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●文:西村 章 ●写真:MotoGP.com/Pramac Racing/Ducati/VR46/GASGAS/Pirelli

 みなさん、ナシゴレン食べてますか。サテ食べてますか。美味しいですよね。やはり食べ物はアジアに限りますね。というわけでグランプリシーズンは欧州から一気に東へ飛んでフライアウェイシリーズ、第15戦インドネシアGPであります。舞台はロンボク島マンダリカサーキット。

 2年連続王者のペコ・バニャイア(Ducati Lenovo Team)と、同じドゥカティ陣営で同じ最新鋭マシンGP24を駆るホルヘ・マルティン(Prima Pramac Racing)のタイトル争いは、前戦イタリア・ミザノのエミリアロマーニャGPで土曜スプリントにバニャイアが勝利したものの、日曜の決勝レースでは転倒リタイア。一方のマルティンは両レースとも2位で、ふたりのポイント差は24に広がった……という、ここまでが前回のあらすじ。

 で、この週末は土曜午前の予選Q2を終えてマルティンがポールポジション、バニャイアは2列目4番グリッドからのスタート。午後のスプリントはマルティンがホールショットで、序盤から快調に飛ばしてきたかと思ったら、なんとオープニングラップの16コーナーで転倒。これで先頭に立ったバニャイアが最後までトップを維持してゴールし、1等賞で12ポイント加算。24ポイントあった両者の差は、これで12に縮まった。

「なぜ転倒したのかよくわからない。調べてみても万事すべて普通だった。なにかを変更しなきゃいけないのは明らかで、もう少し細かく(データを)見て理解を進め、明日は同じミスを繰り返さないようにしたい」

 というのは、スプリントを終えたときのマルティンの弁。まあ、予想どおりのコメントというか、こういう転倒だとこういうことを言うだろうなあ、という域を出るものではない。

 一方のバニャイアはレース後の囲み取材で、意義の大きな勝利でしたね、と問われると、

「うん、まあそうだけど、明日の午後まであれこれいうのは控えておきたい。というのも、今年はどうも、過失のチャンピオンシップ、という感もあるから」

 と、自らの過去のパフォーマンスを省みるように述べた。

 じっさい、今シーズンの両者の争いは、片方がやや情勢を有利に進めているように見えると、その矢先に転倒などでポイントを取り損ねてふたたびイーブンのような状況に戻してしまう、ということが何度か見られた。「過失のチャンピオンシップ」とはまさにそのとおりで、勝利の女神の天秤ばかりが左右に振れる……、というよりもむしろ、綱引きで踏ん張ろうと思ったら足が滑ってまた引き戻される、というようなシーズン展開が続いているわけだ。

インドネシアGP
以下、写真をクリックすると大きく、または違う写真を見ることができます。

 さて、土曜スプリントをノーポイントで終えてしまったマルティンだが、日曜の決勝レースは終始安定した走りで優勝。25ポイントを加算した。

「今日はリベンジを果たした気分だ」

 というのがレースを終えた第一声。

「昨日の転倒もそうだけれども、去年も転倒しているので本当に厳しいレースだった。精神的には複雑で、13周目には去年のレースの幽霊を見たような気持ちになった。それをやりすごしてからは、万事うまく行くようになった。最終手前の16コーナー(前日のスプリントで転倒した場所)は、立ち上がりでもしっかりとラインを締めて昨日と同じミスを繰り返さないようにうまく走ろうと心がけ、本当に気を配った。ミスを改善できたことがうれしいし、この勢いを維持していきたい。

 どの週末もレースは毎回異なるものだけれども、今週はちょっと自信過剰気味だったのかもしれない。自分は本当に強いし万事順調だと感じていたので、その自信過剰がミスにつながったのだろう。もっと注意深くするべきだし、今後に向けて気持ちを引き締めたい」

#89
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 この決勝レースでのバニャイアは、土曜のスプリントでうまくスタートを決めたのとは対照的に、少し出遅れて、後方から表彰台圏内を目指して追い上げるレース展開になった。前をゆくマルコ・ベツェッキ(Pertamina Enduro VR46 Racing Team)やフランコ・モルビデッリ(Prima Pramac Racing)という同じドゥカティ陣営のライダーを着実にオーバーテイクし、最後は3位でゴール。

「昨日と同じようなスタートをしようと思ったけれども、クラッチの反応が違っていて、少しウィリーしてスピンしはじめた。そんなに順位を下げたわけではないけれども、スタート後の1周目はちょっと慎重に行ったので、ポジションをいくつか落とした。それを挽回するのに少し苦労した。数周してからのペースはかなり速く走ることができて、自分の最速ラップはベズのタイムにかなり近かったと思う(※バニャイアのベストタイムは1’30.542、ベツェッキは1’30.697)。

 非常に力強いペースで走れたとはいえ、前のライダーたちを抜くのは容易ではなく、ベズをオーバーテイクするのにも10周くらいかかった。ベズはトラクションが良かったので、かなり厳しかった。ベズを抜いた後、フランキーは自分と同じバイク(GP24)だからどうすればいいかわかっていたので、仕掛けやすかった。今日のレースではポイントをしっかり稼げたので、上々だった」

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#72
#21

 この結果、土曜午後に12ポイントに縮まった両者の差は、再び9ポイント分の差がさらに開いて21になった。

 ちなみに、バニャイアの前で2位に入ったのは、ご存じ北島マヤことペドロ・アコスタ(Red Bull GASGAS Tech3/KTM)。

 ご存じの方も多いと思うが、ゴール直後にアコスタに対してタイヤ内圧規定違反の審議がかかり、この2位という結果はあくまで暫定的なものとして扱われた。それに対する本人のコメントは以下のとおり。

「結論がハッキリするまでは、気に病んでみてもしかたない。もちろんホッとするかもしれないし、結果にがっかりするかもしれない。今は何も思い悩まないのが最良の方法」

#31
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 表彰式と公式記者会見を終えた約3時間後に処分なし(リムからの空気漏れと判明したため)と発表された。なお、同時に審議対象となっていた中上貴晶は、いったんはペンディングのような措置が取られたものの、さらにその後に16秒のタイムペナルティ(IDEMITSU Honda LCR)が発表された。

 というわけで、今週末はいよいよ皆様お待ちかねの日本GP。ときに、東日本の太平洋側を台風17号が周の半ば頃にかすめてゆき、18号も台湾から琉球南西諸島へ向かってゆくという予測もあるようだが、おそらくレースの週末進行を左右するようなものにはならなさそうで、現状ではさほど心配する必要はないようだ。ちなみに、タイトルを争うマルティンとバニャイアは、気象情報についてこんなふうに述べている。

「天気予報を見るのは、木曜まで待つ。この季節、ここ(インドネシア)以外はどこも雨の予報になるけれど、じっさいには降ったためしがない。だから木曜まで見ない。雨が降ればコンディションは非常に厳しくなるだろうけれども。チャンピオンシップを争う身なので、緊張感とプレッシャーはさらに高まる。去年は雨だったけれども、そんなに大きな問題ではなかった。もてぎは雨が降ってもグリップがいいから大丈夫だろう。時間が経てばきっと天気予報もいい方向になってくると思う」(マルティン)

「この月曜の朝に予報をチェックしたときは毎日大雨という予報だったけれども、結局まったく降らなかった。日本では例によって台風がふたつ発生しているみたいだけれども、週末まで様子を見た方がいいと思う。いずれにせよ、去年のもてぎは雨のレースで、1位(マルティン)と2位(バニャイア)だった。今年は21ポイント差があるので、ホルヘはちょっとリラックスして臨めるだろうけれども、タイトル争いは緊迫しているし、計算上でもまだどちらに転ぶ可能性もあると思う」

 このふたりのチャンピオン争いもさることながら、やはり日本のファンが気になるのは、Moto2クラスのタイトル争いでありましょう。今回のインドネシアGPでは、小椋藍(MT Helmets-MSI)が2位でゴールした一方、ランキング2番手のチームメイト、セルジオ・ガルシアは転倒で終わったため、両者のポイント差は42になった。ちなみにランキング3番手は今回優勝のアロン・カネット(Fantic Racing)で小椋からは52ポイント背後。シーズンは残り5戦なので、計算上は彼にもまだチャンピオンの目がある。

#79
#インドネシアGP

 というわけで、今回はここまで。来週の今ごろは、果たしてどんな気分でモビリティリゾートもてぎの週末を振り返っているのでしょうか。ではでは。

(●文:西村 章 ●写真:MotoGP.com/Pramac Racing/Ducati/VR46/GASGAS/Pirelli)

クアルタラロ

#MotoGPでメシを喰う
【西村 章】
web Sportivaやmotorsport.com日本版、さらにはSLICK、motomatters.comなど海外誌にもMotoGP関連記事を寄稿する他、書籍やDVD字幕などの訳も手掛けるジャーナリスト。「第17回 小学館ノンフィクション大賞優秀賞」「2011年ミズノスポーツライター賞」優秀賞受賞。書き下ろしノンフィクション「再起せよースズキMotoGPの一七五二日」と「MotoGP 最速ライダーの肖像」、レーサーズ ノンフィクション第3巻となるインタビュー集「MotoGPでメシを喰う」、そして最新刊「スポーツウォッシング なぜ<勇気と感動>は利用されるのか」(集英社)は絶賛発売中!


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2024/09/30掲載