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●文:西村 章 ●写真:MotoGP.com/Yamaha/Honda/Pramac Racing/Gresini Racing/Ducati

 大勢の観戦客が詰めかけた第5戦フランスGP。昨年は総計27万8805人で新記録を更新して大いに話題になったが、今年の発表ではさらにそれを上回る29万7471人(プレウィークエンド:86,323、土92,003、日:119,145)、ということである。たしかに人がわっさわっさいたのは事実としても、前戦ヘレスの動員数がデタラメだったことが発表翌日に判明したりもしたので、この数字はまあ、「とにかくやたらたくさんの人が見にきた」という程度の参考に留めておくのがよいのかもしれませぬね。ちなみに、このルマン以前の動員記録はというと2015年のブルノ(248,434人)、その前は2007年のこれまたブルノ(245,039人)。たしかに当時のブルノは、汲めども汲めども尽きせぬ泉のようにどこからでも人が湧いて出てきた印象がある。

#第5戦 フランスGP

 で、それはともかくとして2024年のレースウィークはどんなふうだったのかというと、やはり今回も当然のようにドゥカティ勢優勢で推移していったのは皆様ご存じのとおり。

 フランスGPといえば、2021年チャンピオンのファビオ・クアルタラロ(Monster Energy Yamaha MotoGP)とヨハン・ザルコ(CASTROL Honda LCR)という実力者2名のホームGPである。とはいえ、マシン側戦闘力の課題などがあって、両選手ともに精彩を欠いた週末にならざるをえなかった。スプリントはクアルタラロ10位、ザルコ13位、決勝レースではクアルタラロが転倒リタイア、ザルコが12位完走。それでもホンダ勢では最上位で、4ポイント獲得、というリザルトに終わっている。両選手とも不本意な結果だっただろうが、現状のマシンポテンシャルを考えれば、最大限に健闘したのであろうことは疑う余地がない。

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※以下、写真をクリックすると大きく、または違う写真を見ることができます。

 それにしてもここ最近は、ホンダ勢もヤマハ勢も、レース中の国際映像でライダーの戦う姿が映し出されることはほとんどなく(あったとしても転倒のリプレイくらいか)、バトルの行方をヤキモキした様子で見守るスタッフたちのピット風景やピットレーンキャノピー映像なども、しばらくとんと見た憶えがない。トップ争いや中段グループのバトルに加わることもないのだから、映像が映し出されないのも当然といえば当然なのだろうが、下位に低迷する、というのはまさしくこういうことなのだなあ……という寂しさを感じずにはいられない。

 昨年は、ホンダヤマハともに苦戦続きの昨今でも希なほどの超低迷、という事実が周囲の関心を集めて、「どうしてこんな状態になってしまったのか……」とそれなりに話題にもなった。だが、今年になって「案の定……」という状態の不振が続くと、もはや話題そのものが枯渇するような状況になってしまっている。

 まさに〈病膏肓に入る〉という状態だが、ことここに至るとチームやメーカー開発関係者はもちろん、誰よりも辛くてしかたないのはレースを戦うライダーたち自身だ。

 かつては当たり前のようにトップ争いをしていた陣営・ライダーが、いまでは最後尾あたりを低迷せざるをえない現状と向き合う厳しさについて、走行が始まる前の木曜にジョアン・ミル(Repsol Honda Team)が述べたことばがあるので、それを少し紹介しておこう。

#42
#ジョアン・ミル

「自分自身のことについて言えば、過去5年(正確には7年)で3つのカテゴリーを戦ってタイトルをふたつ獲ってきた(2017年:Moto3、2020年:MotoGP)。つまり、ぼくはいつも上位をずっと争ってきたわけで、悪いシーズンでも5位争いくらいだった。好結果を得たいというモチベーションで戦い、しかるべくして結果を引き寄せてきた。

 今はそのような機会はもはやありえない。だから、違った風に自分を駆り立てていかなければならない。正直なところ、小さなコト、現状のパッケージでいいレースをする、という以上のことはできないし、そこに全力を傾注する。今はそこにモチベーションを見いださなければいけない状態だ。

 それはもちろん、苛酷だよ。過去に成功を収めた経験があればなおさら、この状況は納得できない。去年は精神的にとても辛い一年だった。でも、今年はまた違った向き合い方で臨んでいるつもりだ。プロフェッショナルとして全力を発揮し、正確なフィードバックを心がけて、改善していくことに望みを繋ぐ。戦闘力の高いモノを持ってくる務めがあるのは、彼ら(ホンダ側)なのだから」

 ミルのこのことばは、おそらく彼以外のホンダ勢3名とヤマハ2名の心情も代弁しているといっていいだろう。両陣営とも避けたいのは、現在の勝てない状態、低位をウロウロしているうちにレースウィーク3日間の日程が終わってしまうというありさまに慣れてしまうことだ。厳しい戦いであることは外野にも充分に推測できるけれども、そもそも不可能事を可能にするのがチャンピオンシップの争いというものだろうから、本田技研工業とヤマハ発動機には21世紀の序盤1/5ほどの期間を牽引してきた意地と覇気を何らかの形で見せていただきたいものである。とはいえ、欧州勢、なかんずくドゥカティが圧倒的な強さを発揮している現状では、浮上のきっかけをつかむことは、はなはだ至難の業ではありましょうけれども。

 というわけで、今回のレースも例によってドゥカティが圧倒的な強さを見せたわけで、土曜スプリントはホルヘ・マルティン(Prima Pramac Racing/Ducati)が1等賞、2等賞がマルク・マルケス(Gresini Racing MotoGP/Ducati)で、3等賞はマーヴェリック・ヴィニャーレス(Aprilia Racing)という結果。

#FranceGP
#表彰台

 マルティンはここまでのスプリント5戦中3勝。マルケスは前回に続きスプリント連続2等賞。ドゥカティファクトリー(Ducati Lenovo Team)はエネア・バスティアニーニが10番グリッドから追い上げて4位でゴールしたものの、ペコ・バニャイアは2番グリッドスタートながら、クラッチ周りなどに何らかの機構的問題らしき事象が発生していた様子で、スタートから大きく下方へ順位を落とし、3周走っただけでピットへ戻ってリタイアしてしまった。

 しかし、翌日の日曜に向けてこの不安要素はしっかりと潰しこんできたようで、午後2時にスタートした全27周の決勝では序盤からトップを順調に走行し続けた。レースは序盤からトップを走行するバニャイアにごく僅差でマルティンが続く、という状況が続いたが、終盤1/3ほどになるとマルティンが仕掛けて前に出た。後方のマルケスも接近してきて、最後はマルティン、マルケス、バニャイアの順でゴール。

 レース戦略全体も仕掛けどころも狙いどおりに決まった、とマルティンはレース後に振り返っている。

「スタートは最高に決まったわけではなかったけれども、ペコの後ろにつけているのはいい作戦だと思った。彼の様子を伺いながら周回数を重ねていってタイヤの空気圧もうまく維持するよう心がけた。今日のような冷えたコンディションだと、ペコの空気圧は落ちてくるかもしれないし。なので、彼の後ろで自信を持って走りながら残り7~8周になったところで、ここが仕掛けどきだと思って勝負した。最初に仕掛けたときはうまくいかず少しはらんでしまい、ペコにやりかえされてしまった。2回目は完璧で、ブレーキで少しがんばった。ほぼ限界だったけれども、うまく勝負を仕掛けることができたのでとてもうれしい。最後の5周はとても長く感じた」

#FranceGP
#DUCATI

 マルケスは前述のとおり土日連続の2位で、しかも2戦連続の決勝レース2位表彰台。マシンへの順応はすでに終わったと前戦でも述べていたことだし、さらにこの高リザルトを見れば、往年の超人的高水準にはほぼ到達しつつあると見てよさそうだ。チャンピオンを獲らなければならないプレッシャーがない分だけ、精神的にもリラックスして戦えるだろうから、他の選手たちにとってはますます厄介な存在になっていきそうだ。

 余談ながら、マルケスが今シーズン所属しているグレシーニ・レーシングは、今回のMotoGPクラス決勝で1000レース目の節目を迎えた。内訳は最高峰クラスが449(500cc:29、MotoGP:420)、中排気量は320(250cc:64、Moto2:256)、Moto3が177、MotoE54、という内訳である。最初のレースは1997年の500ccクラス。ライダーはアレッシャンドレ・バロスひとり体制で、バイクはNSR500V(いやーなつかしいですねえ、古参ファンの皆様。テレビ大阪・千年屋さんの時代ですよ)。チーム初表彰台はこの年のイギリスGP(3位:ドニントンパーク)。それ以降、4回の世界タイトル(2001:加藤大治郎-250、2010:トニ・エリアス-Moto2、2018:ホルヘ・マルティン-Moto3、2019:マッテオ・フェラーリーMotoE)と73勝を飾り、今回のマルケスが獲得した表彰台で登壇220回目となった。

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#73

 さて、話を戻すと今回3位のバニャイアは、

「今日はふたりのほうが速かった。ラスト5周は力を振り絞ろうと思ったけれども、さらにもうひと息の力を出しきれず、前戦のヘレスとは真逆の恰好になった」

 と負けを潔く認めている。

「去年もおととしもこのサーキットでは転倒しているので、そのときよりは改善を果たしているし、それだけにレースを走りきるのは大切なことだった。3位という結果には満足できないけれども、次のバルセロナでは気持ちを切り替えてさらに向上を目指したい」

#1
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 で、このところの大きな関心の的になっているのが、このバニャイアの来季のチームメイトにはたして誰がおさまるるのか、ということだ。

 有力候補と言われているのはマルティン、マルケス、バスティアニーニの3名のようで、まあ、このうちの誰が収まったとしてもそれなりに説得力はある人材ばかりだ。ドゥカティ首脳陣の合議制で決定するとの話だが、この決着はさすがに外野にはわかりようがない。

 いずれにせよ、この3名から誰をファクトリーライダーにピックアップするのか、というのはまったくもって贅沢な悩みである。ドゥカティのバイクが扱いにくいと言われていた十数年前には、ファクトリーの座は”Hot Seat”(電気椅子、みたいな意味)とも揶揄されていたのだが、そんな時代があったことなど今や信じがたいほどで、まさに〈禍福はあざなえる縄のごとし〉である。

 中小排気量にも少し言及しておきましょう。

 まずはMoto2。優勝はS・ガルシア(MT Helmets – MSI)が独走モードで勝ちきったのはともかくとして、2位がビックリしましたね、みなさん。17番グリッドスタートの小椋藍(MT Helmets – MSI)が周回を重ねるごとにひたひたと追い上げ、ラストラップは4番手で入ってふたりをオーバーテイク。2位でチェッカーフラッグを受けたものだから、決勝後の小椋自身も「土曜は苦戦して後方からのスタートになってしまったので、その段階で表彰台に上がれるなんて言われても信じなかったと思う。シーズン初表彰台はうれしい驚き」とコメント。チームとしても1-2フィニッシュを達成したレースになった。

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#小椋

 Moto3は、今回も山中琉聖(MT Helmets – MSI)がトップグループの一角を構成するものの、表彰台には手が届かず7位で終えた。あともう一歩、のレースが続くだけに、早く活路を見いだしてほしいものであります。

 というわけで、今回はひとまずこれにて以上。次回第6戦はスペイン・バルセロナ郊外モンメロのバルセロナ-カタルーニャサーキット。ここ、じつは電車のアクセスがすごくいい場所なんですよ。バルセロナ市内からのシャトルバスも豊富に出ているので、訪れる機会がある方は、ぜひどうぞ。ではでは。

(●文:西村 章 ●写真:MotoGP.com/Yamaha/Honda/Pramac Racing/Gresini Racing/Ducati)

#FranceGP

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#MotoGPでメシを喰う
【西村 章】
web Sportivaやmotorsport.com日本版、さらにはSLICK、motomatters.comなど海外誌にもMotoGP関連記事を寄稿する他、書籍やDVD字幕などの訳も手掛けるジャーナリスト。「第17回 小学館ノンフィクション大賞優秀賞」「2011年ミズノスポーツライター賞」優秀賞受賞。書き下ろしノンフィクション「再起せよースズキMotoGPの一七五二日」と「MotoGP 最速ライダーの肖像」、レーサーズ ノンフィクション第3巻となるインタビュー集「MotoGPでメシを喰う」、そして最新刊「スポーツウォッシング なぜ<勇気と感動>は利用されるのか」(集英社)は絶賛発売中!


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2024/05/13掲載