カワサキが提示するスポーツツアラーの世界は、Z1からGPZ1100、GPZ900R、GPZ1000RX、ZX10、ZZR1100、ZZR1200、ZZR1400へと続く世界最速系スポーツマシンとして昇華しながら継承されてきた。ZZR1400(ZX-14R)からそのバトンは、2018年にNinja H2 SX SEに引き継がれた。カワサキは、最速系スポーツツアラーの世界を再び我々に問いかけてきた。
その造り方は見事で、冒頭に書いたH2初号機が持っていた良い意味で刺激成分が充実、別の表現を使えばトルクの立ち上がりが強烈で、全開加速中でも思わずアクセルを戻し、ライダーとして「負けたぁ!」としょげてしまうような……。常に集中力マックスで相対することを求めるマシンであり、人馬一体というゾーンを求めるには好みが分かれる部分を内包しつつも「これがH2の世界さ」とクールさを崩さないスタンスがあった。
それにしてもあの加速は強烈だった。自分の記憶と照らせば、4ストMotoGPマシン、RC211Vに初めて取材で乗った時、5速まで前輪がフワっとくる所作に「ナンジャこりゃぁ?!」と鈴鹿の裏ストレートで叫びっぱなしだったのと同等。まさに忘れられない体験だ。すごい飛び道具だ、と畏怖の念を抱いたことを思いだす。
H2カーボンの加速一直線的な造り込みはエンジンにも表れている。スーパーチャージャーが過給するだけに、ベースエンジンの圧縮比も8.5:1とグッと低い。つまり、押し込める空気の部屋を広く取った燃焼室とも言える。それでもメカニカルに過給をかけるのがスーパーチャージャーだからリニアなハズ……、という想定とは別に、低回転トルクは薄くレスポンスも鈍い。途中からフワァっと盛り上がり、前輪は路面からホッピング。その挙動が後ろにまくれそうでアクセルを戻し、着地後、シフトアップしてまた開ける、浮く、戻す、の繰り返し。クルマで言えばドッカンターボに近しい暴れ馬でもあった。スゴイのは加速すら車体は平穏にそれを受けとめていることだ……。
それが、H2 SX SEではスーパーチャージャーエンジンを手懐けている。旅に出たいと思わせる優しさも手に入れていた。圧縮比を11.2:1まで上げることで、NAの998㏄のエンジンだとしてもおかしくないほどの普遍的な扱いやすさを備えている。1速アイドリングで発進もラクラク。
いや、これは単純に圧縮比だけで解決したものではなく、スーパーチャージャーの吸入経路、スロットルボディーの小径化による低回転での流入速度の向上(結果低回転での充填効率アップ)、もちろん丁寧なセッティングなどで過給機付きエンジンらしい個性を活かしつつ、上質なパワーフィールを身につけたのだ。
また、30㎏近くH2カーボンよりも重たいH2 SX SEだが、ファイナルレシオは同じなものの、一次減速、1速、2速のギアレシオをロングに振り、加速命系からパワーとトルクの盛り上がりを快適に味わえる下地も作られている。H2カーボンが持つ猛烈さでまとめたようにしっかりとSX向けに仕立て直されているのだ。
そのベースを活かしながらさらに装備をブラッシュアップして登場したのが2022年モデルのNinja H2 SX SEだ。
充実の装備群。
注目はアドバンスト・ライダー・アシスタンス・システムと呼ばれる機能をフルに搭載していること。ボッシュが開発したアドバンスト・ライダー・アシスタンス・システム(ARAS)は、IMU、ミリ波レーダー、エンジンECU、ABS、スタビリティーコントロール(トラクションコントロール機能を含む)などを統合制御することでしっかりとバイクの静的、動的な姿勢変化、加速度変化、そして運転状況全体をモニターしつつ、ライダーの疲労軽減、より安全性の高めたライディング環境などを提供するもの。
H2 SX SEに搭載されているアイテムは、ACCはもちろん、後方から接近する他車をモニターするブラインド・スポット・ディテクション(いわゆるブラインド・スポット・モニター)や、前方衝突警告(フォワード・コリジョン・ワーニング=FCW)、そして緊急ブレーキ時に後方車にそれを伝えるエマージェンシー・ストップ・シグナル(ESS)といった機能が含まれる。
2021年からARAS搭載モデルが世に出始めた。DucatiのムルティストラーダV4Sを皮切りに、BMW R1250RT、KTM 1290スーパーアドベンチャーに搭載された。その後、BMWがR18 B、R18トランスコンチネンタルへと搭載機種を増やしたが、まだ数えられるレベルで、どれもプレミアムなツアラーモデル。そこにカワサキがH2 SX を参入させたのだ。
DucatiムルティストラーダV4S、BMW R1250RTはACC、BSD、ESSを搭載し、そしてKTM 1290スーパーアドベンチャー、BMW R18の二機種はACCを搭載している。FCWを含めて搭載した市販モデルはカワサキが初。
これらの装備は、クルマ目線で見るとどれも今や軽自動車でも搭載され珍しくないし、一部は搭載が義務化され「標準装備」されるものもある。クルマの場合、ミリ波レーダーと単眼、もしくは二眼のCCDカメラで前方をモニターし、前走車に速度追従する機能を盛り込んだクルーズコントロールだ。4輪のACCはミリ波レーダー、CCDカメラの機能から派生した装備とも言える。レーンキープアシストや衝突軽減ブレーキもそれらを使った付帯機能だ。
例えばFCWにしても、4輪では衝突軽減ブレーキシステムが当たり前だが、2輪の場合、技術的に自動ブレーキは可能だし、ACCでは実際にソレを行ってくれる。しかし衝突軽減ブレーキとなると、ホイールベースが短く高い位置にライダーが座っている関係でエマージェンシーブレーキを乗り手が意図しない場面で掛かるとライダーがバイクから放り出されかねない。シートベルトで拘束され緊急ブレーキの際にはベルトの弛みが巻き取れる機能など4輪ならではだ。ドライバーの操作環境を最後まで保持できる4輪との決定的な違いがある。
センサーカバーは秀逸。
この話を深掘りし出すと長くなるので先に進もう。昨年からARAS搭載車が登場したが、その中でもH2 SX SEが秀逸なのが前後に搭載されたミリ波レーダーセンサーの搭載方法をしっかりデザイン処理していることだ。カバーされたそれは外観に馴染む。他モデルがレンズのないGoProのようなセンサー本体をむき出しにしているのに対しこれは嬉しい。
このミリ波レーダーセンサー、レーダー照射面から発せられるレーダー波に障害物が合っては正確な検知ができない。つまりこのバイクの場合はカバーに、ということになる。例えば雪、埃、ドロ、虫などの汚れや遮蔽物がカバーに付着すると正確なセンシングが出来ず、ACC機能がはたせなくなる。
その場合、レーダー面をライダーは掃除することになるのだが、直接ゴシゴシ洗ったり、コイン洗車やケルヒャーなどの高圧洗車機利用したとき「大丈夫なのかな」と不安になるより、H2 SX SEのように前後ともカバーされていると安心だ、という部分もある。もちろん、クリーンに保つことが肝心。ステッカーも御法度。
H2 SX SEのリアミリ波レーダーセンサーは、フェンダー部分に搭載されかなり後方に出ているので問題ないと思うが、ツーリングに大きな荷物を積載し、センサー付近を遮るのも機能に影響が出ることをお忘れなく。パニアケースも社外品より純正品を選び、レーダーの照射範囲に影響がないことを保証したものを選択するのが賢いと僕は思う。
今回、FCWとESSは体験出来なかった、というかしなかった。昨年、ESS搭載のムルティストラーダをテストコースで撮影をしたとき、ムルティストラーダのESSは本気で急減速しない限り作動しなかった。FCWは、前面TFTカラーモニターになったメーターパネルの上部、シフトアップインジケーターランプを共用する。FCWが前方の危険を察知するとインジケーターが赤色で点滅、ライダーに危険を知らせると同時に、メーター内にもFCW作動のワーニングが点滅するそうだ。気になるのは、目の前に見えている車両などだけがFCWの対象なのか、あるいは大型トラックの1台先を走っている車両が緊急停止したような場面でも、レーダー波がトラックの下部からその先を察知し、ワーニングを発するのか。
と、手短にするつもりがすぐに話が長くなるのが電子制御の特徴だ……。
スカイフックが魅せる。
H2 SX SEには電子制御セミアクティブサスが搭載されている。その乗り心地が楽しみだった。過去10年ほどでセミアクティブサス搭載のモデルは増えてきた。VERSYS 1000 SE( https://mr-bike.jp/mb/archives/26304 参照)のそれも非常に好印象だった。
セミアクティブサスは、加速時、減速時、ギアポジション、旋回か直進か──。様々な状況を加味し走行中の路面をもフロントサスの入力で察知し、リアサスにフィードバックする。SHOWAがOEMとなるこのシステム、減衰圧を短時間で変更する場合でもソレノイドバルブを使うので追従優勢の高さが特徴だ。
市街地へと走る出すH2 SX SE。ハイスクリーンの大きさ、ZZRから引き継いだ車体サイドの造形、Ninja1000SXのスリムさとは異なるボリューム感が自らの存在を示す。267㎏の車重はZZR1400と同等だ。不思議だが、ZZRが持っていた重たいものが低い位置にあり、安定感の中に超高速域まで誘うスタビリティーを感じさせたものとは異なり、H2 SX SEは左右へのロールは軽い。そして、発進の時、1441㏄4気筒が持つ大排気量車の余裕はさすがになく、クラッチミートの瞬間だけ少し気を使うが、それでもアイドリングでゴロリと走り出す感覚は普通のリッターバイクだ。この時スロットルバルブはエンスト防止方向にわずかに開き、アシストしてくれているのが解る。
後輪がひと転がりすればあとは右手の操作と一体化し、振動が少なくスムーズな回転上昇をもとにトルクがエンジンから紡がれてゆく。1600回転から作動するクイックシフターも軽快。加速時、アクセルオン、減速時アクセルオフを護れば気持ち良く街中でも作動してくれた。
街中でクイックシフターって必要か? これが必要なのだ。一人乗りならまだしも、タンデムをする時、変速時のトラクションの途切れの少なさはパッセンジャーにも恩恵が大きい。クラッチを使って毎回完璧にシフトを決めるのはライダーにとって簡単ではない。誰かをリラックスさせるコト、それはライダー自身が結果的にリラックスすることにつながる。つまり、必要なのだ。
また、サスペンションも同様。加速時、減速時ピッチングをミニマムにしてくれる足周りだけに、パッセンジャーに掛かる加減速Gを和らげてくれるし、フラットな乗り心地もベネフィットとして好意的に受け入れられるハズだ。走り始めて間もなく、空気圧モニターが前後とも3.1BARを示しているのに気が付いた。フロントは2.5BAR程度では?と思っていたがあとで確認したら、前後とも2.9BARが標準値だった。こんなに内圧高めフロントでありながら、この乗り心地……。すごいなスカイフック。
タンデムをする人は是非SEをと推しておきたい。
それにしても快適だ。市街地の道路が全面舗装されたてのようにスムーズに感じる。60km/h程度までの心地よさは数多い電子制御サスの中でも上位にある。吸収性が良いのにピッチング感を抑えている。細かに見ると、ブレーキング開始から停止までノーズダイブはするものの、止まったあとストンではなくフワッと前後の姿勢を戻すことでカックンと止まった感を緩和している。このマップ設定の丁寧さに拘りを見た。
エンジン特性もトルクフルなのに突発感がなくスムーズだ。ギアレシオでロングになっても、上手くそれを使いこなしている。大排気量の低いアクセル開度でズンズン走るのとは異なり、右手の明確な開度は必要になるが、走行感とのマッチングは見事。平均燃費計を見ていてもNAのNinjaとあまり変わらないような気がする。
スペックを調べたら、60km/h定地走行燃費値でもWMTC3-2の燃費値もNAのNinjaよりH2 SX SEの方が上回っていた。これぞ1441㏄からのダウンサイジングの恩恵か。という比較を見るまでもなく開けていて、乗っていて燃費が良さそうな走りが直感的に伝わってくる。すごいな、H2 SX SE!
無敵のクルージングを楽しむ。
H2 SX SEのクルージングは快適そのもの。大型のウインドスクリーンがもたらす空間。ポジションもそれにピタリとあったもので、前傾姿勢ながら腕で支えている感じもない。シートフォームも適切な広さをもっている。
なによりここでもサスの良さが光る。快適だ。ACCはどうか。初体験を昨年すませる前、ACCはバイクに要るのか? と思ったが、一度体験するとガラ携とスマホぐらい違う。このクラスだと付いていて当たり前のクルーズコントロール。速度一定維持に加え、前走車との車間距離と設定速度内で速度調整までしてくれるのだ。
このACC、30km/h以上で作動する。その時、トラクションコトンロールはオンであることも条件の一つ。そして各ギアの設定最低速度は──
1速 30km/h
2速 30km/h
3速 40km/h
4速 50km/h
5速 50km/h
6速 60km/h
となっている。例えば100km/h巡航設定だとしよう。渋滞などで前走車が60km/hまで速度を落としたとする。その時ライダーはシフトダウンしてやれば、30km/hまでACCの設定可能範囲内でACC走行を続けることができる。
一般のクルーズコントロールと違うのは、クイックシフターを使っても、クラッチを短時間使ってもACC設定が切れないこと。ただし、クラッチレバーを数秒間切り続けると、ACC設定はキャンセルされる。
例えば流れの中、100km/h設定で走行中、渋滞などで70km/hまで速度が低下、その後100km/hに復帰という場面を想定してみると、減速に対してアクセルオフだけで対応出来ない場合、ABSシステムなどを使い自動でブレーキをかけ減速をする。その制動Gは急ブレーキまでは対応しないので必要であればライダーが、補足する必要がある(ライダーがブレーキを作動させるとACC設定はキャンセルされる)。
また、ACCの車間距離設定は走行中でも可能だ。右スイッチボックスにあるFnボタンと左スイッチボックスにあるモードの下側のボタンを同時に押せば、最長、中間、短と3段階に距離の設定が可能。これは速度によって距離が自動で変化する。車間距離はおおよそ5~6秒から2秒程度の幅で最長から最短まで取られているようだ。
個人的には両手でスイッチ操作をするより、専用の車間距離ボタンを設けるほうが解りやすいのでは、と感じた。他ブランドは車の大多数がそうであるように、ACC設定スイッチと車間距離スイッチが近しい場所にある。クルマで慣れた機能だけにそれに倣っているのだろう。なによりシンプルだ。今後、ACC装着車から乗り換え組もあるはず。そうなった場合、解りやすいことも商品性の一つではないだろうか。
一つ残念なのは、アクセルを開けている、あるいはACC作動中だとライディングモード(SPORT ROAD RAIN)の切り替えが出来ない。たしかにモードによってアクセルレスポンス、パワー特性、サスペンションの設定などが変化するので仕方がない面もあるが、長いトンネルを抜けたら天候、気温が変わるという場面もあるし、突然の雨も想定できるスポーツツアラーだ。この辺の設定変更への許容範囲を拡げても良いのでは、と思った。
BSDは有り難い。
一言でいってBSDは想像以上だ。これはH2 SX SEでの体験ではないが、夜、雨の高速道路でACCにて走行中、後方から近づく動きのある接近車はもちろん、同等の速度で併走する車両がミラーの死角になった時に感じたことだ。
たまたま後方から接近する車両がなく、ミラーの鏡面は夜のとばりが写し出されている。が、BSDのワーニングランプだけが左に誰かいることを知らせる。雨でヘッドライトの照射もかき消されたその死角に入ったクルマを的確に捉えているのだ。レーダーセンサーは車体後部。すでにその探知エリアを外れているはずなのにと思ったが、こちらが追い越した場合、あるいは逆の場合でも、照射範囲をはずれても、死角に入っている時間を速度差から計算し、ワーニングを発出し続けるのだそうだ。雨、ミラーも見にくい。ヘルメットのバイザーも見にくいし場合によっては曇りが発生する場合もある。こんな時、BSDは本当に頼りになる存在だと感じた。それは今回も同様。
以前、BMWのC650GTに音波式のBSDが装備されていたが、レーダー波とはやはりできるコトの多さが異なっている。電子制御は最新が最良なのだ。
そして今回、長いトンネルを走行中に同様に機能の高さを感じた。死角検知も確かなものだ(あえて死角に入って作動を確かめてみた)。一つお願いするとしたら、通行量が多い場面でミラーに多くのクルマのヘッドライトが映るような場面だと、もう少しBSDのワーニングランプのアピールがあるとなお良いと感じた。BSDが車両を探知するとワーニングランプがミラー内にオレンジ色の三角を点灯させる(下方のミラー写真を参照)。その段階で点灯している側にウインカーを出すと、ワーニングが点滅、ライダーに注意を促すのだが、そのピカピカ感が後方からのヘッドライトににじんでアピール度が下がってしまうからだ。
ツーリングマシンとしての機能。
快適なクルージングを終え、ワインディングへとやってきた。途中の信号待ちでビークル・ホールド・アシスト(VHA)を使う。これが便利だ。停止後、ブレーキレバーを強く握るとパーキングブレーキのようにブレーキ圧を保持してくれるもので、ライダーはブレーキ操作から解放される。このVHAをキャンセルするには、もう一度ブレーキを握る、あるいは発進すればオーケー。また、サイドスタンドを出してもキャンセルされる。
もちろん、その本領は坂道発進時に発揮される。発進するまで停止状態を保ってくれるので、両足を着いたままアクセルとクラッチだけに集中して発進ができる。これ、平地でも坂道でもツーリングの荷物を積んでいる、パッセンジャーが乗っている、横風が強い場面等々様々にライダーをアシストしてくれる。これも使い始めると装備されていないバイクで走るのがストレスに感じるほどの装備。ABSのポンプを使ってブレーキ圧を保持するため、10分間で自動的にキャンセルされる(これも今までの最長クラスだと思う)。
平地ではバイクが動かない程度のブレーキ圧で停めている。だから発進時のリリースもナチュラル。この手のデバイス、発進時にどうブレーキをリリースするか、で性能が問われる。中にはアシストが強すぎてしっかりアクセルを開けないとエンストしてしまうほどのモデルもある。まったく、ブレーキ、下手くそか! と思わず毒づいてしまうほど。
アシスト使って失敗したら意味がない。それを考えるとH2 SX SEのそれは、機能的で使い心地も快適だった。
道の荒れたワインディングを走った。タイヤ、サスペンションのマッチングはここでも高い性能を持っている。旋回性にもスポーツマシンとしての良さが詰まっていた。一体感とほど良い手応えもある。アクセルに対する応答性にズレはない。今回、ほとんどROADモードで走った。SPORTだと開け始めからトルクの立ち上がりが自分の走り方には強すぎだ。RAINモードも乗りやすかった。パワーを50%絞るそうだから、気温が低く走り出しでタイヤが冷えている時、雨の時などは使って損はない。
それにしてもワインディングでの加速も楽しい。エンジンはスムーズかつ力強い清流のようにトルクが沸いてくる。ラム圧がかかれば11000rpmで210PSに達する剛力さをもっていながら、その半分程度の回転数、高めのギアでも存分なる増速を楽しませる。スゴイ体験ではないか!
フロントブレーキに関しては少々マイルドに感じた。ここは過去の体験から照らすと、性能の良い電子制御サスの場合、初期作動が超スムーズでかつ姿勢変化をしっかりと制御してくれるから、フロントフォークの沈む感じとその部分でのズっというフリクション、それから起きるノーズダイブ的姿勢変化を減速とごっちゃに認識していると感じたことがある。
H2 SX SEもその系統かと最初は思ったが、初期から減速中盤に感じてもその印象が変わらなかったので、ブレーキ制動力がもう少し欲しい、と思ったのだ。
しかし、今はワインディングを楽しんでいる。パッセンジャーを乗せ、ピッチングを出さぬよう走るならこのブレーキバランスには賛成する。
297万円に価値あり。
H2 SX SEは素晴らしかった。話題を価格に移せば297万円というプライスは高いと映るかも知れない。しかし、ここまで上質に1台をパッケージし、スポーツツアラーであり、メガスポーツの系譜を踏む希少種で、かつ過給機付きエンジンが魅せる独自の魅力。それを考えても、その値段は高くないと思う。スーパーチャージャーだから排気音はターボと違ってNAサウンドに近いし、それでいてアクセルオフ時には、吸気経路のサージタンクから過給圧を抜くブローオフバルブが奏でるピュルルルルという囀りすら愛おしい。
唯一無二の世界がここにある。全開にしたければ、富士スピードウエイでも走れば最終コーナーを立ち上がり、ピット前に到達するまでに最高速領域に到達するだろう。タップリそうした場所で未体験ゾーンを楽しんで欲しい。
いや、ARASを味わうだけで価値がある。ポン付けしただけではなく、全ての制御にしっかりと造り手の技が感じられたからだ。ガソリンエンジンの終焉に向かっている今、これも乗っておきたい一台だ、と推しておきます。
(試乗・文:松井 勉)
■型式: 8BL-ZXT02P ■エンジン種類:水冷4ストローク直列4気筒DOHC 4バルブ ■総排気量:998cm3 ■ボア×ストローク:76.0mm×55.0mm ■圧縮比:11.2 ■最高出力:147kW(200PS)/11,000rpm [ラムエア加圧時:154kW(210PS)/11,000rpm] ■最大トルク:137N・m(14.0kgf・m)/8,500rpm ■全長×全幅×全高:2,175mm×790mm×1,260mm ■ホイールベース:1,480mm ■最低地上高:130mm ■シート高:820mm ■車両重量:267kg[266kg] ■燃料タンク容量:19L ■変速機形式:常時噛合式6段リターン ■タイヤ(前・後):120/70ZR17M/C・190/55ZR17M/C ■ブレーキ(前/後):油圧式ダブルディスク/油圧式ディスク ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:エメラルドブレイズドグリーン×メタリックディアブロブラック[エメラルドブレイズドグリーン×メタリックディアブロブラック] ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):2,970,000円[2,651,000円] ※[ ] はNinja SX
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