2022年第6戦スペインGPのMoto2クラスで小椋藍(IDEMITSU Honda Team Asia)が優勝を飾った。土曜の予選ではポールポジションを獲得し、日曜午後の決勝レースではホールショットを奪うと一度も前を譲らずにトップでゴール、という完璧な内容だ。
2019年にMoto3クラスへのフル参戦を開始した小椋は、2020年に最終戦までチャンピオンを争ったもののランキング3位、2021年にMoto2クラスへステップアップした。その間、何度も表彰台には登壇してきたが、なぜか優勝だけにはいつも手が届かなかった。それだけに、満を持して成し遂げた今回の優勝に溜飲の下がる思いをしたファンもきっと多いことだろう。小椋の高い資質と将来性には世界中から大きな注目が集まるが、そんな彼と世界選手権フル参戦4年目の初優勝直後に交わした単独インタビューをお届けしよう。いかにも小椋らしい、率直で目標設定が高く、ときにオフビートな風合いも漂う一問一答をお楽しみください。では、どうぞ。
■インタビュー・文:西村 章 ■写真:MotoGP.com
―初優勝おめでとうございます。まずは、現在の率直な感想を聞かせてください。
「昨日の予選でポールを取れて、今日のレースはスタートから自分のペースで走りきって優勝できました。今までグランプリでレースをリードしたことがなかったので、結果的にも内容的にも喜べる内容だし、すごく得るものも多かったと思います」
―初優勝のライダーは、レース直後には「まだ実感がない」と言うことも多いようですが、小椋選手はそのあたり、どうでしたか?
「自分たちでもビックリするような優勝、というわけではなかったですからね。今週の推移や去年からの流れでいえば、むしろ待っていた結果というか、勝たなくちゃ、というふうにずっと思っていたから、うれしい気持ちと、とりあえず1勝できてほっとした気持ちとが半々くらい、というかんじですね」
―着実に積み上げてきたことの成果を出せた、という感じですか?
「そうですね」
―勝ってみると、意外にあっさり勝てたな、という印象でしたか?
「ポールポジションスタートが、大きかったですね。レースは前のほうからスタートすることが大事なので、そこが大きかったと思います」
―今回のウィークは、一発タイムもレースペースも非常にいい内容でした。決勝は逃げ切る戦略だったのでしょうか?
「自分のペースで走って、それが速ければそれでいいし、誰か速い人がいればがんばってついていこうと思っていたので、なるようになるし、その時々で対応すればいいかな、と思ってスタートしました」
―レースでは一度も前も譲らず、文字どおりのポールトゥウィンでした。レースのどのあたりで勝てそうだなと感じましたか?
「確実に勝てると思ったのは、ラストラップに入ったあたりですけど、優勝に向けて『よし、いいぞ』と思えてきたのは、カネット選手が離れてきた残り6~7周目あたりに、これでこのまま行けるのかな、と感じました」
―それまではずっと0.5秒程度の微妙な差が続きましたが、後方からのプレッシャーは感じていましたか?
「わかっていたのはタイム差だけで、誰と誰が後ろにいてどんな状況なのかもよくわかってなかったんですよ。後ろから音がしていても、余裕があるのか自分と同じくらいなのか、それともいっぱいいっぱいなのか、そのへんの判断が難しかったんですが、結果的に離れてくれたので最後までうまく走りきることができました」
―初優勝のときはラストラップがものすごく長く感じた、と言う選手も多いようですが、小椋選手はどうでしたか?
「そこはべつに、体感的もそうは感じなかったですね」
―思いどおりに完璧なレースをできましたか。
「ポールポジションからスタートして1位でゴールできたレースですが、ライダーが30人いれば全員何かしら改善する余地はあると思います。だから、結果は結果、それはそれ、というかんじです」
―小椋選手は、2位や3位で終えたときはいつも、「70点の出来」とか「80点のレース」と言っていました。今日は100点満点ですか?
「はい。そうですね」
―ということは、今日はMoto3から世界選手権を走ってきて、初めて納得できたレース?
「いや、納得できるレースはいっぱいありますよ。レースが終わって残念という内容ばかりでもなくて、終わってうれしいレースは今までにもいっぱいありました。もちろん、今回がいちばんうれしいですけどね」
―今回は完璧なレースにも見えたのですが、自分では改善の余地はまだあると思いますか?
「ライダーは皆、そうなんじゃないですかね」
―どういうところが改善点だと考えていますか。
「そうですね……、たとえば、序盤にもうちょっとギャップを作れたら、もっとラクな展開になったかもしれません。毎周同じラップタイムで走れたかというとそうでもないし、毎周ラップタイムを更新できたかというとそうでもない。そんなことをできるのはライダー人生で一度あるかないかだと思うんですけどね。でも、走っている以上は、やっぱりそこを目指さなければならないと思います」
―今回のウィークは、金曜のFP1から非常にいいタイムで上位につけていましたね。
「プレシーズンにテストをしていたことも大きいだろうし、そもそも、毎年どこをいちばん走っているかというと、ここだと思うんですよ。ヘレスはグランプリに来てからいちばん走っているサーキットだし、好きなコースでもあります。今回、スタートから良かったのは、それが理由じゃないですかね」
―Moto2初年度の昨シーズンは、金曜の走り出しからいいタイムを出すことに苦労していましたが、今年は総じてFP1から上位の位置につけていますね。
「今年は去年より全然いいですね。FP1の順位も、トップとのタイム差も」
―セッションのアプローチ等は、去年から何か変えたのですか。
「FP1で20何番手にいるよりトップテンのほうがいいので、そこは去年から意識していました。でも、意識すればできるのかというとそれはまた別の問題で、最近はちょっとずつできるようになってきたので、いいかなと思います」
―自分の経験や、チームとの積み重ねが大きい?
「そうですね」
―ブレーキングからコーナー進入にかけての領域も、去年はよく改善点の課題に挙げていました。今年は、ある程度納得できるようになってきましたか?
「去年よりは、間違いなくいいです。いいんですけど、でも、理想にはかなり遠いので、今はまだ(模索の)最中、ってかんじですね」
―現在はランキング2番手です。シーズンは6戦を終えて、ここから先はまだ15戦もありますが、今後チャンピオン争いをしていく自信はありますか?
「自信……ですか。まあまあ、毎回正しくがんばれていれば、1回できたことをこれからも毎回できれば良くなっていくだろうし、それに向けていつもどおりがんばるだけですね」
―非常に小椋選手らしい答えかただと思うのですが、では、チャンピオン候補のひとりであるという自覚はありますか。
「はい。ランキング2位なので(笑)。チームの状況もコース上の走りも毎戦良くなっているので、引き続きがんばれればなと思います」
―チームメイトのチャントラ選手は、小椋選手と違ったタイプのライダーで、彼も速さを発揮しています。チャントラ選手が先にインドネシアGPで優勝したことは刺激になっていましたか?
「それはもちろん、すごくありますね。グランプリに来てから、速いチームメイトがほしいとずっと思っていました。チャントラと自分はタイプが違うけど、その違ったタイプで1周走って帰ってきたら同じタイムで、それを比較したりするのも面白いですね。速いチームメイトが隣にいてくれるのは、すごくいいことだと思います」
―今回のレース後に、青山監督とは何か話しましたか?
「よかったなー、というかんじですよ。特別なことはなにも話してないです」
―レース終盤の青山監督は、ちょっとウルウル来てるようにも見えましたが。
「それはわかんないです。そうなんですか?」
―国際映像に映るピットレーンの姿は、ちょっと涙を噛みしめてるようにも見えたんですけれども。
「そうなんですか? (鳥羽)海渡のときもチャントラの時も泣いてくれたのに、オレの時は泣いてくれなかったっすよ」
(横で話を聞いていた青山監督が)「(優勝まで)時間かかりすぎなんだよ」
「ひどくないすか、それ(笑)」
―自分自身では、ウィニングラップの時に涙は出ましたか。
「いや、うれしい気持ちのほうが大きかったですね。だから、べつに涙は出ませんでした」
―次戦のルマンは、これまであまり好結果を残せていないコースですが、抱負を聞かせてください。
「ルマンの場合は、まずはコンディションとの戦いになります。だから、そこにしっかりアジャストして走れるようにすることが最初にやるべきことだと思います。そこから始めて、一歩一歩積み上げていく、ということですね」