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試乗・解説






10周年を迎え、これまでのスタンダード/SPに加え今年新たに「Y-AMT」と呼ばれるクラッチレス仕様も投入されたヤマハMT-09シリーズ。特にこのY-AMT仕様については多くの情報・インプレが出回っているが、モデルチェンジしたスタンダード版はどうなのか、そしてSPの方はどうなのだろう。

■試乗・文:ノア セレン ■撮影:松川 忍 ■協力:YAMAHA ■ウエア協力:アライヘルメット、アルパインスターズ

実は大変更。24年型MT-09

 本サイトを検索して気づいたが、なんと24年型のMT-09についての記載がほとんどなかった! えぇ!? こんなに素晴らしいバイクなのに!! 実は筆者は姉妹媒体、「オートバイ」誌のバイクオブザイヤー候補の一台にこの24年型MT-09を選んだほど注目していたのだが、まさかWEB Mr Bikeにてその魅力をしっかりと伝えていなかったとは…… 反省してこの原稿を書くことにいたします。
 24年型のMT-09、ルックスが大きく変わってマーベル感が強まったのが見てすぐにわかる変更だが、マイナーチェンジとされつつも実は内容もかなり変わっている。コンセプトが先代までの「The Rodeo Master」から、より洗練された乗り味を追求した「The Knight Horse」へと変更。コンセプトの言葉というのは漠然としがちではあるものの、先代はロデオ、新型は騎士(Knight)という部分を比べればなるほど洗練された感じもする。
 888cc/120馬力のエンジンは規制対応などが主だったところで大きな違いはないものの、ライディングポジションは少なくない変更となっている。ハンドルは34mm下に下げられ、ステップは逆に10mm上&30mmバックへ。かつてのモタード感が残るポジションから、新型ではよりロードスポーツに寄せたライディングポジションとなったわけだ。
 これに合わせてサスペンションもセッティングを変更。フロントはバネレートや減衰を変更し、リアに関してはリアフレームやリンク周りまで変更しているのだからマイナーチェンジの域を出ていると言えるだろう。
 このほか、各走行モードの「YRC」(ヤマハライドコントロール)やクルーズコントロール、5インチのカラーTFTメーターの採用、タイプCのUSBソケットや新設計ハンドルスイッチなど、細部までアップデートされているのが24年型MT-09である。なおスタンダード版は2024年4月17日、SP版は7月24日、話題のY-AMT仕様は9月30日に発売されている。

#yamaha MT-09
感動的なほどに走りのレベルが上がったスタンダード版MT-09。SPに対してサスペンションの調整幅が限定的であったり、フロントブレーキにはブレンボではなく定番のスミトモキャリパー(住友電工はアドヴィックスと統合して、その名前は今はもうありませんが、この特徴のキャリパーを見るとかつての憧れからかついついスミトモ、あるいはMOSというワードが出てきてしまい……)が装着されているものの、それにより走りのどこかが犠牲になっているという感覚は一切ない。特にブレーキは強烈かつコントローラブルで、非常に印象が良かったのだが、これはサスの設定がよりロード向けになったことによる車体の安定感も寄与しているだろう。サスの設定によるものか、SPに比べると全体的に軽快に感じることが多く、公道ワインディングにおいてはSP以上に手の内感が楽しめるのではないだろうか。

「普通のバイク」になったスタンダード版

 Y-AMT仕様については既に本サイトでレポート済みのため、そちらも是非読んでいただきたいが、ここではスタンダード仕様とその生い立ちにフォーカスしよう。
 2014年に登場した初期型はコンセプトも走りも過激で、乗った瞬間に「面白い!!」と思わせるインパクトは確かにあったものの、では公道でもサーキットでも、ちゃんとスポーツをしようと思うとなかなか難しい面もあった。
 元気が有り余っているエンジンとモタード的なストロークの多いサスペンションの組み合わせは、「今までになかった」という意味では確かに新たなオモシロさを提案してくれてはいた。しかし同時に常にどこかに矛盾を抱えていたとも思う。MT-09のモデルチェンジを振り返ると「MT-09らしさ・個性」を維持しながら、いかに普通のロードスポーツとしても親しんでもらえるか、というせめぎあいの10年だったのではないだろうか。
 18年に追加された「SP」はMT-09のモタード感がかなり抑えられ、普通のロードモデルのようなサス設定だったことを思えば、やはりヤマハの中のジレンマも垣間見える。
 そんなジレンマを打ち破ったのが24年モデルである。スタンダード版がグッとロードモデル寄りになり、かつてのモタード感は消失したと思えるほどに影を潜めた。言い換えればMT-09のスタンダード版は「普通のバイク化」≒「先代までのSP化」したのである。

#yamaha MT-09

はじめてのシンクロ

 24年型のMT-09(SPではないスタンダード版)に乗って、「うわ、これは欲しい!」と心から思った。これまでの歴代MT-09を面白いと思ったことはあるものの、所有したいと思ったことは初めてだ。
 エンジンのパワフルさ、回転数を意識しなくてもいつでも力強いトルク、右手入力に対する正確さとフレキシビリティ、これは先代から引き継ぐ部分なのだが、もう本当に最高である。ただ近年は熟成されたとはいえ、このエンジンは初期型からずっととても魅力的だった。当初はアクセルの開け始めが多少唐突に感じる部分もあったが、近年ではそれも改善され、24年型では足周りが変更されたこととも相まっていわゆる「ドン付き」的な扱いにくさはない。なおエンジンの表情はモードによってかなり変化する。今回はサーキットということで最もパワフルなモードでの走行だったが、それでもライダーの意図以上の激しさや唐突さに戸惑うことはなかった。
 24年型の一番の進化はやはり車体や足周りだ。先代までは初代が持っていたモタードモデル的な性格付けをMT-09の個性と位置づけ、ヤマハはそれを手放せないでいたと思う。対する24年型は、先代までのロデオ的激しさを手放し、洗練を選んだ。ポジションはより普通のロードバイク的なものになり、足周りは動きすぎないしっとりとしたものになった。これがとても大きな変化なのだ。
 これまでのMT-09を「欲しい」とまで思えなかったのは、ワインディングやサーキットで気持ちの良いペースになった時に、ブレーキングを終えて、さ、今からバイクの旋回性に任せてグイッと向き変えするぞ! というタイミングで、どうも力を抜き切れない感覚が残るからだった。自分がヘンに力を入れてしまっているのか、あるいは着座位置が間違っているのか……それともまさかモタード的にスライド進入すべきなのか?? 色々試してみても正解が見いだせず、他の多くのジャーナリストが異口同音に書いてきたように「サーキットを走るようなツッコんだスポーツを楽しむなら、タイヤ交換やサスペンションのセットアップをした方がいいかもしれない」あるいは「一歩先のスポーツ性を求めるならSP一択!」などと書いてきたわけだ。
 しかし新型は違う。ポジションの変更、サス設定の変更により、一気に高いレベルのスポーツ性を獲得したのだ。いや、そういうと先代までがイマイチだった、というニュアンスになってしまうかもしれないが、少なくとも出荷時設定のままで、大多数のスポーツ好きライダーにとって、すぐに親しみやすくかつ、サーキット走行含めた「スポーツ」を楽しみやすい設定になっているのは間違いない。走り出してすぐに「全然違う!!」と感動し、そして数周のうちに肝心な場面でちゃんと力を抜いて、バイクが持っている旋回性を引き出す走りができてしまったのだ。これを「シンクロ」と呼んでいるわけだが、歴代MT-09でこのシンクロ率を感じたのは初めてのことであり、ゆえに「これ、欲しいなぁ!!」と思ったのである。

#yamaha MT-09

ツナギを着てくればよかった……

 試乗はあくまでサーキットだけではあったものの、この「力を抜くことができる」という感覚は本当に素晴らしかった。先代までは常にハンドルに一定のテンションをかけておかなければいけない感覚が残り、これがモタード的と言えば確かにそうなのかもしれないものの、特にペースが上がった時、もしくはリラックスして長距離を乗りたい時などはストレスや疲労に感じることも少なくなかった。
 対する新型はとにかくナチュラル。ググーッとブレーキングし(そしてこのブレーキがまた強烈に効く! サスが見直されたおかげでブレーキングのシャープさ、コントロール性もワンランク上がっているのだ)、じょじょに緩めながらバンク角を深めていった時のフロントの接地感が豊富で安心感が高い。バンク角が深くなりブレーキをリリースし切った時、フッと力を抜くとスルッと舵角がついてクルリと向き変えする。この一連の動きが極スムーズであり、すぐに加速体制に移行できるからコーナリングというプロセスが気持ち良くてしょうがない。
 試乗日はY-AMT仕様が主役だったため革ツナギではなかったのだが、早々に「ツナギ持ってくればよかった……!」と後悔。それでも新型MT-09のたまらない気持ち良さにどんどんとペースが上がってしまい、超上級者である同業者に「そんなペースで走るんならツナギ着ないとあぶねーぞ!」と注意されてしまったほど没頭してしまったのだった。
 大排気量のバイクで気軽にハイレベルなスポーツがしたいと思っているライダーには手放しでお薦めできる新型MT-09だが、さらには先代までのMT-09に乗ってきたライダーにも是非とも味わっていただき、脱皮した新世代MT-09に感動してほしいとも思った。

SP仕様の立ち位置とは

 新型のスタンダード版は先代のSPと同レベルに仕上がっていると感じたため、では新型のSPはいったいどういう味付けなの? という話になるだろう。内容としては先代同様にアジャスト幅が豊富になったサスペンションを備えることと、フロントブレーキキャリパーにブレンボを使っていること、そして新型ではスマートキーになるなど走りとは関係ないところで高級化したという面もある。なお価格はスタンダード版の125万4000円に対して144万1000円だ。
 走り出すと、先代同様に「これが普通のロードスポーツだよな」という感覚。MT-09のモタード的感覚はなく落ち着いている……のだが、ここまで書いてきたように24年型からはスタンダード版もそういう味付けのため、違いはそこまで大きくない。
 どんどんとペースを上げていくと、不思議とスタンダード版よりも重心が低く、車体も長く感じ、このせいか重くも感じられた。「重く」というとマイナスなイメージだが、それは重ったるいということではなく、安定しているという類のものだ。路面にしっかりとくっついていて、ちょっとやそっとの外乱ではビクともしないぞ、と感じさせる。
 ブレーキは良く効くし、コーナリングも極素直。ただ、試乗コースの袖ヶ浦フォレストレースウェイにおいてはスタンダード版に対しての優位性はすぐに見いだせるほど大きくはなかった。これまではスタンダード版とSPでは「SPの方が全然いい! 雲泥の差!」と感動し、SPを知ってしまったらスタンダード版のサスペンションは廉価版に感じてしまうほどだったが、24年型においてはそんな差は感じられない。あえて言うならば、高速コーナーでの安定感ではSPのしっかり感が優位に働き、より速度を乗せられる感覚がなくはなかったが、逆に低速コーナーや切り返しの場面ではスタンダード版のサスの方が動きを掴みやすく、車体の姿勢の把握がしやすいような面もあった。
 こう考えると、やはり24年型はスタンダード版がかつてのSPの立ち位置に近づいたと言えるだろう。サスやブレーキの設定はSPに譲るものの、サスセッティングが大幅に変わったことで乗り味自体はSPに近づいているし、ブレーキング性能も遜色のないレベルにあると感じた。先代までは「場面に関わらず元気にコーナリングを楽しみたい人はSPを」という感覚だったが、24年型では「ある程度大きなサイズのサーキットを、しっかりタイムを追求して走るならSPを」という感覚にかわったと思う。
 また高級ブレーキやサスのルックスに加え、スマートキーやサーキットモードも備える電子制御系といった装備も所有欲を満たす要素のため、せっかくなら最上級を、という人にも勧めたい。ただこと「走り」という意味では、先代よりもスタンダード版とSPの差は確実に少なくなっている。

#yamaha MT-09
SP仕様はフロントフォークが左右独立して圧側、伸び側の減衰力調整機能を持ち、またオーリンズへとアップグレードされたリアはスタンダード版にはない圧側の減衰力調整機能も備える。またリモートアジャスターが追加されているのも魅力だろう。そのサスペンションの出荷時設定はスタンダード版よりもしっとりとしたものであり、走り出しはその安定感がわずかに重くも感じるかもしれない。高速コーナーでは優位さが出るかもしれないし、そしてもちろん、調整幅の豊富さという意味ではサーキットでタイムを追求するには心強い。ただ24年型においては足周りの味付けそのものはスタンダード版と大きく変わらないため、付加価値としてスマートキーシステムや走行モードに「トラック」を追加したりしたという面もあるように思える。

結局「欲しい!」のだ

 MT-09が世に出て10年。世界中でファンを集め、ヤマハラインナップの中核を担うほどの存在へと成長したこのモデルは、10年の節目でガラリと性格を変えて、いい意味で「普通のバイク」になった。そのぶん個性が薄まったという見方もできるかもしれないが、しかし今や兄弟車でXSRやXSR-GPというさらに個性派モデルもラインナップされたことを思えば、本家MT-09が王道ロードスポーツの道を選んだのは正しい選択に思う。
「普通のバイク」と書いてしまうと魅力がないかのような印象もあるかもしれないが、そうではなく「正当な進化をした」と理解していただきたい。筆者としては初めて高いシンクロを得ることができた24年型MT-09は、筆者だけではなくより多くのライダーにとって接しやすく、楽しく、高いレベルのスポーツを味わわせてくれ、さらに言えば安全にも感じるはずだ。
(試乗・文:ノア セレン、撮影:松川 忍)

#yamaha MT-09

#yamaha MT-09
#yamaha MT-09
車体の性格付けに加え、ライディングポジションの変更にも合わせ、フロントフォークはバネレートが上げられ減衰力も変更された。ブレーキキャリパーはSPのブレンボ・スタイルマと比べてしまっては既視感があるが、その効力には一点の注文もなく非常に使いやすい。タイヤはブリヂストンのS23を標準装備する(写真はY-AMT仕様車だが、足周りはスタンダード版と共通だ)。

#yamaha MT-09
リアはリンク比など含めて大幅に設定を変更。フロントほど先代との差を感じることはなかったものの、フルバンクからアクセルを開けていった時の踏ん張り感、グリップ感などは極上でこちらも注文は全くなかった。調整幅はSPと比べれば限定的とはいえ、プリロード7段と伸び側減衰2.5回転分を確保している。なおXSRやGPと比べスイングアームが短いMT-09はとてもコンパクトで活発に感じる(こちらも写真はY-AMT仕様)。
#yamaha MT-09
SP仕様とY-AMT仕様はスマートキーシステムを採用する。四輪などでスマートキーに慣れている人は利便性が高まるだろうし、より高級車感も楽しめるだろう。ただシートの取り外しとヘルメットホルダーにはメカニカルキーを使う必要がある(写真はY-AMT仕様)。

 今回の試乗はY-AMT仕様の発表試乗会と合わせて行ったもの。MT-09の最新3機種を乗り比べられるという贅沢な一日だった。そんな中で、ヤマハのモノづくりをアピールするコーナーもあったため紹介しよう。
 ヤマハは他社に比べ多くの製造工程を社内で行う傾向があるのだが、今回はフレームの製造、タンクの製造、またスピンフォージドホイールについて現場のスタッフが来て下さっていたのだ。これらスタッフは決して外注ではなく、誇らしく「YAMAHA」のポロシャツを着ていたのだった。

#yamaha MT-09
24年型のMT-09はタンク形状が大きく変わっている。これまでシュラウド部分はタンクに樹脂製のカバーがかぶせてあったのだが、新型では全てが金属のタンクの一部。かなり複雑な形状をしているのだ。これを実現するのが、「高意匠成形」技術。これは、今までは一回の入力でプレスをしていたのに対し、今は金属の限界を感知しながら3回に分けて段階的にプレスすることで、より複雑であったり鋭角であったりという形状も実現している。
ましてや今回のタンクはハンドルが下がったことにより高さを30mmダウンしなければならず、ハンドル切れ角も先代の28度から32度へと増やすという使命もあった。それを実現しながらタンク容量は減らすわけにはいかないという難しさがあるわけだ。
なお、プレスされたタンクの各部品を溶接してタンクのカタチにするのは今でも人の手。ミシンのような溶接機にスイスイとタンクの各部品と通しながら瞬時に形を作っていく職人の技が光る。ちなみにこれだけ横に張り出したタンク形状でありながら、ヤマハ社内の「立ちゴケ基準」はしっかりクリアしており、立ちゴケ程度ではタンクにキズがつかないことになっている。

#yamaha MT-09
アルミの鋳造技術はヤマハの得意とするところ。MT-09のフレームは2つの鋳造されたアルミ部品を左右で締結したものであり、当時は画期的で注目を集めた。新型では徹底した軽量化を追求し、フレームの最も薄い部分ではなんと1.7mm(100円玉ぐらいの厚み)しかない。この薄さを実現する金型にアルミを流し込むのだからその裏にはとんでもない技術があるのは容易に想像できる。
流し込むアルミの温度は700℃。ゆっくり流し込んでいたのでは途中で温度が下がり、細かい部分まで流し込めないだけではなく、流し込めた部分にも「巣」ができてしまうことが多い。それが起きないように高速でアルミを流し込むのが、ヤマハお得意の「CFアルミダイキャスト」。MT-09のフレームを作るには、金型もあらかじめ温めておき、しかも金型を真空にした上で、高圧のアルミを一気に流し込む。その時間僅か0.05秒! 今回導入した最新型の高圧鋳造機械だからこそ実現できたそうだが、こういった機械も開発&導入していくところにヤマハの凄さを感じる。

YAMAHA MT-09 / MT-O0 SP Specification
■エンジン種類:水冷4ストローク直列3気筒DOHC4バルブ ■総排気量:888cm3 ■ボア×ストローク:78.0×62.0mm ■最出力:88kW(120PS)/10,000rpm ■最大トルク:93N-m(9.5kgf-m)/7,000 rpm ■全長×全幅×全高:2,090×820×1,145mm ■軸間距離:1,430mm ■シート髙:825mm ■車両重量:193[194]kg ■燃料タンク容量:14L ■変速機形式:常時噛合式6段リターン ■タイヤサイズ前・後:120/70ZR 17M/C・180/55ZR 17M/C ■ブレーキ(前・後):油圧式ダブルディスク・油圧式シングルディスク ■車体色:ブルー、ダークグレー、シルバー、マットダークグレー ■メーカー希望小売価格(消費税込み):1,254,000円 [1,441,000円] ※[ ]はSP

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2024/11/13掲載