―今回のアルゼンチンGP前に、もしも誰かが「ランキング首位で帰国することになるよ」と言ったとしたら、どう返事していたと思いますか。
「そんなデタラメ言うもんじゃないよ、とか答えてたと思う」
―でも、金曜に走行が始まってみると、「ベツェッキはドライでもウェットでも速さを発揮している。要注意だ」と皆が言い始めました。
「今回は最初から気持ちよく走り出せた。でも、あまりそれを表面に出して吹聴するのはいいことじゃない。だから『どうだろう。まあ、がんばってみるよ』と口では言ってたんだけど、日曜朝のウォームアップが終わると、内心では『すっげえ。いけるぜこれは』と思った。言葉にできないくらいバツグンのフィーリングだったんだ」
―ご父君のヴィトさんが、2018年のアルゼンチンGPでキャリア初勝利(Moto3クラス)を挙げた際も今回と同じ様子だった、と愉しそうに話していました。
「なんとも言いようがないほどスペシャルな気分だよ。Moto3で勝利を挙げたときとほぼ同じ流れでMotoGP初勝利を達成できたのは、ファンタスティックのひと言に尽きる。ドライのレースになっていても勝てたと思うけど、難易度の高いウェットコンディションで勝てたのはなによりクールだね」
―今年の目標に掲げていた「レースで1勝すること」を、2戦目にして達成してしまいましたね。
「こんなに早く実現できるとは思ってもいなかった。でも、今年はプレシーズンから皆と一所懸命に取り組んで、ドゥカティにどんどん上手く乗れるようになってきたから、目標の達成は時間の問題だったのだろうとは思うけど。ここまで長かった気もするけど、ついに達成した。でも、これはまだ最初の一歩にすぎないんだよね」
―自分では、去年からどういうところが成長したと思いますか?
「バイクの理解はとても進んだと思う。ドゥカティは非常に優れたバイクだけど、長所をうまく活かさなければ速く走れないし、そこがもっとも難しいところでもある。エンジンはパワーがあって速さもあるけれど、サーキットのコースにはコーナーがたくさんある。皆に差をつけることができるのはコーナー進入で、ペコはそこが最も優れている。立ち上がりでは、ザルコは加速がとても上手だ。彼らふたりからは、学ぶことがたくさんある。でも、自分が今年最も大きく成長したのはブレーキングだと思う」
―第3戦のアメリカズGPでは、あなたはバニャイア選手に9ポイントをリードして週末を迎えます。しかも、VR46チームはチームランキングでも首位に立っています。
「ちょっと信じられないくらいクールだよね。子供時代の夢が叶ったんだから。でも、チャンピオンシップについて何か言うのは、まだあまりに時期が早すぎるよ」
―ファンの皆も喜んでいますよ。
「ありがとう」
―あなたを見るためにレースを観戦しようというMotoGPファンが増えてきていることを、自分では認識していますか?
「本当にありがたいことだね。僕はただ自分らしくあるように心がけているんだけど、それを皆が好んでくれるのなら、こんなにうれしいことはない。自分の夢を実現できるようにいつも全力で頑張っているだけなんだけど、それが皆の心に届いているのなら、とても誇らしいと思う」
―チェッカーフラッグを受けたとき、どんなことを考えましたか?
「感情が爆発して、とても言葉では言い表せない。これまでいろんなものを犠牲にして頑張ってきたことや、楽しかったときのこと。なかでも、辛くもがき苦しんでいたときのこと。家族のことも考えた。ずっと僕を支えてくれた父と母、姉妹のこと。そしてバレンティーノと皆のこと」
―あなたがロッシ氏から得たものは何でしょうか。
「ここにたどり着くチャンス。バレンティーノがいなければ、かなり難しいことだったんじゃないかと思う。家族がいつも力になってくれたけれども、この競技はご存じのとおり、すべてを揃えるのはとても難しい。運も必要だけれども、何もかもが完璧に揃わなくてはいけないし、バレンティーノがいなければほとんどそれは不可能だったことは間違いない」
―あなたがバレンティーノから継承したものの一例は、マテオ・フラミニ氏ですね。彼はかつてバレンティーノのデータエンジニアでしたが、現在はあなたのクルーチーフを担当しています。
「マテオがチームに加わってくれたのはとても心強かった。僕のチームスタッフはこの4~5年同じメンバーで、たとえば電子制御はセルジオ(・マルチネス)がずっと担当してくれている。レースが終わると皆が気持ちを爆発させるんだ。そんな皆を、マテオはとてもうまく統率してくれる。素晴らしい仕事ぶりだよ。マテオの実力は皆がよくわかっている。僕がいまあるのは、まさに彼のおかげなんだ」
―あなたのMotoGP初勝利は、VR46にとっても最高峰クラス初優勝になりました。ウーチョ(アレッシオ・サルッチ:VR46チームディレクターでバレンティーノ・ロッシの幼なじみ)も初めて表彰台に登壇しました。
「やったぜ、ってかんじだよね(笑)。ウーチョとはとても仲良くさせてもらってる。しかもその絆は、日々を一緒に過ごすようになってさらにどんどん強くなっているんだ。外には見せないのでわからないと思うけど、ウーチョはいつもものすごく献身的に働いてくれるんだ。本当に感謝している。(VR46)アカデミーのスタッフたち全員にもね。なかでも、トレーナーのカルロ(・カサビアンカ)はいつも力を貸してくれる。メディアに名前が出ることはほとんどない人物だけど、彼の貢献は本当に大きいんだ」
【パオロ・イアニエリ(Paolo Ianieri)】
国際アイスホッケー連盟(IIHF)やイタリア公共放送局RAI勤務を経て、2000年から同国の日刊スポーツ新聞La Gazzetta dello Sportのモータースポーツ担当記者。MotoGPをはじめ、ダカールラリーやF1にも造詣が深い。
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