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試乗・解説

スタイリングに騙されるな。 SVのスポーツが開花する。 SUZUKI SV650X ABS
90年代にさかのぼることができるSVシリーズの歴史だが、このスタンダードなスポーツバイクは特に海外でヒットし、ワンメイクレースも開催されるほどだった。ツーリングもワインディングも楽しいオールラウンダー的性格のSVはバイクでのスポーツへの入り口としても優秀なモデルだったのだ。グラディウス、そして新生SVにもそれは引き継がれ、そしてSV-Xでそれが鮮明になった。
■試乗・文:ノア セレン ■撮影:渕本智信 ■協力:スズキ https://www1.suzuki.co.jp/motor/  ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、KADOYA https://ekadoya.com/ 






 

セパハンがついただけ、なのだ

 SV650X ABSはちょっとカテゴライズしにくいモデルと言えるだろう。例えばMT-07に対するXSR700だとか、Z650に対するZ650RSならば「クラシック版・ヘリテイジバージョン」としてわりとコンセプトは明確だ。それに対しSV-Xはカフェレーサーを謳うものの、ロケットカウルが付いたわけでもなく、機能面でも何か変更があったわけでもない。カラーリングもスズキの歴史を連想させるわけではないため、特別懐かしさやヘリテイジ的なものを追求しているわけでもなさそう。
 機能面では優秀なSVのパッケージにセパハンを取り付けた「だけ」と言ってしまっては冷たいが、それに合わせてステップを後退させただとか、もしくはシングルシート仕様にしたとか、オプションでマフラーなどの限定キットが付く、といったこともなく、バリエーションモデルとしては控えめな存在と言えよう。
 しかし乗ってみると、通常版のSV650では気付きにくいSVのスポーツ性に気づかされるのだった。
 

 

こんなにスポーティだったか??

 SVはデビューから堅調な売れ行きを続けているスズキのスタンダードモデル。ルックスもホンダVTR250の兄貴みたいな、王道ネイキッドスタイルであり、丸ライトや低いシート高、スリムさや軽さなど、ルックス的にもポジション的にも親しみやすさが滲み出ている。実際ストリートで実用的に乗っても、ツーリングに使っても全く過不足ない良車だし、燃費やコンパクトな車体含めた維持管理のしやすさも魅力だ。むしろこういった「極スタンダードな良いバイク」は今や珍しいと言っても良いほどだ。そんな「良い」SVだからこそ、「スポーティ」という印象には結び付きにくいかもしれない。
 

 
 ところがセパハンのXに乗ると、「こんなにスポーティだったかな」と改めてこのバイクを再評価したくなる。もちろんポジションが変わり前傾が強くなったことによる精神的な「やる気」も影響はしているだろう。スタンダードSVではペロリと流して走り抜ける峠道でもXなら自ずとペースが上がって、もっと積極的にスポーツライディングを堪能したい気持ちになる。
 そんな気持ちでペースが上がっていくと、フレームのしっかり感に気付かされる。特にこの650ccクラスは付き合いやすさや挙動の感じ取りやすさを演出するためしなやかなフレームを持ったライバルが多いように感じるのに対し、SV-Xはしっかりとしたトラスフレームを持ち、ペースが上がるほどにその頼もしさを実感する。サスペンションを含めてしなやかさはあるのだが、路面のうねりなどを拾ってグワンと車体が動いた時などの収束性がとても良く、筋が一本通っているというか、フレームのしっかり加減が自信に繋がっていくと感じた。
 

 

回して楽しいDOHCエンジン

 エンジンもまたスポーティなのだな、と再認識する。スタンダードSVでは扱いやすい低回転域ばかりを使ってしまい、その良い意味でダルなイメージが特にツーリングシーンでは良き脇役に徹してくれる感覚があった。しかしスポーツマインドで接するXではその優しい低回転域が逆にもどかしい。セパハンになっただけなのに、「あれ? SVってもっとパワフルじゃなかったっけ……」と最初は首をひねってしまった。

 ところが高回転域へと回していくと右肩上がりに湧き出てくるパワーに気付かされる。特に7000回転から先はとても元気なパワーバンドがあり、この領域を外さなければ非常にエキサイティングでかつ前述したカチッとしたフレームやセパハンと全てがシンクロして滅法楽しい。なるほど、諸外国でワンメイクレースが盛り上がるのもよくわかる。あのスタンダードバイクであるSVにこんな楽しさが潜んでいたか、と見直すことになってしまった。
 もう一つ気付いたのは、SVはミッションが全体的にロングというかハイギアードな設定とされていること。だからこそ常用域での瞬発力はあまり感じられずのんびりと走らせることができるのだろう。一方で高回転域を積極的に使っているとけっこうな速度が出てしまうことがあるため公道においては注意したい。なおこのハイギアード設定は燃費にも貢献しているだろうことを思えば、さすが熟成を重ねてきたユニットなのだな、と改めて思い知らされた。
 

 

性能も良いが、ルックスは??

 セパハンになったことで、忘れていたSVのスポーツ性を思い出させてくれた今回の試乗。大真面目に「こんなフレームだったんだ」「エンジンは高回転型で」「セパハンがSVのスポーツ性を引き出し」などと書いてきたが、そんなことよりも小さなカウルが付いたことやタックロールシートといった「カフェレーサー感」はどうなんだ! とツッコミを入れている読者もいることだろう。
 VTRの兄貴のようなスタンダード感あふれるSVに対して、カウルとセパハン、ツートンのタックロールシート、そして渋いカラーリングでちょっと都会的かつダークなイメージは確かに持っているSV-X。基本的にはセパハン以外は同じバイクでありつつ、イメチェンは上手にしていると言える。SVの良さはよくよく知っているが、「いくらなんでも見た目が普通過ぎる!」と思う人にアピールするSV-Xのスタイリングだと思う。
 ただ、スタイリング面においてはもう一歩進めても良いのかな、とも思った。ロケットカウルを連想させるミニカウルとサイドカウルではなく、この際もうフレームマウントのロケットカウルをつけて欲しい、だとか、ヘッドライトはハロゲンの丸タイプのままでいいから、その周辺にLEDのデイタイムランニングライトをカッコ良く付け加えるとか、まだまだスタイリング的にSV-Xができることはありそう、という感想も持った。
 

 

走り抜けて欲しいSVブランド

 つまらないことを言うようだが、内燃機エンジンの残り時間は少なくなってきている。スズキに限らず、多くのメーカーはこのタイミングで新機種エンジンを開発するのはどうなのか、と思っていることだろう。だからこそSVのような熟成されたユニットを大切に使い続けているのだ。しかし今回の試乗で、やはりSVは名車だと再確認できた。「SVなんてずっと前からあるじゃないか! 何か新しい提案をして欲しい!」という意見もあるかとは思うが、一方で良いものを大切にし、エンジンというものが使えなくなる近い未来までその良さを楽しみ続けようじゃないかという見方もできよう。

 SV-Xの登場により改めてSVのスポーツ性を認識した今、各社共にさらにアピールできるバリエーションモデルで既存モデルのリフレッシュ及び魅力の再確認を市場にアピールしてほしい、などという真面目なことを考えてしまった。
 

 

ライダーの身長は185cm。写真の上でクリックすると両足着き時の状態が見られます。

 

信頼のSVユニットはVツインから想像するよりも気持ちよい高回転域をもつ、回してこそ楽しい特性。同時に常用域での脇役感も絶妙で、レギュラーガソリンでの燃費の良さも維持のしやすさに貢献する。なお車体左右のデザインの一部にもなっているトラスフレームはXのセパハンで乗るとなお信頼性を感じさせ、より積極的な走りへと誘ってくれる。

 

正立フォークを持つフロント周りだが、特にセパハンでは剛性が高めに感じ、しっかりと前輪を掴んでいる感覚がある。対向4ポッドキャリパーは反応も制動力も申し分なし。

 

鉄のスイングアームにプリロードアジャスト付きのリアサスはスタンダードな装備。タイヤは160幅のラジアルが5インチ幅のホイールにセット。ハイグリップ系も選べるため特にX購入者はサーキット走行もしてみて欲しいと思う。マフラーは静かかつバンク角も十分確保されている様子。

 

トップブリッヂ下に設置されたセパレートハンドルはリラクシンなSVを途端にスポーティにしてくれた。ただ距離が増えると左の肘をタンクの上に乗せて上体を支える、といったことも出てきたため、ツーリングならやはりスタンダードSVが良いだろう。メーターはいたってシンプルだが、これまたスズキらしいというかSVらしいというか、色気はないが実用十分なところがスズキファンの筆者としては好み。

 

ミニカウルと、そこから横へと繋がるデザインのシュラウド部はなかなか上手にデザインされていると感じるが、ここまで来たらフレームマウントのロケットカウルでも良いような気はする。なおヘッドライトは昔ながらの丸タイプで、ハロゲンである。いたずらにLEDにせず、雨でも霧でも安定した見やすさを持つハロゲンは個人的に大好きではあるが、デザイン的にLEDのDRLなどを追加したらスタイリング的なアピールになるとは思う。
難解なパワーモードなど電子制御は一切ないのが気持ちよいし、このバランスを持ったパッケージならそもそも電子制御など要らない。スイッチ類は大きくて操作しやすくこれも好印象。ただスズキ車全般に最近装備されているローRPMアシストは好みが分かれるかもしれない。クラッチを繋いでいくと自動的に回転数が高まるという仕組みなのだが、それが必ずしもこちらの感覚とシンクロしないこともあった。

 

●SV650X ABS/SV650 ABS主要諸元
■エンジン種類:水冷4ストローク90度V2気筒DOHC4バルブ ■排気量:645cm3■ボア×ストローク:81.0×62.6mm ■圧縮比:11.2 ■最高出力:53kW(72PS)/8,500rpm ■最大トルク:63N・m(6.4kgf-m)/6,800rpm ■全長×全幅×全高:2,140×730[760]×1,090mm ■ホイールベース:1,450mm ■シート高:790[785]mm ■車両重量:199kg ■燃料タンク容量:14リットル ■変速機形式:常時噛合式6段リターン■タイヤ(前・後):120/70ZR17MC・160/60ZR17MC ■ブレーキ(前・後):油圧ダブルディスク(ABS)・油圧式シングルディスク(ABS) ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:グラススパークルブラック[グラススパークルブラック、グラススパークルブラック×ブリリアントホワイト、マットブラックメタリックNo.2] ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):847,000円[803,000円] ※[ ]はSV650 ABS

 



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2022/05/23掲載