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試乗・解説

ネオレトロでもストリートファイターでもない、 新たなスタンダードを提唱する XSR900
■試乗・文:ノア セレン ■撮影:松川 忍 ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、KADOYA https://ekadoya.com/、Alpinestars http://www.okada-corp.com/products/?category_name=alpinestars




古くからのヤマハファンを喜ばせるブルーのカラーリングで、さらにレトロテイストを強めたかのように見えた新型XSR900。そのテイストは見た目だけではなく走りにも表れ、そして超絶速いエンジンにより新たなカテゴリーへと昇華した。

とにかく速い!

 MT-09とXSR900、そしてトレーサー9と、この同じプラットフォームで3機種が展開されて既に久しいが、今回の試乗で「こんなに速かったっけ!」ということを何度も感じさせられた。
 エンジンが888ccの120馬力になったのは3機種とも同じだが、この数値は今のスポーツバイクの世界では特別驚くものでもない。なのになんでこんなに速いのか。一つには3気筒であるということで常用域からトルクフルだということがあるだろう。そしてスーパースポーツのように300km/hもの最高速も求めていないがゆえ、もっと現実的な速度域内でその120馬力を使い切れ、瞬発力がある領域やパワーバンドを使う機会が多いというのもあるかもしれない。3機種とも、もうとにかく速いのである。
 その中でもこのXSRが特別速く感じたのが面白い。MT-09ももちろん速いが、あちらはサスが柔らかくスイングアームが短くかつポジションもアップライトなため、ウイリーしてしまいそうな感覚も強くて思いっきり開けるのはためらわれるような感もある。トレーサーはツアラーだからそもそもそんなに開けない。対するXSRはスイングアームが長くてハンドルはそれなりに前傾。容赦なく開けることができる体勢で臨むことができ、ゆえに120馬力をフルに使ってドラッグマシンのような加速を満喫できてしまう。スペック的には同じなハズなのにXSRがやたらめったら速く感じるのはこういった部分だろう。
 

 

電子制御に助けられて

 電子制御と言えばトラコンやABSなどが搭載されているのは今や当たり前だが、いい意味でこれらの電子制御を感じさせないのも最近の進化のおかげだ。事実XSRを走らせていて、トラコンやウイリーコントロールが介入したなどと感じさせられることはなく、これにより走りに水を差されることもない。とはいえ、XSRについてはライダーのポジションや車体の姿勢のおかげで、電子制御が介入せずとも車体が本来持っている性格で楽しい走りを提供してくれている感も強い。
 そんなXSRで電子制御がありがたいと感じるのは4つ用意されているパワーモードだ。最も大人しい4からフルパワーの1まであるのだが、1はもう2500回転からでもほんのわずかにアクセルを開けるだけで弾けるようにすっ飛んでいく凶暴なモードである。サーキット以外ではちょっと使えないかな? というぐらい激しく、大排気量バイクに乗り慣れた人でもハードルは高い。
 

 
 モード2及び3は開ければ速いが常識的なアクセルレスポンスを持っていて、活発な走りが楽しめるという設定。オーナーになって走り込んでいくうちにこのどちらかに落ち着くように思う。ただ初めて乗る人や、大型免許を取得して最初のバイクとしてXSRを選んだような人はぜひとも4からスタートすることをお薦めする。4でも十分に速く、3から上のモードの素っ頓狂な加速に畏怖することなく少しずつこのバイクに慣れていくという意味でも4は有効に感じた。こんなモード設定は、超絶バイクに少しずつ慣れていく、という意味でも助かる設定だ。
 

 

旧いハンドリングと新しいタイヤ

 とてつもなく速いエンジンはともかくとして、車体やハンドリングは逆に旧いような印象もある。MT-09に比べるとタンクが長く比較的後方に座るようになっているが、加えてシート前方はサイドカウルが伸びてきている都合で実際の着座位置はさらに後方、シートストッパーに尻を当てて乗るようになるのだ。そうして乗った時こそ一番シートのクッションも活きていて尻が痛くないのだから、やはりそのような姿勢で乗って欲しいというのが開発者の意図なのだろう。
 そしてそのように乗るとワイドで低いハンドルはかなり遠く感じることになり、さらにステップも相対的に結構前の方に位置するように感じるという、どこか旧車的なポジションが生まれるのだ。
 このポジションを「旧車的」と捉えるか、それとも「ドラッグマシン風」と捉えるかは人それぞれかもしれないが、旧車的だと思って乗るとコーナリングもドシッと後輪に体重を乗せるような感覚が生まれ、リアステアで旧車乗りのコーナリングスタイルに自然と繋がるから面白い。直線でブレーキングを終え、逆操舵できっかけを作ったらあとはアクセルで早めにパーシャルを当ててコーナーをクリアするという、何だか懐かしい乗り味に感じるライダーも多いはずだ。
 

 
 対してドラッグ風だという気持ちで乗ると、車体との一体感が楽しく、コーナリングなんて二の次、とにかく直線でガバ開けして楽しむことができる。足も着くしハンドルも低いし、シートストッパーに尻をめり込ませて全開! というのがとても楽しい。しかもスイングアームが長いため安易にウイリーなどしないため、本当に矢のように加速することができるのだ。
 いずれの乗り方、接し方も面白いが、では現代的な走りができないかと言えばそんなことは決してない。ちょっと硬めではあるがシートの前の方に座って、良く効くブレーキをしっかり使ってクリッピングに寄せていけば、純正装着のブリヂストンS22がクイックなターンインを見せてくれ、クラシカルな見た目とは違った切れ味鋭いコーナリングも可能だ。車体全体はちょっと長めに感じるし、ハンドル切れ角が大きくはないためUターンも得意ではないものの、走っている時はヒラヒラと軽快なのは魅力だ。右へ左へと車体を切り返すのも瞬時にでき、舗装林道のような細かい峠道でも苦にしない。
 懐かしい気持ちで乗れば懐かしい乗り味を提供してくれるのに、現代的な感覚で振り回そうとすればそれにも当然のように応えてくれる。XSRは懐が深いというか、ハンドリングにはいい意味で二面性があるように感じられ、懐かしさだけを追求するネオレトロではなく、走りの部分でも新旧を融合しつつ、新しい体験を提案してくれていると感じた。
 

 

カッコの良さと発展性を楽しむ

 速いエンジンと多様に楽しめるハンドリングに加え、XSRの大きな魅力はそのルックスだ。今回はあえてネオレトロ/ネオクラシックの枠を飛び出た新世代のロードスターであることをアピールしたくブラックを撮影車両に選んだが、メインのカラーイメージはソノートヤマハを連想させてくれるブルーだろう。かつてのレーサーのようにも見え、同時にカスタムビルダーによるワンオフにも見え、過去にとらわれない新たなスタイリングという印象だ。加えてカウル付のバリエーションモデルも先日発表され話題となっている。
 タンクやサイドカバーといったエクステリアに加え、テールカウル風のダブルシートや、各部のフィニッシュの上質さなど、最初からカスタム感が高く所有欲を満足させてくれると同時に「他と違う」という特別な感覚も確かにある。
 加えて、XSRはアクセサリーパーツが豊富で、ココからさらに自分好みに仕上げていく楽しみも残されている。
 

 

指標となる一台になるか?

 ヤマハは他社ほどアイコンとなる70~80年代の名車を持たない、というのがネオレトロ系を展開するうえで難しいポイントとなっていたようにも思うが、逆にだからこそ、このように新しいものを提案できたとも言えるだろう。しかもそれを人気のMTシリーズと共通プラットフォームにすることで、なんと破格の約125万円としているのだ。
 過去のモデルに囚われない、自由にヤマハヘリテイジを表現できるデザインと、そして他にはない個性がありつつ高い動力性能も確保している3気筒エンジンを搭載するXSR。これはレトロでもなくストリートファイターでもない、それでいてかつてのビックネイキッドとも違った、次世代のロードスターの誕生なのだ。この個性、この性能、そしてこの価格含めて、非常に魅力的な一台であり、今後はライバルにとっても指標となって欲しいモデルである。
 
(試乗・文:ノア セレン)

普通に座れば自然な弱前傾ポジション。サスペンションはMT-09に比べれば硬めの印象もあるが、足はちょうどステップとペダルの間に降ろせるため足つきは良いと言える。走っている時はシートの後方の方がクッションが豊富なため、自然ともっと腰を引いたポジションとなり前傾角はやや強くなる。ライダーの身長は185cm。

 

888cc/120馬力の3気筒エンジンは常用域からパワーバンドまでとにかく力強く、しかも唸りを伴うメカニカルノイズと排気音はかなり官能的。ライバルの4気筒勢にはない個性とパワーフィールを持っている。パワーモードが4種類あるが、走行シーンだけではなくライダーの気持ちやスキルに合わせて上手に選びたい。クイックシフターも標準装備。

 

 

軽量で高剛性のスピンフォージドホイールはどこかかつてのRZRを思わせてくれるデザインで絶妙な懐かしさも呼び覚ます。フォークはフルアジャスタブル。キャリパーはお馴染みのスミトモで、マスターシリンダーはブレンボ。フロントのブレーキはコントローラブルかつ握り込めば強烈に効く極上システムだ。

 

MT-09系ではなくトレーサー系の長めのスイングアームを採用することで、後輪荷重の懐かしい乗り味やドラッグマシン的な遠慮のないアクセルの開けっぷりを実現している。タイヤはストリート向けスポーツタイヤの新基準となっているブリヂストンのS22。キビキビとした運動性に貢献している。
リアサスペンションは7段階のプリロード調整付き。かつてのモノクロスサスペンションや最近のカワサキ車のように高い位置に寝かされて配置されており、そのおかげで腹下マフラーが実現したという部分もあるだろう。ユーザーとしては路面から離れているためリンク周り含めて汚れにくくありがたい。

 

腹下のマフラーはスタイリング的にもリアホイールを強調しているし、車体もスリムになるし、そして火傷の心配も減るという意味で歓迎したい。排気口は左右斜め下に向けて出ており、これまたカッコイイしマスツーリングの際は後続ライダーに排気を浴びせないという意味でも良い。ただ排気音や音圧はかなり大きめで、ストリートではちょっと申し訳ないような気持になるほど。信号待ちではすかさず自主的にアイドリングストップをしていた。住環境によっては気を遣うかもしれない。
MT-09よりも薄く、長いタンクもクラシカルなイメージを表現。フィット感も高く、塗装も上質で美しい。サイドカバーを留めるネジは着脱も容易でレーサーライクなDリングタイプで、各部のボルトと共に細部のディテールが高級車らしい仕上げを実現している。なおタンク前方に位置するメインキーは左右どちらでもハンドルロックがかけられるのがありがたい。

 

丸タイプながら中身はLEDというのは昨今のトレンドか。若干前の方に飛び出たようなデザインは先代XSRから受け継ぐ。
停車時にはテールランプの存在が全く分からないような、シートの下にうまく隠された灯火類。コンパクトに見えるが被視認性はバッチリだ。

 

デザイン上のアイコンともなっているシングルシート風のシートは、タンクとの間にサイドカバーが伸びていて、タンクに股を押し付けて乗るよりは自然と腰を引くスタイルに落ち着く。タンデムシート部は厚みがある一方で面積は少ないため荷物の固定は難しく、またタンデムの快適度も期待はできない。アクセサリーパーツでフロントカウルとセットとなったカッコいいタンデムシートカバーもあり。
積極的にタンデムするようなバイクでもないだろうが、タンデムステップはアーム部ごと収納できて非常にスマート。パッセンジャーも足が窮屈ではないポジションを実現している。簡易的なヘルメットホルダーも標準装備。

 

各種モードの設定やクルーズコントロールの搭載により様々な設定があるのはわかるが、それでも左のスイッチボックスはスイッチ類が多くちょっとゴテゴテ感は否めない。対する右側はスマートで使いやすく、また電子制御スロットルも違和感なく使うことができた。

 

これもまたデザインのアイコン的な部分だろうが、バーエンドミラーだけはあまり利点を見つけることができなかった。後方確認時には視線の移動量が多いのが気になるし、ストリートではあまりに車幅が大きく難儀した。かつての90年代のヤマハのミラーのように180°回転させて車幅を抑えられれば良かったがそれもできないのが残念だ。幸い通常のミラー位置にも雌ネジがあるため、このミラーを使いにくく感じたならば変更は容易なはずだ。
様々な機能があるだけでなく、表示させておきたい情報を選んで組み合わせられるのが特徴。右側スイッチボックスにあるクルクルダイヤルで簡単にそれら情報を引き出せるのがスマートだ。メーターは決して見にくくなないが、サイズそのものは小さめで、老眼世代には慣れが必要か。


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2023/11/22掲載