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試乗・解説

ノアセレンがチョイス 2024注目の外車、ちょっと味見その⑤  Aprilia TUONO660 Factory
ミドルクラスのモデルは国内外に多々あれど、TUONOはその中でもバーハンドルという接しやすさながらスポーティな実力を持った魅力的なパッケージ。そのTUONO660をスタンダードの95馬力から100馬力にアップさせたのが「ファクトリー」だ。
■試乗・文:ノア セレン ■撮影:渕本智信 ■協力:aprilia https://www.aprilia.com/jp_JA/ ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、Alpinestars https://www.okada-ridemoto.com/brand/Alpinestars/




バーハンドルなのに「ファクトリー」?

 各メーカー共に、あるモデルの上級版として「R」だとか「S」だとか、何かしらそういうモデルをラインナップすることが少なくないが、アプリリアではそんな上級版は「ファクトリー」。しかしそれはセパハンの頂点モデルだけではなく、アップハンのTUONOシリーズにも展開される。1100ccの兄弟車種、TUONO1100にも「ファクトリー」仕様があり、これらはただ高級パーツが奢られるだとかそういったシンプルなものではなく、しっかりとスポーツパフォーマンスを追求した仕様なのである。
 ファクトリーの名は伊達ではなく、スタンダードのTUONO660に対し、マルチマップコーナリングABSや、トラコン、ウイリーコントロール、クルーズコントロール、クイックシフト、エンジンブレーキコントロール、エンジンマップ制御など、アプリリア自慢の電子制御APRCのフルパッケージを搭載。また前後サスペンションもフルアジャスタブルになるなど、その価格差以上の充実度合いと言えるだろう。
 もう少しわかりやすい所では、リアスプロケットの丁数が1丁増やされ加速重視となっていること。特にスポーツ走行を楽しむ場面では瞬発力が楽しめることだろう。
 

 

「ワンランク上」の作りと走り

 そもそも「ファクトリー」仕様ではないTUONO660も非常に魅力的な乗り物だ。こういったミドルクラスは普及版という宿命を背負わされているため、ある程度リーズナブルな価格帯に設定されることも多い。ゆえに本当のパフォーマンスという意味では頂点モデルほど追求してはおらず、付き合いやすさなど実用面を重視する傾向もある。
 しかしTUONOはそんな中でもパフォーマンスに振った設定だ。価格もライバルに対して安くはないのだが、それだけの内容となっているのが人気の要因だろう。他社でも多く採用する270°パラツインではあるもののそのユニットは個性的でハイパフォーマンス。車体もライバルの中では比較的高荷重設定で、良いタイヤを履けばそのままでもサーキットで高い実力を示す。ましてやこのファクトリー仕様となればベテランも納得だろう。
 かつてアプリリアの関係者がポロリと言っているのを漏れ聞いたことがある。「RS660とTUONO660は、かつてトライアンフがデイトナ675で獲得していったお客さんに刺さると良いですね」と。デイトナ675は確かに、普及版の優しいバイクというわけではなく、ちゃんと「スーパースポーツ」だった。それでいて3気筒エンジンの懐の深さから多くのライダーをひきつけたバイクだ。今、TUONOと比べるとなるほどコンセプトが似ている。ミドルクラスでありながら、妥協がない。
 

 

味見では済まない「その先」に

 このファクトリー仕様を乗っての感想は、今回の味見試乗ではそんなにスタンダード仕様との違いは感じられなかった。言われてみればスタンダードに比べるとピックアップが鋭い気がするが、そもそも(選択するモードによっては)かなり活発な性格となるエンジンゆえ、「ファクトリーだから」という明確な違いは察知しにくい。
 バーハンドルとはいえそれなりに前傾姿勢があり、そしてシートは高めでいかにもスポーツバイク然としたポジションからは、ついつい気持ちも入ってしまい元気にアクセルを開けてしまう。エンジンはパワーバンドに入っていくとパラツインの振動が薄れ、怒涛の高回転域へと突入。しかもこのパワーバンドがかなり広く、各ギアで引っ張っているうちにびっくりするほど速度が出てしまう。これなら1100の方は不要では? と思えてしまうほどだ。
 スタンダードの方はサーキットでも走り込んだことがあるが、素晴らしい体験だった。RS660と同レベルに、そしてライバルに対しては明らかによりスポーツにフォーカスしたその走りは最高に楽しく、しかも走行中でもトラコンの設定を簡単に変えたりすることもできるなど攻め込んだ走りにどこまでも付き合ってくれる。さらに充実の電子制御とフルアジャスタブルのサスペンションを持つファクトリーならば、さらに次のレベルも楽しませてくれることだろう。
 

 

ツーリングならSTD 走行会も走るならファクトリー

 スタンダード版もとても魅力的なだけに、今回の味見試乗だけではファクトリーしか持たない本当の旨みは感じられなかったのが正直なところ。スタンダードとの本格的な違いはしっかりと攻め込んでこそ、あるいはラップタイムを計測してこそ、数値として現れるものかもしれない。
 逆に言えば、ファイナルが若干ロングなスタンダードモデルの方が公道での走行やツーリングには向いているとも言えるかもしれない。しかし正直なところ、どちらもとても魅力的なことにかわりはない。バイクの楽しみ方にサーキット走行が含まれる人ならば、ファクトリーを選んで間違いはないだろう。
 バーハンドルで付き合いやすい構成をしているのに、妥協なきスポーツ性能も有しているのがTUONOの魅力。それはスタンダードもファクトリーも同様であり、スポーツ好きライダーからすれば一度乗れば虜になる魅力がある。
(試乗:ノア セレン、撮影:渕本智信)
 

ライダーの身長は185cm。写真の上でクリックすると両足着き時の状態が見られます。

 

1100cc版のフロント2気筒だけを使った、と書いてしまうと乱暴だが、おおざっぱにはそういった成り立ちの660ユニット。270°クランクのパラツインは今や各社ともやっている形式ではあるものの、高回転に移行するにつれて振動が減り強力なパワーバンドがあるその性格は他社とは明確に違うもの。ファクトリー仕様では出力も5馬力向上し100馬力に届いている。エキパイの太さがそのパフォーマンスを物語るようだが、それでいて排気音は意外なほど静か。

 

φ320mmの大径ダブルディスクにブレンボキャリパー、そしてファクトリー仕様ではフルアジャスタブルの倒立フォークと、その内容はリッタークラス同様の充実度合い。
腹下にスマートに納められた排気系を避けるようにガルアーム形状となっているスイングアーム。ホイールは5.5インチ幅で180サイズのディアブロロッソ4が標準装備される。ファクトリーはリアサスもサブタンク付きのフルアジャスタブルを装備。

 
 

バーハンドルがTUONOの特徴。初代TUONOはセパハンのSSモデルをアップハンにしただけ!という潔さでストリートファイター黎明期を切り開いてきたという歴史がある。充実のAPRC電子制御はわかりやすくかつボタン類の操作も明快。走行中にもトラコンのセッティングを変えていけるなど、それら電子制御を積極的に使うようなシステムになっているのが素晴らしい。
ブラックのカラーリングはFACTORYと書いてあるが、こちら赤いグラフィックが入る「TOO FAST」カラーはスタンダードとあまり見分けがつかないのが難点(?)か。1100シリーズと共通のDRL付ヘッドライト周りは近年のアプリリアのトレンドだ。

 

シート高は820mmだが、車体のスリムさやサスペンションの初期作動の良さからか足つきは良好。高いスポーツ性と十分なバンク角を持つもののステップ位置は極端に後方といったことはなく、バーハンドルとの位置関係は良好でツーリングでも十分に使えるだろう。シートもスポーツ性と快適性の良きバランスを実現している。その快適なポジションながら常に軽快に感じるのは1370mmという短めのホイールベースが効いているだろう。

 

apriliaRS660 主要諸元
■エンジン種類:水冷4ストローク並列2気筒DOHC4バルブ ■総排気量:659cm3 ■ボア×ストローク:81.0×63.9mm ■圧縮比:13.5 ■最高出力:73.5kw(100PS)/10,500rpm ■最大トルク:67.0N・m(6.83kgf・m)/8,500rpm ■全長×全幅×全高:1,995×805×-mm ■ホイールベース:1,370mm ■シート高:820mm ■車両重量:181kg ■燃料タンク容量:15L ■変速機形式:6段リターン ■タイヤ(前・後):120/70ZR 17・180/55ZR 17 ■ブレーキ(前/後):ダブルディスク/シングルディスク ■懸架方式(前・後):テレスコピック式(倒立)・スイングアーム式 ■車体色:ファクトリーダーク、トゥーファースト ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):1,562,000円

 



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2024/07/05掲載