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レース・イベント

小椋 藍と佐々木歩夢 日本GPでの 2位という結果に 想うこと




 今年のMotoGPも残すところ3戦となり、チャンピオン争いもまだまだ目が離せない。
 一方、Moto2、Moto3に参戦している日本人ライダーも懸命に戦っている。
 日本GPの後の第15戦インドネシアGPは、マンダリカ、インターナショナル・ストリート・サーキットで開催され、Moto2の小椋 藍は17位。Moto3の佐々木歩夢は18位となった。第16戦オーストラリアGPは、フィリップアイランドサーキットで行われ、強い雨と風が襲った。Moto2は途中打ち切りの波乱となり、小椋は15位。佐々木はポールポジションを獲得、2位となる。そして第17戦タイGPがチャン・インターナショナル・サーキットで開催されMoto2の小椋は予選19番手から追い上げ5位となる。Moto3は古里太陽が2位となり初めて表彰台に登った。タイトル争いを繰り広げている佐々木はトップ争いを繰り広げるも接触してリタイヤとなる。
 いささか旧聞に属するが、若い日本人ライダーの日本GPでの戦いぶりを振り返ってみたい。

■取材・文:佐藤洋美 ■写真:赤松 孝

高熱がありながら走りきった小椋 藍のバーンナウト

 いつものようにプレハブのプレスルームが1コーナーに向かうパドック側に設置され、仮設のトイレが用意されていた。TV中継拠点となる施設が置かれ、レースウィークが始まった。
 日本メディアを集めてのファビオ・クアルタラロ(YAMAHA)の囲み会見が行われ、「YAMAHAで勝つことが自分のモチベーション」と語った。終了時に、集まったプレスから「GP一のイケメンで、日本でも女性からの人気が高い」と言われると、はにかんで「本当?」と照れた。その笑顔に歓声が上がった。
 パドックの話題は、マルケスがHondaを離脱することだった。もう既成事実として認知されていて、共同会見でも海外プレスはマルケスからそのことを聞き出そうと執拗に質問を投げかけていた。弟でグレッシーニレーシングのアレックス・マルケスに「来年はチームメイトになるの?」と聞くプレスもいた。

 我々の注目は、やっぱり日本人ライダーだ。MotoGPライダーの中上貴晶は、プレスルームに設置された場所に、指定時間に来てくれるのだが、他クラスは走行後にピットやチームオフィスを訪ねることになる。
 金曜日の走行後に小椋 藍を訪ねた。インドからMoto3の古里太陽がひどいカゼを持ち帰ったらしく、そのカゼが同室の小椋にうつった。古里は「10周くらいしか集中力が持たず辛く、アタックのタイミングを考えての走行だった。でも、だんだん良くなっている」と言うが、小椋は症状がひどくなっていた。高熱のためフラフラ状態で、コメントをもらうのもはばかれるような状態だった。
 熱は39℃を超え、立っているのも辛そうだが一言だけとお願いすると、集まったプレスにうつったら大変だと「離れた方がいいですよ」と手を動かしスペースを作る気遣いを見せた。「想定通りのタイムが出ているので大丈夫」と、安心させるように言うと力なくチームハウスに入った。
 心配そうに見守る小椋の母は「本当に丈夫な子で、生まれてから高熱を出したことは2回くらいしかないのに、よりによって、日本GPって……」と途方に暮れたように言っていた。見守る者は、回復を祈るしかない。
 

 
 予選で速さを示したのはチームメイトのソムキャット・チャントラでポールポジションを獲得、小椋は、終盤にチャントラに迫るタイムを記録して2番手となる。勝利した昨年の日本GPが予選13番手からの猛攻だったことに比べたら大躍進だ。それも、高熱が続いていて最悪の体調でのタイムアタックだった。決勝は「チャントラについていければチャンスはある」と語っていた。それでも、レース周回数を走り切れるのか、不安は尽きなかった。
 決勝はチャントラが独走した。小椋はスタートでジェイク・ディクソン、アロンソ・ロペスの先行を許し、2番手に上がるまでに時間がかかった。2番手に上がってからは、チャントラと同等のタイムを記録するも、このロスが響き2位となった。チェッカー後は、コースサイドにいたオフィシャルから手渡された日の丸を掲げてのランを見せ、小椋にしては珍しく派手なバーンナウトでファンの声援に応えた。
 決勝の朝起きて、真っ先に思ったことは「アッ、体調が良いな」と感じたことだと言う。熱はまだあったが、38度くらいに下がっていた。もちろん狙ったのは日本GP2連覇だった。勝てなかったが、表彰台に上がる小椋を見ることが出来た。
「レースウィークのイベントをすべてキャンセルしていたので、ファンサービスが何も出来ていなかったから」と小椋なりに考えたのがバーンナウトだった。
 走り切ったことも、バーンナウトしたことも「偉いね」と声をかけると「偉い?」と聞き返してきた。「すごく偉い」と答えたらフッと笑った。このウィークで、初めて見る笑顔だった。
 

 

佐々木歩夢に渡された、加藤大治郎の日の丸

 Moto3タイトル獲得の可能性がある佐々木歩夢は、2015年からアジア・タレント・カップチャンピオンに参戦し、ルーキーズカップランキング3位になった。2016年にはルーキーズカップタイトルを獲得して、2017年からMoto3参戦し常にトップ争いを繰り広げて来た。海外活動が長く、日本GPだからといって特別の大会という意識はないと言いながらも「日本GPで売っている自分の応援グッズを持っているファンの人がいるのは特別」と語っていた。
 今季は勝てそうで勝てないレースが続き、7度の表彰台に登るも未勝利で「勝ちを狙う」と気合充分だった。練習走行1日目で3番手につけ、予選では8番手となるが、セットアップの方向性は見えており表情は明るい。そしてこの日、来季はYAMAHAに移籍しMoto2昇格が決まったことを発表した。チームは『ヤマハVR46マスターキャンプ』。今季野左根航汰が所属していたチームで、YAMAHAの中でもトップチームに位置する。YAMAHAのアドバイザーに就任したロッシが関わるチームだ。
 Moto2昇格が発表され、注目度が上がる中で決勝が行われた。好スタートを切った佐々木は、決勝朝まで降り続いた雨で路面コンディションが変化した状況に素早く対応してトップ争いを繰り広げた。トップを走るジャック・マシアを追い佐々木はチームメイトのダニエル・オレガドとの2番手争いが続いた。90度コーナーで先行されるも最終コーナーの立ち上がりで並び、チェッカーラインでは先行し2位を得て、ランキング2位も浮上する。
 チェッカー後には、日の丸を掲げて、ファンの声援に応えた、この日の丸は故加藤大治郎が2001年日本GPに勝利した時にウイニングランで使用したものだ。大治郎カップを主催するデルタ・エンタープライズから託されたものだ。
 

 
 同じ旗を小椋にも渡そうとしたが、オフィシャルへの連絡が上手くいかず、小椋は前述のようにオフィシャルから手渡され日の丸を持った。ふたりともポケバイ『大治郎カップ』出身ライダーで、ふたりにとって加藤大治郎は憧れの先輩ライダーだ。同じ旗を持ち、本当は勝ってウイニングランを狙ったが、共に2位。それでも、ファンの声援は大きかった。
「優勝まで届かず、大治郎さんの旗を身に付けるのは少し重みを感じましたが、チャンピオン争いの力を旗から頂きました。そして本当にありがとうございました」
 佐々木はX(旧Twitter)にコメントとともに映像をあげている( https://twitter.com/AyumuSasaki1/status/1709063540034977800
 先に決勝レースを終えた佐々木が、ピットから出て表彰台へと戻る小椋に駆け寄り、健闘を称えるシーンがモニターに写った。来季は、同じMoto2でのライバルとなる。小椋も長らく所属した『チームアジア』を離れ『MTヘルメット-MS』への移籍が発表された。育成枠からプロフェッショナルライダーへの一歩を踏み出す。
 

 
 MotoGPの中上も、Hondaでの契約延長が発表されている。日本GPでは予選18番手からスタートだった。直前の雨、コンディション悪化で赤旗中断、そのままレース成立の波乱のレースを走り切り11位となった。ホルヘ・マルティン(ドゥカティ)が優勝、2位にフランチェスコ・バニャイヤ(ドカティ)、3位にマルク・マルケスが入った。会見で「3位になり、気持ちが変わることがあるか?」との質問にマルケスは「とてもロマンティックな3位だった」と答えた。Hondaとの関係は「ライダーとメーカーというだけでのものはなく、それを超えた深いもの。様々な問題を一緒に乗り越えて来た」と語っていたが、契約満了を待たずにHondaを離れることが、第15戦のインドネシアで発表された。

 MotoGPが最高峰クラスであり、そこに重点が置かれすべてが集中している印象だった。MotoGPはスプリントレースが行われるようになり、「ハードな仕事が増えているのに、契約金は変らないのはおかしくないか」とのMotoGPライダーの声が聞こえた。ファビオは「MotoGPライダーに求められるフィジカルはハードで、常にトレーニングが必要だ」と語っていた。
Moto2、3の走行スケジュールはタイトになり、決勝前のウォームアップランも削られた。コンディションが変わっても、それを確認するのは3周で、アウトラップとピットインラップを考えたら1周しかない。その中で、ベストなセッティングとライディングを導き出す。ライダーにもチームにも求められる対応力のレベルが上がっている。
 世界を転戦する夢の世界GPは、年々そのハードさを増している印象だった。それでも小椋や佐々木がいつの日か、最高峰クラスのMotoGPを走る日を夢見ている。日本人で最高峰クラスのチャンピオンは、まだ、いない。

 今季は残り3戦、最終戦となる第20戦バレンシアGPは11月24~26日開催だ。
(●文:佐藤洋美、写真:赤松 孝)
 





2023/11/02掲載