Facebookページ
Twitter
Youtube

試乗・解説

600SSのカワサキ流着地点 Kawasaki ZX-6R
Z900RSやZX-25Rの好調、ZX-10Rのスーパーバイクでの実績、そしてスーパーチャージドエンジン搭載シリーズなど話題に事欠かないカワサキ。そんな中では比較的目立たない一台がコレ、ZX-6Rだろう。ミドルクラスのスーパースポーツなのに、636ccという排気量。中途半端にも思えるが、実は街でもサーキットでもことある毎に見かける……。そんな不思議なZX-6Rにフォーカスしてみる。
■試乗・文:ノア セレン ■撮影:富樫秀明 ■協力:カワサキモータースジャパン https://www.kawasaki-motors.com/■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、KADOYA https://ekadoya.com/ 




速い! 速い!!

 ミドルクラスは今、普及モデルというか、付き合いやすく作り込まれているものが多いと言える。カワサキならば長らく作られてきたパラツインの650にRS版もラインナップさせるなどモデルを拡充してきた。また競合各社のモデルもおおむねツインを選択し、そしてみな乗りやすく、扱いやすく、維持しやすい構成とされつつ、公道環境においては十分以上の速さをもっている機種がほとんどだ。
 そんな中、この636に乗って思うのは「なんと言っても速い!」ということである。競合機種とも言える600~750ccクラスのなかでも十分速いモデルは存在するものの、636は本当に「速い!」。公道向けの、親しみやすいモデルが「速いよね」という感覚ではなく、「俺はスーパースポーツ由来なのです」と断言されているような絶対的速さを持っているのが印象的だ。

 636は公道での使い勝手などがベースにある機種とは違い、軸足は完全にスーパースポーツ(ゆえにサーキット由来の究極パフォーマンス)だと感じる。あくまでその究極の動力性能があった上で、公道での使い方やもう少し付き合いやすい特性の方に手を伸ばしているに過ぎない。公道が軸足のモデルだと「最高速はせいぜい210キロぐらいで十分でしょ? サーキット走るならちゃんとセットアップしてね」といったスタンスに思うが、スーパースポーツ側に軸足がある636だと「280キロぐらいは普通に出ますよ、サスのセッティング次第でサーキットでもバッチリタイムが出ます。気分はジョナサン・レイだよね」といった本気度が伝わってくるのだ。この容赦のない速さ、妥協のない性能の追求が、よりフレンドリーな公道での快適性や万能性を求めたモデル群に対してコントラストとなり、636のならではの輝きを放っている。
 

 

それでいて適度な優しさは実にカワサキ的

 究極の600ccクラススーパースポーツならば現在もラインナップされているホンダのCBR600RRだってそうなのだが、636は600ccクラスのレースカテゴリーを離れた排気量設定が示すように、今や本当に選手権を戦うだとか、そういったところは目指していない。あくまで「軸足を」そちら側においているというだけで、公道向けの適度な付き合いやすさを持たせているのが特徴だ。もっとも、そういった味付けはカワサキ車全般において昔からある魅力だろう。サーキットを走る人もいるものの、購入する人のほとんどは公道で乗るはずだ、という基本姿勢をカワサキは常に持っているメーカーに思う。
 636においては強い前傾ポジションやフルパワーモード時の絶対的な力感、硬質でダイレクト感のある車体などはSS的ながら、このカワサキらしい優しさも確かにある。またがって思うのは妙な腰高感が少ないこと。シート高は830mmと特別低いわけでもないものの、サスの初期の沈み込みなのか、車体から受ける低重心なイメージなのか、バイクの上にチョコンと座らせられているのではなく、ちゃんとバイクと一体感があるのが嬉しい。そして何よりもコンパクトなのも魅力だろう。最近の1000ccクラスのSSは意外に大きい印象があるが、636は例えばZX-25Rからステップアップしてもサイズ感におののくことはないだろう。
 

 
 ハンドリングも適度な緩慢さがある。ブリヂストンのS22というオールラウンドなスポーツタイヤを装着しているということもあろうが、バイクが傾き始めた瞬間に内側の縁石に刺さりに行くような極端な切れ味はなく、むしろ前輪の接地感をしっかり確かめながら素直にコーナーのアールをトレースしていけるような安心感を持っている。ライダーの意志に反して曲がっていかないということは決してなく、良い意味で「思った以上に凄い切れ込む!」といった怖さが無いのが嬉しい。逆にこれを切れ味鋭く走らせようと思うと、しっかりとブレーキングしてフロントに荷重を集め、尻をずらして、気持ちを込めて取り組んでいく必要があるだろう。よりスポーティなタイヤを装着しても性格は変わりそうに思う。ただそういったパフォーマンスライディングを日常的な走行の中で強要してこないのが魅力的で、これもまたカワサキ的に思えた。
 
 かといってツアラーモデルほどボーッとしながら乗れるわけではないのは事実だ。それは主に強い前傾姿勢によるものだが、どうしても路面ばかりをにらみつけるような姿勢をとらされてしまうため、例えば見通しの悪い峠道や路面の荒い急な下り坂などではちょっと気を遣う部分もあると言えばあり、また長距離ではシンプルに肩や首、腰への負担も相応にある。その部分ではスーパースポーツ的な性格も垣間見える。
 

 

随所に見える「上品さ」

 一つ大きな魅力に思えたのは全体から感じられる上品さ。それを一番感じさせるのは排気音が静かなことだと思う。腹下のタイコを経て、大きめなサイレンサーも備えることで排気音はとても静か。ZX-25Rよりも静かなぐらいで、距離を乗るほどにこの静かな排気音が上品に感じ疲労も軽減してくれた。
 また付き合いやすいと感じたもう一つはローパワーモードの設定。フルパワーモードでは126馬力を発するがその代わりアクセルレスポンスもリニアで、スピードが乗らず高回転域を常用することもない公道においては少し過ぎる感覚もなくはない。対してローパワーモードは約82馬力に抑えられてはいるものの、アクセルレスポンスは優しい設定となり低速域/低回転域でもギクシャクせずに扱いやすい。ピークが82馬力と言われると少ない気がしてしまうものの、パラツインのZ650RSが68馬力だと考えると決して少ない数字ではないし、常用域トルクの作り込みはカワサキが得意とするところ。一般道においては十分以上に速いだけでなく、優しく、上品なアクセルレスポンスのおかげで自信をもって走らせることができるのが本当に気持ち良かった。

 またローパワーモードに対して特に好感が持てたのは、「意図的に作り出したローパワー」に感じさせないこと。最近は多くのバイクにこういったローパワーモード的なものが備わっているが、中には不自然にパワーを間引いた感じになってしまっているものや、アクセル入力に対しての反応がファジーなものもある中で、636はとてもナチュラルなのが魅力であり普段からこのローパワーモードを積極的に使いたくなった。こういった部分の作り込みからも、パフォーマンスと公道における使いやすさ、そして全体的なスキのなさ≒上品さを感じさせてくれた。
 

 

これはベストチョイスかもしれない

 10年前まではあれだけ盛り上がっていた600ccクラスのSSモデルだが、世界的にも今はマーケットが縮小していると言わざるを得ない。しかしあれだけ先鋭化したカテゴリーをそのままなくしてしまうなんてもったいない。そんな中でZX-6Rはこの636を辞めず、SSらしい要素をしっかりと残しながらもカワサキらしい公道性能も追求しつつ残しているのは歓迎したいところだ。またカワサキはZX-25Rでビギナーライダーに対しても4気筒という提案をすることに成功しているため、そこからのステップアップとしてミドルクラスの4気筒というのはラインナップしておきたいところだろう。大きすぎず、パワーも(1000ccクラスに比べれば)高すぎず、またこれも大切な部分だが、価格も140万円強に抑えているのも魅力的。しばらくモデルチェンジされていない関係もあり敢えて注目されることは減っているようには思うものの、確実に街でサーキットで見かけるにはこういう訳があると思うのだ。

 大きく盛り上がり、そして急激に衰退してしまった600ccスーパースポーツというカテゴリーだが、カワサキはカワサキらしさを注入したこの636をラインナップし、ミドルクラススーパースポーツのカワサキらしい着地点を見事に見つけ当てていると感じる。この絶妙な良さを知ってしまうとこのパッケージをベースにニンジャ/Zとミドルクラス4気筒シリーズを拡充してくれたら……なんてことも思ってしまった。
(試乗・文:ノア セレン)
 

 

ハンドルが低くあくまでスポーツ性を重視したライディングポジションだが、ハンドルは低いものの遠くはなく車体同様コンパクトな印象がある。足つき性もシート高の数値以上に良く感じるのは、サスペンションの初期作動がソフトに感じることと、シートからタンクに繋がる部分のホールド性が良いということもあるように思う。ハイパワーなバイクの上にチョコンと載せられているような感覚ではなく、車体重心に近く座れる印象で一体感があり、小さく軽量な車体ながらスピードを出しても怖さを感じにくく思えた。ただ淡々と走るような場面ではやはりハンドルに上半身の重さが載ってしまう印象はあり、肩や首が疲れてしまうのは事実だろう。身長185cmほどの筆者が乗ると特にコンパクトに感じ、スクリーン内に潜り込むように伏せた場合は尻をシートの後方にずらさないと上半身が収まらない感もあった。一方でこのコンパクトさが小柄なライダー、または女性ライダーにこの636が好まれる一因でもあるだろうと想像できた。

 

アジャスタブルの倒立フォークはSHOWA製SFF-BPタイプで、ブレーキにはラジアルマウントのキャリパー、ラジアルポンプマスターを採用。カワサキのABSシステムは前後ホイールの速度差だけでなくキャリパーにかかる油圧など様々な情報を基に制御を行うKIBSというもの。写真のアクスルスライダーは純正アクセサリー設定。

 

旧くからZX-9Rとの兄弟関係で存在していたZX-6Rだが、排気量を67cc増した636がデビューした歴史も古く、初代636は02年の登場。レース対応の600と公道向けの636を併売した時期もあった。37ccの排気量増大だけでなく、この636は公道向けのトルクフルな設定とされファンを獲得。パワーモードはフルパワーとローパワーの2種で、3モード+OFFが選択できるトラクションコントロールの設定と組み合わせることで8通りのセッティングが可能。近年のハイテク電子制御に比べるとシンプルな内容だが、トルクフルで許容度の高いエンジンの味付けを考えると必要十分に感じる。なおクイックシフターはアップのみの対応。

 

タイヤはブリヂストンのS22で公道ワインディングといったシチュエーションにマッチさせている。リアブレーキはZX-10Rと共通の軽量ブレーキキャリパーを採用。リアサスペンションはレース用モデルZX-6Rと同一レイアウトとしながら自由長を伸ばして公道向けにリセッティング。タンデムライドにも対応しつつ、フルアジャスタブルとすることでサーキットライドなど細かなシチュエーションにも応える。

 

タンクの後ろに落とし込まれているシートはニーグリップがしやすく好印象。撮影日は一日乗っても尻に痛みを感じることもなかった。タンデム部は最小限といったイメージ。シート下はライダー側が最初に外れ、アクセスしやすいバッテリーの横にETCも標準装備される。タンデムシート下には排気デバイスのモーターが収まるが、他にスペースの余裕はほぼない。なおタンデムステップ部にヘルメットホルダーも標準装備されるのはカワサキらしい配慮。

 

17L容量のタンクはスリムで、またニーグリップ部に段差もなくフィット感が高い。636となって公道向けの設定になっているのに、タンクにKawassaki Racing Teamと書いてあるのはいくらか照れ臭い気もするが、レースファンとしてはWSBとのリンクも感じられて嬉しいかもしれない。油種はハイオク。
メインのサイレンサーは多角形でとてもカッコイイのだが、この他にピボット部の下にも大きな箱を備えることでユーロ4規制に対応するだけでなく非常に静かな排気音も実現。ルックスも排気音もとても上品だ。

 

光源が見えないLEDのヘッドライトを備えるフロントカウルデザインはニンジャシリーズに共通するもの。ZX-25Rなどからステップアップした際に親しみを持てる一方、例えばニンジャ650ともよく似た顔となっているのは性能差を考えるとちょっと惜しいような気もする。
LEDテールランプも各排気量のニンジャシリーズと共通するデザインで構成される。カワサキ車の多くはわかりやすい荷掛けフックなどを備えるが、さすがスポーツモデルだけにそれは省かれている。

 

中央に大きなアナログタコメーターを配し、多機能のデジタルメーターを組み合わせるのはよくある手法。ギアポジションや燃費計など多彩な表示があるのはもはやスタンダードだが、時計が常時表示されているのはプラス。パワーモードやトラコンの介入度設定もシンプルにできたのも嬉しかった。スクリーン含めて全てがコンパクトで、前述したが大柄なライダーにとってはいくらか狭く感じることもあるかもしれない。

 

左側のスイッチボックスには通常のスイッチ類に加えて上下キーと中央に決定キーを配したスイッチを追加。これによりパワーモードやトラコンの設定、クイックシフターの有無などワンタッチで設定・変更が可能。反応も良く印象が良かった。なおアクセルは電子スロットルではなくワイヤーがついている方式で、これによりワイヤーを引っ張るという昔ながらの感覚が残っている。特にローパワーモードではその感覚がとても気持ち良く、旧くからのカワサキ乗りを「ニヤリ」とさせる部分に感じた。

 

ZX-6R KRT EDITION Specification
■エンジン種類:水冷4ストローク直列4気筒DOHC4バルブ ■総排気量:636? ■ボア×ストローク:67×45.1mm ■圧縮比:12.9 ■最高出力:92kW(126PS)【ラムエア加圧時97kW(132PS)】/13500rpm ■最大トルク:70N・m(7.1kgf・m)/11000rpm ■全長×全幅×全高:2025×710×1100mm ■軸間距離:1400mm ■シート高:830mm ■車両重量:197kg ■燃料タンク容量:17L ■変速機形式:6段リターン ■タイヤ(前・後):120/70ZR17・180/55ZR17 ■ブレーキ(前・後):油圧式ダブルディスク・油圧式シングルディスク ■車体色:ライムグリーン×エボニー ■メーカー希望小売価格:140万8000円


| 新車詳報へ |


| KawasakiのWebサイトへ |

2022/11/23掲載