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試乗・解説

HONDAが出した E-Clutchは……できるクラッチ担当コンシェルジュが 同乗している!? らしい。 早く検証したい!
■解説・文:松井 勉




2023年11月7日からミラノで開催されたEICMA2023において発表されたホンダのE-Clutch。その技術説明会が日本のプレスに向けに開催された。開発責任者を始め開発に関わった3名のエンジニアが登壇。開発の目的、概要、そして効果が語られた。乗っていないだけに乗り味は想像するほかないが「モーターによるクラッチ作動操作でもライダーが自らレバーで操作することも可能」とか「クイックシフターよりも素早くクラッチ断続をします」だとか「打ち出し初号機選考には250も議題に上がりました」というコスト的にも現行MTモデルをベースに作れるだけに親和性も高いことが解った。あくまで自動に出来るのはクラッチ操作で、シフト操作はライダーが行うという、つまりクラッチ操作レスのMTとしても、コンベンショナルなMTとしても1台で2通りの走りを楽しめるワケだ。それは乗ってみたいでしょ、とウズウズするものだったのである。

 

自動クラッチ操作を電脳メカがアシスト。それがホンダE-Clutch。

 1速、2速、3速、4速……ギアを場面にあわせてシフトして走る。体でバランスを取り、目の前にある風景にどう走りを馴染ませるか。バイクで走る醍醐味は身体を駆使した感覚運動だ。そこに機械をマッチングさせ自分だけのハーモニーとリズムを作る。これぞライダーの悦びだろう。

 逆に言うとそれだけにライディングの満足度はスキルに依存する部分が大きい。アクセル操作、ブレーキ操作、それにクラッチ操作。そのどれもがオンオフ的な1か0かというロジックではなく、速度、場面によって何通りも存在し、ちょっとペースを変えるだけで操作量とライダーの心持ちがまったく異なってくる。難しい。だから面白いのだが。

 そんな根源的なライディングの悦びを「いつもでも、気の向いた時だけでも」お任せできるクラッチアシストが登場した。それがホンダのE-Clutchだ。すでに11月7日にイタリアミラノで開催されたEICMAにおいて発表されたこの技術を日本のプレス向けに開発者がプレゼンテーションしてくれたので詳細を共有したい。
 

CB650R E-Clutch。クイックシフター装着車が装備するリンク内にシフト操作(荷重)を検知するセンサーが備わるほか、通常のMT車との違いは右側クラッチカバーの形状、追加されたハンドルスイッチ程度。ライディングでは完全MTモードでもクラッチだけオート仕様でも走行ができる。

 
 マニュアルトランスミッションの楽しさをさらに上げる──。開発されたE-Clutchは、発進や停止、シフトチェンジの時に操作が必要になるクラッチ操作を、エンジン回転数、カウンターシャフトの回転数、FI制御、スロットル開度、ギアポジション信号、シフトペダル荷重(ライダーがシフトチェンジをしようとした時のペダルにかかる荷重)、前後輪の車速、クラッチの切断信号、エンジン側クラッチレバーのアングルセンサー、メーターインジケーター信号などから状況をFI-ECUがモニタリング。それらの情報を元に二つあるクラッチ断続を駆動するモーターがリダクションギアを介してエンジン側のクラッチレバーを操作する、というもの。

 E-Clutchのポイントはもう一つ。ライダーがクラッチ操作をしたい時、ハンドル側のクラッチレバーを操作すれば、E-Clutchはそれを認識し、アシストせずにライダーの操作に任せるというもの。つまり、通常のMTモデルと同様に走行することもできるし、発進から停止までクラッチ操作をE-Clutchに任せることもできる。途中でライダーが介入しても、それもアリ。

 制御ではエンスト防止のため、ギアの最低速度を割る前にクラッチを切るようになる。例えば、極低速時、Uターンや左折のタイトな旋回など、半クラッチで駆動力をコントロールしたい時、いつでもライダーはこれまで通りのバイクとして操れるのだ。

 書くと複雑だが、シフトアップ、ダウンともに対応しているクイックシフターに、発進停止のクラッチ操作を加えたもの、と考えることもできる。しかしその制御は緻密で、シフトチェンジ時の駆動力が途切れる時間はクイックシフターよりも短縮しているというからすごい。

 モーターと手動、その双方からのクラッチ操作を受け付けるため、エンジン側クラッチレバーシャフトは3分割構造になっていて、双方の操作を従来通りのレイアウトのまま可能にしているのもポイントだ。E-Clutch搭載初号機に選ばれたのはCBR650R、CB650Rの2モデル。その理由はグローバルを含め3万5000台と販売台数が多く、E-Clutchを普及浸透させるのに適役と判断されたためだ。MTモデルとE-Clutchモデルが併売されるようだが、その販売比率は浸透へのプロモーションも鑑みて、現状DCTモデルのMT:DCT比率が40:60程度となっていてそれに倣うそうだが、その背景には「2009年のVFR1200Fで登場以後経過した時間よりも素早くそうした位置へと押し上げたい」というホンダの狙いがある。
 
 当初、初号機探しには250のモデルも検討されたというから、コストアップやMTの楽しさをそのままに、快適性、安心感などをさらに向上させるE-Clutchが今後いろいろなモデルに搭載されるのだろうな、という印象を持った。
 

E-Clutchのメカニズム外観。会場に持ち込まれたE-Clutch搭載のCB650R。そのエンジンのクラッチカバー側がこれ。2つの駆動モーターを使い信頼性アップと同時にモーターの小型化による横幅方向も配慮されている。カットモデルで見えるシルバー色の筒状のものがモーター。モーターに装着されたピニオンギアからリダクションギアを介して扇型のギアでエンジン側クラッチレバーを作動(旋回)させる。その旋回角度を上部黒い樹脂カバー内にあるアングルセンサーでモニター。クラッチレバーは、ハンドルバー左側にあるクラッチレバーにつながるワイヤーケーブルもそのままあり、モーター、手動双方で作動が可能なようにエンジン側のクラッチレバーを3分割している(色分けで解る)。つまりE-Clutchは通常のシステムに後付けも出来るしクラッチ、ミッションはそのまま共用できるのがメリット。DCTは作動に油圧を使う関係でオイルラインやツインクラッチのパックなどMT車と比較してクラッチ側の幅が大型化する傾向にある。また、E-Clutchではイグニッションオフで停止時、クラッチは繋げた状態にするので、1速に入れておけば傾斜地でもバイクの停止状態を保てるという。これもMT車と同じ。DCT車は停止時、エンジンオフ時にニュートラルになるため、パーキングブレーキを装備する。そのレバーやキャリパー、キャリパーサポートといったパーツもMT車との重量差に含まれるが、E-Clutchはそれを必要としないのもコスト、重量的、機種展開においてもメリットがある。

 

開発コンセプトは「Take You to the NEXT STAGE」

 当日配布されたプレスリリースによれば『より自由にモーターサイクルを楽しみたいと願うライダーのそれぞれのライディングシーンでライディング体験の質を上げ、「思い通りに走りたい」という想いをサポートします』とある。

 上級者、プロのような操作も可能なクラッチコントロールを電子制御で具現化。これによる高いスポーツ性、渋滞路や目的地への移動時にクラッチ操作をE-Clutchに任せることでライディング疲労の低減。それにより生まれる快適性。さらに、発進停止時におけるエンストクライシスからの解放、停止時にニュートラルを出すなどの時にもクラッチレバー操作をE-Clutchが行ってくれる、という安心感の醸成。高いスポーツ性、快適性、安心感をキーワードにそれらで高いレベルを追求した。
 

シフト操作はあくまでライダーの仕事。

 オートマになったの? と思うのは早計。シフト操作はライダーの仕事として確保されている。また停車後、ニュートラルに入れたり次なる発進に備えて1速に入れるのもライダーの仕事だ。E-Clutchはあくまでクラッチ操作に特化したアシスト技術ということになる。

 先述したようにクラッチレバーをライダーが操作すれば完全マニュアルとなり、ライダーに全てが委ねられる。仮にE-Clutch使用時をオート、マニュアル操作時をマニュアルとして、ライダーはハンドルスイッチからそのモードを選択可能で、オートを使っている場面でも、ハンドルのクラッチレバーを操作すれば即座にマニュアルとなりクラッチ操作を終えてから5秒程度経過すると再びオートに復帰する、というロジックになっているそうだ。
 

プレゼンテーションの冒頭、本田技研工業株式会社 二輪・パワープロダクツ事業本部 二輪事業統括部 事業企画部 大型モーターサイクルカテゴリーゼネラルマネージャー 坂本順一さんよりE-Clutchが目指したコト、過去、ホンダが自動遠心クラッチを皮切りに様々な駆動系を2輪とフィットさせてきたことが説明された。
E-Clutchの技術詳細説明は 本田技研工業株式会社 二輪・パワープロダクツ開発生産統括部 完成車開発部の小野惇也さんが担当した。E-Clutchの開発責任者で、10年前に研究段階の車両を坂本さんに乗せたご本人だ。クラッチ操作を任せることができるスポーツバイク、楽しく、快適で安心をパッケージに昇華させたチームを率いた人だ。

  

CBR/CB650RはTBWではない。
でも、シフトアップダウンを可能にしているE-Clutch

 クイックシフター装着車に増えているアップ、ダウン双方に作用するクイックシフターは、ダウンシフト時に自動で回転を合わせてくれるブリッピング機能が搭載されているのが普通だ。ライダーがアクセル操作をしなくてもそれが可能になっている大きなポイントはTBW(スロットルバイワイヤー)の採用によるところが大きい。
 今回、E-Clutch初号機のCBR/CB650Rはそれを搭載していない。それでもシフトダウン時に発生する後輪の「キュ!」を生まないようにクラッチを制御しているそうだ。DCTでもそうだったがNC700/750シリーズに搭載されていたDCTはそのへんのクラッチ操作が絶妙だったから、このE-Clutchでも完成度は高いと予想する。いわゆるスリッパークラッチも搭載されているそうだが、例えば降雨時、滑りやすい路面など、バックトルクをメカニカルな作動の原点にタイヤのグリップ力を必須とするスリッパークラッチの原理に加え、制御ロジックからすると、エンジンブレーキコントロール的な制御もクラッチだけでこなしてくれるのではないだろうか。これは試乗テストで確かめたい。

 また、クイックシフターの多くが持つ基本ロジックがシフトアップはアクセルオン、シフトダウンはアクセルオフ、というもの。加速か減速のみを想定しているのだが、E-Clutchの場合、例えば高速道路を巡航中、追い越しをかけようとアクセルを開けたままシフトダウン操作をしても、それを受け付けるという。これはより一般道での走りをシミュレーションした結果のようだ。
 

こちらは本田技研工業株式会社 二輪・パワープロダクツ開発生産統括部 システム開発部の方で、E-Clutch開発で制御設計プロジェクトリーダーを務めた竜崎達也さん。TBWなどを備えない現状ではプリミティブな装備のCB/CBR650R。それだけに制御ではその乗り味部分の造り込みにも腕の見せ所だったに違いない。
本田技研工業株式会社 二輪・パワープロダクツ開発生産統括部 完成車開発部の伊東飛鳥さん。初代VFR1200F DCT以降、セカンドジェネレーションとなるDCTの開発を始めアフリカツインに搭載されたDCTではGモードを搭載する開発などDCTを始め多くの駆動系開発に携わっている人。E-Clutchでも駆動系研究プロジェクトリーダーを務めた。

 

気になる発売時期は、
2024年春のモーターサイクルショー後、初夏のタイミングでは?

 発売時期に関して現段階ではもちろん明言されていない。しかしヨーロッパでの発売からあまり時期を置かずに国内にも投入したい、と話していた。となると春のモーターサイクルショーで盛り上げ、その後発売時期発表、ディーラーの店頭に並ぶのは初夏から梅雨時期では、と考える。
 重量増加も価格アップもDCTほどではないとされるE-Clutch。新たなMT体験が楽しめるに違いない。

 ホンダとしては、もちろんCB/CBR650Rだけでの展開にとどまらず上級モデルや軽量モデルにもE-Clutchを波及させたい思いがあるようだ。ホンダのことだ。すでに他機種でE-Clutchを搭載した初期テストは済ませているハズで、その相性がよいことも確認済みと考える、とは言い過ぎだろうが。いずれにしても初号機の販売台数、評判で2号機の待望論に弾みもつくはず。

 10年前にクラッチ自動化モデルの研究車から量産に向けた開発が本格スタートしたこのE-Clutch。制御、DCTで知見を積んでいるホンダだけにきっとGOサイン待ち、というところではないだろうか。妄想はこの辺にして、路上で乗れる日を楽しみにしたい。
(解説:松井 勉)
 

 





2023/12/29掲載