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試乗・解説

千里の馬だが実に従順 GSX-R1000Rを公道で楽しむ
■試乗・文:濱矢文夫 ■撮影:鈴木広一郎 ■協力:SUZUKIhttps://www1.suzuki.co.jp/motor/ ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html KADOYA https://ekadoya.com/ 




スズキの直列4気筒スーパースポーツ、GSX-R1000R ABSはどんなバイクなのか。200馬力にせまるその実力を全部使えるシチュエーションではないストリートでも楽しめるのか。機会的な能力だけにスポットを当てず、その部分を語りたいと思う。

進化し続けてきたスポーツ性能

 いやはや、これはヨンヒャクだと説明されても納得ができそうなくらいコンパクトだ。何を今さら、最近のフラッグシップスーパースポーツなんてそんなもんだと言われるかもしれないけれど、その中でもGSX-R1000R ABSのコンパクトさは際立っている。それでいて最高出力が145kW〈197PS〉 / 13,200rpmで最大トルクが117N・m〈11.9kgf・m〉 / 10,800rpmというエンジンスペックなのだから。80年代からライダーをやってきた私としてはバイクの進化に対して感慨深いものがある。
 

 
 最たるものが電子制御技術の進歩だ。ピッチ、ロール、ヨーの3次元の動きを計測する3軸6方向のIMU( Inertial Measurement Unit)を使いバイクの状態をリアルタイムで検知。それに加えてスロットルポジション、クランクポジション、エンジン回転数、ギアポジション、前後の車輪速度、排出ガス中の酸素濃度をセンサリング、それをもとに金属のワイヤーではなく電子制御になったスロットルバルブの開閉をコンピューターでコントロールして、動いているバイクに合わせた効果的なエンジン制御をする。

 それについてひとつひとつ乗ってどう具体的な影響を及ぼしているかをストリートで普通に走っていて感じるところから語るのは難しい。それほど裏方として自然な乗り味を作り出している。はっきり言えるのはGSX-R1000Rは公道で流して走っていてもストレスがないほど乗りやすいということ。メーカーの最新スペックが詰まったこのスーパースポーツカテゴリーの中でGSX-R1000Rのこの能力はトップクラスと断言できる。

 前傾姿勢になるライディングポジションが楽とは思わないが、車体と身体とのフィット感が良く、ニーグリップもしやすいし、ハンドルを握る腕からから余計な力を無理なく抜ける。それによって手の内に収まっているような感覚で操縦できるおもしろさ。とはいえ人によってはその姿勢がストレスとなるかもしれないけれど、ネガティブに感じるかもしれない要素はその部分だけではないか。1日乗っていて他にストレスになるような部分が見当たらない。私はこれで長距離ツーリングも気にならない前傾姿勢が好きなライダーというのもあるが。
 

 

公道では手に余る、という都市伝説

 サーキットでもライバル相手に戦える使命を背負い、スズキがMotoGPで培ったテクノロジーを入れ込んで作ったスポーツ性能にとことんこだわった機種。だから、「そんな性能、公道では手に余るでしょ」って予定調和みたいなこともしばしば耳にする。はっきり断言したい、それはないから。そりゃあ事実として高速でもワインディングでも街中でも右手を大きくひねると「うはぁ」というすごい加速をして、メーターは簡単にとんでもないスピードを表示してしまう実力を持つ。しかし、この高い性能を使い切る必要なんてなく、シャカリキに走らなくてもそのスポーツ性能は味わえるし、もし手に余るならば、それは周りの状況や自らの運転技量に合っていない領域に入っているということではないか。その加減をするのがライダー。GSX-R1000Rは千里の馬だが実に従順なのだから。
 

 
 試乗した日は冬本番中で外気温はヒトケタ、山のワインディングではいっそう寒かった。ちょっとやそっとでタイヤは温まらず、ペースをおさえて流すように乗ってもスムーズで純粋に走るのが楽しい。「もっと飛ばせ」と強く背中を押してくるような強迫観念めいたところはなく、確かに前後のサスペンションはツーリングみたいな速度では、もっと高荷重を狙ったセットに感じたけれど、それでも路面が荒れた細い峠道でもタイヤのグリップがグリップを失うことに不安を抱かずに水の上を流れるように走っていけた。それでも軽いフットワークでコンパクトな旋回を安定しておこなえる動きは気持ちいい。

 遠心力を使った可変バルブシステム、SR-VVTや、1番、4番のインテークが低回転でトルクを出す長いインテーク、高回転で短いインテークのように働くS-DSIなど速さを追求した最新の機械的な機構がふんだんに盛り込んである。ある意味でスズキの二輪技術の結晶のような機種。だけどとにかく低回転域からトルクが出て、どんなシチュエーションでも乗りやすい。A、B、Cと3つあるドライブモードを切り替えるとフィーリングははっきり変わる。でもいちばんレスポンスがいいAでも御せないほどではない。皮膚が痛いほど寒くて、凸凹や起伏があり、場所によっては土も載っているよくある田舎の普通の一般道だから、10段階調整ができるトラクションコントロールを少し介入する方向にふると安心できた。
 

 

乗り手を選ぶという考えは捨てよう

 ハンドル切れ角も大きいとは言えないからビギナーだとUターンは少しやりにくいけれど、楽しく乗れないなんてないし、危ないこともない。逆にサスペンションもブレーキなど全体の機能が素晴らしい分が味方にもなってくれそうなくらい。ただし、ひとたびアクセルをワイドオープンするととんでもないスピードが出るのだから、自制心は必要だ。これぞ上位互換。ライディングポジションさえ気にならないなら、普段使いもできる。高速道路を使ってカントリーロードまで走っていったが、高速域のスタビリティにも当然ながら不安なんてない。同じスズキのハヤブサほど楽に突き進むどっしり感とまではいかないけれど、問題はまったくない。
 

 

終わりがあるなら新たな始まりに期待する。

 だが、このGSX-R1000Rは現在生産終了モデルとなった。1985年の油冷GSX-R750登場に驚き、その後1986年式GSX-R750を手に入れ走り回り、仕事として歴代の機種に乗らせてもらう機会があったGSX-Rファンと言える私としては、フラッグシップGSX-Rがスズキのラインナップから消えているのはせつない。GSX-Rシリーズはサーキットだけでなく、それと同じくらいストリートでのおもしろさも大切にしてきた。そのアイデンティティとも表現できるものは最新かつ今は最終になっているこの機種にも間違いなく継承している。また新型として復活してくれると信じているから惜別の情は強くないけれど、現状としては寂しいことにこれが最終モデル。これを書いている時点の最新最後モデルに乗って、また優れたGSX-Rが登場することに期待は膨らむ。
(試乗・文:濱矢文夫、撮影:鈴木広一郎)
 

 

●GSX-R1000R ABS 主要諸元
■エンジン種類:水冷4ストローク直列4気筒DOHC4バルブ ■総排気量:999cm3 ■ボア×ストローク:76.0×55.1mm ■圧縮比:13.2 ■最高出力:145kW(197PS)/13,200rpm ■最大トルク:117N・m(11.9kgf・m)/10,80rpm ■全長×全幅×全高:2,075×705×1,145mm ■軸間距離:1,420mm ■シート高:825mm ■装備重量:203kg ■燃料タンク容量:16L ■変速機: 6段リターン ■タイヤ(前・後):120/70ZR17M/C・190/55ZR17M/C ■ブレーキ(前/後):油圧式ダブルディスク(ABS)/油圧式シングルディスク(ABS) ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:トリトンブルーメタリック×ミスティックシルバーメタリック、マットブラックメタリックNo.2×グラスマットメカニカルグレー、マットブラックメタリックNo.2 ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):2,156,000円

 



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2023/05/22掲載