スポーツランドSUGOでFIMアジアロードレース選手権シリーズ第3戦が行われた。SUGOでは昨年に続き2回目、梅雨時期の開催となり、天候を心配しながらのレースとなった。アジアロードにはレギュラーライダーの他、全日本ロードレースに参戦している選手も多数ワイルドカード参戦した。
昨年のASB1000では、デビューシーズンながら快進撃を見せていた埜口遥希(ホンダ)が、ダブルウィンを飾った。SS600は、ワイルドカード参戦の荒川晃大(ホンダ)がダブルウィンを飾り、日本人の強さを印象付けた。
■ASB1000
フリー走行では、今季からフル参戦を開始した#28マーカス・レイターバーガー(イギリス・BMW)が1分27秒884を記録してトップタイム、#73埜口遥希(ホンダ)は1分28秒246で2番手。2番手から8番手までが28秒台を記録して大接戦。予選は埜口が最終ラップに1分27秒610でポールポジションを獲得し、喝采を浴びた。2番手にマーカス、3番手にワイルドカード参戦の#104國峰啄磨が1分27秒972で、ここまでが27秒台となる。
●Race1(18周)
レースがスタートする頃にはどしゃぶりの雨は上がったが路面はウエット、多くのライダーがレインタイヤでグリッドに並んだ。そんな中、ワイルドカード参戦の#75前田恵助(ヤマハ)は「走行路面から湯気が見えた、これは乾いて行く。昨年の全日本ロードの開幕戦もてぎも似たような状況で3位まで追い上げた経験があっての選択だった」と確信を持ってグリッドでスリックへと履き替えた。路面はかなり濡れており、この決断は賭けに見えた。
前田は「序盤は本当にリスキーで何度も転倒しそうになったが、それでも、自分の決断を信じて攻め続けた」と、予選8番手から、ほぼ最後尾まで落ちるが、路面は前田の読みの通りに乾いて行く。
トップは國峰、それをワイルドカード参戦の荒川が追う。荒川は昨年の全日本ST600チャンピオンで今季からST1000参戦を開始している。埜口は5台の3番手争いを繰り広げる。國峰と荒川のトップ争いに#27カスマ・ダニエル・カスマユディン(マレーシア・ヤマハ)が追いつき、レース中盤には首位を奪った。2番手にはマーカスが浮上する。そして陽が射し始めた終盤に賭けていた前田が満を持し猛烈な追い上げを見せ、最終ラップには3番手まで浮上して前の2台に迫った。だが時間切れとなり、カスマが優勝、2位にマーカス、3位に前田でチェッカーとなった。
前田は「あと1周あったら勝てたと思うと悔しさが大きくなるけど、表彰台に立つことが出来て嬉しい。攻めきれたことを自信に、レース2は勝ちたい」と語った。
5位に代役参戦の#76伊藤勇樹(ヤマハ)が入った。昨年までアジアロードで戦ってきた伊藤を、元チームスタッフが祝福した。6位に國峰。7位に埜口、8位#54荒川晃大(ホンダ)、9位にワイルドカード参戦の#12秋吉耕佑(ホンダ)、10位に同じくワイルドカード参戦の#67豊島怜(ヤマハ)が入った。
●Race2(18周)
ドライコンデションとなり、マーカスがホールショットを奪い、埜口、國峰が続きトップグループを形成した。マーカスは、トップ争いから抜け出し2台を引き離し始める。埜口と國峰は2番手を争うが、埜口はレース中盤の1コーナーで転倒してしまう。単独2位となった國峰だが、國峰も終盤の3コーナーで転び、マーカスは独走優勝を飾った。2位には#23アンディ・ファリド・イズディハール(インドネシア・ホンダ)、3位に#1モハド・ザクワン・ザイディ(マレーシア・ホンダ)が入り表彰台に登った。
アンディとザクワンは元MotoGPライダーの玉田誠が監督を務めるホンダアジアドリームレーシング with SHOWAのライダーだ。アンディは元Moto2ライダーで、今季はオーデションでシートを勝ち取りチーム入り。ザクワンは昨年のチャンピオン。注目のふたりが表彰台に登った。
玉田監督は「アンディは、初表彰台だし、ザクワンも表彰台は最低限。ふたりが表彰台に登ったのは良かったと思うが、内容は全然ダメ、後半戦は引き締めて行く」と厳しい表情だった。
3番手争いを繰り広げていた荒川は悔しい4位。5位に豊島、6位に伊藤、8位に#85中冨伸一(ヤマハ)、9位に秋吉、10位に前田となった。
ARRC(全6戦)は3戦を終えて、今季からARRC参戦を開始したマーカスがランキングトップ。今季のチャンピオン候補の埜口はランキング2位、ザクワンが3位となった。
昨年、埜口はほぼARRCタイトルを手中にしながら、スポット参戦した全日本ロードST1000で追突されるというアクシデントでケガを負いARRC最終戦に参戦できなかった。最終戦の2レースを欠場してもランキング2位という結果が埜口の強さを物語っている。
今季、逃したチャンピオンを獲得する戦いに挑む埜口は「SUGOで、巻き返そうと考えていたのが、結果を残すことが出来なかったので、ここから、出直す気持ちで、細かい部分を詰めて行きたい。ライダーとしてスキルアップ出来るように、次戦まで積み上げていきたい」と語った。
ワイルドカード参戦の全日本勢の多くは鈴鹿8時間耐久参戦のため気持ちを切り替え、スズカへと照準を合わせて行く。
■SS600
今季からフル参戦を開始した#51阿部恵斗(ヤマハ)、#22南本宗一郎(ヤマハ)に注目が集まった。ワイルドカード参戦で全日本ST600参戦のヤマハ勢から#55長尾健吾、#17井手翔太、#64伊達悠太、#57西村硝。そしてホンダの#54伊藤元治が参戦した。
●Race1(15周)
ポールポジションは長尾、2番手に#32モハド・ヘルミ・アズマン(マレーシア・ホンダ)、3番手に西村が入りフロントローに並ぶ。スタート前に雨が降り始めスタートが切られ、1周目のS字立ち上がりで長尾が転倒、阿部が首位に立つが、レース中盤で赤旗が提示され中断。レース再開後、阿部が好スタートを切ると独走し、ARRC初優勝を飾った( https://www.facebook.com/reel/786412796496816 )。2位は南本と#41ナカリン・アティラプワパ(タイ・ホンダ)が争い、南本が突き放し2位。3位ナカリン。6位に伊藤、7位伊達でチェッカー。長尾、西村、井手はリタイヤ。
●Race2(15周)
南本を先頭に大きなトップ集団となり、南本が引っ張った。レース中盤には阿部、アズマン、#89カイルル・イダム・パウイ(マレーシア・ホンダ)の3台にトップ争いが絞られた。終盤には、阿部にカイルルが迫り、ふたりのバトルが焦点となる。阿部は首位をキープし、最終ラップ、最終シケインを抑え立ち上がるが、カイルルがスリップを抜け、並んでコントロールラインを通過、その差0.013秒差でカイルルが勝利、阿部は2位、モハドが3位となった。南本は4位、5位長尾、6位西村、7位伊達、8位井手となった。伊藤はリタイヤ。ランキングトップはカイルル、阿部は2位に浮上し、タイトルの可能性を引き寄せた。
阿部は「全日本のSUGOでも優勝、2位と結果を残すことが出来ていたので、ダブルウィンを狙っていました。レース1はたいへんな天候だったけど勝つことが出来た。ARRCは昨年のSUGOで代役参戦させてもらい、その走りを見てくれたチームがその後のレースもサポート、今季のフル参戦へと繋がりました。なのでSUGOでARRC初優勝出来たことは嬉しかった。レース2は、勝てたと思ったんだけど……。それでも、チームのみんなは喜んでくれました。タイトルも諦めずに戦います」と語った。
■AP250
#123レザ・ダニカ・アーレンス(インドネシア・ホンダ)が、レース1で優勝。フル参戦している#37井吉亜衣稀(ホンダ)は、マシントラブルが発生しストップ、23位で完走扱いにはなったが結果を残すことが出来なかった。ワイルドカード参戦の#79千田俊輝(ホンダ)が10位、フル参戦の#27石井千優(ホンダ)が16位なった。
レース2は#46ヘルジュン・アトナ・フィルダウス(インドネシア・ホンダ)が勝ち、井吉が2位に入り表彰台に登った。3位は#54ヴェーダ・エガ・プラタマ(インドネシア・ホンダ)となった。2位のライダーにペナルティがあり、繰り上げ2位の井吉は「最終ラップに転倒者があり、トップとの差が開いてしまい、勝負しきれずに終わってしまい悔しいですが、勝てるように頑張りたい」と語った。
石井は12位で目標のポイントゲット。ワイルドカード参戦の豊原由拡も15位。トップグループに加わり、速さを示した千田は転倒リタイヤとなった。
■TVSアパッチ
昨年から始まったワンメイクレースTVSアパッチ。レース1は、昨年に続き#16尾野弘樹がワイルドカード参戦し、圧倒的な速さで優勝。フル参戦している#3田中風如が5位。ワイルドカード参戦の#17中原美海が10位となった。レース2も尾野弘樹がトップに立つがマシントラブルリタイアでダブルウィンならず。3位争いを繰り広げた田中が、競り勝ち3位。中原美海は9位となった。
田中は「どうしても3位が欲しかったので、いつもはしないブロックをシケインでして、確実に表彰台を狙いました。昨年は上がることができなかった表彰台に、どうしても登りたかった。次は勝てるように頑張りたい」と意欲を見せた。
アジアロードレース選手権は、1996年に最初に組織され、1997年に国際モーターサイクリズム連盟(FIM)の承認を受け発展している。ライダー、チームのスキルだけでなく、オーガナイズ組織、映像、PRとレベルアップされている。全日本を憧れとして始まったが、今では全日本が学ぶことがあるのではと感じる大会へと成長している。
(レポート:佐藤洋美、写真:赤松 孝)