ドゥカティがリリースするアドベンチャーモデル、ムルティストラーダのキャッチコピーは4Bikes in1である。市街地、ツーリング、スポーツライディング、オフロードの4つの性能が1台のバイクに凝縮されているという意味であるが、これを実現出来たのがセミアクティブサスペンションを含む充実した電子制御の装備である。トランスフォーマーのごとく、ボタン一つで様々なキャラクターのマシンに変貌するというもの。
EICMA2023でお披露目されたGSX-S1000GXは、オフロード走行こそ考えられてはいないものの、あらゆるシチュエーションで最適な走りが出来るパッケージングとなっていた。そしてそれはやはり、最新の電子制御装備があったからこそ実現出来たものだと感じられたのである。
スポーツネイキッドモデル、GSX-S1000をプラットフォームとした第3弾となるGSX-S1000GX。フェアリングを装備しライディングポジションを変更することによりツーリングシーンでの走り性能を備えたGTが派生モデルとしてすでに存在するが、さらに走りのシチュエーションを広げるための変更がGXには施されている。
前後のホイールは基本的にオンロードのみを想定した17インチを選択。しかしサスペンションはストロークを伸ばし、悪路走行にも対応。
フェアリングはよりウィンドプロテクション性能を高めつつアップライトなポジションを手に入れている。
シート高は845mmと高めである。オプションのローダウンシートとしてGTに純正採用されているシートもラインナップされているのであるが(日本仕様はこれが採用される可能性もある)安易にそれを流用せず、よりクッション性を重視したものを純正とするなど妥協がないことが伺える。
試乗会が行われたのはポルトガルのリスボン近郊。2日間にわたって様々なシチュエーションを走行。総走行距離は400km弱であった。
ストローク量が増えた足周りと相まって、乗り心地は至極快適である。しかしこれは単純にストローク量が増えたからだけではない。そしてこの乗り心地という表現は、文字通りのイメージだけでなく、シャキッとした手応えや踏ん張り感を望んだときに与えてくれるという意味でもある。
スタートは宿泊したホテルエントラントから公道に出るまでの石畳である。ダンピングをソフトに設定したマシンは、細かいギャップをキレイに吸収してくれ、身体にイヤな振動やショックを与えない。いきなり電子制御の恩恵を受けたかたちである。
そこからスピードを上げていくと路面のうねりや外乱によってダンピング不足といったフィードバックがあらわれてやや車体が落ち着かなくも感じられる。
不安を抱くような挙動にならないのは、SRAS(スズキ・ロード・アダプティブ・スタビライゼーション)の効果もあるだろう。凸凹路面が続くような状況で、ライダーがラフなスロットル操作にならないようなエンジンコントロール&サスペンションダンピングの適正化等、危険がないように制御が入るのである。しかし走行中、正直その存在には気が付かなかったほどで(モニター上では確認できる)その介入は違和感のないものとなっている。
ミディアム、そしてハードとダンピングを変更するに従ってしっかりと減衰力が強まるのが感じられる。また、それぞれの設定からさらに強弱3段階の調整も可能となっている。
どの設定にしてもマシンが危険になるような状況にはならない。しばらくすればその設定に慣れてしまうことも多いだろう。これまでも、機械式のサスペンションであればそうであったのだから。しかし、それではこのマシンの本質を理解したとは言い難いだろう。
こまめに調整することで、街中、ワインディング、高速走行といった走るステージでの分け方はもちろん、気分によってマシンのキャラクターを変えることが出来るという贅沢を味わうことが出来るのである。
右に左に切り返しながら初めて走らせるワインディングを攻め込む。こういったシチュエーションでのこのマシンの自由度の高さは特筆すべき点で、こねくり回すような操縦方法も許容する。アドベンチャーマシンの多くに感じられる自由度の高さではあるが、GXは比較的軽量・コンパクトであり、さらにパワフルなエンジンを搭載している。19インチホイールを採用するマシン群に対してのアスファルト上での運動性は1枚上手であり、オフロードを選択肢に入れなかったことが一般的走行では功を奏している印象だ。また、ギャップがないスムーズな、例えばサーキットのようなコーナーを攻め込むのであれば違う選択も出来るのであろうけれど、状況が不利になればなるほどそのパッケージングの良さが光るのであった。
GSX-R1000譲りのパワフルエンジン
GXに搭載されるのは現行KATANAにも搭載される水冷4気筒エンジン。これは2005年式GSX-R1000(K5)に搭載されていたものがベースとなっていが、考えてみればこれもすでに20年選手である。
しかし開発スタッフによれば、現在スズキに存在するエンジンのなかでは、もっとも相応しいキャラクターであるという。なるほど、最新のスーパースポーツエンジンと比較すれば最高出力は抑えられているものの、それらはサーキット以外で使うことがないようなパワーと回転域でもある。結果的にGXの使用状況に非常にマッチしていると感じられた。
今となっては良い意味でスムーズ過ぎると感じることなく、耐久性も含めた信頼性の高さもツアラーとしての完成度に貢献している。
スーパースポーツ系のエンジンとしてはトルクフルで、低中回転域でも扱いやすい。
GSX-R1000に搭載されていた当時から、このトルク特性とアクセル操作に対する車体の反応が非常に優れていたことが思い出される。しかしデビュー当時のGSX-S1000はこのバランスがやや崩れていた。開け始めのコントロール性が悪く、いわゆるドンツキが存在していたのである。
2021年のモデルチェンジでフライ・バイ・ワイヤ化され、ライディングモードも3種類選べることによって、マシンのコントロール性が大きく向上した印象をもった。そしてこのパッケージングがGXとの相性も良好に感じられたのである。
アップ&ダウン双方に機能するオートシフターやクルーズコントロール等の快適装備も充実している。ちなみにクルーズコントロールはGTでも採用済みであるが、GXでは設定中にシフト操作を行っても解除されない機能が新たに追加されている。
GSX-S1000GXはスズキのモデルにとっては珍しく、電子制御てんこ盛りのマシンとなっていた。しかしスズキの開発陣によると、電子制御で味付けするのではなく、いかにベースのポテンシャル、そしてバランスを高めるかといったことに注力したという。
様々な研究やタイヤを含めたパーツが高性能化したことで、本来持っているマシンの性能をぼやかす。あるいは誤魔化すようなことも少なからずあるはずである。そしてそれに電子制御という魔法の化学調味料を振りかける……。
しかし、スズキの強みは化学調味料に頼りすぎていないところだったと再確認した試乗でもあった。優れたベースに最新の電子制御を適材適所に採用したことで、より魅力的なパッケージングとなっていたのである。
(試乗・文:鈴木大五郞、写真:SUZUKI)
■エンジン種類:水冷4ストローク直列4気筒DOHC4バルブ ■総排気量:999cm3 ■ボア×ストローク:73.4×59.0mm ■圧縮比:12.2 ■最高出力:112kW(152PS)/11,000rpm ■最大トルク:106N・m/9,250rpm ■全長×全幅×全高:2,150×925×1,350mm ■軸距離:1,470mm ■シート高:845mm ■装備重量:232kg ■燃料タンク容量:19L ■変速機: 6段リターン ■タイヤ(前・後):120/70ZR17・190/50ZR17 ■ブレーキ(前/後):油圧式ダブルディスク(ABS)/油圧式シングルディスク(ABS) ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:メタリックトリトンブルー、パールマットシャドウグリーン、グラススパークルブラック ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):–円
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