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試乗・解説

まずは難解用語解説を。 電脳化を果たしたGSX-S1000GX
すでに詳細を解説した、スズキの新スポーツバイクGSX-8R(https://mr-bike.jp/mb/archives/44435 )。
そして、この8Rと同日に発売されたのがGSX-S1000GXだ。
GXとは、グランド・クロスオーバーを意味する略語。
まずは、GXにまつわるあれこれの用語から
スズキ初のグランド・クロスオーバーを解き明かします。
■解説:中村浩史 ■写真提供:SUZUKI https://www1.suzuki.co.jp/motor/






 

ANDF、NEAS、PDFって知ってる?

 スズキが新発売したGSX-S1000GXは、スズキ初の「グランドクロスオーバー」モデル。この「クロスオーバー」というカテゴリーは、スポーツバイクでもツーリングバイクでもない、アドベンチャーでもない、さりとてGT=グランドツーリングでもない、という新種。もちろん「コレ」という具体的な条件はありませんが、ツーリングバイクとアドベンチャーを掛け合わせたようなカテゴリーと考えてよさそうです。
 既存モデルで言うと、ドゥカティ・ムルティストラーダ、BMW S1000R、カワサキ VERSYS1000やヤマハ TRACER9GTといったところでしょうか。なんとなく、アドベンチャーよりもロードモデル寄り、という感じがします。
 

 
「いま1000ccクラスのアドベンチャーやスポーツツーリングのカテゴリーが20万台くらいの市場規模です。そのなかで、クロスオーバーが3万台ほど。特にヨーロッパで人気が定着してきています。日本でもスポーツツーリングやアドベンチャーのカテゴリーが評価され始めています」というのは、S1000GXのプロジェクトを取りまとめた、スズキ二輪事業本部の野尻哲治チーフエンジニア。
 スズキが説明するクロスオーバーの定義は、スーパースポーツの動力性能を持ちながら、ロードスポーツに比べてストロークの長いサスペンションを持ち、アップライトなポジションで快適性が高いモデル──とされています。
 スズキの現行モデルでいうと、GSX-S1000が「スポーツバイク」としてあって、GSX-S1000GTが「ツーリングモデル」、そこにVストローム1050が「アドベンチャー」。GSX-Sシリーズの並列4気筒エンジンを持ち、Vストロームの足の長さを持つのがグランドクロスオーバーS1000GXというポジショニングになるのだそうです。走りまくり、アウトバーンの国では、こんなに用途が細分化しているんですね。
 

 
 そしてS1000GXは、上にも書いた通り、GSX-S1000シリーズ「第3のモデル」。S1000をベースにS1000GTがツーリング、そしてS1000GXがグランドクロスオーバー。ごく簡単に言うと、S1000シリーズをベースに長いストロークを持つサスペンションを装備し、それをスズキ最新の電子制御でまとめ上げたモデルです。特に電子制御サスペンションは、スズキで初の装備。この「スズキ最新の電子制御」が盛り込まれているところがメインになっています。
 ここで、ちょっと解説がてら、S1000GXに採用された電子制御メカを紹介します。実はスズキは、1980年代から「略語」を使うメカの投入が多いメーカーで、見出しにもつけたANDFやPDFなんて先進のメカニズムを、よくアピールしていました。
 たとえばANDFはアンチ・ノーズ・ダイブ・フォークのことで、ブレーキングでフロントフォークが沈み込みすぎないメカのこと。PDFはAdobeの文書フォーマットじゃなく(笑)、ポジティブ・ダンピング・フォーク=積極的にフォークのダイブをコントロールするメカでした。
 この頃は他メーカーでもヤマハのYPVS=ヤマハ・パワー・バルブ・システムとか、ホンダのATAC=オートコントロールド・トルク・アンプリフィケイション・チャンバーなんて、略語メカが多かったのですが、中でもスズキは、こういう先進メカの投入が多かったように思います。
 

 

■GSX-S1000GXに採用された略語メカ


SIRS=スズキ・インテリジェント・ライド・システム

 S1000GXに採用された電子制御システムの総合呼称。SIRSの内容が、下の略語メカたちです。
SDMS-α=スズキ・ドライブ・モード・セレクター-アルファ
 3段階にパワーモードの切り替えができるメカニズムであるSDMSに「アルファ」がついて、スマートTLR(トルク・リフトリミット・ロールコントロール)=7段階+OFFのトラクションコントロール、リフトリミッター、ロールトルクコントロール、3段階+ユーザーモードのアクティブダンピングコントロールも一緒に設定できる。SDMS-αはA/B/Cが選べて、A=パワー1/TLR2/アクティブダンピングがH(ハード)という風にプリセットで設定できる。
STCS=スズキ・トラクション・コントロール・システム
 いわゆるトラクションコントロール=トラコン。前後輪のスリップ差、スロットルポジション、クランクポジション、ギアポジションを検知し、リアタイヤがスライドしている、と判断したらエンジン出力を抑える。S1000GTでは5段階だった調整範囲がS1000GXでは7段階に。
SFRC=スズキ・フローティング・ライド・コントロール
 前後サスペンションのストロークセンサーを使用し、路面のうねりでサスペンションは動く(バネ下)けれど、それをライダー(バネ上)には伝えにくくするシステム。
SRAS=スズキ・ロード・アダプティブ・スタビライゼーション
 路面状況に応じて、SFRCの介入レベルを制御するシステム。路面のうねりが続く路面で介入していたSFRCを、瞬間的なギャップや、石畳のような瞬間的に連続する路面では介入を弱めたり、同時にエンジン出力の変動も抑える。
SET=スズキ・エキゾースト・チューニング
 マフラーエンドに排圧コントロール用のバルブを装着し、サウンドをコントロール、同時に燃焼を促進する。これはGSX-S1000から導入されていましたね。
SCAS=スズキ・クラッチ・アシスト・システム
 クラッチワークを軽くしながら、加速時にはエンジントルクを効率よく伝達させ、シフトダウン時にはスリッパー機能をもたせたクラッチシステム。
SAES=スズキ・アドバンスド・エレクトロニック・サスペンション
 これがスズキ車初採用の、いわゆる電サスです。路面状況に合わせて減衰特性を瞬間的に連続変更する機能で、簡単にいえばガタガタ道ではよく動くサス、フラット路面では締まった動きをするサスペンション。フロントフォークに1/1000mm単位でストロークを測定するストロークセンサーを搭載し、1/1000秒単位で連続して減衰力制御を行ないます。
 リアサスは油圧プリロードアジャスターでオート/ひとり乗り/ひとり乗り+荷物/ふたり乗りを自動調整。調整はモーターで、リアサスのイニシャル1mmを1秒ほどで動かし、最大調整幅は10mmくらい。減衰力調整は1/1000秒単位で連続して自動制御。
SDDC=スズキ・ディセレレーション・ダンピング・コントロール
 ブレーキングでの車両姿勢の変化をスムーズに収束させ、理想的なピッチング運動を実現するメカ。減衰力制御に減速Gを加えてセンシングすることで自然なピッチングモーションとする。
SVDC=スズキ・ヴェロシティ・ディペンド・コントロール
 車速をセンサリングしてサスペンションセッティングを最適化。上のSAESで制御しているサスペンションに車速検知を加えて、スピードに応じた減衰力に調整。高速時の安定性と低速時の乗り心地を両立させる。
 

 

■GSX-S1000GX特有ではない略語メカ

SCEM=スズキ・コンポジット・エレクトロケミカル・マテリアル
 スズキのメッキシリンダー構造。2ストロークのRGV250Γ時代にはSBC=スズキ・ボロン・コンポジットシリンダーという技術も使用されていました。
FEA=ファイナイト・エレメント・アナライシス
 ピストン設計に使用する、剛性と重量バランスをとる設計手法。
APS=アクセレーター・ポジション・センサー
 アクセル微開の時にエンジン回転がぎくしゃくするのを防ぐ機能に使われる、アクセルの開け具合をセンサーするシステム。
SCU=サスペンション・コントロール・ユニット
 エンジン制御のECUにあたるサスペンションコントロールユニット
EERA=エレクトロニカリー・エクイップド・ライドアジャストメント
 ショーワ製電子制御サスペンションの名称。呼び方「イーラ」は、スズキの故郷、浜松の方言「いいでしょー?」の意味ではありません。すいません、ふざけました。
SFF-CA=セパレート・ファンクション・フォーク-カートリッジタイプ
 これもショーワサスペンションの名称で、フォーク左右をそれぞれ別々の構造としてフォーク内構造のシンプル化と軽量化を図るもの。S1000GXは右フォークにストロークセンサー、左フォークに減衰力調整ノブを調整するソレノイドバルブを装着。
BFRC=バランス・フリー・リア・クッション
 これもショーワの名称で、圧力バランスの変動が発生しにくい油圧回路を採用し、減衰力応答性を向上させたリアサスペンション。
 
 大まかに紹介すると、以上のようになります。これ以外にも、略語こそつけられていないものの、下り坂を走る時にブレーキをかけても後輪リフトを減らすスロープ・ディペンデント・コントロール・システムとか、走行シチュエーションに応じてABSの介入具合を制御するモーション・トラック・ブレーキ・システム、システムONの最中でもシフトアップorダウンができるスマート・クルーズ・コントロール、シフトアップ&ダウン両方向でクラッチ操作なくシフトチェンジできる双方向クイック・シフト・システム、セルモーターをワンプッシュするだけでエンジンが始動するまでセルが自動で回っているスズキ・イージー・スタート・システムや、発進時にエンジン回転のドロップを抑えてエンストの危険を減らすロー・RPM・アシストなどもあるんですが、そこはSDCSとかSESSとは呼びません。

 スズキモデルの中でも、ナンバー1に電脳化されたGSX-S1000シリーズのグランドクロスオーバー。近日中に試乗、その効果も含めてお伝えします!<オワリ>
 

 

デザインコンセプトは「奔放な優雅さ」。スーパースポーツの持つアグレッシブさと優雅さを融合させたデザインで、麗美とエレガンスをスタイリングに込めたのだという。

 

旧GSX-R1000のエンジンをべースに、専用の味付けがされた水冷並列4気筒エンジン。GSX-S1000/1000GTやKATANAも同系列のパワーユニットで、このエンジンをべースにしたモデルは18万台も生産されているのだという。

 

GSX-S1000系のエンジン/車体をベースに1000GX専用にリファインされたローリングシャーシ。シートレールには純正アクセサリーのパニアケース装着用のステーが追加されている。

 

Φ310mmローターにブレンボ製対向4ピストンキャリパーをラジアルマウント。写真こちら側(乗車したときの右側)のフォークにストロークセンサーを、反対側にソレノイドバルブを装着。

 
 

マフラースペースを確保する左右非対称の湾曲スイングアームもGSX-Sシリーズ共通の装備。リアサスのプリロードアジャスターは電子制御でプリロード量を自動で調整する。

 

フューエルタンクは容量19Lを確保。カタログデータではWMTC燃費が17km/Lとされているから、1タンク300km走行は確実。このあたりのレイアウトはS1000/1000GTとも共通。
スクリーン高さはマウントボルトの差し替えで3段階に調整可能。高さは最大で43mm調整でき、ナックルガードも標準装備するなど、クロスオーバーモデルに相応しい装備だ。

 

グラブレールつきのアルミリアキャリア。リアシート下にはETC2.0車載器を標準装備し、純正アクセサリーのパニアケースを装着しやすい形状としている。

 

6.5インチのフルカラーTFT液晶ディスプレイ。画面左はデジタルスピードとタコメーターで、右半分中央はギアポジション表示をセンターに、パワーモードのSDMS、トラクションコントロールとアクティブダンピングコントロールの状態、リアサス設定が表示される。その下は気温&水温、オド&ツイントリップ、瞬間&平均燃費などを表示する、まさにマルチインフォメーション。
スマートフォンと連携できる「スズキMySPIN」を標準装備。あらかじめスマホに専用アプリをインストールしておくと、通常のメーターだけでなく、スマホ機能を表示することができる。スマホはiPhone/アンドロイドともに連携可能で、スマホ内の音楽や地図、カレンダーや連絡先も表示できるし、Bluetoothインカムを経て通話も可能。メーター左にはUSB給電ソケットも装備している。

 

S1000GXのキャラクターを際立たせる縦2灯の六角形LEDヘッドランプ。写真はハイビーム時で、ヘッドライト左右には面発光のLEDポジションランプを装備。ヘッドライト、ウィンカー、ストップランプなど灯火類はすべてLEDを使用している。

 

GSX-S1000GX 主要諸元
■エンジン種類:水冷4ストローク直列4気筒DOHC4バルブ ■総排気量:999cm3 ■ボア×ストローク:73.4×59.0mm ■圧縮比:12.2 ■最高出力:112kW(152PS)/11,000rpm ■最大トルク:106N・m/9,250rpm ■全長×全幅×全高:2,150×925×1,350mm ■軸距離:1,470mm ■シート高:845mm ■装備重量:232kg ■燃料タンク容量:19L ■変速機: 6段リターン ■タイヤ(前・後):120/70ZR17・190/50ZR17 ■ブレーキ(前/後):油圧式ダブルディスク(ABS)/油圧式シングルディスク(ABS) ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:メタリックトリトンブルー、パールマットシャドウグリーン、グラススパークルブラック ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):1,991,000円

 



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2024/04/24掲載