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試乗・解説

ダイナソー、サバイブ! 時代に合わせて生き残る恐竜は 変えないことがアイデンティティ SUZUKI HAYABUSA
2000年代に入るまで、バイクはどんどん大きく強く
「メガスポーツ」と呼ばれるほどの大砲になっていった。
そのとどめがスズキ・ハヤブサ、1300ccのアルティメットスポーツ。
今はもう、ブラックバードも14Rもいないけれど
それでもハヤブサはリニューアルして第一線を張っている。
20年前のハヤブサと、現在の隼の立ち位置は――。
■試乗・文:中村浩史 ■撮影:増井貴光 ■協力:https://www1.suzuki.co.jp/motor/ ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、クシタニ https://www.kushitani.co.jp/






 1980年代中盤は、オーバーナナハン、またはリッターバイクって存在がグッと僕らの身近な存在になった時代でした。スズキが油冷1100ccを発売したらヤマハが1000ccで追っかけ、ホンダも1000ccで、そしてカワサキは1000ccから1100ccで追い打ちをかける――90年代のビッグバイクって、そんな流れでした。
 オートバイ誌が「メガスポーツ」なんてネーミングをつけてましたが、1000ccオーバーの水冷4気筒エンジンをアルミフレームに搭載し、フルカウルをまとったスポーツバイク的なビッグツアラー。90年代の後半はCBR900RRやYZF-R1が登場し、スポーツ性能はそっちにお任せして、メガスポーツはツーリングバイクの色を濃くしていった頃です。

 落ち着いたのはGSX-R1100の水冷モデル、ZZ-R1100のD型、サンダーエース、CBR1100XXと四強が出揃った2000年代にさしかかる少し前。その流れにとどめを刺したのがGSX1300Rハヤブサでした。
 ハヤブサは、このクラスで当時の最大排気量になる1300ccの排気量を持ち、ハイスピードツーリングバイクとして、特にエアロダイナミクスを強調したスタイリングが斬新なバイクでした。
 そのハヤブサに食い下がったのがカワサキで、ZX-12RをZZ-R1200に進化させ、それでも打倒ハヤブサを達成できないとみるや、06年に1350ccの、のちに1440ccとなるZZ-R1400→ZX-14Rをデビューさせます。それから、ハヤブサvsZZ-R1400(のちにZX-14R)の一騎打ち時代がしばらく続いてきたのです。
 ハヤブサは08年にフルモデルチェンジを果たし、14年からは国内販売もスタート。名実ともに、日本のユーザーのいちばん身近なメガスポーツとなりました。
 

 
 99年にデビューしたハヤブサの基本仕様は、車重215kg/ホイールベース1485mmで、出力175ps/最大トルク14.1kg-m。これは、同時期にラインアップされていたZZ-R1100Dより18kg軽く、ホイールべースは10mm短く、パワーは28ps高く、トルクも2.9kg-m太かった。これはハヤブサの方が250cc近く排気量が大きかったからで、決してハヤブサは「力はあるけどその分デカい」だけのバイクではなかったことの証明です。
 事実ハヤブサは、ヘビー級の巨体に関わらず、ド安定性はもちろん、ひらひらとした軽快な運動性も持つ、不思議なバイクでした。1300cc、ライダー込み300kg近いフルカウルのバイクで、絶対的な直進安定性はもちろん、峠でひらひらヒザスリできるスポーツバイク。
 もちろん、スポーツ+ツーリングバイクって面でいえば、ツーリングバイクの色の方が強かったけれど、スポーツラン「もできる」というよりは、スポーツラン「が得意な」ツーリングバイクでした。この頃、サーキットのスポーツランをするユーザーの中でも、ハヤブサのオーナーが少なくなかったのを覚えています。そういえば、初期型のハヤブサ、元スズキのレーシングライダーの青木宣篤さんがずっと乗ってますね。

 そんなハヤブサが初めてモデルチェンジしたのが、登場から10年が経過した08年。フルモデルチェンジだったけれど、ハヤブサの目指す方向は変わらず、スポーツツーリングバイクというコンセプトをキープ。排気量は1340ccへ、出力は197psへとアップしたものの、エンジンの出力特性を選択できるS-DMSを装備するなど、初代モデルより洗練されて、より快適に、イージーに変身。14年にはなんと、海外仕様とほぼ同じ仕様のまま、国内仕様も登場しました。つまり出力そのまま197ps! ETC車載器を標準装備したのもこの型からです。ちなみにこの型、これも元スズキのレーシングライダーである加賀山就臣さんが乗っています。なんだろ、スズキロードレースのライダー、ハヤブサ選びがち、なのかな。
 

 
 そして現行モデルは、俗に「3型」と呼ばれる21年登場のモデルです。2型から数えて13年ぶりのフルモデルチェンジですが、ここでもハヤブサはコンセプトがブレることなく、さらに洗練されて、快適でイージーなスポーツツーリングに進化しました。初期型、2型も含め、ひと目でハヤブサだと分かるスタイリングで、少しディテールを見ればしっかり進化しているのがわかる――それがハヤブサです。
 現行の3型は、世界的な新規排出ガス規制EURO5に適応させるのがメインの内容で、その影響なのか、最高出力が197psから188psにダウン。けれど、パワーダウンになんか気付くわけもなく、エンジン回転はさらにスムーズに、滑らかに回るような印象です。この出力ダウン、発売前には物議をかもしましたが、発売されてから、体験するオーナーが増えてからは、誰も何も言いませんね。馬力の数字が高ければいいってもんじゃない、大事なのはそこに至るまでのドライバビリティだ、って日本のライダーはとっくに知っていますからね。
 

 
 そして現行ハヤブサの最大のトピックは、各種の電子制御を投入したことです。これまでも、市販車ではいち早くパワーモード選択機能(=S-DMS)を採用していましたが、今回はさらに電子制御技術を充実させています。
 その電子制御の総称がS.I.R.S.=スズキ・インテリジェント・ライド・システム。
 このS.I.R.S.を構成するのが、下記に書き出しますね。

①シフトUP&DWN双方向のクイックシフト
 クラッチレバー操作なしにシフトUP&シフトDWNできる。応答性も2種類から選択できる
②エンジンブレーキコントロール
 エンブレの効きを3段階+OFFに調整できる
③モーショントラックトラクションコントロール
 前後タイヤの回転数差だけではなく、その時バイクはどういう状態かを検知してリアタイヤのスピンを抑える。これは10段階+OFFに調節可
④アンチリフトコントロール
 アクセルONでウィリーしようとするのを抑える。これも10段階+OFFに調節可
⑤パワーモードセレクト
 エンジン出力特性を3種類から選べる。フルパワー/スロットル開度半分ほどまでレスポンスがマイルド
⑥6軸IMU(=車体姿勢感知システム)
 ピッチ/ロール/ヨーの3方向の動きを感知して、いまバイクがどういう状態なのかをセンサリングする
⑦SDMS-α
 上記のうち⑤のパワーモードセレクトと④のアンチリフト、①のクイックシフト、②のエンブレ、③のトラコンの5つを統合してコントロールする機能。あらかじめA/B/Cとセットされたモードと、ライダーが好みでセットできるU1/U2/U3、計6つのモードをワンタッチでセットして走り出せる
⑧ローンチコントロール
 停車状態からの発進でウィリーを抑え、アンチリフトの効果も加えて安定して発進できる
⑨アクティブスピードリミッター
 ユーザーがスピードリミッターを任意で設定できる
⑩クルーズコントロール
 アクセル開度をキープしていなくても、設定したスピードをキープして走ることができる。2速以上40km/h以上で設定可
⑪エマージェンシーストップシグナル
 約55km/hから急ブレーキをかけると前後のウィンカーが細かく点滅して後続の車に注意を与えられる
⑫モーショントラックブレーキシステム
 走行状況に応じたABS。ブレーキは前後連動式で、前後ホイールがブレーキでロックしても、それがサーキットランのような意図的なハードブレーキではABSが介入しないこともある
⑬スロープディペンデントコントロール
 下り坂のブレーキングで、車体姿勢や傾斜角度から、ABS介入を最適化して、リアリフトを抑えられる
⑭ヒルホールドコントロール
 上り坂でブレーキをかけて停止すると、ブレーキを離しても約30秒間ブレーキを効かせておいて、再発進をスムーズにできるようにする。つまり坂道発進お助けメカ
といったところ。いやぁ、すごい、電子制御のカタマリです。
 電子制御が盛りだくさん、なんて紹介すると、今どきのバイクはなんでもかんでも電子制御だなんてさ──なんていうライダーが少なくないんですが、大馬力でヘビー級のバイクにとっての電子制御は、転ばぬ先の杖どころか、転びやすいからよく使う杖、つまりありがたみを感じることは多いのです。
 

 
 実際に乗り始めても、Newハヤブサの印象が先代モデルと大きく変わるところはないと言っていいと思います。低回転からトルクがあって、ヘビー級ボディとは思えないほどフットワークが軽快。強力無比なエンジンは、2000rpmも回っていれば、重いはずのボディを軽々と前に進めてくれます。
 たとえばGSX-R1000Rと違うのは、GSX-Rが一切のフリクションを感じさせずに軽量な物体が移動する感じなのに対して、ハヤブサのフィーリングは、ズリュズリュズリュッとトルクが湧き出てきて、路面にベタッと張り付いている物体をグイッと押し出すような感じ。決して軽くはないボディだし、決してシュンシュン回るエンジンではないけれど、俊足なGSX-Rと、怪力のハヤブサ、って感じかな。
 思い切ってガツンとアクセルを開けてみても、こりゃホイールスピンするぞ、こりゃウィリーするぞ、って期待は大ハズレ。ハヤブサは、TCランプをピカピカピカッと点滅させるだけで、何事もなかったように前へ進みます。
 ちなみにこの時、SDMSはプリセットの「B」モード、つまり中回転域までレスポンスがフルパワーではない状態になっていて、パワーモード2/トラコン&アンチウィリー5の状態。プリセットを「A」で挑戦してみても、スロットルレスポンスがやや鋭くなって、それでもタイヤがキュッとスピンした実感はあってもそれで止まり、ウィリーもなし。意図的にウィリーするなら、アンチウィリーもトラコンもOFFモードにしてしまえばいいんだけれど、そんな度胸ありません。あえて言います、各種電子制御をOFFにしてしまえば、ハヤブサは超獰猛な188psのモンスターの姿に戻りますからね。
 

 
 ハヤブサの得意フィールドである高速道路に連れ出すと、本当に快適なクルージングが味わえます。クイックシフトの使い勝手も良く、変速ロスのないシフトチェンジでトップギア6速に入れると、80km/hはわずか2600rpm、100km/hで3200rpm、120km/hは4000rpmといったところ。 
 120km/hで巡航してみても、走行風がハヤブサの行く手を遮ることはなく、整風された走行風がヘルメットの上部を撫でていくだけ。カウルサイドの、ちょうどメッキモールのあたりのふくらみが、ひざへの走行風のあたりを弱めてくれる。ここまで計算したエアマネジメントをしているんだなぁ、って実感します。
 クルージング中の安定性は、まさに圧倒的。路面にベターッと張り付くようなロードホールディング性があって、レーンチェンジも重さを感じさせないフットワーク。よくよく考えれば、直進安定性とレーンチェンジの動きをこんなに高い次元でバランスさせていることこそ、ハヤブサの神髄なんじゃないかと思います。
 ちなみにエンジンのパワー特性は、3000~4000rpmあたりのトルクが増している印象で、スズキの実験では、6速低速度からアクセルをイッキに開けて加速していくメニューで、197psの2型よりも、188psの現行モデルの方が先に行く、んだそう。まさにここを、スズキは狙ったんでしょう。

 もうすぐ誕生から四半世紀となる、日本を代表するハイスピード・ビッグツーリングバイク。もうサンダーエースもブラックバードもいないし、ZX-14Rもリニューアルしない。FJR1300やNinja H2はあるけれど、ハヤブサとはちょっとカテゴリーが違います。考えてみれば、ほかの恐竜は絶滅してしまったけれど、ハヤブサだけは生き残っている――そんな状態なんだと思います。
 スズキがNewハヤブサに込めたリニューアルの軸は「変えないことがアイデンティティ」。
 すぐに進化していくことばかりが美徳だとされている現代で、じっくり長く、ずっと販売していて欲しい、日本を代表するバイクです。
(試乗・文:中村浩史)
 

 

ライダーの身長は178cm。写真の上でクリックすると両足着き時の状態が見られます。

 

インナーチューブにフリクション低減のためのDLCコーティングを施したΦ43mmのフルアジャスタブルKYB製倒立フロントフォークを採用。ブレーキはブレンボ製4ピストンキャリパー、Φ320mmのローターの組み合わせ。タイヤはハヤブサ用に専用チューンされたブリヂストンS22を使用。

 

先代モデルの2-3番に加え、1-4番のエキパイも連結したハヤブサ伝統の2本出しマフラー。EURO5排出ガス規格で、集合部と左右サイレンサー内にキャタライザーを仕込んである。リアタイヤサイズは190/50と極太で、ギア比は1~6速まで同じで、ファイナルレシオも先代の18/43=2.388と変わらず。

 

ヘッドライトは縦型2灯式で、ロービームは上部4つのLED、ハイビームは下の丸型プロジェクター。光量は充分に明るく、左右エアダクト横にウィンカーが装備される。ライトケース内にも「隼」の文字が。
大型のディープフェンダーも、初代から変らないハヤブサの特徴。走行風を整流するだけでなく、効果的にカウルに導風してエンジンを冷却し、ハヤブサの大きなテーマである「エアマネジメント」に欠かせないパーツとなっている。

 

ビッグツアラーらしく、燃料タンクは20Lの大容量! 今回の実測燃費は約19km/Lで、計算上ではフルタンク400km近く走れる。写真のタンクカバー部は、前半がエアボックス、後半からシート下が燃料タンク。
ハヤブサらしい、乗用車のようにきちんとデザインされたゴージャスなテールランプ。テールカウルは後ろ下がり、タンデムライダー用のグラブバーも強度剛性の高いもの。タンデムのことも考慮した装備だ。

 

クッション厚も充分にあるシートは、着座位置の前半部分が内腿の形に合わせてシェイプされ、800mmというシート高の割に足着きは悪くない。リアシート下にETC車載器、リアシート裏にヘルメット用フックがある。

 

カウルサイドのエアアウトレットは、メッキモールがあしらわれ、ルーバー状のダクト部分にヘッドライトサイド、シートカウル部とコーディネートした挿し色があしらわれている。迫力より品のよさが印象的。ボディカラーとアクセントカラー、そしてホイール色を3色の組み合わせからオーダーできるカラーオーダープランを設定したが、人気がありすぎて今は受注中止としている。

 

中央に液晶をレイアウトし、5連デザインとしているメーター。メーター装飾も上品でゴージャスなのもハヤブサらしい。液晶表示にはオド&ツイントリップ、トリップ1&2の平均燃費と走行時間、瞬間燃費や残ガス走行可能距離などを表示する。このゴージャスな透過式アナログメーターの高級感もハヤブサの軸のひとつ。
ステップバーにラバーを貼られているのがツアラーの証。シフトペダルはモード設定でQSモードを選べばシフトアップ&シフトダウン両方向で、クラッチ操作なく操作できるクイックシフト機能つき。シフトタッチのフィーリングも1/2と変更でき、スポーツモードとクルージングモードを使い分けられる。

 

右スイッチはセルボタン一体キルスイッチ、ローンチコントロール、クルーズコントロール、ハザードに、左スイッチはパッシング&ディマー、セレクト&上下設定、ウィンカーにホーン。セレクトスイッチでメーター表示を切り替えられるのは便利だった。

 

ハヤブサの車体は、初代から一貫してアルミツインスパーフレームに倒立フォーク、モノショック+アルミスイングアームの組み合わせ。スーパースポーツともまた違う車体構成、ディメンジョンとなっている。開発途中では、まったく異なる形状のフレームも存在したというが、この形状に落ち着いたのだという。

 

前後ピッチング/左右リーン/左右旋回と3軸6方向の車体の動きをセンサリングする6軸IMUを採用。このセンサーでバイクが今、どういう状態にいるのかを検知して各種の電子制御を発生させることになる。電子制御のかなめのTbW=スロットルバイワイヤを採用し、1/1000秒ごとに一度もの頻度で制御を介入させる。

 

スズキの社内施設である風洞実験によって空力特性を最適化するハヤブサ。ライダーが全伏せ姿勢を取ると、走行風がバイク上面+ライダーに沿って後方へ流れていくのがわかる。
1340ccの排気量を持つ水冷並列4気筒エンジン。最高出力は197psから188psにダウンしているが、最大トルク発生回転数が7200rpmから7000rpmに下がっていることで、パワーダウンなどまったく感じさせない超強力エンジンのままだ。S.I.R.S.(スズキインテリジェントライドシステム=総合電子制御の総称)の採用で、出力面ではエンジンブレーキコントロール、10段階+OFFに調整できるトラクションコントロールとアンチウィリー、3種類から選べるパワーモードセレクター、ライダーが任意に設定できるスピードリミッター、クルーズコントロールなどを装備している。

 

●SUZUKI Hayabusa 主要諸元
■型式:8BL-EJ11A ■エンジン種類:水冷4ストローク直列4気筒DOHC4バルブ ■総排気量:1,339cm3 ■ボア×ストローク:81.0×65.0mm ■圧縮比:12.5 ■最高出力:138kw(188PS)/9,700rpm ■最大トルク:149N・m(15.2kgf・m)/7,000 rpm ■全長× 全幅× 全高:2,180 × 735 × 1,165mm ■ホイールベース:1,480mm ■シート髙:800mm ■車両重量:264kg ■燃料タンク容量:20L ■変速機形式:常時噛合式6段リターン ■タイヤサイズ:120/70ZR17M/C・190/50ZR17M/C ■ブレーキ(前/後):油圧式ダブルディスク(ABS)/油圧式シングルディスク(ABS) ■車体色:ブリリアントホワイト×パールビガーブルー、グラススパークルブラック×メタリックNo.2、サンダーグレーメタリク×キャンディダーリングレッド ■メーカー希望小売価格(消費税込み):2,156,000円

 



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2022/10/19掲載