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試乗・解説

「異種」3気筒エンジンが どんどん魅力的になってきた! YAMAHA XSR900 ABS
2014年にMT-09が発売されたとき、きっとみんなが驚いた。
え? 3気筒? ヨンパツじゃなくて? トライアンフみたいじゃない?
けれど、ヤマハ渾身の新規エンジンは
次々とバリエーションを増やし、人気も定着。
3気筒エンジンが、どんどん魅力的になってきた!
■試乗・文:中村浩史 ■撮影:折原弘之 ■協力:YAMAHA https://www.yamaha-motor.co.jp/mc/ ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html クシタニ https://www.kushitani.co.jp/






 MT-09は、ヤマハ大型スポーツが手薄な時代に、900ccのクルーザー、BOLTに続いて発売された、ヤマハ久々のビッグバイクスポーツだった。BOLTに続いて久しぶりの新設計エンジン、新設計の車体を持つ、まったく新しいコンセプトのスポーツバイク。
 スタイリングはモタードバイクのようで、前がかりな着座位置の、何にも似ていないニューコンセプト。そしてその走りは、3気筒エンジンのギュルギュルとした力感や、シャープにキレるハンドリングで、それまでのスポーツバイク=ツインチューブフレームのフルカウル4気筒+クリップオンハンドルとは明らかに違って、アップライトなポジション、バーハンドルなネイキッドスポーツだった。
 

 
 そのMT-09は、のちにヤマハがヘリテイジスポーツと呼ぶクラシックスタイルのXSR900、そしてアドベンチャーカテゴリーに踏み込んだTRACERに展開し、これがMT-09ファミリーを形作ったのだ。
 そして、そのMT-09ファミリーはいつの間にか市民権を得て、休日になるとあちこちの峠で、あちこちの高速道路のパーキングで見かけるバイクになった。2015~16年ごろは、出かけた先で見かけるビッグバイクはスズキGSX-S1000かMT-09か、ってくらいの肌感覚でのヒットモデルとなっていたのだ。
 

 
 そのMT-09ファミリーがフルモデルチェンジ。排気量は845ccから888ccに、最高出力は116psから 120psにアップ、車体構成もガラリと変えての第二世代となった。
 MT-09と同じくXSR900も同じお色直しを経てフルモデルチェンジ。とはいえ、排気量&パワーアップで力強くなったというより、電子制御を含めたバージョンアップで、より洗練されたフィーリングを得た、という感じ。ここがニューMT-09ファミリーのメインテーマだと思う。

 エンジンは、従来からあったスロットルレスポンスのよさをそのままに、ちょっとツキが「良すぎる」点が補正されている。ツキのよさは、ある程度まではライダーの意志に忠実な感じがするんだけれど、MT-09ファミリーのそれは、ドンツキともいえるような荒々しさにつながっていた感があったからね。
 それが、すごく滑らかに、上質なフィーリングに仕上がっている。燃え方が綺麗というか、マッピングで見るトルクの小さな谷を細々と潰したような完成度だ。
 

 
 電子制御の恩恵はシフトアップ&ダウン両方向のクイックシフトにも現れていて、街乗りからちょっとペースを上げるワインディングで、気持ちよくイージーに乗ることができる。
 電子制御のもうひとつの恩恵は、4速50km/hから使えるクルーズコントロール。上下ボタンで2km/hずつ設定速度を上下できて、このクイックシフトとクルーズコントロールで、XSRの完成度はすこぶる上がっている、と言ってもいい。4パターンから選択できるパワーモードを含め、何でもかんでも電子制御かよ──なんて言ってると、この快適さを味わえないままになっちゃうぞ。
 ちなみに新たに投入された電子制御は、アンチウィリーやスライドコントロール、コーナリングABSや車体姿勢感知のトラクションコントロールもあるけれど、これらはあくまでも転ばぬ先の「超安心の」杖、ってこと。速く走るために積極的な電子制御の活用ならば、それはYZF-R1にお任せ。あくまでもXSRはストリートスポーツバイクだからね。
 

 
 ハンドリングは、フレームがゴツくなったとはいえ、いたずらに高荷重設定になったわけではなく、よく動くサスペンションと、車体剛性コントロールによって安定性が増した印象。
 街乗りでは軽快に振り回せるけれど、ステアリングヘッドを中心にしっかり感があって、それが高速道路でのクルージングで、路面に吸い付くような安定感を見せる。
 これがワインディングに入ると、前後によく動くサスの表情が前面に出てきて、うまくリズム良くコーナーをクリアできる。もともと、MT-09初期モデルから、長いサスストロークを使うモタード的な動きをするバイクだったけれど、それがもっと洗練されてスポーツバイク寄りになった感じだ。いいナ、これ。
 

 
 街乗りでも高速道路でも、低速域と高速域の軽快性と安定性がすごくよくバランスされていて、ワインディングではさらに違う表情を見せる、スキのない仕上がりがニューXSRの正体なのだろう。
 ただし、ちょっとひとこと。せっかくMT-09との兄弟モデルなんだから、もっとスタイリングに差をつけて良かったと思う。MT-09がビキニカウルをまとった、端正なスタイリングをしているだけに、このXSRの「フルカウルバイクからカウルを取っ払った」ような荒っぽいフレームむき出しのスタイリングがちょっと残念。古い話だけれど、FZ400Nなんてバイクがあったよね、あんな印象。

 あれ? ってことはXSRのフルカウルバージョンも控えてるってこと?はまだまだ未確認情報ですがね。
 オーセンティックなスタイリングだけれど、その走りは現代的なもの。それがヤマハが考えるヘリテイジスポーツ。3気筒エンジンが、どんどん魅力的になってきた!
(試乗・文:中村浩史)
 

 

ライダーの身長は178cm。写真の上でクリックすると両足着き時の状態が見られます。

 

845ccから888ccに排気量アップ、116psから120psにパワーアップしたMTファミリーの第二世代エンジン。パワーモードが4段階にセットでき、アンチウィリーやトラクションコントロール、クイックシフトやクルーズコントロールを標準装備。パワーアップ効果はもちろん、エンジン出力フィーリングがよりスムーズになった。

 

アルミダイキャストフレームは従来比30%軽量化、約80%の部品点数削減と、約30%のコストダウンができるという。フレーム単体写真だけ見ると、まるでレーサーレプリカ系のアルミデルタボックスフレームだ。
Φ298mmローターに4ピストンキャリパーをラジアルマウントするブレーキ周り。ブレーキのマスターシリンダーには、YZF-R7に続いて、思い切りコストをかけたブレンボ製ラジアルポンプを採用した。

 

従来モデルよりも55mmロングとしたスイングアームを採用。ヤマハの得意分野であるロングアームは直進安定性はもちろん、リアサスペンションの動きのよさと、トラクションのかかりよさを狙っている。
リンクを介して車体にレイダウンマウントされるリアサスペンション。プリロードを7段階、伸び側減衰力を無段階に調整可能。減衰力はフレームのスイングアームピボット上のラバーキャップを外して調整。

 

倒立フォークに丸目ヘッドライトの組み合わせ。ブラックリムのLEDヘッドライトは、左右への配光性やバンク時の照射特性も考えられている。ドリルホール入りのライトステーがちょっとカスタムバイクっぽい。
スペースの前半分はエアボックスのスペースとしたフューエルタンク。容量は14Lでカタログ燃費はWMTC(=2輪用国際基準走行モード)値で20.4km/L。今回の試乗では最高24km/Lまで伸びました。

 

カフェレーサーのシートカウル付きシングルシートにも見えるダブルシート。前後の段差があり、お尻のおさまりが良かった。ヘルメットホルダーは別体、シート下にはETC車載器のスペースあり。

 

ギアポジション表示つきのデジタルメーター。バーグラフ式タコメーターで、オド&ツイントリップ、平均&瞬間燃費、リザーブからの走行可能距離などを表示。左ハンドルスイッチで表示項目を切り替えられる。
タンデムステップはステー一体式のキャスティング部品で、ステーごとシート裏に収納できる。こういうオシャレさ、ヤマハのいいところです。タンデムライダーにもいい位置に取りつけられている。

 

XSR900 ABS 主要諸元
■エンジン種類:水冷4ストローク直列3気筒DOHC4バルブ ■総排気量:888cm3 ■ボア× ストローク:78.0× 62.0mm ■圧縮比:11.5 ■最高出力:88kW(120PS)/10,000rpm ■最大トルク:93N・m(9.5 kgf・m)/7,000 rpm ■変速機:6段リターン ■全長× 全幅× 全高:2,115 × 790 × 1,155mm ■軸間距離:1,495mm ■シート高:810mm ■タイヤ:前120 / 70ZR17M / C 58W、後180 / 55ZR17M / C 73W ■車両重量:193kg ■車体色:ブルーメタリックC、ブラックメタリックX ■メーカー希望小売価格(消費税込み):1,210,000 円

 



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2022/12/09掲載