310ccとはいえGSはGSである
BMWといえばドイツ車、BMWといえばフラットツイン、BMWといえばビッグバイクに、アドベンチャーの王様──そんなイメージ。総じて、まぁ高級車、ってイメージは強いと思う。
もちろん、BMWもそこはもっとカジュアルに振りたい。うちのバイクは高級車、高価格車ばっかりじゃないよ、という狙いもあってFシリーズを発表したのが1994年。Fシリーズはそれからずっとラインアップされていて、今でもロードスポーツF900R/XR(115万6000~124万1000円)、アドベンチャーのF750GS(143万3000円)、F850GS/GSアドベンチャー(163万8000~209万5000円)が発売中だ。
そして2017年に発表された新しいラインがGシリーズ。310ccのロードスポーツG310Rと、アドベンチャーといえるG310GS――あのBMWが、ついに日本の普通二輪免許ライダーも乗れる310ccモデルも作っちゃった!って話題になったモデルだ。
Gシリーズの先頭バッターはロードスポーツG310R。外国車の普通免許モデルという珍しいクラスに、KTMのDUKEシリーズとともに存在感を示したモデルだった。水冷単気筒の312ccエンジンを搭載、トレリスフレームに倒立フォーク、ABS付きブレーキにはバイブレ(ブレンボのセカンドラインですね)製4ピストンキャリパーをラジアルマウントするなど、スモールバイクといえども上級モデルなみの装備を持つバイクだった。
そのバリエーションモデルがG310GS。GSとはもちろん、ゲレンデ・シュトラッセ=オフロードの意味で、スモールバイクであるGクラスのGS、という位置づけで、今の日本でいう「ミドル・アドベンチャー」だ。
ライバルはホンダ400X、KTMの390アドベンチャーといったところで、250ccにまで目を移すとスズキVストローム250やカワサキVERSYS250X-TOURERがある。普通二輪免許で乗れる、貴重なアドベンチャーだ。
その310GS、兄弟モデルの310Rに比べ、車格はやや大きめ。これはオフロードも守備範囲とすべく、フロント19インチホイールを採用したからで、310Rが250ccクラス、310GSが400ccクラスのサイズと考えれば想像しやすい。車重やホイールベース、排気量も考えると、KTM390アドベンチャーにかなり近いポジションだ。
乗り始めると、すぐに気づくのは乗り心地のソフトさ。それでいて動きがもっさりしていないのは、G310シリーズ独特のエンジンマウントによるものだ。というのもG310は、通常のエンジンと逆、つまりマフラーがシリンダー背面から出ているレイアウトで、つまり前方吸気+後方排気。かつて80年代終盤にあった、2ストロークモデルTZR250が前方吸気+後方排気でしたね。
後方排気とすることで、エキパイがフロントホイール側に出なくなり、それだけエンジンを前に搭載できる。これがフロント荷重につながって旋回性能を生み、前方にエンジンを搭載することでスイングアームを長く取ることができ、乗り心地が柔らかく、トラクション性能に優れたハンドリングとすることができる。これが、G310の代表的なキャラクターなのだ。
エンジンの回り方は、水冷DOHCシングルだけあって、ドコドコ感など皆無で、軽快に回り込む印象。同じ水冷DOHCシングルの390DUKEはもっと軽くシャープに回る感じで、310GSの方がトルクフルに感じる。
アイドリングすぐ上からトルクがある特性で、発進から加速がしやすい印象。このフィーリングは、現行モデルでスロットルbyワイヤとされているからか、先代のG310よりもスロットルレスポンスが鋭い。
トルクがさらに盛り上がってくるのは4000rpmあたりで、6500rpmあたりからもう一段盛り上がってくる。このあたりの回転域ではレスポンスがさらにダイレクトで、アクセルを開けた瞬間のツキがいい。310ccというより400ccくらいのトルクを味わうことができる。
街中を軽快に走れるのはもちろん、ハンドリングも安定感をたっぷりとった、フロントタイヤの接地感がしっかりある動き。ヒラヒラ走れるというより、どっしり、いやどっしりというよりもしっかり――このあたりも250cc以上400cc未満という印象だ。
高速道路に乗り込んでみると、G310のよさ、さらにGSのよさがよくわかる。G310Rよりも10kgほど重い車重、フロント19インチホイールがきれいにメリットとなってあらわれていて、直進安定性がしっかりしたクルージングが味わえるのだ。ストリートランのスピード域とはまるっきりテイストが違い、さらにどっしり走るようになる。これは400ccよりもっと大きい、たとえば650ccクラスの安定性だと言っていい。
トップ6速でのクルージングは80km/hで4800rpm、100km/hで6000rpm、120km/hが7200rpmといったところで、この7000rpmオーバーの120km/hクルージングがすごく快適だった。やはり、ナリは小さくとも、GSはGSなのだ。
さらにGSならではのキャラクターとしては、リラックスしたポジションによるアイポイントの高さと、軽く整風するウィンドプロテクションが快適で、特に雨降りや冷えた路面の時のツーリングなどでも威力を発揮すると思う。フロント19インチのロードホールディング、アイポイントの高いライディングポジションで、少々のコンディションの悪いルート、どんなに走行条件が悪くても、平気で走り続けられるところだろう。オンロードを軸にオフロードに踏み入って行けたり、オフロードをベースにツーリングルートを決めていくことができる。
これがアドベンチャー、これがGSだ。大型免許がなくとも、扱いやすい、手に負えない大きさではないアドベンチャーがここにある。
(試乗・文:中村浩史)
■エンジン種類:水冷4 ストロークDOHC 単気筒4バルブ ■総排気量:312cm3 ■ボア×ストローク:80.0×62.1mm ■圧縮比:10.9 ■最高出力:25kW(34PS)/9,250rpm ■最大トルク:28N・m/7,250rpm ■ 全長×全幅×全高:2,190×880×1,250mm ■軸距離:1,420mm ■シート高:835mm ■車両重量:175kg ■燃料タンク容量:11.5L ■変速機形式:常時噛合式6 段リターン ■タイヤ( 前・後):110/80 R19・150/70 R17 ■ブレーキ(前・後):油圧ディスク(ABS)・油圧ディスク(ABS) ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:コスミック・ブラック3、カイヤナイト・ブルー・メタリック、ポーラホワイト、ポーラホワイト×レーシング・ブルー・メタリック、コスミック・ブラック2、カラタマ・ダーク・ゴールド・メタリック ■メーカー希望小売価格(消費税込み):774,000 円~