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試乗・解説

カワサキ唯一のクルーザーでありつつ カワサキ一番の優しいヤツ Kawasaki VULCAN S
昔から思っていた。自転車はみんなハンドルやシートの高さを気軽に変えられるのに……バイクももっとそれができたらいいのに、と。ホンダのBiteみたいに。しかし、そんなバイクがあった。カワサキバルカンSはハンドルやシート、ステップなどをライダーに合わせて微調整できる、というのが大きな魅力だと思う。
■試乗・文:ノア セレン ■撮影:富樫秀明 ■協力:カワサキモータースジャパンhttps://www.kawasaki-motors.com/ ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、Alpinestars http://www.okada-corp.com/products/?category_name=alpinestars




細かいことを言うようだが……

 タイトル下の導入文を読んで「そこかよ」と思った方もいるだろう。しかしそんなバイク、他にあるだろうか。そりゃローシート仕様やハンドル位置がポストの前後交換で2ポジションできますとか、そういった機能は確かにあった(ある)。しかしバルカンSはその点を特にアピール。ステップ位置は25mmずつ前方に2段階(合計3ポジション)に変更でき、またアクセサリーパーツとはなるが、小柄なライダーに向けては着座位置を53mmタンクに近づけるシートを、そして大柄なライダーに向けてはハンドル位置を36mm前方に変更できるハンドルバーを用意するなど、様々な体型のライダーの快適性追求に取り組んでいるのだ。
 カワサキは「普段使いからロングツーリングまで、まるでテーラーメイドでしつらえたかのようなフィット感」が得られると謳っているが、これがいかに重要なことか! 特に規格外体型(小柄でも大柄でも)の人にとっては、純正アクセサリーでこれだけの選択肢が用意されているというのは安心でありがたいことだと思う。いや、安心でありがたいことである!と身長185cm(胴長)の筆者は断言しておこう。
 

 

今や希少な「気軽に付き合える大型バイク」

 カワサキからもKLX230(とそのモタード版のSM)や、~400ccクラスの楽しみやすいスポーツバイクは確かにラインナップされているが、スポーツを謳わない、こと「普通のバイク」となるとカワサキに限らず排気量が大きくなるほどレアになってくる。傾向としてスポーツならスポーツ、ツアラーならツアラー、アドベンチャーならアドベンチャーと各カテゴリーへと先鋭化していくようなきらいがあり、「なんにでも使える大きなカブのようなバイク」ってそう多くない。

 かつてはビッグネイキッド群がある程度その役割を担っていただろうし、今のカワサキではZ900/650RSがそういったニーズに応えているとは思うが、しかしそれでもあくまでスポーツモデルであり、あらゆる場面での付き合いやすさやコスト面含めて考えた場合は「大きなカブ」と言えるほど万能とは言えないだろう。
 そんなところにフィットするのがカワサキ唯一のクルーザーモデル(?)、バルカンSである。650ccの排気量、61馬力の出力がありつつ、705mmというシート高(ホンダレブル250が690mm)と、クルーザーと割り切りすぎていないポジション&ハンドリング。街乗りでもロングツーリングでも、高速巡航でもワインディングでも、そしてバックレストを付ければタンデムだってこなす、まさにマルチプレーヤーであり、どこにも無理のないバイク≒「大きなカブ」的存在なのだ。
 足着きヨシ、ポジションラク、燃費ヨシ(レギュラーガソリン)。目立つ必要もないし、ただただ信頼できる良きパートナー/良き移動体としてのバイクが欲しいというニーズもあるはず。そんな質実剛健ライダーにとってはドマンナカじゃないか。
 

 

トルクフル特性が与えられた180度パラツイン

 わりと実用主義の筆者からするとスペックやコンセプトを見ただけで「これ絶対ウマイヤツ!」と心躍るわけだが、乗るとなおそのステキさに気づかされた。かつてカワサキはロードモデルをベースとした弱クルーザーシリーズとして「LTD」というラインナップを持っていたが、バルカンにもその香りがあるのだ。シートは低いしポジションも楽だが、しかしスポーツマインドを忘れていない、というその心意気である。ステップのポジションは思いのほか投げ出し系だし、ハンドルももう少し前の方でもいいのに、とは思ったものの、180度クランクのパラツインエンジンは元気だし、ハンドリングも「ワインディングでも楽しめちゃうぞ!」と嬉しくなる類のものなのだ。
 

 
 ということでさっそくツーリングをかねての撮影。高速道路でワインディングを目指す。ポジション的にはリラクシングなのにもかかわらず、高速の合流はさすがのカワサキ伝統パラツイン、力強く加速し一瞬で流れに乗れるしリードするのも苦にしない。ペースを上げていくとやはり少しハンドルが手前に引かれ過ぎている感があり背骨が後傾してしまいハンドルにしがみつくか、もしくは意図して前傾姿勢をとるような感覚もあったが、筆者のように体の長いライダーは前述した純正アクセサリーのハンドルに付け替えると良いのだろう。

 高回転まで元気に回りやすい特性とされる180度クランクだが、バルカンではピークパワーを落としてトルクフルな特性を追求。スペック的には特にトルク増強されているわけではないものの、特に高速道路の再加速などではシフトダウン不要の頼もしい蹴り出し感に気付かされ、淡々と走るにも薄味だとかそんなマイナスな印象はなく、クルーザーとしての付き合いやすさも感じられた(ファイナルがロングになっている感覚もあるため、それもこの印象の一部かもしれない)。このトルクフルさならタンデムや荷物満載でも、登り坂でも不足を感じず長距離を走り切れることだろう。Z650では元気なスポーツエンジンだったパラツインにこのような表情を持たせることもできたとは。
 

 

フロント18インチの安心感

 クルーザーモデルなのに「ワインディングでこそ本領発揮」と書くのも場違いな感があるが、しかしクルーザーなのにワインディングでストレスが無い、むしろ楽しめてしまう、というのがバルカンの最大の魅力なのだ。
 フロント18インチホイールで、キャスター角31度、トレール120mm、車両重量に至ってはZ650の189kgに対して229kgと聞くとものすごく安定志向なのかと想像してしまうが、ところがどっこい、大きな前輪は路面状況に関わらずドシッと路面を捕えて離さないし、ライダーの重心が低いおかげか尻で後輪をコントロールする感覚で意外やコロリヒラリと向き変えが容易。加えて立ち上がりでシフトダウンせずにアクセルを大きく開ければトルクフルなエンジンが本領発揮。スポーツバイクほどではないもののバンク角もある程度確保されているため、低中速ワインディングなら一般的なスポーツバイクと変わらないペースを、もしかしたらそれを上回る楽しさレベルで駆け抜けられるんじゃないかとすら感じさせた。フロント18インチ径が生むジャイロ効果もあるだろうし、フロントホイールそのものがけっこう重いんじゃないかとも感じた。カワサキ旧車にも似た安心感なのである。

 ブレーキも良く効くしどこにも「クルーザーだからある程度は我慢」を強いられる場面がないためすっかりいい気になってワインディングを楽しんだが、一方でスピードが乗る場面になるとエンジンの高回転域が削られていること、もしくは車両重量が重めなことには気づく。Z650やZ650RSのような高回転域まで元気に続く加速という意味ではバルカンはいくらか譲る場面があり、「もうひと伸び!」という所でナチュラルリミッターというか、優しく「こんぐらいにしときましょうぜ」と諭してくれる場面がある。もっともそんな場面はかなりレアで速度もノッているため、そもそもバルカンの本来のステージではないし、その重量感があるからこその安定感でもあるのだが。
 

 

「なんか良いもの」

 カワサキはZX-25RやRSシリーズの人気、そしてスーパーチャージドエンジンが搭載されるシリーズなど話題が多い中で、バルカンSはあまり目立たないというのは事実だろう。しかしこれをやめることなくラインナップし続けるカワサキは素敵に思う。
 大型バイクにステップアップしたばかりの人にも、逆に酸いも甘いも知り尽くしたベテランライダーにも、快適でストレスのないタンデムツーリングを楽しみたいライダーにも、そして「なんか良いのはないかなー」と迷っているライダーにも選択肢に入ってくるはず。バカ売れするモデルではないものの存在意義が大きいモデルだと思うのだ。

 細部を見れば専用デザインのホイールや凝った作りのサイレンサーなど、実はかなり力が入ったモデルであることは明らか。今のアダルト路線だけでなく、RSシリーズのようにカワサキらしさを感じさせるようなカラーリングでも展開されれば一気にカスタムベースモデルとしても人気を集めそうにも思う。
 大型バイクはプレミアムさももちろん大切だ。乗らなくとも所有欲を満足させてくれるプレゼンスや、乗った時には距離を走らずとも即座に感動させるパフォーマンスがあるバイクには説得力がある。そしてバルカンには、それは少ない。だからこそ、善い。
(試乗・文:ノア セレン)
 

 

ライダーの身長は185cm。写真の上でクリックすると両足着き時の状態が見られます。

 

650パラツインシリーズということは流用部品も多そうだ、と思いそうなものだが、前後ホイールは専用デザインが奢られ、フロントは18インチ化している。18インチという大径のおかげと、ホイールそのものの重量感も手伝い、ワインディングではスポーツモデルにはない安定感・安心感・接地感を発揮する。シングルディスクと2ポッドキャリパーのブレーキだが、リアとの併用で制動力は十分以上。スポーティな走りにも対応する。

 

クルーザーモデルはVツインが相場、というのはライバルであるレブルを見てももはや過去の話だろう。特にカワサキはこの180°パラツインの歴史が長く完熟の領域であり、スポーツモデルとは別にクルーザーに向けたトルクフルな特性に作り替えるのもワケなかったのだろう。車体の特性によく合ったフィーリングに仕上がっている。外観も空冷風フィンを追加し、そこから直線的に出てくる2本並んだエキパイもスマートだ。
車体横に設定されたリアサスは、出荷時設定ではいくらか柔らかめに感じた。72kgの筆者はプリロードを2段階締め込んだら良いフィーリングになり、本文中にあった元気なワインディング性能も得られた。バルカンらしい運動性を楽しみたい人、タンデムライドをメインにしたい人は是非プリロード設定のご検討を。

 

シートが快適なのは大きなプラス。一日乗っていても全く苦が無い。加えて最近はクルーザーモデルでもわりと簡易的な仕様が多いタンデム部も厚みがあるものを設定。後端が少し上を向いていて、タンデムライダーのことも考えているのがありがたい。なお純正アクセサリーのバックレストを付ければタンデムランはより快適で安全になるだろうし、後ろにキャリアも付いているのも便利。そろそろ奥様とノンビリツーリングを楽しみたい、もしくはラーメンランチデートにでも誘って昔のようにタンデムして欲しい、といった諸兄、いかがでしょう!

 

VULCAN S 主要諸元
■型式: 8BL-EN650J ■エンジン種類:水冷4ストローク並列2気筒/DOHC 4バルブ ■総排気量:649cm3 ■ボア×ストローク:83.0mm×60.0mm ■圧縮比:10.8■最高出力:45kW(61PS)/7,500rpm ■最大トルク:62N・m(6.3kgf・m)/6,600rpm ■全長×全幅×全高:2,310mm×855mm×1,090mm ■ホイールベース:1,575mm ■最低地上高:130mm ■シート高:705mm ■車両重量:229kg ■燃料タンク容量:14L ■変速機形式:常時噛合式6段リターン ■タイヤ(前・後):120/70R18M/C (59H)・160/60R17M/C (69H) ■ブレーキ(前/後):油圧式シングルディスク/油圧式シングルディスク ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:キャンディクリムゾンレッド ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):913,000円

 



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2023/01/09掲載