ■最低地上高:1840mm ■車両重量:214㎏ ■燃料供給方式:FI ■燃料タンク容量:13.7L ■フレーム:スティールチューブラー・ダブルクレードルフレーム ■サスペンション(前・後):SHOWA製SFF-BP43mm倒立タイプ/130mmストローク・SHOWA製ツインショック/プリロード5段階調整&115mmストローク■変速機形式:6段リターン ■ブレーキ形式(前・後):320mmシングルディスク×ツインピストンキャリパー・270mmシングルディスク×ツインピストンキャリパー ■タイヤサイズ(前・後):MRF製NYLOREX-F 100/90-19M/C57H・MRF製NYLOREX-X 140/80B17M/C69H ■価格:未定

[『Continental GT 650試乗インプレッション記事』へ]

[『INT 650 & Continental GT 650試乗インプレッション記事』へ]

[『ロイヤルエンフィールドのWEBサイトへ]

2024/12/20掲載