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試乗・解説

ディスコンティニューが発表されたGSX-R1000R。「辞めてしまうのか」「大切なブランドなのに」「アイデンティティを捨てる行為だ」などと残念がる声も聞こえるが、だからこそ今この最終型を(買える人は)買うべきだ。ありがとうGSX-R、貴方は最後まで偉大でした。
■試乗・文:ノア セレン ■撮影:鈴木広一郎 ■協力:SUZUKI ■ウエア協力:アライヘルメット、KADOYA

正しい判断

 2001年にGSX-Rの1000シリーズがスタートした時、それは衝撃的なことだった。ライバルを時代遅れにするパフォーマンスを持ち、それでいてGSX-Rの名に恥じない包容力もあり、サーキットでも公道でも最高のスポーツ性で多くのライダーを魅了した。 
 そろそろ時効だろうから敢えて触れたいが、あの最初のGSX-R1000の性能を世界に示した一つの事柄は、ストックホルムの公道を300km/hオーバーで激走したゴーストライダーではないかと思う。真っ黒のGSX-Rで命知らずのスリ抜けを繰り返したあの映像で、たった百数十万円で誰でも買えるバイクがこんなにも速いのか! という事実を、世界中のライダーに実感として植え付けたのではないだろうか。ライダーの狂気はともかくとして、「GSX-Rスゲー!」が、青年だった筆者には強烈に刷り込まれた。

 あれからもう22年が経った。インターネットは誰もがポケットに持っているものになり、ゴープロは高性能化し、YouTubeは娯楽ではなくビジネスに。ドラレコが一般化し、度を越した法外な行為は瞬時に多くの目に晒される社会になった。当然、22年前も「度を越した法外な行為」は許されるものではなかったが、とはいえ、そんな行為を面白がるような昭和的風潮も残っていたように思うし、そこにGSX-Rとゴーストライダーはフィットした。
 その後スーパースポーツはまさに「度を越した」高性能化を続け、今や200馬力が当たり前になった。究極のスポーツを突き詰めるためにあらゆるチャレンジがなされ、モトGPから得た技術を投入し、スーパーバイク選手権や耐久選手権を戦う「マシーン」へと進化を続け、そして皮肉なことにいつしかライダーはスーパースポーツという乗り物から離れ始めた。こんな高性能車を公道で走らせると、ライダーの意志とは関係なくすぐに「度を越した」領域へと踏み込んでしまいやすく、「そんな行為を面白がるような昭和的風潮」が残されていない現代社会においては居場所を失っていったのだろう。

 スズキはそんな社会において、GSX-R1000ブランドに終止符を打つ判断をした。モトGPからも撤退し、世界耐久からも手を引いた。ファンからすると残念な話である。しかしこれは英断だと思う。他社もスーパースポーツというカテゴリーに行き詰まりを感じているはずで、スズキの「イチ抜けた!」に対し「あっ!やられた!」という想いでいるのではないだろうか。また、以前に開発の関係者から「今のユーロ5規制よりも厳しい次なる規制が導入された場合、現行のスーパースポーツ以上の性能を、お客様に納得してもらえる価格で提供するのは困難を極める」と聞いたこともあった。
 高みにある時にスパッと辞める。それも勇気である。長らく続いたブランドだけに残念ではあるものの、ビジネスとしてやっている以上、筆者はこれを「正しい判断」だと評価したい。GSX-Rブランドは確かなGSX-RイズムがあるGSX-R125で生き続けていることも覚えておこう。

GSX-R1000

スポーツを極めるということ

 最後のGSX-R1000となってしまった現行型。その一方で新型になり変わらぬ支持を集めているハヤブサだが、今回はこの二台を同時に試乗することができた。ハヤブサについては「ハヤブサ編」をご覧いただきたいが、二台を同時に乗ることによってGSX-Rのスポーツ性が一層際立つ。
 優雅でトルクフル、情熱があふれるハヤブサに対して、GSX-Rはもっと冷静に高性能なのだ。いや、冷静ではなく、もはや冷徹かもしれない。ナンバー付車両である以上、当然ある程度の快適性や公道における扱いやすさは確保されてはいるものの、その優先度は低く「とにかく速い」ことが最優先なのがヒシヒシと伝わってくるのだ。

 まずはサイズ感に驚く。初期の頃のGSX-R1000はわりと大柄で、それが安心感にも繋がっている部分があったが、この現行型は400ccぐらいの感覚だ。それでいてハンドルは低くタンクは短くとてもコンパクトなポジション。ハンドルが低くても腰の位置に近いために上半身が伸び切ってしまう感覚はなく、むしろ胸の前で余裕をもってバイクをコントロールできるスペースがある。シートは低いわけではないもののリアサスがしなやかに感じることもあって、一昔前のSSモデルのような(GSX-Rはその感覚は少ないが)怖くなるような腰高感はない。本当に400ccクラスの感覚、なのだがコチラ約200馬力である。凄いと同時に恐ろしい。

GSX-R1000

 エンジン始動の時点で冷徹さを感じる。ハヤブサが静かで上質、メカニカルノイズも少ないのに対してGSX-Rはアイドリングから硬質な微振動を伴い排気音もなかなか勇ましい。パフォーマンス最優先、貴方は今、スズキラインナップのイッチバン速いのに乗ってるんですよ!というメッセージが伝わってくるのだ。高速道路の合流車線がalt=”sepang”見える気さえしてしまい、これは冷静さが試されるぞ、と肝に銘じて走り出す。
 速いのは当然だが、その速さに容赦がないのがGSX-Rだ。ハヤブサではトルクに包まれて「苦もなく・優雅に」加速していく感覚があるが、GSX-Rでは有り余るパワーと軽量な車体で、各ギアで瞬間移動する感覚があり一瞬で速度が乗る。サーキット試乗もしたことがあるが、例えば130km/hから230km/hまでの加速が本当に一瞬で、かつ130km/hに戻ってくることも瞬時にできる。加減速の物理の法則を無視したような自在さで、速度を出す・速度を落とすという行為に確かなプロセスがあるハヤブサとは違い、まるでその過程がないかのようなのだ。「230ですか、ハイどうぞ」「あ、130に戻りますか、ハイどうぞ」と、140~220という速度域を完全に無視したようなワープ感。どこかデジタルチックですらあり、怖いとか凄いとかそういう感情を飛び越えて、他のカテゴリーのバイクとは別次元の機動力にシンプルに「感心」してしまう。
 ゆえに、例え微振動が大きくとも、メーターがシンプルなモノクロでも、タンデムシートが小さすぎても、もうどうでも良い。スポーツを極めたこの車体には信念がある。あらゆる速度域間をワープするという特殊技能を持っているのだ。それだけで正義である。

目を見開いて

 そんな絶対的動力性能を股の間に挟み込んでワインディングを走ると、自在ハンドリングにも舌を巻く。ハヤブサは大きくて長くてワインディングではそれなりに気を使って走ることが求められる場面もあるが、GSX-Rはまさに400cc感覚で軽快にコーナーに飛び込み、旋回中も絶大な安心感があり、立ち上がりでは思いのままに加速できる。
 トルク値は排気量で勝るハヤブサに劣るものの、軽量な車体のおかげかハヤブサ同様にギアを選ばないような強力な加速が、例えギア選択ミスをしたとしても公道では十分以上の超速コーナー脱出を可能にする。軽量ゆえに減速も思いのまま、コーナリング中にラインを変えるのも造作ない。

 一方でその圧倒的速さ・軽さゆえに常に意識を集中しておくことも求められる。調子よく走っている時に予想外の段差に乗ったりすれば、ブリティッシュスーパーバイクよろしく車体が浮き上がってしまうような場面もあるし、高速道路の継ぎ目でもリアがポンポン跳ねる感覚もある。ハヤブサのようにバイク任せで走らせてくれるような寛容さは少なく、足や尻、腕も含めて常に体も柔らかく、サスペンションの一部になってバイクを操ることに集中してこそ一体感が高まっていくのだ。
 とにかく速いためついつい目を三角にしてしまいそうだが、そうはならない自制心をしっかりと持ったうえで、かつ路面の継ぎ目やバンプといった状況判断をしっかりとインプットしていけるように目を見開いて走ることが求められるし、また体のしなやかさや一定の筋力も備えていた方が本当の一体感を得ることができるだろう。究極のスポーツバイクは乗り手にもスポーツマンでいることを求めてくるのだ。

GSX-R1000

残念がっている場合ではない。買っておこう、最後のGSX-R

 少しだけ思い出話に付き合っていただきたい。GSX-Rは97年型の600でもてぎの耐久レースに出たことがあった。600でも大変パワフルで、筑波では当然速いと感じたし、もてぎでもまだ十分に速かった。翌年、こんどは1000に乗り換えてもてぎの耐久レースに出た。「600とはレベルが違う」と言われ、チーム員にたくさん練習させてもらったが、最初は本当に速くて開けられず、こんなに速いのにタイムが出ないという経験もした。練習するうちに色々わかってきて、かつパワーにも慣れてきてそこそこのタイムも出せるようになってきた。
 もう15年も前の話であり、乗っていたのはK4型という、今となっては旧車とも言えるような当時のGSX-R1000だが、この経験を通してスーパースポーツというものに対する理解はかなり進んだ。そして高い実力がありつつも包容力も併せ持ち、かつリーズナブルにハイレベルなレース遊びをさせてくれるGSX-Rブランドに感謝もしているし思い入れもできた。事実世界中でGSX-Rブランドは多くのスポーツライダーを育てて来たのだ。
 そのブランドがなくなるのは確かに寂しい。「いつかはあの時のK4型GSX-R1000を手に入れたい」と思うオジサンになった筆者だが、もう今となってはK4はかなり旧い。最終の現行型を買うべきだろう。しかし正直に言えば、200万円で200馬力のバイクを買って、今またそれで遊ぶかと言われたら……色々な環境を考えると現実的ではないし、同様の人が多いのだろう。だから残念という気持ちはあるが、GSX-R1000を辞めるというスズキの判断はやはり正しいと思う。
 そんな乗り物を買う気概と遊べる余裕がある人は買って絶対に間違いはない。そうでない人は、良き思い出としてGSX-Rブランドに感謝しようじゃないか。ありがとうGSX-R。アナタは多くのライダーの青春でした。
(試乗・文:ノア セレン、撮影:鈴木広一郎)

GSX-R1000
GSX-R1000
ライダーの身長は185cm。写真の上でクリックすると両足着き時の状態が見られます。

GSX-R1000
GSX-R1000
モトGPから得た技術、スズキレーシングバリアブルバルブタイミング(SR-VVT)を搭載するエンジンは、13200回転で197馬力を発生するだけでなく、低回転域でも潤沢なトルクを発生させ公道におけるスポーツライディングもサポート。排気系ではサイレンサー直前のバタフライバルブだけでなく、各気筒間のエキパイ部のバイパスにもバタフライバルブを設けるなど、全域でのトルクフルさ獲得に力を注いでいる。双方向クイックシフターはもはや当然の装備。

GSX-R1000
GSX-R1000
LEDのヘッドライトは最小限のサイズで左右に大きなエアインテークを備える。テールランプも最小限。ここまで来たらもはやタンデム性能は切り捨てて、一人乗り仕様でも良さそうなものだ。

GSX-R1000
GSX-R1000
ドライブモードセレクターやトラコンの設定などは手元のスイッチで変更可能。シンプルなモノクロメーターだが、「カラーにしても速くなんてならない」と言われているかのようで潔い。機能的には何も問題ない。

GSX-R1000
ハンドル位置は確かに低いが、タンクが短くハンドルが意外に近いためポジションは想像する以上に余裕がある。
GSX-R1000
スーパースポーツとはいえ一定の快適性も確保されたシート。車体が軽く路面からのフィードバックも大きいため尻のセンサーもいつも敏感にしておきたい。タンデムシート下には純正でETCを備える。

GSX-R1000
GSX-R1000
ショーワのバランスフリーフロントフォークを採用。リアサスも同様にバランスフリーだ。ブレーキはキャリパーだけでなくディスクもブレンボを採用。他にも各領域で最高のものを使い、かつ電子制御の類も充実。スズキHPのGSX-Rのページでは詳しく書いてあるため一見の価値あり。

GSX-R1000
GSX-R1000
●GSX-R1000R ABS 主要諸元
■エンジン種類:水冷4ストローク直列4気筒DOHC4バルブ ■総排気量:999cm3 ■ボア×ストローク:76.0×55.1mm ■圧縮比:13.2 ■最高出力:145kW(197PS)/13,200rpm ■最大トルク:117N・m(11.9kgf・m)/10,80rpm ■全長×全幅×全高:2,075×705×1,145mm ■軸間距離:1,420mm ■シート高:825mm ■装備重量:203kg ■燃料タンク容量:16L ■変速機: 6段リターン ■タイヤ(前・後):120/70ZR17M/C・190/55ZR17M/C ■ブレーキ(前/後):油圧式ダブルディスク(ABS)/油圧式シングルディスク(ABS) ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:トリトンブルーメタリック×ミスティックシルバーメタリック、マットブラックメタリックNo.2×グラスマットメカニカルグレー、マットブラックメタリックNo.2 ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):2,156,000円

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2023/02/16掲載