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試乗・解説

1000ccスーパーバイク、独走から基準へ 全ステージで使いやすいのがGSX-R SUZUKI GSX-R1000R ABS
こんなバイク、いったい誰がどこで乗るんだ?
そう考えてもおかしくない1000ccスーパーバイク。
それでもこのモンスターは実は、街中からワインディングまで
軽やかに、扱いやすくこなすことができる優しさも持ち合わせています。
それは、2021年世界耐久チャンピオンに王手をかけている
スズキGSX-Rにいちばん感じるところです。
■試乗・文:中村浩史 ■撮影:折原弘之 ■協力:SUZUKI https://www1.suzuki.co.jp/motor/ ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、クシタニ https://www.kushitani.co.jp/




ビッグバイクスポーツの元祖

 スズキGSX-Rといえば、ビッグバイクに「レーサーレプリカ」という概念を持ち込んだブランド。1985年、まったく新しい、でも旧来からの空冷方式を最高に進化させた「油冷」というエンジン冷却方式で、250ccや400ccでようやく一般的になり始めたアルミフレームを使用、耐久レーサーをイメージしたデュアルヘッドライトを持つフルカウルで誕生したGSX-R750ですね。
 あれから35年。ビッグバイクのレーサーレプリカは、別に何のレーサーをレプリカしているわけじゃないことにみんなが気づいてしまって(笑)、いつしかスーパースポーツと呼ばれたり、スーパーバイクと呼ばれたり。レースカテゴリーでは、スーパースポーツ=600ccのことなので、この項では1000ccスポーツのことをスーパーバイクと呼びますね。
 80年代の中盤、オートバイのレースと言えば2ストロークの125/250/500ccのことだったけれど、このGSX-R750の快進撃で、4ストロークのレースが劇的に盛り上がりました。AMAスーパーバイク、鈴鹿8時間耐久も爆発的人気となり、耐久選手権がメインだった4ストロークのレースも、TT-F1が世界選手権となり、ワールドスーパーバイクも誕生。私は、GSX-R750の誕生がなかったら、ワールドスーパーバイクも、現在の4ストロークマシンによって行なわれるMotoGPも、開始がずいぶん遅れてたんじゃないかな、と思っています。それほどGSX-R誕生のインパクトは大きかった。
 

 
 GSX-Rはその後、相次ぐライバルモデルの誕生によって「独走」から「基準」となります。VFR750R=RC30やZXR750、FZR750R=OW01も、GSX-Rなくしては誕生しなかったモデルでしょう。これらの750ccスーパーバイクはレースの世界で活躍し、その成績で販売台数が左右されるような時代を経て、レースレギュレーションは750ccから1000ccへと進化。GSX-Rは、今度はGSX-R1000となって、また油冷750cc時代のように独走から基準へ、という動きをたどることになります。
 そして現代。1000ccスーパーバイクの頂点であるワールドスーパーバイクに、残念ながらスズキGSX-R1000Rは参戦していません。理由は様々で、スズキがレース予算をMotoGPに集中しているからでもあるし、ワールドスーパーバイクに効果を見出せなくなった、ということもあるでしょう。
 しかし今、これを書いているのは2021年10月始めですが、もうひとつのレースカテゴリーでGSX-Rがワールドチャンピオンに王手をかけています。それがEWC=世界耐久選手権。スズキの世界耐久は、2020年~21年シーズンに、それまでSERT(=SUZUKI ENDURACE RACING TEAM)が中心になって運営されていたものを、新たにスズキ+ヨシムラ+SERTという、ワークスチーム体制に刷新し、2021年にはル・マンとボルドールという2回の24時間耐久を制覇! この原稿を書いている時点で、世界耐久選手権の最終戦「チェコ6時間耐久」を残して、セーフティリードをキープしながらのランキングトップにいるのです。
 

 
 そのGSX-R1000Rは、初期モデルR1000K1から順次モデルチェンジを重ね、モデル累計販売台数20万台を達成! そして17年にフルモデルチェンジして、この現行モデルにたどり着いたのです。現行モデルは外観、エンジン、フレームともに一新したフルモデルチェンジで、いうなれば「1000ccスポーツとしてのアップデート」。つまり、先代モデルは2001年デビューのR1000K1から徐々にマイナーチェンジを重ねてきたもので、15年余りを経て、最新スーパーバイクのセオリーを最新仕様に合わせ直した、と。この15年余には、排出ガスと騒音の規制も年々変わりましたから、一度それをリセットして作り直し、という意味も大きかったのでしょう。

 現行モデルは、先代よりも大幅にシェイプアップ。とはいえ、車両重量自体は3kgしか減ってはいないんですが、跨がって、走り出してすぐに数字以上にわかる変化。低重心がやや高重心になって、シート高があってもスリムになっている感じです。
 エンジンは低回転からズ太いトルクを発揮するのはもちろん、その回転が軽やか。これも、15年余ぶりのアップデートの効果でしょう。先代モデルには見られなかったSR-VVT(=スズキレーシング-バリアブルバルブタイミング:インテーク側のバルブタイミングを可変とする)が投入されたことで、低回転から中回転、そして高回転へと、パワーがグングンと2次曲線的に立ち上がっていく感じ。先代はどちらかというとフラットトルクがずっと続く特性だったのが、ちょっと攻撃的になった印象です。
 とはいえ、とても扱えないシロモノ……と感じさせることはなく、アクセルにきちんと比例している感じです。つまり、開ければ進む、閉じれば減速するから、開ける=進みたい、閉じる=減速したいというライダーの気持ちに忠実。レスポンスが鋭いから、気を張らずにダラーッと乗りたい時は、3つのライディングモードをイジるといいです。フルパワーA、やや抑えめのB、ガッチリ抑えたCモードで、ワインディングを走り回っていると、自然とBモードで走りますね。
 

 
 ハンドリングの印象も先代とはずいぶん変わりました。先代は、車体剛性が高く重心が低い、という少し前のスポーツバイクのセオリーを踏襲していた感じだったんですが、現行モデルは車体剛性が控えめで重心が高い印象。車体剛性が低いというのは、走行フィーリングがどっしりと路面を掴んでいる感じだったものが、さらに軽快にヒラヒラ感がある。これもスポーツバイクのセオリーをアップデートしたもので、MotoGPマシンでも、明らかに高剛性な車体から剛性を抜く、しなやかな車体でタイヤのグリップを生み出す、という方向に変わっていますから、そこに合わせた変化と言えると思います。
 もちろん、これがサーキットの戦闘力にどう影響するかは、選手権ライダーくらいでないと分からないと思いますが、こと一般道、ワインディングを走る限り、乗り手のメリットにつながっていると思います。ドッシリ安定したハンドリングも安心ですが、ヒラヒラと軽快なフットワークも気持ちいい──そんな変化です。

 今回、ワインディングを少しスポーツランしてみたときにも、軽いハンドリングでコーナリングではバイクがインにインにと向かっていく感じがありました。その対策は、アクセルを開けて行くこと。コーナーではきちんとフロントに荷重していく感じでコーナリングすれば、すごい安定感のままコーナーをクリアできることが多かった。切り返しも軽く、ここも低重心から高重心の変化を少し感じることができました。
 現行モデルの初期型ではサーキットランもしましたが、アクセルを開ける閉めるをハッキリすることで、メリハリある走りができるモデルです。アクセルのオン/オフで車体の姿勢変化がよくわかって、コーナリングのリズムを取りやすい。とにかくフルバンクの安定性が強いのが印象に残っていて、その美点は現行モデルにもしっかり受け継がれている感じでした。
 写真にあるのは、ちょっとサスペンションを調整しているシーンですが、サスセッティングなんてわかんないよー、っていうライダーでも、せっかくの調整機構、使ってみるべき。この試乗の時には、少し乗り心地がゴツゴツしたので、バイクを動く方向に調整してみただけ。フロントフォークのスプリングプリロードを「抜き」で、圧側の減衰力を「弱め」たら、ずいぶんフィーリングは変わりました。ちょっとした調整で効果が分かりやすいのは高性能サスペンションの証拠です。
 

 
 高速道路を走る時は、トップ6速で120km/hが5500rpmくらい。ポジションがレーシーで、決してクルージングが快適なわけではないんですが、こんな低回転でも安定して定速走行ができます。直進安定性も高く、レーンチェンジも軽い。サーキットでのスポーツ性と真反対にあるはずの高速道路定速クルージングでも不満を感じないのが現行GSX-R1000Rなんです。
 車重が200kgそこそこ、出力は200psオーバー。本田宗一郎さんがご存命なら「こんなバイク、誰が乗るんだ」っておっしゃるでしょうか。それでもこういうモンスターでも、街中を不満なく乗れるし、イザ!と一発ムチをやれば、圧倒的な刺激が味わえる。それがこういうスーパーバイクの魅力だと思います。オートバイの醍醐味のひとつは「刺激」だと私は思います。こんな刺激的なブツ、人としてたまらないもんね。
 

 
 ホンダCBR1000RR-R、ヤマハYZF-R1、カワサキーZX-10RRと、比較してみての感想ですが、GSX-Rはいちばん特性がワイドレンジだな、と感じます。もちろん、サーキット、高速道路、ワインディング、一般道と、走るステージによって、そのモデルなりの良さを感じることがあるんですが、CBRは最新のモデルだけに文句なしに速いバイク、R1は速さをコントロールしやすいバイク、そして10RRは並列4気筒の気持ちよさをいちばん味わえるバイクだと感じます。
 対してGSX-Rは、どのステージを走っても弱点がない。サーキットも街乗りも力強くこなし、コントロール性が高い。これがスプリント性能だけに特化しない耐久レース、しかも年に2度の24時間耐久を軽々とノントラブルで走り切って勝つという総合性能の高さにつながっているんだと思います。
 このキャラクター、実は初代の油冷750もこんな感じでしたね。なんたって私、初代の油冷750が大好きで、年式違いを3台乗り継ぎましたから。
(試乗・文:中村浩史)
 

ライダーの身長は178cm。写真の上でクリックすると、両足着き時の状態が見られます。

 

ブレンボ製φ320mmローターに対向4ピストンのモノブロックキャリパーと、世界最高水準のブレーキを標準装備。フォークはショーワ製BFF(=バランスフリーフロントフォーク)で応答性が高く、ストロークがスムーズで優れたトラクション性能と吸収性を実現しているとのこと。すごく単純に言うと、ソフトな乗り心地でコシがある、そんな動きのフィーリングです。

 

先代のGSX-Rシリーズからビッグボア×ショートストロークとして999ccいっぱいの排気量で197psを発揮。本文中にあるSR-VVTに加え、フィンガーフォロワーバルブ駆動、SET-A(スズキ・エキゾーストチューニング-アルファ)、S-TFI(スズキ-トップ・フィード・インジェクター)と4つのメカニズムを組み合わせてブロードパワーシステムとしている。さらにS-DMS(スズキ-ドライブ・モード・セレクター)でA/B/C3のモードからエンジンのモードを選択することができる。

 

マフラーはとにかく、ある程度リプレイスを前提にしてるんじゃないかな、ってほど無遠慮にデカい。集合部後ろにキャタライザーを、その後方に排気バルブシステムを装備している。
リアブレーキはΦ220mmローターに片押し1ピストンキャリパー。乗ってみてわかる、効きよりもコントロール性のいいブレーキ。ホイールは6本スポークキャストに、タイヤはブリヂストンRS11を標準装備。

 

左右非対称形状のアルミスイングアーム。リアサスはフロントと同じくバランスフリー型で、バランスとはストロークの時にピストン上下の油圧をバランスさせるもので、低速時と高速時にはオイル流量もECMが制御。
フューエルタンクカバー前半はエアボックス、後半にフューエルタンクをレイアウト。タンク上面は低くセットし、走行時にライダーが伏せやすい形状と高さにしているという。取材時の燃費は約17~22km/L。

 

前後セパレート式のシートはキーオープン式でタンデムシートが外れ、ちょうどライダーシート下あたりにETC車載器を標準装備。ETCインジケーターランプも液晶メーター内に装備されている。

 

フル液晶のデジタルメーターはオド&ツイントリップ、瞬間&平均燃費、残ガス走行可能距離を表示。写真のデジタルスピード表示の左下にある「A」はパワーモード、「1」はトラクションコントロールの設定表示。
複雑な電子制御だが、設定ボタンは市販車最高レベルのシンプルさでわかりやすい。モードボタンを押して設定項目を選び、上下ボタンで設定。モードボタンなしでは、上下ボタンでメーター表示が切り替わる。

 

低いステアリングヘッドに、ハンドルはトップブリッジ下にセットし、ハンドルが低くてステップが高い、なかなかに戦闘的なポジション。フォークトップにはスプリングプリロードの調整ノブが装備されている。

 
 

ヘッドライドはLEDを採用したコンパクトなもので、ライト左右に吸気ダクトをセット。願わくば、レース出場はカウル交換を前提にして、油冷モデル初期のようなデュアルヘッドライトだとファンは嬉しいのです。
テール/ブレーキランプ/ナンバー灯、ウィンカーもLEDとして、リアフェンダーまわりの軽量化を図っている。ブレーキランプはVストロームにも採用されている面発光のLEDで、実はファンはこのタイプが好き。

 

ヘルメットホルダーはタンデムシート下に共締めするタイプで、タンデムステップ収納時の裏に、荷かけフックを標準装備。それでもタンデムシートの座面が小さく、決してタンデムや積載性はよくない。

 

●SUZUKI GSX-R1000R ABS Specification
■エンジン種類:水冷4ストローク直列4気筒DOHC4バルブ ■総排気量:999cm3 ■ボア×ストローク:76.0×55.1mm ■圧縮比:13.2 ■最高出力:145kW(197PS)/13,200rpm ■最大トルク:117N・m(11.9kgf・m)/10,800rpm ■ 全長×全幅×全高:2,075×705×1,145mm ■軸距離:1,420mm ■シート高:825mm ■車両重量:203kg ■燃料タンク容量:16L ■変速機形式:常時噛合式6段リターン ■タイヤ( 前・後):120/70ZR17M/C・190/55ZR17M/C ■ブレーキ(前・後):油圧式ダブルディスク・油圧式ディスク ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:トリトンブルーメタリック×ミスティックシルバーメタリック、マットブラックメタリックNo.2×グラスマットメカニカルグレー、マットブラックメタリックNo.2 ■メーカー希望小売価格(消費税込み):2,156,000 円

 



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2021/10/15掲載