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試乗・解説

いつまでも「別格」 いつかは乗りたいゴールドウイング
■試乗・文:中村浩史 ■撮影:松川 忍 ■協力:ホンダモーターサイクルジャパン https://www.honda.co.jp/motor/ ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、クシタニ https://www.kushitani.co.jp/




実はZ1をやっつけろ、とデビューしたGLは
「新しいツーリングバイク」という市場を開拓し
特にアメリカで圧倒的人気を獲得した。
日本への本格投入は88年。
決して大人気にはならない、
いつまでも「別格」のツーリングバイクだ。

CBナナハンを倒したZ1をやっつけろ、のはずが……

 車両重量が389kg、全長が2m61cm、排気量は1.8L……久しぶりに見るゴールドウイングって、やっぱりデカい。低く長い車体にモノがびっしり詰め込まれていて、しかも現行モデルはトップケース&パニアケース付きのTour一択だから、巨体も巨体。ちなみに、同じくいつもデカいなぁ、と思わされるCB1300、そのスーパーボルドールだって、重量272kg、全長は2m20cmだ。ゴールドウイングは、それより110kgも重い、40cmも長い!
 ゴールドウイングに初めて乗ったのは90年頃。水平対向6気筒エンジンを初採用した1500cc時代で、アメリカホンダ生産で日本に「輸入」という形で正規販売され始めた頃。やっぱりあの時も「デカい! 重い!」というのが第一印象だったけれど、それと同時に「速い! こんなにエンジンに力あるんだ!」って思ったのも覚えている。
 あれから四半世紀。相変わらずゴールドウイングはデカい! 重い! でもそれを補って余りある力があるバイクだ。
 1500ccの初期型、1800ccの初期型には乗っていて、それをモデルチェンジごとに乗り比べたわけではないけれど、25年前に初めて乗った1500ccから、いま乗る1800ccは、同じものがすごく完成度を上げた――という感じ。今さらながらに、初期1500ccの完成度は高かったんだなぁ、ってのと同時にね。
 

 
 このゴールドウイングの初期モデルは、1975年モデルのGL1000。69年に発売されたCB750FOUR(=ナナハン)がアメリカでも一大ブームを巻き起こし、打倒ナナハンとしてデビューしたカワサキ900スーパーフォア(=Z1)がナナハンを凌駕。最高のバイクを意味する「Super Bike」と称されたZ1を打倒しようと、ホンダが開発したのがGL1000だったのだ。
 Z1をしのぐ1000ccの排気量を持ち、同じ4気筒でも水冷方式、さらに低重心の水平対向レイアウトを採用。しかしそのGL1000は、ナナハンやZ1をしのぐスーパーツーリング性能が評価され、まったく新しいマーケットを切り拓いてしまった――そんなモデルなのだ。
 GL1000がアメリカで大人気を博したことで、ヤマハもスズキもカワサキも、ゴールドウイング的フルドレスツアラーを発売。ヤマハ・ベンチャーロイヤル、スズキ・カバルケイド、カワサキ・ボイジャーは、日本ではそうメジャーな存在とはならずに消えていった。今ではゴールドウイングだけが、このセグメントを独占している、と言ってもいいのだ。
 

 
 最新モデルのゴールドウイングは、126psを発揮する1800ccエンジンを搭載し、ノークラッチの7速DCT仕様のみ。ツアー/スポーツ/エコノミー/レイン4つのパワーモードが選べる、アイドリングストップ、トラクションコントロール、クルーズコントロール、電動サスペンション(プリロードアジャスト)コントロール、コンバインドABSブレーキ付きの、とにかく長距離長時間の移動を快適に、ラクにしたいバイクなのだ。

 パワー&トルクが強力なのは相変わらず。シルキー6とはいえ、ヒューンと振動なく回るのではなく、ガサガサッとパルスをともなった回り方で、アクセルを不用意に開けるとグン、とくる。特に、パワーモードを「スポーツ」にするとレスポンスがすごく、DCTのシフトアップポイントも高くなる。まるでスーパースポーツ、俊敏すぎて、街乗りではちょっと乗りづらく感じるほどだった。
 いきおい、普段使いは「ツアー」モードで。DCTの変速タイミングも自然で、アクセル微開からのスピードのノリが気持ちいい。この時には、もうヘビー級バイクの重さは感じずに、赤信号で停止するとき、青信号で発進する時、その瞬間に一瞬グラッとくるくらい。これも慣れたら苦にならなくなる。コツはあれだね、発進時も停止時も、リアブレーキを少し引きずるといい。グラッとするシーンがすごく減るから。
 きっとゴールドウイングに乗ったことがない人が心配するのが、取り回しのこと。もちろんデカい、重いゴールドウイングだけれど、それ用に微速前進&バックギアがついている。左ハンドルスイッチで微速移動スイッチをONにして、DCTのシフトアップボタン「+」が微速前進、シフトダウンボタン「-」がバックギアだ。
 普通のバイクのように車両の横に立って取りまわす、っていうのは慎重に慎重に。しかもデカくて重いから、たとえば車庫入れ、駐輪スペースに入れるときなんて、ハンドルしっかり持って、お尻をぴったり車体に沿わせて、微速前進、微速後退。もちろん、ラクラクってわけにはいかないけれど、数回やればコツがつかめて慣れるものだ。決して簡単じゃないけどね。
 

 
 そんなスーパーヘビー級ボディだけれど、高速道路に乗り入れたら、これはもう本領発揮だ。スピードを求めない、快適な長距離移動となると、実はヘビー級ボディの方がラクだ、って経験はみんな知ってるはず。高速道路を走るのだって、250ccよりも750cc、1000ccのボディの方がいい。もちろん、排気量やパワーよりも、この時はほどほどの車両重量があった方がいいのだ。軽自動車よりも3Lクラスのセダンの方が、長距離クルージングが快適なのと近いのかもしれないね。
 ならば国産モデル最重量モデルのゴールドウイングは国産モデル最高のツーリングバイクということになる。それはきっと、シーンによってはウソじゃない。東京から北海道まで自走せよ、と言われたら、真っ先に選びたいバイクの1台だから。
 

 
 クルージングスピードまでの加速は相変わらず力強い。アクセルを大きめに開けると、DCTのつながりもさらにスムーズになる。水平対向6気筒は、他のどのバイクにも似ていない咆哮を響かせながらアッという間に80km/h、100km/h、120km/h。ゴールドウイングの加速力はちっとも衰えないから、120km/hがOKな区間でクルーズコントロールをON。すると、アクセルを握る右手もフリーになり、いよいよゴールドウイングの世界に没入できる。
 この時のフィーリングが、やっぱりゴールドウイングだ。ヘビー級のボディは、路面にびたりと貼りつくように走り、路面のうねりやギャップも、前後のサスペンションがゆっさりと吸収してくれる。シートが低く、重心が路面に近いから、本当に滑るように走り続けるのだ。
 レーンチェンジでは、曲げようというアクションを起こすと、フロントホイールの絶対的な安定感が変わらないままズ~ンと移動。決してクイックではないけれど、鈍重でもない。これは130mm幅のフロントタイヤの特性もあるのだと思う。
 クルージング中は圧倒的に快適だから、ついついいらんことも始めてしまう。スクリーンを上下に動かしてみたり、標準装備のラジオスイッチも入れて、スピーカーから音を出してみても、120km/hでは風切り音もあってほとんど聞こえず。80km/hくらいだったらきちんと耳に入ってきたから、アメリカのハイウェイで55mph(=約90km/h)で走るのにちょうどいいセッティングになっているんだと思う。
 

 
 ワインディングに踏み入れてみると、決して得意ではないけれど、スピードをコントロールすれば、さほど持て余すほどでもないのがよくわかる。このホイールベース、この重量を考えたら、なんと自然なハンドリングか。圧倒的安定感をベースに、ライダーの入力にきちんとダイレクトで、加速は言うに及ばず、ブレーキングでも390kgを持て余すことは少ない。
 圧倒的安定感はこの重心の低い水平対向エンジンのおかげだし、バンクやコーナリングの切り返しでも、この重心の低さでビタッと安定したフィーリングがある。重心が低すぎると、切り返しのシャープさが出ないものだけれど、ゴールドウイングはこれでいいのだ。ハンドリングの軽やかさと安定感を、安定感寄りにきちんとバランスさせているのだ。
 

 
 たっぷり乗り込んでみて、やっぱりゴールドウイングは、高速道路をずんずんと移動するバイクなんだと思う。長距離はもちろん、それがタンデムだと、パッセンジャーは最高に快適だし、荷物を満載する、そして雨が降ってくる、夜になって暗くなる、寒くなる――そうやって、条件がどんどん悪くなるごとに、真価を発揮するのだ。
 ビッグネイキッドとは違うし、もちろんアドベンチャーとも違う。カテゴリーに収まりきらない、何にも似ていないのが「ゴールドウイング」というカテゴリーなのだ。
(試乗・文:中村浩史、撮影:松川 忍)
 

 

唯一無二の水冷水平対向6気筒エンジン、しかも1833cc! バックギアと微速前進モードつきのアイドリングストップ機構付き7速DCT仕様のみで、旧モデルにあったマニュアル6速も廃止された。パワーモードはツアー/スポーツ/エコノミー/レインの4モードで、国内市販車最高の17.3kg-mを4500rpmで発揮する。

 

衝撃吸収と操舵機能を分離する、4輪に使われているようなダブルウィッシュボーンサスペンションを採用。ハンドリングはごく自然で、この重量車に対応できる強度剛性を確保。ブレーキはセミラジアルマウントと言える方式でキャリパーを締結、ABS付きの前後連動で、パーキングブレーキも採用している。

 

フルカバードの外装パーツに隠されたフレームは、アルミツインチューブ構造。ライダー&パセンジャーの搭載位置や、リアトランク容量を考えてのフレームワークとしている。リアサスの別体式アッパーマウントや、フロントにダブルウィッシュボーンサスペンションを採用したことで、フレームへの応力を低減している。
エンジンの重低音が味わえる2本出し=3in1×2本出しマフラー。車体下で連結するレイアウトで、ボディパーツに沿ったデザインは、バイクのマフラーという機械っぽさを感じさせない高級乗用車的だ。

 

上にロービーム、下にハイビームとデイライトランプを備えた上下分割式のLEDヘッドライト。左右に張り出したシリンダーの前方にもフォグランプを標準装備。高級感あふれるパーツデザインが徹底されている。
バックレスト、アームレストを備えたタンデムシート。ライダーシートとは別系統のシートヒーターも標準装備で、シートにビルトイン式スピーカーも。世界一快適なタンデムシートかもしれない。

 

スマートキーを持って近づくと、ボタン操作のみで開閉する、車体左右に装備されたパニアケース。ダンパー付きで開閉もスムーズ、写真の車体左パニアにはETC車載器も標準装備されている。
ヘルメットが左右2個並べて収納できるトップケース。これもスマートキーを持って接近するとボタンで開閉できるロックで、写真はジェットヘルだが、突起物のないフルフェイスも収納できるスペースだ。

 

左ハンドルのスイッチで無段階に高さを上下させられる電動スクリーン。Hi位置ではヘルメット全体に走行風は当たらず、Low位置ではヘルメット半分くらいに走行風が当たる感じだった。

 

標準でAM/FMラジオが採用されているほか、iphone/アンドロイドともスマホとケーブル連結してディスプレイに表示できる。ラジオやスマホの音楽プレイヤーをヘッドフォンに飛ばすのはもちろん、やはり大きいのは写真のようにナビを表示できることで、この機能を持つバイクは国産モデルでは数機種のみだ。

 

ディスプレイは電子制御セッティング画面で1人/1人+荷物/2人/2人+荷物と4つのモードにリアサスのプリロードを設定できる。サスセッティングはメーター画面右下に表示され、写真の状態は1人乗りモードだ。ディスプレイは電子制御セッティング画面で1人/1人+荷物/2人/2人+荷物と4つのモードにリアサスのプリロードを設定できる。サスセッティングはメーター画面右下に表示される。

 

タンクカバーと左ハンドルスイッチで各種設定をコントロールできる。オーディオボリュームやスクリーン上下、ディスプレイ切り替えを調整でき、ウィンカーボタン下が微速前進とリバーススイッチとなっている。

 

●Gold Wing Tour 主要諸元
■型式:ホンダ・2BL-SC79 ■エンジン種類:水冷4ストローク水平対向6気筒OHC(ユニカム) ■総排気量:1,833cm3 ■ボア×ストローク:73.0×73.0mm ■圧縮比:10.5 ■最高出力:93kW(126PS)/5,500rpm ■最大トルク:170N・m(17.3kgf・m)/4,500rpm ■全長×全幅×全高:2,615×905×1,430(スクリーン最上位置1.555)mm ■ホイールベース:1,695mm ■最低地上高:130mm ■シート高:745mm ■車両重量:390kg ■燃料タンク容量:21L ■変速機形式:電子式7段変速(DCT) ■タイヤ(前・後):130/70R18M/C・200/55R16M/C ■ブレーキ(前/後):油圧式ダブルディスク/油圧式ディスク■車体色:グラファイトブラック、ベータシルバーメタリック(ツートーン)、パールグレアホワイト ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):3,465,000円

 



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2023/07/11掲載