■試乗・文:毛野ブースカ
■撮影協力:玉井久義
■協力:ホンダモーターサイクルジャパン https://www.honda.co.jp/motor//
NX400のインプレの前に、なぜ私が400Xを選んだのかについて述べておきたい。400Xに乗るまでは250ccのオフ車しか乗ってこなかった。見た目が好きなのはもちろん荷物が載せられる、車体が軽くて取り回しやすい、燃費も含めて経済的なことからオフ車を選んできた。400Xに乗り換えるまでスズキのジェベル250XCに乗っていて、走行距離が10万キロを超えて乗り換えを検討していたところだった。そんな矢先に400Xの存在を知り、試乗してみたところパワーがあって高速走行が楽で、燃費はジェベル250XCよりも良く、さらに見た目もカッコいい。大型二輪免許を持たず、ロングツーリングやキャンプツーリングをする私にとってこれは最適なバイクだと思った。ただ購入するならオプションのリアキャリア付きがいいと思っていた。そんな矢先、純正のトップケースやパニアケースが付いた中古が見つかり即決。インプレから半年経たずに購入して今に至っている。
今年で購入してからちょうど9年が経過して7万キロを走行。青森県の下北半島の大間崎から山口県の角島大橋、関門海峡を渡り福岡県の太宰府天満宮まで行った。そんな初代400Xを乗ってきた私が感じた400Xのメリット・デメリットは以下の通りだ。
●メリット
・外観がカッコいい
・燃費がいい(街中でリッター約25㎞、郊外でリッター約30㎞)
・タンクの容量が17リットルある
・中低速で運転しやすい
・軽くて取り回しやすい
・足着きがいい
・ライディングポジションが楽
・今までトラブルらしいトラブルがない
●400Xデメリット
・思っていたよりもオンロード寄り(逆に言えば乗りやすい)
・整備性があまり良くない
・ハンドル周りにアクセサリーが付けにくい
・リアキャリアがオプション扱い
・メインスタンドがオプション扱い
あくまでも個人的な感想なので参考程度にしてほしいが、見ての通り私にとってはデメリットは少ない。ロングツーリングやキャンプツーリングを楽しむ方に400Xは最適だと私は思っている。
さて、前置きが長くなってしまったが、いよいよNX400のインプレである。今回は「400」という数値にちなんで往復400㎞の日帰りロングツーリングに出かけてみた。片道200㎞で目的地を考えた結果、中央自動車道を通って長野県松本市にある美ヶ原高原と、塩原市にある高ボッチ高原に行ってみることにした。高速道路はもちろん一般道やワインディングもあるでインプレにはちょうどいい。
午前7時00分に自宅を出発して調布ICから中央自動車道に入る。ここから諏訪ICまで高速道路を走る。400Xに比べて排気音が野太くワイルドになったことは前編で指摘したが、高速道路を加速するにつれてよりその印象を受ける。エンジンは同じだが、400Xの「シュイーン!」という鋭い加速音もいいが「ドドド、ブオーン!」というNX400の加速音もライダーをやる気にさせる。100㎞/hでの回転数は約5,000rpmと400Xとほぼ同じだ。高速域での安定性はオンロード寄りの400Xと変わらない。ウインドスクリーンの防風性能も高く、アップライトなポジションと相まって運転しやすい。快適、快適!
八王子ICを過ぎると小仏トンネルや談合坂SAに向けて勾配がきつくなってくる。小仏トンネルに差し掛かる手前の登坂車線でグイっとスロットルを開ける。400Xよりも前に押し出す力が強く「少しトルクがあがっているかな…」と感じた。続く談合坂SA前の長い登坂車線も野太い排気音を奏でながら難なく登っていく。笹子トンネルと勝沼ICを通過すると甲府盆地に入る。ここから韮崎IC付近までは平坦な道が続く。最初の休憩地である双葉SAに到着。ここまで走行距離は約110㎞。燃料ゲージは400X同様、約70㎞ごとに1目盛り減る(1目盛りで約2〜3リットル消費)仕組みなので、ここで給油の必要はない。
ちょっと腹ごしらえをして諏訪ICまで一気に走る。風光明媚な景色を横目で見ながら中央自動車道の標高最高地点に向けて登っていく。平日の午前中ということもあり交通量が少なく流れはスムーズ。この日の都心はすでに30度を超えていたが、標高が高くなるにつれて身体に当たる風が気持ちいい。登坂車線が連続してもちょっとスロットルを開ければ流れに乗り遅れることはない。リッターバイクならもっとパワフルに走るだろうが、私にとってはこれで十分過ぎる。
そうこうしているうちに高速下車地点である諏訪ICに到着。自宅を出発してから約2時間30分、すでに約170㎞を走破。燃料ゲージは2目盛り減っていた。ここからはライダーたちの人気スポットである県道460号線(ビーナスライン)を通って美ヶ原高原に向かう。ここからがNX400の本領発揮だ。諏訪ICから国道20号線を走り、下諏訪温泉、上諏訪温泉を通過して国道142号線に入る。ここから徐々に標高が上がっていく。交通量はそれほど多くはないものの流れが早く、4〜5速ホールドで進む。この日は和田峠に向かう新道が使えず、いったんトンネルを過ぎて旧道から向かうことになった。
和田峠に向けての旧道はやや道幅が狭くて勾配のある、ちょっと荒れた路面のあるワインディングが続く。このようなシチュエーションだと400Xでは気を使う瞬間があるのだが、NX400はフロントタイヤが19インチになったことで安定感が増している。ちょっとトルクがアップしていることも好影響を与えている。2019年式以降、アシストスリッパークラッチが採用されたことからスムーズにクラッチ操作でき、シフトチェンジを繰り返しても疲れにくくなっている。吹け上がる野太い排気音が耳に心地良い。
和田峠からは県道460号線(ビーナスライン)に入る。諏訪ICよりも気温がグッと低くなり、途中の温度計は22度と表示されていた。緩やかなワインディングが続き、諏訪ICから約1時間30分走って美ヶ原高原の道の駅に到着した。ここまでの走行距離は約220㎞。これで片道200km走ったことになる。平日にも関わらず多くのライダーが訪れていた。標高は2,000m、当日はやや雲が多かったものの、下界にある松本市まで見渡せて実に気持ち良かった。気温も低く、まさに酷暑逃れにピッタリだった。
ここでひと休みして次に向かったのは、松本市に向かう途中にある扉温泉の日帰り入浴施設「桧の湯」だ。ここで午前中の疲れを癒して昼食を摂ることにした。ビーナスラインをいったん戻り、扉温泉方面の県道67号線に進む。美ヶ原高原までは登りだったが今度は下り、しかも道幅が狭く路面は荒れている。こういう道は400Xで何度も通過しているが、いつも神経を使う。NX400は400Xの後継機種で、基本コンポーネンツは代々継承されているものの、中低速域でのトルク向上、19インチのフロントタイヤやリアサスペンションのストローク延長、さらにフロントフォークにSHOWA製SFF-BPを採用していることが好影響を与えている。よりオフ車寄りになったNX400のほうがこういったシチュエーションで実際に走ってみて安定感があるように感じた。
美ヶ原高原から約25㎞走って扉温泉「桧の湯」に到着した。日差しは強いものの気温は低く快適だ。扉温泉「桧の湯」は長野県松本市入山辺にある日帰り入浴施設だ。扉温泉には「明神館」という高級温泉宿があり、こちらは日帰り入浴はできない。周囲は静寂な森に囲まれておりちょっと秘湯感がある。入湯料は400円。内湯に加えて露天風呂があり、周囲の森を見ながらゆったりくつろげる。お湯は無色透明の単純泉で源泉かけ流し・加温なし。滑らかな肌触りは長湯したくなってしまう。ここまでの疲れが一気に癒される。
「桧の湯」の館内には休憩スペースはあるが食事処はなく、食事は隣接している「かけす食堂」で摂ることになる。数あるメニューの中から「ジンギスカン定食」(1,000円)をチョイス。肉と季節の野菜がバランスよく入っており、暑い中のスタミナメニューとしてアリだと思った。これ以外にも「牛すじと豚もつの食べ比べ定食」や「イワナ塩焼き定食」、そばやうどんもあるので、何度訪れても食べ飽きることがないだろう。
身体を癒しお腹を満たしたところで、松本市に向かって「松本城」を見学することにした。緩やかな下り坂を走り、市内に近づくにつれて気温がグングン上昇し、交通量と信号が多くなってストップ&ゴーを繰り返す。こんな時でも中低速でも扱いやすいエンジンやアシストスリッパークラッチ、アップライトなポジションのおかげで疲れない。扉温泉から約40分ほどで松本城まで到着した。姫路城や彦根城とともに国宝に指定されている松本城は現存する五重六階の天守としては日本最古のお城。お堀に囲まれた城郭は威風堂々としており、まさに映えるお城だ。アクセスしやすく駐車スペースが確保されているので、松本市を訪れたら是非立ち寄ってほしい。
松本城を見学し終えたところで時間は15時00分。出発点である諏訪ICに戻るまでまだ時間があるので、高ボッチ高原に行ってみることにした。実は当初、美ヶ原高原の前に高ボッチ高原に向かう予定だっただが、塩尻方面からアクセスする市道高ボッチ線(東山ルート)がちょうど通行止めの時期と重なってしまい、高ボッチ高原は行かないつもりだった。通行止めの東山ルートは比較的走りやすいが、以前松本市からのルートを走った時は入口が分かりにくく、かつ道路も狭く荒れていたので、あまり走りたくなかった。しかし、ここまで来たなら2つの高原をNX400なら制覇できる予感がした。気持ちを奮い立たせて松本市街から高ボッチ高原に向かうことにした。
松本市街から塩尻方面に向かい、複雑に入り組んだ道を進み、スマホを頼りにしつつも野生の勘で高ボッチ高原の入口を探す。正規ルートは東山ルートのためか標識には「高ボッチ高原」とは書かれていない。そうこうしているうちに松本方面からの入口である崖の湯温泉に到着、崖の湯温泉にひっそりと佇む標識をもとに高ボッチ高原へと進んだ。やはり道は狭くて荒れており、ところどころに岩や倒木が落ちている。こうなるとスピードは出せない。つづら折りの道を慎重に進んでいく。途中、15mくらい先に褐色の物体が現れたと思ったら大きな鹿だった。撮影しようかと思ったが、道を横切ってもの凄いスピードで山を登っていった。鹿ではなく熊だったらどうしようと一瞬思ってしまった。貴重な出会いを経た後、やがて視界が開けて道がなだらかになり、ついに高ボッチ高原の駐車場に到着した。ここまでの道を乗り切ったNX400と喜びを分かち合った。
塩尻市の東側に位置する標高1,655mの高ボッチ高原は『ゆるキャン△』『君の名は。』などの聖地として知られている。アルプス連峰が望める場所と諏訪湖や富士山が望める場所があり、午前中に訪れた美ヶ原高原とは違った景色が味わえる。何より、訪れる観光客が少ないので(高ボッチ高原までの道を通れば納得…)撮影には絶好の場所だ。さらにキャンプエリアもあるので、晴れていれば夜景や朝焼けが楽しめる。
高ボッチ高原で撮影を終えたところで時間は16時を過ぎていた。走行距離は約300㎞に達していた。燃料ゲージが減ってきているが、400Xの経験からするとまだ余裕があるはずだ。ここから来た道を戻り、諏訪湖のほとりにある千人風呂で有名な「片倉館」を目指す。本来なら東山ルートを進めば塩尻方面に出られるので時間がかなり短縮できるのだが、今回は仕方がない。山頂から先ほどの荒れた道を走って崖の湯温泉まで戻り、塩尻方面に進んで国道20号線に出て、国道20号線を諏訪市方面に向かう。諏訪市内に入ったところで諏訪湖に向かい、諏訪湖を右に見ながら下諏訪温泉方面に走っていくと目的地である「片倉館」が現れた。
「片倉館」は製糸業で財を成しシルクエンペラーと呼ばれた片倉財閥によって地域住民と厚生、社交の場として昭和3年に竣工された国指定の重要文化財である。名前だけを聞くと由緒正しい和風の温泉旅館を想像するが、実際には昭和初期に建造されたレトロな鉄筋2階建ての洋風建築の大浴場だ。実際の建物を見ると、この中に日帰り入浴施設があるとは思えない。入湯料は850円。この温泉の特徴である内風呂「千人風呂」とは実際に千人が入れるわけではなく、その大きさを表すために付けられた呼称だ。それでも100人が一度に入れる広さだという。下諏訪温泉は何度も訪れているが、片倉館に入るのは初めて。千人風呂は高い天井の浴室とあいまってとても広くて開放的。浴室内にはステンドグラスや彫刻、装飾がなされており不思議な空間だ。お湯は下諏訪温泉から引かれた単純泉で、湯温も適温で肌当たりがよく気持ちいい。下諏訪温泉に来たら入っておきたい。
大満足の片倉館から最後の目的地である諏訪市内の高台にある「立石公園」に向かう。ここは諏訪湖や下諏訪町が一望できて、信州サンセットポイント100選や新日本三大夜景・夜景百選にも選ばれている隠れた名所だ。時間は18時を過ぎたところ。今日は晴れているので夕日が見られるはずだ。片倉館から15分ほどで立石公園に到着。私が着いた時には人影はまばらだったが、撮影しているうちに人がどんどん増えてきた。湖面に映える夕日は美しく、ハードだった夏の一日が終わろうとしていた。毎年8月15日に開催されるこの地の名物である諏訪湖祭湖上花火大会ではこの公園に多くの方が訪れるのだろう。
立石公園で夕日を見たところで、時間は18時30分を過ぎていた。ここからは諏訪IC近くで夕飯を食べてから中央自動車道に乗り、自宅に帰るだけだ。立石公園を出発して、最後はそばを食べようと思い、諏訪IC近くにあるおそば屋さんに行ったところ、なんと休業の立て看板が出ていた。ネットで調べていったのに残念無念。ここから諏訪市内に戻るのは億劫なので、妥協して中央自動車道に乗って最初のPAである中央道 原PAで食べることに決めた。そばは次回ここに来た時にリベンジしよう。
ここまでの走行距離は約340㎞。その前に燃料ゲージがあと2目盛りだったので給油することにした。給油したところ10.95リットルしか減っていなかった。燃費はリッター31㎞を叩き出した。同じような走り方をした場合の400Xに比べてわずかに燃費がいい。ここから自宅までは約170㎞はあるので無給油とはいかないが、それに近いだけの燃費となった。カタログスペックでも燃費が向上しており、それが実走でも検証されたことになる。
燃料は満タンになったので、あとはライダーのお腹を満タンにするたけだ。諏訪ICから近い中央道 原PAに立ち寄り、松本市のご当地グルメである「山賊焼き定食」(850円)があることを発見し即決。実は昼食として松本市内で山賊焼きかそばを食べる予定だったが、スケジュールが合わないため見送った経緯があった。そんなこともあり想定外だったが、唐揚げ系が大好きな私にとって大満足だった。夜の中央自動車道を野太い排気音を奏でながら走り、自宅に到着したは22時手前、走行距離は約510㎞だった。自宅近くで給油したところ4.66リッター給油した。走行距離はちょうど170㎞だったのでリッター36㎞となった。アップダウンのある中央自動車道でこれはなかなかいい数値だ。
こうしてNX400を日帰りツーリングで約510㎞を走破してみた。初代から続く400Xのコンセプトが継承されているだけではなく、各所がアップデートされたことでより魅力が増していると感じた。前編を参考にしてもらえればわかるが、2022年式や2019年式の400XとNX400と外観の違い以外はそれほど大きくはない。しかし、キープコンセプトとはいえ私が所有している初代400Xとの違いは歴然。10年の進化を見せつけられた感じだ。乗り換えるに十分に値する。初代400X乗りとしては悩ましいところである。今回NX400に試乗して感じたこと、ホンダさんへのリクエストを箇条書きにしたので参考にしてほしい。
●NX400に乗った感想:Good
・排気音が400Xよりワイルドで鼓動感に溢れている
・メーターが見やすい、視線移動が少ない(ポジションが前にあるため)
・ヘッドランプが明るい
・クラッチがスムーズで抵抗感が少ない
・燃費が向上している
・メーター上のアクセサリーバーが便利
・キーが400Xより差しやすい
・シートが座りやすくなった
●NX400に乗った感想:Bad
・背景色を自動調整モードにした場合、夜間(特に街中)を走行中、頻繁にメーターの背景の明るさが変わる
・メーター内の情報を操作するのに説明書を読んでも分かりにくい
・個人的には燃料タンクキャップが使いにくい
・荷物が載せにくい
●ホンダさんに次期NX400でリクエストするなら…
リアキャリアの標準装備 →特にこれ
メインスタンドの標準装備
アクセサリーソケットの標準装備
NX400は非常に魅力的である。しかし初代400Xもまだまだ魅力的。でも次に乗り換えるならNX400かな…。
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