ハーレーダビッドソンが、特別仕様車であるCVOファミリーの2モデルを一新。「CVOストリートグライド」と「CVOロードグライド」を発表した。これまで頑なにオーセンティックなスタイルとメカニズムを貫いてきたハーレーダビッドソンが、LEDテクノロジーや電子制御技術を搭載してきた。ここでは、その2台について紹介する。
排気量2000cc近くまで引き上げた、空冷OHVエンジンにVVT(バリアブル・バルブ・タイミング/可変バルブタイミング機構)システムなんて要るのか? ハーレーダビッドソン(以下HD)の新型車「CVOストリートグライド」と「CVOロードグライド」の発表を聞き、その詳細を受け取ったときに、そう思った。
ただちょっと気をつけておきたいのは、HDのCVOとは、通常ラインナップとは少し違う、いわば数量限定の特別仕様車である。「CVO(シー・ブイ・オー)」とはカスタム・ビークル・オペレーションの頭文字。通常モデルラインナップからは一歩踏み込んだ、新しい技術や素材、それに職人たちによる匠の技を投入したパーツの装着やペイントを採用したモデルだ。メルセデスベンツにとってのAMGやBMWにとってのMシリーズのような、プレミアムモデルといえばイメージしやすいかもしれない。かつては、メーカー純正カスタム、なんて呼ばれていたのも事実。たしかに、CVOの始まりは1997年であり、その最初のコンセプトは“純正カスタム”であったと記憶している。時代とともに、その表現はプレミアムモデルへと変化していったが、通常モデルラインナップからは一歩踏み込んだ特別なプロダクトでことが、その根底に貫かれている。
新しくなったのは、そのCVOの2モデル。「CVOストリートグライド」と「CVOロードグライド」だ。ストリートグライドとロードグライドは、HDがラインナップするツーリングカテゴリーのモデルだ。ともに大型のフロントカウルと、リアフェンダーと一体化した大型サイドバッグを持つ、アメリカでは“バガー”と呼ばれる人気モデルである。
ちょっと分かりづらいが、HDのツーリングカテゴリーには、ウルトラやロードグライドリミテッド、それにかつてのエレクトラグライドのように、大型のフロントカウル&サイドバッグを持ちながら、背の高いスクリーンと大型トップケースを持つモデルが存在する。それらは、HD的王道クルーザーだが、どこかオヤジ臭く、それでいて大きい。
だからというわけではないだろうが、我々がイメージするHDのツーリングモデルと言えば、地平線まで続く真っ直ぐな道をゆったりと流すのに適したバイクと想像してしまう。
それらに対して、スクリーンを短くカットし、トップケースを取り払って、ツーリングモデルなのに軽快で、若々しいスタイリングにまとめ上げたのが、ストリートグライドとロードグライドだ。違いは、見た目だけじゃない。軽やかなスタイリングと、それを好んだ若いライダーたちによって、ストリートグライドとロードグライドのオーナーたちは、とにかく飛ばす。クルーザーモデルは新しいユーザーを取り込むことで、その使い方/使われ方まで変えてしまったのだ。
そして使い方が変われば、求めるパフォーマンスも変わる。米国特有の、短い助走区間で高速道路に合流するために、エンジンは低中回転域の強力なトルクを必要とするし、ワインディングも好んで走る彼らにはレスポンスの良いエンジンも必要。さらにはその巨体でスポーツするために強靱なフレームとサスペンション、そしてブレーキシステムも要る。そうやってパフォーマンスを磨き、そこで拡大したマーケットにインディアン・モーターサイクルというライバルまで現れ、そこに負けられない戦いが生まれた。その究極の姿が、現在アメリカのロードレース選手権で人気を博している、排気量2000cc近い2気筒エンジンの市販バガーモデルをレーシングマシンに仕立てた「キング・オブ・ザ・バガーズ」と言えば、理解できるかもしれない。
したがってストリートグライドとロードグライドには、エンジンのチューニングパーツや、足周りの強化パーツなどが、市場に溢れかえっていると言うわけだ。当然、次期モデルは、パフォーマンスアップが求められる。
そのひとつの答えとして登場したのが、新型の「CVOストリートグライド」と「CVOロードグライド」だ。
注目はやはりエンジン。ミルウォーキーエイトVVT121と名付けられたそのエンジンは、排気量をHD史上最大の1997 ccに拡大。ロード、スポーツ、レインの3つのライディングモードと、各設定を詳細に変更できる2つのカスタムモードも搭載している。また空冷V型2気OHVという伝統的なエンジン形式は継承しながら、排気バルブ周りを水冷化して冷却効果を上げるツインクールド・システムを採用している。ツインクールドは2014年から一部モデルに採用。ミルウォーキーエイト・エンジンになってからも、一部モデルにツインクールド・システムを採用していた。新型CVOでは、その冷却水通路のレイアウトを変更。冷却効果の向上を狙ったものと言うより、効率化を図った結果だという。
またVVTシステムは、パンアメリカやスポーツスターSが搭載する、レボリューションマックスと呼ぶ水冷V型2気筒DOHCの新エンジンに搭載したVVTユニットそのものを流用。しかし吸排気それぞれのカムシャフトを個別に管理できたレボリューションマックスとは違い、ミルウォーキーエイトは2気筒の吸排気バルブを1本のカムシャフトで管理している。したがってそのカムシャフトに装着したVVTユニットは、吸排気すべてのバルブ開閉タイミングが連動して可変する。その効果はレボリューションマックス・エンジンよりは劣るものの、HDが想定した十分な効果を得られるという。
ここで冒頭の疑問へと辿り着く(前置きが長くてスミマセン)。そもそも排気量を2000cc近くにまで拡大すれば、それだけで十分な低回転トルクを得ることができ、くわえて高回転型ではないHDエンジンのキャラクターを考えればVVTのメリットがどこにあるのか、と。しかし試乗すると、その効果を明確に感じることができた。
エンジンおよびフレームや足周りといったプラットフォームを共有する「CVOストリートグライド」と「CVOロードグライド」は、いずれもエンジンの回転上昇がともに軽く、力強い。様々な変更によって最高出力も最大トルクも、従来モデルからおおよそ10%ほど向上しているが、その力強さよりもシフトアップ/ダウンによる加減速の滑らかさによって扱いやすさが増している感じだ。それは、エンジン形式がOHVからOHCへと変わったか!? と思うほど、大きな変化だった。バルブの可変タイミングはエンジン回転数を基準とするのではなく、速度やアクセル開度など走行条件を総合的に判断する。したがって、バルブ開閉タイミングの変化は、走行中にまったく感じられないほどスムーズだ。
これは、HDジャパンのエンジニアの方と話していたときに聞いた情報だが、VVTの大きなメリットはやはり排出ガス。バルブ開閉タイミングをコントロールすることで混合気を確実に燃やすことができ、それによって未燃焼ガスの排出を抑えることができると。また排気量が2000ccになると、トルクの谷だけでなく山も生まれ、大排気量のメリットを活かしたまま扱いやすさを追求するとVVTシステムは非常に有効だという。
またシャシー周りの進化も大きい。車体は、従来モデルに比べ15kgほど軽量化。前後サスペンションは高性能なSHOWA製。フロントには倒立フォークを採用するほか、リアサスペンションは従来モデルからストローク量を50%も増量し76mmを確保。ブレーキはブレンボ製で強化。フロントのダブルディスクブレーキはラジアルマウントのキャリパーを採用している。それらの総合的なパフォーマンスの向上により、軽さと扱いやすさが引き立っているのである。
さらにはLEDテクノロジーを駆使し、ストリートグライド/ロードグライドともに、新しいフロントフェイスを構築した。「CVOストリートグライド」は、バットウィングと呼ばれる、コウモリが羽を広げたようなフロントフォークにマウントしたカウル形状を一新。象徴的な丸型ヘッドライトを、LEDとのコンビネーションによる角型へと変更した。
シャークノーズと呼ばれるフレームマウントの大型カウルを装着するロードグライドは、風圧を受けるカウルをフレームに装着することで、軽快なハンドリングを造り上げ、より高い速度域での走行安定性や居住空間の快適性を追求し、瞬く間にHDのメインモデルへと成長した。サメの頭部のようなシルエットのそのカウルには二灯ヘッドライトが採用されていたが、「CVOロードグライド」その伝統を破り、最新のLEDテクノロジーを駆使したヘッドライトシステムを採用したにもかかわらず、どこからみてもロードグライドらしく、しかし新しさも感じるデザインへと進化していた。
風洞実験によって空力や、居住空間の快適性を追求したそれらカウルの中には、12.3インチTFTカラータッチスクリーンを装備。3種類のビューオプションでカスタマイズ可能で、Appleのいくつかの機能をスクリーン上で楽しむことができる。またRockford社製のFosgate Stage II 4スピーカーオーディオシステムを装備。新しい500W RMSアンプによってプレミアムサウンドも楽しめる。
空冷V型2気筒OHVエンジンを搭載していること、変わらずクルーザースタイルを貫いていることから、我々はHDを永遠に変わらない存在として認識している。しかしHDは変わり続けている。「CVOストリートグライド」と「CVOロードグライド」に試乗し、それを強く感じたのだった。
(試乗・文:河野正士)