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試乗・解説

Kawasaki ELIMINATOR 『新生ELIMINATORにみた 今、そしてこれからのバイク像』
■試乗・文:松井 勉 ■撮影:富樫秀明 ■協力:カワサキモータースジャパンhttps://www.kawasaki-motors.com/ ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、SPIDI・Xpd・56design https://www.56-design.com/




過去と同じなのは名前だけ。W800やZ900RSの成功例に照らせば、だれもがその名に反応したはずだ。しかしカワサキはこの新しい400クルーザーを名前こそ拝借したが、かつてのエリミネーターが持っていた2気筒クルーザーに対するアンチテーゼ的強烈スポーティキャラではなく、誰もが楽しく安心してバイクの世界に飛び込めるようなパッケージとして投入したのだ。標準モデルとも言えるエリミネーターと、濃い目にカスタムしたエリミネーターSE。ETC2.0標準装備化やSEに標準装備されたドライブレコーダーも話題だ。親しみやすいエンジン、735mmという低いシート高。
復活ではない新生エリミネーターをちょい乗りした印象は、なるほど、カワサキの狙いがストレートに刺さるのだった。

 カワサキが展開するエリミネーターの特設サイトを見ても「さあ走りだそう」「両足べったりの安心感」「堂々としたLow&Longボディ」「パワフルなのに優しい398㏄パラレルツイン」等々、誘い文句に感じる柔らかさ。ドラッグマシンをデザインソースにし、ニンジャと同系のパワフルな4気筒エンジンを搭載した初代が持つイメージとは異なるのが解る。その点では250のエリミネーターが持っていたフレンドリーさを現在の環境対応、パワーよりもガジェット、というような視点からユーザーが求めるものをしっかりと封入したとも考えられるのがこの新型なのだ。
 初めてのバイク、誰でも乗りやすいバイク、楽しいバイクを目指したコトを伝えたいという意図が伝わる。モーターサイクルショーで展示されたそのスタイルも、そうした部分を融合させたパッケージだったことが解る。それに、Ninja、Zにも搭載される同系のエンジンから想像しても考えただけで乗りやすさが頭に浮かぶ。
 Ninja400、Z400でも体験したカワサキのこのエンジンは素晴らしく扱いやすい。180度クランクを持つパラレルツイン(並列2気筒)は低回転域から過不足のないトルクを乗り手に提供する。なによりアクセルワークに寄り添うように紡ぎ出す印象はビギナーからエキスパートまで誰でも扱いやすさを体験できるものだった。
 

 
 エリミネーターのスタイルは低く長い。ことさらコンパクトさを主張しないが、12リットルと細身の燃料タンクをバイクの上部に据えているので、全体像のスリムさが伝わるのと同時に、トップの軽さで走りの親近感も伝えてくる。タイヤサイズもフロントに130、リアに150をチョイスするなど、ファットでマッシブ、パワフルというワードは飛び込んで来ない。でも、しっかりクールさは伝わってくる。
 開発をしたエンジニアもその点では明解で、「安心して楽しめるバイクライフをだれもが楽しめるような一台にまとめ上げた」と言う。名前もカワサキの歴史の中から、バルカン、エリミネーターなどいくつか候補が上がったなかで、イメージとしてはエリミネーター、しかし尖った性能の部分ではなく、クールなスタイルの部分をカワサキDNAとして盛り込んだようだ。
 

 

プレーンな味?
いや、しっかり磨かれた完成度。

 メタリックフラットスパークブラックのエリミネーターが目の前にある。キラっとしたラメを適量散りばめたつや消しブラックの外装は引き締まって見える。軽ぅ!サイドスタンドから引き起こしたときその言葉が口をついた。176㎏の車重、低くまとまった車体だけにハンドルバーを持って起こした動作が、あたかも誰かが手を貸してくれたように感じたのだ。
 シートに腰を据え、手を伸ばすと左右のハンドルグリップは自然な位置にある。ステップも同様。ラバーで覆われた丸いステップはクラシカルでもあり乗り心地がよさそうな印象でもある。クルーザーという印象よりもプレーンな乗り味のバイクを予感させた。
 エンジンは振動成分が少ない印象で、軽い操作力のクラッチレバーをそろりと繋ぐと車体はフワッと押し出された。アイドリング程度の回転からアクセルを開けていくと、グルルルルとおしとやかに加速が始まる。40km/hから45km/hあたりで5速、50km/hでは6速にシフトできるトルクとしなやかさを持っている。
 

 
 すぐに自動車専用道路にアクセス。ランプのカーブを回って行く時も自然なハンドリングで130サイズのフロントに重さ、だるさという部分がない。リアとのバランスもよく切れ込むような仕草もない。バンク角は適度で浅くないようだ。本線に向けて加速する。5速のままアクセルを開くと吸気音がスパイスとなり心地よい力強さを体感できる。巡航速度に達して6速へシフト。走行風圧をそれほど感じないで済むのは、上体が気持ち前に傾けられるハンドルポジションだからだろうか。少しペースを上げても風にあおられることもなく日帰りツーリングに高速道路を多用してもいけそうだ。
 この点で400という排気量はゆとりをもたらす。追い越し加速を瞬殺でするほどではないが、必要にして充分なパワーがある。ちなみに高い回転まで加速感がたるまないこのエンジン、その気になれば3速までシフトダウンして加速を楽しめる。そんなことをしたくなるタイプのバイクではないが、実力はしっかり持っている、という報告だ。
 

 
 一般道のツーリングでもゆとりのあるエンジンはライダーに楽をさせてくれる。左右に切り返すカーブでもハンドリングは安定感と自由度を上手く併せ持つ。減速をするブレーキも操作感と減速力のバランスがよく、安心して前後とも使いこなせた。今回、短い時間での試乗の中でエリミネーターの完成度はしっかり味わえた。唯一、Uターンしたときにハンドル切れ角があと少しあれば、という場面があった。ソコだけが大柄なバイクに感じてしまう。それぐらいだろうか。スマホのアプリを使ったコネクティビティの検証も出来なかったが、RIDELOGY for Kawasaki SPINとBluetooth接続することでメール、電話の着信通知等の他、メンテナンスまでの距離などバイクからの情報をスマホで見ることもできる。むしろ必須項目とも言えるパートもしっかり装備されている。
 これからバイク、気軽に乗りたい、リターン、もう一台等々、400がもたらす軽さ、気軽さが魅力のエリミネーターだったのだ。
(試乗・文:松井 勉、撮影:富樫秀明)
 

 

ライダーの身長は183cm。写真の上でクリックすると両足着き時の状態が見られます。

 

 

エキゾーストパイプはステンレス製、熱が入り焼け色も楽しめる。エンジンを吊り下げるスタイルのフレームは高張力鋼を使ったもの。高速道路、一般道問わず安心感のある乗り味をもたらした。エンジンが持つ過不足のなさ、ゆとりは400㏄という排気量がもたらす美点だと言える。ソールからの振動を効率的にキャンセルしてくれるラバーステップもよい仕事をしている。クラッチの操作力の軽さ、リンクを使ったシフトペダルとエンジン内部のギアボックスの操作感の良さなど細かく磨き込まれた丁寧な開発がされている。400㏄に対して5.8リットルと大きなキャパシティーをもたせたエアクリーナーボックスからダウンドラフト形状のインテークから燃焼室に吸気を送り込む。スロットルバルブはφ32mm。インジェクターの配置も吸気ポートに近づけている。冷却系のパイプも目立たないように配置している。

 

φ310mmのディスクプレート、2ピストンキャリパーのフロントブレーキ。18インチのホイールと130/70-18サイズのバイアスタイヤを組み合わせる。フロントフォークはφ41mmのインナーチューブを持つ正立タイプ。
リアブレーキはφ240mmのディスクプレートと片押しタイプのキャリパーを組み合わせる。1520mmと長いホイールベースを持つエリミネーター。このリアブレーキの効き方が速度調整の時に信頼をもって使うことができた。

 

楕円形のサイレンサー本体は路面と平行に配置されクルーザーが持つロー&ロングなスタイルに一役買う。音量は控えめながらツインエンジンらしい排気音はしっかりとライダーの耳に届く。2本備えたリアクッション。プログレッシブレートのスプリングを使っている。乗り心地は上々。

 

φ130mmと小ぶりなヘッドライト。点灯時は上部がロー、下部がハイという並び。スイッチをオフにしている時、光の加減でライト上部がまるでスモークがかかったように見えることがあった。

 

735mmという低いシート高が安心感を届けるエリミネーター。シート高を低く抑えつつシートフォームは乗り心地を考慮して必要な部分にしっかりと肉厚を持たせている、とは開発者。サスペンションとシートの協調で乗り心地を生み出している。オプションでは30mm高いハイシート、20mm低いローシートも用意される。シートはキー操作で脱着可能。シート下にETC2.0の車載器本体がある。

 

12リットル容量の燃料タンク。レギュラーガソリン指定だ。
短く切り詰めたリアフェンダー本体とナンバープレートホルダーを兼ねた延長フェンダーを付けることでイメージをスポーティに仕立てている。テール、ウインカーはLEDを使う。

 

単眼式のメーターパネルはLCDモニター。速度、エンジン回転、ギアポジション、時計、オドメーター、トリップメーター、燃料計、平均、瞬間燃費、メンテナンスリマインダーなどを表示するほか、Bluetooth接続したスマホから電話、メール着信の通知も表示するする。モード、設定などの変更機能を持たないためスイッチ類はシンプルにまとまっている。

 

●エリミネーターSE オプション装着車

 

 

 

写真はオプションのバッグ等を装着しているが、装備を充実させたSEモデル。ヘッドライトを覆うカウルとその装着のためにフロントフォークに取り付けたステー、フロントフォークブーツ、専用カラーリング、USB-C電源ソケット、専用表皮のシート、GPS機能をもつドライブレーコーダーを備える。記録用カメラは車体前後に配置。ドライブレコーダー用の配線コネクターなど標準装備として車体のワイヤーハーネスにあらかじめ盛り込まれている。これはSE専用のハーネスで、標準車にはそうしたコネクターなどは備えないという。

 

●ELIMINATOR [ELIMINATOR SE] Specification
■エンジン型式:8BL-El400A ■エンジン種類:水冷4ストローク並列2気筒DOHC4バルブ ■総排気量:398? ■ボア× ストローク:70.0×51.8mm ■圧縮比:11.5 ■最高出力:35kW(48PS)/ 10,000rpm ■最大トルク:37N・m〔3.8kg-m〕/8,000rpm ■変速機:6段リターン ■全長× 全幅× 全高:2,250×785×1,100[1,140]mm ■ホイールベース:1,520mm ■シート高:735mm ■タイヤ(前・後):130/70-18M/C 63H・150/80-16M/C 71H ■車両重量:176[178]㎏ ■ブレーキ(前・後):油圧式シングルディスク・油圧式シングルディスク ■燃料タンク容量:12L ■車体色:メタリックフラットスパークブラック、パールロボティックホワイト [メタリックマットカーボングレー×フラットエボニー] ■メーカー希望小売価格(消費税10% 込み):690,000 [858,000]円 ※[ ]はELIMINATOR SE

 



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2023/05/26掲載