カルー4のターゲットユーザーをプロファイリングすると次のようになる。
●アドベンチャーバイクの世界をこれから拡げるために、林道に行ってみたい。
●オフロードコースで行われるトラックデイ的イベントに参加したい、あるいは経験者。
●長い、高速道路移動をしてでも、各地の林道ルートを走りに行きたい。
●国境を越えたアドベンチャーツーリングをしたい。
そんなライダーとアドベンチャーバイクに向けたタイヤなのだ。
使用環境指数をイメージで示せば舗装路50%、未舗装路50%的になる。それはツーリングにおける走行距離割合ではなく、ユーザーがどちらにもウエイトを置いている、という意味になるだろう。
例えば、大排気量、快適なフェアリングなどの装備を活かし、珠玉のダートを走るためにまずは500㎞の高速道路を走り、さらに一般道100kmを移動。そして20㎞の林道を数本走る。そんなプランがアドベンチャーバイクなら1日のうちに踏破可能だ。
つまり、どこかピンポイントにフォーカスしたタイヤではオールオーバーに高い満足感が得られない。つまり、満足度スコアを求めれば、舗装路満足度、あるいは納得度が80~90%程度、オフロードでの性能は、アドベンチャーバイクを活かした遠出をした上で良質な時間を過ごすのが目的だから、その体験、経験がユーザーにとって90%以上をたたき出す必要がある。つまり、究極のタイヤを目指すぐらいの気概がこのタイヤ作りには必要になってくる。
今回カルー4のテストでは、ヨーロッパを中心に人気の高いアドベンチャーバイク、中でも、フロント120/70-19、170/60-17というサイズのプレミアム系アドベンチャーバイクでその乗り味を体験した。タイヤの技術的要素は、メッツラーファンサイトにきめ細やかに掲載されており、複数パートに分けて解説されているので、是非、そちらを参照下さい(https://pmfansite.com/metzeler/article/)。
磨かれた舗装路性能。
最初のカルー4体験は、メディア向けに開催されたメッツラーの試乗取材イベントにおいてだった。ニューサウス・ウエールズ州(オーストラリア)のウインザーを起点に様々な場面のルートでその走りを試すことができた。
試乗用に用意されたバイクは……。
BMW R1250GS ADVENTURE、BMW R1250GS 、KTM 1290 スーパーアドベンチャーS、DUCATI ムルティストラーダ V4 S、HARLEY-DAVIDSON パンアメリカ1250スペシャル。
つまり、どの車両もセミアクティブサスペンションを装備し、電子制御周りもIMUを備えることで、今考えられるもっとも高度なフィードバックから制御を行うよう仕立てられたもの。外観デザインこそメーカーが個性の発露としているが、中身を含め装備は同一線上にあるといって過言ではない。タイヤのテストながら、これだけのモデルを一堂に乗れるチャンスは少なく、メーカーそれぞれでエンジンのキャラクターや車体構成からくるパッケージは異なり、アドベンチャーライディングに対する見識の詰まり方もそれぞれで違いがあって逆に面白かった。
最初は筆者自身でも所有しているBMW R1250GS ADVENTUREで走り始めた。これまでミシュラン、ブリヂストン、ピレリなど多くのタイヤを履いてきたが、その中でも舗装路性能の高さが好きでメッツラーの前作でもあるカルー3を好んで履いていた。車両が同じならタイヤの違いもよく分かるだろう、そう思ったからだ。
その違いは走り始めて1分と立たずに理解ができた。まずタイヤが低速で転がる時にでるブロックタイヤで伝わるゴロゴロとした感触。それが減少している。同時に、転がり方がスムーズ。いわゆるノーマル系タイヤを履いているような印象だ。そして、会場のホテルから表通りに出るために左折した瞬間、カルー3の低速時のハンドリングよりも、バイクを寝かした瞬間のフロント周りの舵角の入り方が自然になった。
270㎏に迫る車重、空気圧はフロント2.5kPa、リア2.9kPa とメーカーの指定値。この日のテストは全車メーカー指定値での走行だ。一般道では自分のバイクもカルー3はメーカー指定値だったのでその違いは手に取るようにつたわってくる。
交差点、市街地でのカーブでも同様で、軽い印象がある。トレッド面におけるブロックとそれ以外の割合を先代カルー3と同等にしつつも、接地面を増加させたというだけに、さらにハンドリング的には手応えのある方向に行くのか、と思っていたが逆だった。
一般道を走っていてもう一つの変化はパターンノイズが低いこと。つまりうるさくない。カルー3はいわゆるオフ系タイヤにある、ヒューンというパターンノイズが速度とともにボリュームアップするタイプだがカルー4はあまりそれが気にならない。
このノイズの部分は帰国後、国内でもミッチリ走り込んだ。60~70km/h程度でノイズレベルのピークがくるが、高速道路を80km/h、100km/h、120km/hとよくある制限速度で巡航をすると、速度が増すほど音量が収束する印象。もちろん無音ではないしOEM系タイヤと同じ、とは言わないが、カルー3よりもかなり静粛性が高い。遠距離高速道路移動では大きなプラスになる。
ワインディングロードでの性能はカルー3の持ち味の一つだった。オフロード性能とトレードオフにするカタチでダート性能を高めたタイヤも少なくないが、アドベンチャーバイクの真骨頂、峠も楽しい、という側面をスポイルしたくない。その点でカルー4は、ハンドリングの軽さが備わり、カーブのアプローチ初期、軽いリーンアングルでの安心感が増え、フルバンク時のグリップ力にも不満はない。ハンドリングの鋭さを探究するようなタイヤではないが、旋回性も悪くない。じつはこのパートが凹んだのではないか、そう考えていた。というのも、ダートでの性能、中でも泥濘路での性能を大きく上げたというカルー4だったが、舗装路性能全般に不満がない。
さらにウエット性能も上げたという点においては、雨で濡れたアスファルトを不安無く走れたし、ABSやトラコンが早期介入することもなく、普通に走るコトが出来た。カルー3と同条件で比べたウエット制動テストでは、平均1.85メートル(85km/hから停止までの距離)短縮したというから性能は間違いなし。ここはメッツラーらしい総合性能をみせてくれた。
あちこちを走行して唯一、グルービング路面の縦線、アスファルトに刻まれたあの二輪ライダーには意味不明だ、と叫びたくなるほど不快で危険を感じるあの等間隔で舗装路に入れられた縦線ではカルー3よりも敏感になったようだ。新旧比較で唯一見つかったウイークポイントだ。
ダートでのグリップ性能に驚く。
ダートでの安定したグリップ感は印象的だった。オーストラリアで体験したダート路は、基本的にハイペースで、アップダウンがあり、舗装路同様、地形に合わせて道を敷設した印象だった。日本のように切り通しを造って見通し、平坦性を造り出そうというよりはS字で通りやすい地形を抜け、丘陵地形をそのまま越えることも多い。
道は固めた赤土が多かった。砂利が敷設してある場所もあるが、前夜に降った雨で埃が立たない程度の湿り気がある。カルー4はそんなグリップがどの程度なのか確かめにくい場面を行く。
そんな道をカルー4を履いたR1250GS ADVENTUREは軽快に走っている。直線からカーブへのアプローチでブレーキングをしても、しっかりと路面を捉え減速Gの立ち上がりとコントロール性の良さに緊張感が和らぐ。旋回して加速する場面でもトルクでテールをやや外に滑らせながらも、しっかりと増速して立ち上がるカルー4。むしろ、テールを軽くアウトに流せることで、ハンドリングがニュートラルになる。
トラクションコントロールの介入度は最弱。ライディングモードはエンデューロプロ(ダートタイヤを履いた時の推奨モード)、このモードだと後輪のABSがカットになるが、不意のリアロックでエンジンが停止すると、テールスライドが収まらないので、いつものように後輪もABSを機能させるように設定した。
トラコンもそのテールアウトの状態から加速が気持ち良い。これが今のアドベンチャーバイクの電子制御の優れたところで、ライダーが姿勢を上手く造ってパワースライドさせている限り、無粋にパワーをカットせず、うまく調整をしつつアブナイ姿勢にならないよう制御をしてくれる。
ABSに関しても、じわっと効かせ始めてから握り込むような使い方ならなかなか介入してこないし、その分、グリップ力が高いとライダーは判断もできる。まだイケル、とライダーはペースを上げられるのだ。
ハイペースのダートではBMW、ドゥカティ、そしてハーレーとも安心感が高く、その持ち味を引き出しやすい。中でもドゥカティのV4エンジンのトルクの出し方とグリップバランスは印象的。横方向に滑るのに加速方向へもグイグイ進む。開発ライダーが電子制御マップをこれでもか、と作り込んだ賜。それが良いタイヤでさらに光る、というもの。
国内に戻って赤土、黒土、草地のアップダウンなどオーストラリアで体験した道よりも一歩踏み込んだオフロードの走行も体験した。雨上がりだったこともありタイヤの空気圧は前後とも2kPaとしたが、登坂、下り、平坦路など、あらゆる場面でぬかるんだルートをカルー4は事もなげに走る。場所によっては路面に轍が深くあり、それがヌルっと動くような場面もあり、さすがにそこではタイヤがキョロキョロとするが、前輪は方向制を失わず、後輪はサイドのブロックも含めしっかりとトラクションをもって前進してバランスを取りやすい。カルー3はこうした場面でフロントが切れ込んでいきやすく、フロントに荷重をかけ過ぎないよう配慮しながらアクセル一定で抜ける必要があった。カルー4はアクセルを開け増しても、リアに推されてフロントがプッシュアンダーのようにならない。
また、表土がかなり滑る上り坂でも、テールが左右に振れつつ、トラクションコントロールが介入し、ライダーはアクセルを絞って行く方向でトラクションを探りながらも、前進するグリップ力を残し、登坂することに成功した。テールが滑る速度が速いとライダーが思わず足を出してしまうが、そこまで横にグリップが逃げず、バイクの直立させた状態を維持するようバランスをとりつつ、止まることがない。ぬかるんだ道はこれまでカルー3がやや苦手としてきただけにタイヤのグリップが上がったことで、ライダーは不安や苦手意識なくこうした道にトライができる。
試しに降りて歩いてみたら、ブーツのソールが坂の下りに向かって滑るほど。こんな道登れたんだ、とカルー4の実力に驚いた。
いわばゲームチェンジャー。
カルー3が登場したのが2013年。水冷ボクサーエンジンを搭載したR1200GSが登場するのに合わせて、電子制御の足、電子制御のブレーキ、電子制御のエンジン。環境と安全性を加味したバイクはそもそも高いシャシー性能が与えられているからこそ、その電子制御周りを活かすことができる。また、優秀なエンジンドライバビリティーとともに、ライディングモードが搭載され、スイッチ一つでエンジン特性、サスペンション設定などが変わるバイクが市販されたその年、タイヤにとってもスイッチ一つでキャラが変わるバイクに合わせて性能を担保する必要があった。
カルー4はカルー3が築いた世界観を綺麗に拡大正常進化させたタイヤだ。カルー3の弱みを伸ばし、強みも伸ばしている。性能イメージのスパイダーチャートでも、まさに拡大された性能部分が乗ればすぐに解るほど舗装路でもダートでも性能が上がっている。バイクを楽しむ。旅を楽しむ。これには安全なタイヤの性能が欠かせない。難所を通過して滑って転倒、もちろんスキルにもよるが、タイヤの基礎性能が上がれば難所はツーリングの良き思い出話になる。無事通過するファクターを備えたタイヤ、それがカルー4だ。
だって、スキルでカバーするより、タイヤの性能で知らぬ間に越えたほうが楽しいし、疲れない。長いツーリングを確実にこなし、帰る。それに必須な条件がいくつも入ったタイヤだった。まさにこのタイヤ、ゲームチャンジャーだと言える。
(試乗・文:松井 勉)
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