ホンダコレクションホールには、世界初のエンジン始動イベントを目的に大勢のモータースポーツファンが訪れました。何と言っても、1987年のル・マン24時間耐久レースに出場した「NR750」のエンジン始動が初めて行われるのですから、歴史的なイベントと言っても過言ではないでしょう。
会場には、ゲストとして宮城光さんが来場し、マシンの解説を行ってくれました。宮城さんにとっても、NR750のサウンドを聞くのは初めての事。
会場に用意された歴史的なマシンは、エンジン形式が異なる3台です。
最初は、1976年にヨーロッパ耐久選手権を獲得した「RCB1000」です。スタッフの懸命な始動チャレンジも叶わず、残念ながらサウンドを聞くことはできませんでした。クラッチ系の不調が原因のようです。
このマシンは、動態確認テストやイベントなどで何回か見る機会はありましたので、いとも簡単に始動できると考えていました。しかしながら、47年前のレースマシンですから良好なコンディションを維持することの難しさを目の当たりにしました。
2番目はいよいよNR750です。RCB1000の件がありましたので、全員祈るような気持ちで見つめます。
汎用エンジンでリアタイヤを勢いよく回すと、2回目のチャレンジでNR750のエンジンに火が入りました。入念な暖機の後に、スロットルレスポンスを試すかのように、スナッピングを繰り返しますと、乾いたような力強いエキゾーストサウンドが会場に轟きました。初夏の陽気ですが、一瞬鳥肌が立ちました。言葉で表現できないのですが、これが挑戦の塊の”NRサウンド”と思えるものでした。スタッフの話では、1万回転まで回したとのことでした。
3番目は、2000年のVTR1000SPWでⅤ型2気筒マシンです。こちらは、セルでいとも簡単に始動しました。Ⅴツインエンジンらしい重低音で歯切れのよいサウンドです。
この同型マシンは、鈴鹿8耐などで何度か見る機会がありました。直4エンジンに比べ低音なため、直線では速く感じないのですが、タイムではダントツでした。すでに23年が経過していますが、良好なコンディションに維持されていますので、今後も様々なイベントで見る機会があると思います。
今年は、本田技研工業が創立してから75周年にあたります。ホンダの75年は、常にチャレンジングな活動の歴史でした。その中でも、NR500に採用した長円ピストンは、特筆すべき革新的な技術でした。レースでは思うような戦績を残す事は出来ませんでしたが、大いなる挑戦と情熱は、多くの人々に感動を与えてくれました。
NR750も同じく長円ピストンエンジンの革新的なマシンです。今回のエンジン始動は奇跡に近いものに感じました。
勝手な思いですが、MotoGP日本グランプリの時に世界から集まるモータースポーツファンの前で、再びNRサウンドを轟かせてほしい。一人でも多くの人たちと感動を共有できることを願って。
(レポート・撮影:高山正之)