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レース・イベント

2022 FIM世界耐久選手権 "コカ・コーラ"鈴鹿8時間耐久ロードレース 第43回大会 3年振りに、 「鈴鹿の夏」がやってくる!
「真夏の祭典」──日本国内最大のバイクレースと呼ばれる鈴鹿8時間耐久レースが3年振りに開催される(8月4日~7日)。まだ、新型コロナウィルスの影響は色濃く残り、参戦チーム、ライダーや、スタッフ、メディア関係と開催に関わる人すべてにPCR検査が義務付けられるなど、様々な制限の中で行われる。世界耐久選手権組の中には参戦を諦めたチームがあるし、海外ライダーを選択できない状況でもあり参戦を断念したチームもある。エントリー台数も、これまでは70台に迫ろうとしていたが、今年は45台のエントリーだ。それでも、待ちに待ったファンにとって、開催は大歓迎だ。
■取材・文:佐藤洋美






 3年前の鈴鹿8耐は、世界耐久選手権(EWC)の最終戦として開催された。メーカーの威信を賭け、Kawasaki Racing Team(ジョナサン・レイ、レオン・ハスラム、トプラック・ラズガットリオグル)、YAMAHA FACTORY RACING TEAM(中須賀克行、アレックス・ローズ、マイケル・ファン・デル・マーク)、Red Bull Honda(Team HRC。高橋 巧、清成龍一、ステファン・ブラドル)が激突した。またEWCのレギュラーチームも揃い、熾烈なタイトル争いも見物だった。

 ラスト30分の戦いは記憶に新しい。雨が落ち、トップはレイ、続くのが高橋、それをローズが追う。各ピットにはレインタイヤが用意されるが、ライダーたちはピットインせずに周回を重ねた。レイは2分15秒台、高橋は2分14秒台、ローズは2分10秒台で追い上げ、高橋をパスして2番手浮上、東コースでも雨が落ち始める。強くなった雨の中で、残り6分、 EWCタイトルを争うEWCタイトルを争うSuzuki Endurance Racing Team(スズキ・フランス)が白煙を吹いてマシンストップ。レイがS字で転倒、赤旗が提示されレースが終わった。ヤマハが優勝とアナウンスされ、5連覇達成の表彰式が行われた。
 だが、赤旗が提示されたことで、その前周の順位が適用されカワサキの優勝が決まった。2位がヤマハ、3位はホンダとなり、ホテルに戻っていたカワサキライダーたちを呼び戻しての記者会見が、夜遅くに開かれた。EWCチャンピオンはカワサキフランスが獲得した。カワサキのライダーたちは表彰台に立ったが、観客はなく、メディアの撮影の機会もなく、オフィシャル写真のみが残った。カワサキは1993年以来の、実に26年振り2度目の鈴鹿8耐優勝を飾ったが、「きっちりとした優勝を飾りたい」ともやもやを抱きリベンジを誓うことになる。
 

2019年の鈴鹿8耐でKawasaki Racing Team(ジョナサン・レイ、レオン・ハスラム、トプラック・ラズガットリオグル)は、1993年以来26年振り2度目の優勝を飾った。深夜の表彰台に、Kawasaki Racing Teamのライダー、スタッフたちが上った。

 

■ワークス激突

 ヤマハは、“ファクトリー参戦は5年“と決めていたので、2019年が最後となり、今年の鈴鹿8耐に残念ながらヤマハファクトリーの姿はない。
 ♯10 Kawasaki Racing Team Suzuka 8H(ZX-10R)は、どこよりも早く参戦発表した。スーパーバイク世界選手権(SBK)で6度もタイトルを獲得している王者レイ、SBKのチームメイトとなったのは、19年の鈴鹿8耐でトップを争ったローズ。そのふたりに、19年8耐優勝のハスラム(ブリティッシュスーパーバイク選手権参戦中)の強力なラインナップだ。監督はSBK同様、ギム・ロダが務める。
 レイは「ローズもハスラムも鈴鹿8耐では3度も勝利している。僕は最強のチームメイトを得た」と語った。
 

 

♯10 Kawasaki Racing Team Suzuka 8H(マシンはZX-10R)は、ジョナサン・レイ、アレックス・ロウズ、レオン・ハスラムの3名体制で連覇に挑む。

 
 ♯33 Team HRC(CBR1000RR-RSP)は、ロードレース世界選手権(WGP)Moto2で活躍していた長島哲太が、2021年からホンダのテストライダー契約となり、8耐マシンのテストもこなしていた。その長島と、ホンダの鈴鹿8耐勝利を支えて来た高橋 巧(ブリティッシュスーパーバイク選手権参戦中)、今年からホンダワークス契約となりSBK参戦しているイケル・レクオーナで戦う。高橋は鈴鹿8耐を3勝しているが、長島の優勝経験はなく、イケルは初の鈴鹿8耐だ。監督はWGP監督の経験もある山野一彦が務める。
 

♯33 Team HRC(CBR1000RR-RSP)のライダーは、長島哲太、高橋 巧、イケル・レクオーナ。

 
 この2台のワークスの戦いが大きな焦点になる。だが、カワサキもホンダも全日本ロード参戦をしていない。19年は、カワサキの全日本チームが中心となりSBKスタッフと共に戦った。HRCも全日本にワークス復活し、鈴鹿8耐の準備を進めての参戦だった。しかし、今年は8耐のためだけのチームを組織している。カワサキはSBKチームが中心となり、HRCは伝統の継承を含め、新旧スタッフの混合チームだ。
 

連覇を目指すカワサキに、ホンダ・ワークスが挑む。

 

■注目チーム

 そのワークス勢に挑むのは、全日本のJSB1000のレギュラーチームが中心となる。マシンは市販キット車となり、ワークスにどこまで迫ることが出来るかに注目が集まる。
 ホンダ勢(CBR1000RR-R)では、8耐優勝経験のあるハルク・プロが♯73 SDG Honda Racingとしてエントリー。本田重樹監督の元、JSB1000の名越哲平、スペインスーパーバイク選手権に参戦中で、今季からホンダにスイッチした浦本修充、そして最後の枠はブリティッシュスーパーバイク選手権(BSB)の水野 涼の名前も上がっていたが、水野はHRCのサポートライダーとなり、JSB1000参戦中の榎戸育寛となった。
 

鈴鹿8耐で優勝経験もあるハルクは♯73 SDG Honda Racingで参戦。ライダーは名越哲平、浦本修充、そして榎戸育寛。

 
 2019年8耐では高橋巧の熱望によりHRCから参戦した清成龍一(鈴鹿8耐4勝)は、♯104 TOHO Racingから、全日本ST1000の國峰啄磨、國川浩道と共に戦う。
 伊藤真一が監督を務める♯17 Astemo Honda Dream SI Racingは、初の8耐参戦となる。JSB1000の作本輝介、ST1000の渡辺一馬、今季から長島哲太の立ち上げたTN45 with MotoUP RacingからST600に参戦している羽田太河が加わり8時間の戦いに挑む。
 

鈴鹿8耐で4勝している清成龍一は♯104 TOHO Racingから参戦。伊藤真一が監督を務める♯17Astemo Honda Dream SI Racingは、今年が初めての8耐参戦となる。

 
 ♯9 Murayama.Honda Dream.RT からは、鈴鹿8耐3勝の実績があるJSB1000の秋吉耕佑に出口 修、今野由寛が参戦する。
 ♯72 Honda Dream RT SAKURAI HONDAはJSB1000の濱原颯道、鈴鹿のみの参戦で力を示す日浦大治朗、Moto3からST600参戦を開始した國井勇輝。♯40 Team ATJは全日本JSB100岩田悟、ST1000の高橋裕紀、ST600の小山知良のラインナップだ。ベテランの高橋と小山は共に、ロードレース世界選手権(WGP)で活躍した逸材、全日本でもタイトルを獲得している実力者だ。
 鈴鹿製作所の社員チーム、♯25 Honda Sofukai Suzuka Racingの亀井雄大はJSB1000でポールポジションを獲得する俊足で、注目を集めるライダーだ。杉山優輝、田所隼と挑む。
 

 

秋吉耕佑や出口修、高橋裕紀、小山知良などのベテランに、濱原颯道、國井勇輝、亀井雄大などの若手実力者も名を連ねている。

 
 SUZUKI GSX-R1000Rを駆る♯95 S-PULSE DREAM RACING・ITECは生形秀之、ST1000の津田拓也、EWC参戦中の渥美心が参戦する。BMW M1000RRで参戦の♯85 TONE RT SYNCEDGE4413 BMWはJSB1000の星野知也、ST1000の石塚 健、JSB100の中冨伸一のラインナップだ。このメンバーでEWCボルドール24時間耐久への参戦も発表している。
 ♯70 OGURA CLUTCH ORC with RIDE IN(YAMAHA YZF-R1)は2020年の全日本SUGOの事故で亡くなった岩崎哲郎さんとの「8耐参戦」の約束を果たすために、武田雄一が12年ぶりに全日本に復帰し、鈴鹿8耐トライアウトに参加して参戦権を得た。8耐のためにライセンスを獲得した坂本崇、ST600の横山尚太で参戦する。WGPで活躍しエンジニアとして知られる宇井陽一が監督を務める。
 KawasakiZX-10R で挑む♯2 EVA RT 01 Webike TRICKSTAR Kawasakiは、エヴァンゲリオンの大ファンである大久保 光(MotoE参戦中)、全日本で活躍していた佐野優人、耐久スペシャリストのエルワン・ニゴンがエントリー。鶴田竜二監督のサポートとしてアジアロードレース世界選手権AP250のチャンピオンの山本剛大がチームディレクターを務める。
 

BMW M1000RRで参戦の♯85 TONE RT SYNCEDGE4413 BMW。
エヴァンゲリオンの大ファンである大久保 光(MotoE参戦中)は、♯2 EVA RT 01 Webike TRICKSTAR Kawasakiから初参戦。

 

■SSTクラス

 EWCにはより市販車に近いレギュレーションのマシンで戦うSSTクラスがあり、その戦いも熾烈になっている。
 ♯52 TERAMOTO@J-TRIP Racing(SUZUKIGSX-R1000R)は、寺本幸司、青木宣篤、JSB1000の津田一麿で挑む。WGPで活躍、スズキのMotoGP開発ライダーとしても知られる青木は、この8耐を引退レースとした。
 WGPのチャンピオンの原田哲也が♯806 NCXX RACING with RIDERS CLUB(YAMAHA YZF-R1)の監督として参戦するのもニュースだ。アジアロードレース選手権の伊藤勇樹、ST1000の南本宗一郎、ST600の井手翔太とヤマハの若手有望ライダーを率いて8耐を戦う。
 

今回の8耐を引退レースに選んだ青木宣篤。
#806 NCXX RACING with RIDERS CLUB(YAMAHA YZF-R1)の監督を原田哲也が務める。

 
 ♯64 Kawasaki Plaza Racing Team(ZX-10R)はST1000の岩戸亮介、スーパースポーツ600の岡谷雄太、全日本に参戦していた清末尚樹で勝利を目指す。
 ♯74AKENO SPEED・YAMAHA (YAMAHA YZF-R1)から、ST600の伊達悠太、阿部真生騎、菅原 陸でエントリー。稲垣誠監督は「元気の良いST600組で優勝を目指す」と語った。
 

♯64 Kawasaki Plaza Racing Teamは岩戸亮介を中心に若手ライダーで挑む。♯74AKENO SPEED・YAMAHAからは、阿部“ノリック”典史の息子・真生騎が8耐を走る。

 

■EWC

 今シーズンのEWCは、当初5戦が予定されていたが、カレンダーから1戦が消滅、4戦での戦いとなった。2019年までは鈴鹿8耐が最終戦に位置し、ここでタイトル決定の戦いが繰り広げられ、表彰もされたが、今年は第3戦に位置し、最終戦はボルドール24時間耐久となった。
 2021年にフランスの名門耐久チーム、スズキフランスと日本の耐久名門チームのヨシムラがコラボして、♯1 Yoshimura SERT Motul (GSX-R1000R)が誕生。デビューシーズンに、ル・マンとボルドールの2大耐久レースを制してタイトルを獲得した。今年はゼッケン1を付けての凱旋レースとなる。2戦を終えてランキング1位であり、この鈴鹿8耐は重要な戦いとなる。
 ヨシムラはラインナップを変更し、開発ライダーの渡辺一樹(JSB1000参戦中)を起用した。加藤陽平チームディレクターは「当然の選択」と語った。渡辺を筆頭に、レギュラーライダーのザビエル・シメオン、シルバン・ギュントーリが参戦する。

 2017~18シーズンにEWCで日本チームとして、初の栄冠を獲得した♯5 F.C.C. TSR Honda Franceは、EWCレギュラーメンバーのまま鈴鹿8耐を戦う。「ジョシュ・フック、ジーノ・リア、マイク・ディメリオで勝利を目指す」と藤井正和監督は語る。現在、ランキング2位からの逆転を狙う。
 現在ランキング3位の♯7 YART-YAMAHA OFFICIAL TEAM EWC(YAMAHA YZF-R1)はニッコロ・カネパ、マービン・フリッツ、カレル・ハニカでエントリー。EWCの予選は3人のライダーの平均タイムでグリッドが決まるが、ヤートはこれまで2戦連続でポールポジションを獲得している。その速さを鈴鹿でも示せるか注目が集まっている。
 

EWCで、ランキング1位の♯1 Yoshimura SERT Motulは、開発ライダーの渡辺一樹を起用する。
F.C.C. TSR Honda Franceは、ジョシュ・フック、ジーノ・リア、マイク・ディメリオで勝利を目指す。

 
 鈴鹿8耐は、日本最大のバイクイベントであり、2015年からユーロスポーツが、この戦いを世界中に配信していることで、注目度が上がっている。
 8時間耐久に参戦するということは、事前テストを含め、1週間のレースウィーク中に、世界に名だたるサーキットである鈴鹿を長時間走ることでもある。8耐を走ることで、ライダースキルが磨かれるのだ。全日本ライダーにとっては、次元の違う世界レベルのライダーと走ることでの気付き、意識の高まりは、ライダーにとって得がたい経験だ。
 全日本で、最も熱い戦いを繰り広げるST600ライダーたちが、初の8耐に挑むことで、瞳を輝かせている。新たな才能の発掘となることに期待が高まる。ST1000、JSB1000のライダーたちは、その能力を示し飛躍のチャンスを掴もうとしている。海外ライダーは、4メーカーが揃う日本の最大イベントで、メーカーの目に留まることを願う。
 スペインスーパーバイク選手権の浦本修充、スーパースポーツ300の岡谷雄太、MotoEの大久保光、EWCの渥美 心ら、海外を拠点としている彼らは、表彰台に上がる活躍を示しているが、日本のファンに雄姿を見せる機会がない。この鈴鹿8耐で、成長した姿を示そうとしている。
 それぞれのライダーに野望があり、それぞれのチームにドラマがある。だから、いつも、鈴鹿8耐は、ザワザワ、ドキドキ、ワクワクさせてくれるのだ。その魅力は、今年も変らない。
(取材・文:佐藤洋美)
 
●鈴鹿サーキット
https://www.suzukacircuit.jp/8tai/

●今年の8耐は全国無料放送のBS松竹東急(ch260)でも放送される。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000017.000061921.html
 



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2022/07/29掲載