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試乗・解説

Kawasaki Z650RS 50th Anniversary これは楽しい! Z650RSは売れる! と、思う これだけの理由。
もうまもなく注目の一台のデリバリーが開始される(2022年4月28日発売)。Z650RSだ。大ヒット作Z900RSが纏うヒストリックカワサキの衣装を身につけたこの一台は、その現実的なコンセプトをZ650ファミリーの車体にマッチさせた完璧なるモデルと言えるだろう。テストしたのが「Z生誕50周年記念仕様」であることはひとまず置いておこう。乗ってどうだったのかって? ファンタジックな表現になるが、試乗の前夜僕は夢を見た。占い師の目の前に座り、テーブルの上に置かれた水晶玉を食い入るように見ていた。で、ナニが見えるんですか? 占い師が口を開く。そして、それはテストをしたZ650RSのコトをことごとく言い当てていたのである。これは2022年のヒット作になるな。いや待て。ジャーナリストが褒めたバイクでヒットしたバイクは少ない、という都市伝説。それをこのバイクは覆してくれるのだろうか?
■試乗・文:松井 勉 ■撮影:渕本智信 ■協力:カワサキモータースジャパン https://www.kawasaki-motors.com/ ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、SPIDI・56design https://www.56-design.com/




アナタは走る前にその血縁を感じるハズだ……。

 Z650RSの注目度はすごい。こうしてメディア用バイクを走らせているだけで隣の車線を走るクルマの運転席から、路線バスの窓際の席から、四角くて黒いバッグを背負ったデリバリーフーズの配達中の人ですら、信号待ちでこのバイクをガン見してくる。自意識過剰? いや、違う。みんな見ているのだ。とある交差点では信号待ちの歩行者が連れの人と「あ、650だ」という声だけがヘルメットに届いたほど。

 その理由は、ファイアボールカラーの50th アニバーサリーモデルであること。サイドカバーに付けられた650ダブル・オーバーヘッドカムシャフトの伝統的な書体のエンブレム、倒立ではなく正立フォークのフロントエンド等々、マニアックな部分からこのバイクの素性を見抜いたのかもしれない。

 ちょっとだけサービスのつもりでZ650RSのエンジン音を届けよう。瞬間的に右手を急開すると、口を開いたスロットルボディにゴボゴボっと飲み込まれる吸気音が混ざり、4連キャブで空冷4気筒が放つ吸気音、メカノイズと4本マフラーのカルテットが放つ音がこの新しいZ650RSの吸気音の遠くに、シンフォニックに聞こえてくる。だからホントは自分がその音を聞いていたいからやってみただけなのだ。ガボンという吸気音に古き良きZを思ったのだ。
 これぞ夢で見た血縁の話か! もう街中を走っているけど……。
 

 
 Z650RSのデザインは、まさに空冷Zのそれを下敷きに上手にアレンジされている。存在感があるのだ。まずはティアドロップスタイルの燃料タンクからサイドカバー、そして楕円のテールランプへと続くシートカウル。この一連は当時のスタイルを思わせる。ヤマハのXSRシリーズが、RZ風にも見えるし、XJ風にも見えるタンクとそのラインで当時の記憶を持つ人にはそれらを、ソレを知らない人にもオーセンティックさを届けているのに対し、明確な当時のスタイルやイメージが強い本作の場合、着崩し具合が難しかっただろうな、と想像する。

 特徴を活かしながらもZ900RSより主張は控えめ。ヘッドライトは少々小ぶりだが、ライトケースの上にある二眼メーターはZ650RS の顔に綺麗に馴染んでいる。このさじ加減、好きだ。そしてZ900RS同様のスポークホイールを模したキャストホイールは外せない大切なポイントだ。もちろん、リアは160サイズのタイヤに合わせたナローリムになっている。

 車体サイズはベースとなったZ650より10mm長く、35mm広く、90mm高い。ブリッジ型のパイプフレームを採用したダイヤモンドタイプのフレームで、エンジンを吊り下げるようなレイアウトや、サスペンションストロークやキャスター、トレールも数値上Zと共通。ホイールベースが5mmだけRSのほうが短い。
 搭載されるエンジンは水冷並列2気筒DOHC4バルブユニットで、649㏄の排気量、圧縮比、スペックなども共通となる。
 シート高はZ650より10mm高い800mmで、これはZ900RSと同じ数値。ちなみに、サイズ的にZ900RSとZ650RSを比較すると、Z650RSがZ900RSに対して35mm短く、65mm狭く、高さは5mmだけ高い。ホイールベースは65mm短いから車格は明確にコンパクトなのだ。同じZの50周年アニバーサリーモデルでは、車重もZ650RSの方が27㎏軽い。
 

 

北海道を走る姿が見える……。でも、油断するな!

 φ36mmのスロットルボアを通過する空気の束。そして180度クランクのエンジンが吐き出す排気音。これがミックスした音にDNAを見た、とは書いたが、走り出してすぐに思い出した。夢で見た北海道を走っている姿が見える、という占い師の言葉だ。

 バイクを受け取ってまだ数分しか走っていないが乗りやすさとバイクの持つ軽快さ、トルク感あるダッシュ力に魅了されつつある。
 ああ、これこれ。この感じ。いつでも望む快感だ。

 前後のサスペンションはソフトライドな良い味を出している。しっとりとした吸収力がありながらでフワフワしない。ピッチングも上手く引き出せて、それをライディングの隠し味にも使える。

 シートの肉厚感もよい。800mmというシート高は低い部類ではないが、足を出すエリアや内股と干渉する部分のシート形状がよいので足着き感は悪くない。ライディングポジションもコンパクト。Z900RSのそれはちょっとワイド気味なハンドルバーでビッグバイク感を演出しているようにも思えたが、Z650RSのそれは一体感ある程よい広さのハンドル幅。燃料タンクもライダー目線からだと大きさの主張は少ない。反面、ヒザとのフィット感は上々。バイクを包み込むようにタッチできるのがいい。ステップの配置、そしてステップ上でのシューズの移動範囲にも邪魔なものはない。カワサキ、まじめに作っているのが伝わってくる。なにより190㎏の車重だ。400クラスと大差ないのも安心感を醸す材料だ。
 

 
 エンジンはパンチがある。それでいてガツガツせずアクセル操作に対して扱いやすい。トルクは滑らかで回転数と正比例するように増えてくる。50km/hで6速にシフトしてもフレキシブルさをもっているし、3速でもコントロールはしやすい。こうした扱いやすさも夢で見た「北海道」を走っている姿に結びついたのかもしれない。たしかにこのバイクはリアシートに荷物を載せてロングツーリングに出たくなる。
 しかし、油断をするな、とは……。その答えは1日走り回った後半に分かった。

 例えば高速道路。フェアリングを持たないネイキッドだけにバンバン飛ばす気にはなれない。80km/h、100km/h、120km/hという高速道路にある制限速度に沿って流してみたが、速度の維持しやすさ、安定感や乗り心地から長距離移動を想像しても付き合いやすそうだ。
 

 
 それはワインディングでも同じ。高回転維持などせずとも、せいぜい5000rpmから7000rpmを上限にするだけでパワフルな走りを楽しめた。ハンドリングは旋回性最優先、というロジックではなく、どこか重厚感がありかつて乗っていた空冷4発のバイクのようなフィーリングがあった。それは重たいというのではなく、吸気音の中に「カワサキDNA」を嗅ぎ取ったのに近いもの。前後17インチ、しかもリアは160というサイズだ。軽快さも充分。それでいてZ650よりも上体が起きたリラックスポジションや、着座位置が後輪に近いようなフィーリングで、弱めながら常にアンダーステアな印象で、バイクを寝かしリーンを維持するのに体重をバランスさせながら曲がってゆく……、という手応えを味わえる。そこに前後のピッチングをちょい足しすることで腕に覚えがのあるライダーなら、コーナリング中、スロットルコントロールでラインを変えることも楽しいだろう。
 ここにもRSというモデルに込めたカワサキの思いを感じ取れたように思う。

 ブレーキに関してはどんな場面でも操作感、制動力ともに不満を感じなかった。Z900RSのようなラジアルマウントキャリパーなどの採用はないが、アップライトなポジションや前後に動きを許容するサスペンションなど車両のキャラクターにあったブレーキシステムだ。この日走ったワインディングでも充分な性能を見せてくれた。レバー入力と手の力感もバランス良し。上手くまとめ上げられている。
 

 
 と、ここまで来て油断の意味が分かった。さっきまで燃料計はまだ余裕と思っていたが、気が付けばガソリン補給のタイミングがすぐそこにきていた。ナゼ?
 理由は簡単。ふっくらした燃料タンクだが、その容量は12リットルと小ぶり。Z650が15リットル、バルカンSが14リットル、国内では販売されていないが、ベルシス650は21リットルもガソリンが入るらしい。正直、航続可能距離は長くないのだな、と思った。そう、文字通り、油断することなかれ。気持ち良い場所を走るとガソリンスタンドへの距離が遠い現在、まさに半分減ったら補給すべし、がロングツーリングでは鉄則になるのかも。しかし、Z650RSが大食いだ、というわけではない。平均燃費計をみても、650のバイクならこんなもの、という数字を示していたから、200㎞は楽勝で走れるだろう。
 

 
 結論を言えば、エンジンのキャラクター、フレキシビリティ、乗りやすい車体、それをNinjaやZ650ではなく、カワサキ自身によるトリビュート版たるZ・RSシリーズスタイルでパッケージした一台で、デザインだけではなく中身までしっかりと味付けされていたのが分かった。試乗を終えてなるほど僕は北海道に行ってみたくなった。

 正直、最初はこう思っていた。Z750Tがあったからって2気筒のZ・RSに訴求はあるのだろうかと。でも今はZ650RSが持つ軽さと走り、そしてちゃんと仕込まれたカワサキらしさなどを考えると、1台のバイクとしてお奨めできる。なにより、カワサキの歴史をフォーマルに表現したモデルがZ900RSやメグロK3だとすれば、このZ650RSはそれよりもライトでカジュアルな印象があった。気が付けばバイクに40年近く乗っている自分ですら初代のZ1が販売されていた当時のことや、ナナハンとして売られていたZ2のことを知らないし、免許を手にした当時はすでに過去のものだった。

 だから、歴史をことさら意識する必要もないし、当時モノのZに乗っている人がシャレで日常バイクに使うのも面白いだろう。早い話、乗って楽しいか、だ。その点でネオクラシック風モデルが気になる人、ミドルクラスでスタイルのあるバイクはないか、と探している人にとって、適役登場とお伝えしたい。時にジャーナリストが褒めるバイクは売れない、というジンクスがあるが、Z650RSはそれを跳ね飛ばすヒット作になることを心から希望する。
(試乗・文:松井 勉)
 

 

ライダーの身長は183cm。写真の上でクリックすると両足着き時の状態が見られます。

 

エンジンはコンパクトな水冷2気筒。180度クランクのエンジンフィーリングは270度位相クランク全盛時代にあっても光るものがある。ステンレスパイプで作られたエキゾースト周り。エンジン下部のコレクターボックスデザインなどERシリーズから受け継がれる伝統的なスタイル。これはこれでかっこいい。

 

φ300mmのディスクプレートとニッシン製2ピストンキャリパーを組み合わせたブレーキ。細いスポークでクラシカルさと新しさ両面を引き出すホイール。ガソリンスタンドなど身近な場所で空気チェックがしやすいようにホイールのエアバルブを横出しタイプのものにして欲しい。

 

リアブレーキはφ220mmのディスクプレートとシングルピストンのキャリパーを使う。スイングアームはマフラーのコレクターを避けるように湾曲したデザイン。リアサスペンションはショックユニットを路面とホリゾンタルマウントしたスタイル。リアスプロケットも鉄製ながらカスタムパーツのようなデザインだ。

 

綺麗なラインを描く燃料タンク。Kawasakiのエンブレム、光の加減で輝く粗めのフレークと濃いブラウンメタリックの色調、鮮やかなオレンジとピンストライプ風のライン……。70’sテイストが眩しい50th Anniversary。フロントフェンダーも同色。タンク左側にある黒い箱の中はレギュレーターが収まる。タンク容量は12リットルと小ぶりだ。

 

高さ、曲げなど適度で扱いやすかったハンドルバー。前輪の切れ角も充分。ハンドルバーはフォークのアッパーブラケットにラバーマウントされている。

 

LED透過照明で暗い場面でもクッキリと視認性の高いメーターパネル。ETC2.0を標準装備しアンテナなどは外観に影響を与えないよう内装されている。タコメーター内にはETCランプも装備。中央部にはシフトランプ、ギアポジション、時計など視認頻度の高いもの、トリップ、オド、平均燃費など選択できる情報を最下段にレイアウトしている。
50th Anniversary専用装備の一つにサイドカバーのこのエンブレムがある。

 

スイッチ周りはシンプル。右にはスタータースイッチとエンジンキルスイッチ。左には、ウインカー、ホーン、ハザード、ヘッドライト光軸切り替え、パッシング、そして上下キーではメーター中央にあるインフォメーションディスプレイの表示項目の切り替え、リセットなどが行える。

 

50th Anniversaryの特徴の一つでもある標準装備されるグラブバー。オプションパーツリストにあるものが標準装備される。これもZスタイルを表すアイテム。リアフェンダー下側にシート開閉の解錠シリンダーがある。電気系、キャニスター、ETCなどでぎっしり詰まっている。シート形状やパイピングの入り方までしっかりとデザインされている。

 

スチール製ながらステップ、ペダル周りのデザインもしっかり整っている。

 

●Z650RS 50th Anniversary /Z650RS
■型式:カワサキ・8BL-ER650M ■エンジン種類:水冷4ストローク直列2気筒DOHC 4バルブ ■総排気量:649cm3 ■ボア×ストローク:83.0mm×60.0mm ■圧縮比:10.8 ■最高出力:50kW(68PS)/8,000rpm ■最大トルク:63N・m(6.4kgf・m)/6,700rpm ■全長×全幅×全高:2,065mm×800mm×1,115mm ■ホイールベース:1,405mm ■最低地上高:125mm ■シート高:800mm ■車両重量:190kg[188kg] ■燃料タンク容量:12L ■変速機形式:常時噛合式6段リターン ■タイヤ(前・後):120/70ZR17M/C・160/60ZR17M/C ■ブレーキ(前/後):油圧式ダブルディスク/油圧式ディスク ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:キャンディダイヤモンドブラウン[キャンディエメラルドグリーン、メタリックムーンダストグレー×エボニー] ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):1,100,000円[1,012,000円] ※[ ] はZ650RS

 



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2022/04/15掲載