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試乗・解説

貴重な「ほんもの」クラシック 空冷バーチカルツイン、だけじゃない魅力 Kawasaki W800 STREET
カワサキはエストレアやW650でクラシック、もしくはネオクラシックと呼ばれるようなクラスにいち早く参入したメーカーだろう。今でこそ国内外でこのクラスが盛り上がりを見せているが、そんななかカワサキは空冷バーチカルツインのWを守ってきた。その魅力とは? 松井勉さんによるメインインプレ(https://mr-bike.jp/mb/archives/27497 )の、外伝(?)としてどうぞ!
■試乗・文:ノア セレン ■撮影:渕本智信 ■協力:カワサキモータースジャパンhttps://www.kawasaki-motors.com/ ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、KADOYA https://ekadoya.com/






 最初に結論を書いておくが、Wのキモはエンジンである。空冷のバーチカルツインであることは1960年代の同社Wと共通する項目だが、その中身はW650として復活した際にベベルギア駆動のOHCになり、また800になるタイミングではインジェクションも採用するなど進化を続けてきたが、その中でカワサキが頑なに守ってくれているのが360°クランク。なぜか他社はコレを辞めてしまっているのだが、これがクラシックモデルにとって、そしてWというモデルの最大のキモなのだ。

 360°クランクとは、隣り合う二つのピストンが同時に上下する、ということ。片方が爆発している時にもう片方は排気しているため、常に等間隔で爆発が起きていることになる。対して250ccクラスのツインで一般的なのは180°クランク。これは左右のピストンが交互に上下するため、等間隔爆発とはならない。一般的に360°のほうが実用領域においてトルキーで、180°の方が高回転域まで回りやすくスポーティとされるが、かつてホンダのCB400Tホークシリーズは360° ながらショートストローク設定で大変良く回ったため、必ずしもそうでもないだろう
 

 
 さらに古い話になるが、かつてのホンダCB72は同じエンジンで高回転型180°クランクの「タイプ1」と、低回転域重視360°クランクの「タイプ2」を用意していたのは有名な話。ただ、昔のトライアンフなどは皆360°クランクでちゃんとスポーツを求めていたのだから、一概には言えないはずだ。そして今、より大きな排気量のパラツインで大きな市民権を得ているのはVツインと同じ爆発間隔になる270°クランク。BMWや、あのトライアンフでさえ今やこの270°クランクを持つパラツインを展開しており、いまや360°クランクのパラツインは絶滅危惧種である。

 しかし360°クランクは得も言われぬ良いフィーリング(と音)がある。等間隔爆発ということはBMWのボクサーツインと同じ。あのくぐもったような「ドロッドロッ・バロローン!」という音がなんとも心地よく、絶え間なく湧き出てくるトルク感も非常に馴染みやすいだけでなくクラシカル感の演出もしてくれている。
 他社も多くのパラツインを展開しており、クラシカルモデルも多いにもかかわらず、360°クランクのバーチカルツインはもはやこのWだけ(あ、タイのメーカー、GPXの250ccもありました。あれもとても良いんです!)になってしまった。クラシカルさ、Wらしさを守るという意味で、360°クランクを継続するという選択はとても嬉しく、Wを、カワサキを、心から褒め称えたい。
 

 

クラシカルだけじゃないアップデート

 360°クランクについてばかり文字数を費やしてしまったが、エンジンの性格や使いやすさについても書いておきたい。
 W650からW800にモデルチェンジした際に、排気量アップに伴いトルクも太くなり、さらにかつてのW1に近いようなドタタッ!とした蹴り出しを獲得したのはよく覚えている。インジェクション化したり空冷のまま各種規制に対応したりと色々苦心したのが功を奏しWの魅力は一段と高まったと言えただろう(一方で650の軽やかさが好きなライダーもいるだろうしその気持ちもわかるが)。
 W800はラインナップが一度途絶えて、ユーロ5を見越した高い環境性能を先行クリアして2019年に復活したという経緯がある。この時に実は最大トルクの発生回転数がそれまでの2500回転から4800回転へと高められ、同時に最高出力も48馬力から52馬力へと向上した。この変更で別段低回転トルクが薄くなったと感じたことはなかったのだが、新型ではさらにエンジンの回り方がスムーズになったようで、今まで以上に高回転域へと誘う感覚があった。もちろん低回転域でバロバロバロッと走り続けるのも良いのだが、高回転へ繋がる領域の回転に重さや嫌な振動がないため、素直にレッドゾーンまで使えてしまうのだ。このスポーティな感覚はそれこそかつては頂点スポーツモデルとして君臨していたW1の気持ち良さに通じるコンセプトを感じさせてくれ、「クラシカルなだけじゃないんだぜ!」と言われた気がした。

 もう一点特筆したいのはアクセルのツキの柔らかさだ。ジワリとアクセルを開けた時に、唐突さもなければタイムラグもない、なんとも言えない「意志との直結感」があった。排気量の大きなツインとなるとクラッチ繋ぎしなやアクセル開けしなはいくらかガツガツしてしまうような印象もあるかもしれないが、そんなものは全くのゼロ。どこまでもスムーズで本当に気持ちが良い。よって発進でエンストしてしまうだとか、Uターン時にヨロヨロしてしまうだとか、もしくはタンデムでタンデムライダーとヘルメットがゴツゴツ当たってしまうといったことはまずない。本当に極めてスムーズであり、これならばビギナーでも安心して付き合えることだろう。まろやかな360°クランクロングストロークエンジンと、徹底したインジェクションの作り込みで、4気筒にも負けないぐらいの極低回転域、日常領域での粘りや使いやすさを持っていると書いておきたい。
 

 

「スポーツ」ではなく「ストリート」ポジション

 今のWはスタンダードとカフェとこのストリート、さらにはメグロブランドの1台があるため4機種ラインナップされている。ストリートはその中ではETCやグリップヒーターを省いた比較的簡素な構成で、シートが低くフロントに18インチのホイールを履くのが特徴。フロントホイール径が小さくなったことで、横から見ると前下がりの構成に見えてどこかスポーティな印象もあるだろう。
 実車はシートの低さだけではなく全体的に低いような印象がある。またがると車体そのものが地面に近いというか、とても地に足が着いた構成に感じ、バイクの重心も、ライダーの重心も低い位置にある感覚が安心を生む。さらにシートが後端までフラットなため、跨りやすいのも好印象。特に年齢を重ねるとバイクにまたがるために足を振り上げるのは難しくなったりもするもの。またがる行為そのもののハードルが低いのは大歓迎だ。加えてタンデムシートも低い位置にあるため、タンデムライダーの乗り降りもまた「乗るよ? いい? せーの、よっこらせ!」という構えは必要なく、普通に後方からひょいと乗れてしまうし、荷物の固定も容易という、何をするにもいちいち工夫する必要がなくスッとできるのが素晴らしい。

 しかしポジション自体は好みもあるだろう。ライダーが座る座面が水平ではなく、若干バナナ形状というか、谷ができているため尻がスポッとハマる感覚があるのだ。これによりまずはシート高が低く足着きが良いし、かつ加速時には尻が後ろにずれずホールドされるためフィット感が高いのだが、クルージングする時にはもう少し尻を引いてリラックスしたい感覚があった。またワインディングを元気に走ろうと思うと、クラシックな車体構成だからこそライダーの体重を良き所に預けて一体感を探りたいのだが、尻の位置が固定されている感覚がありそれが難しく感じた。しかしここで我に返った。長距離クルージングやワインディングでの一体感? それは「ストリート」ではないじゃないか!と。足着きの良さや加速時のホールド感こそストリートで活きる性能。こういったポジションからこのモデルは車名の通り「ストリート」での性能を求めているのだな、と納得した。
 

 

「スポーツ」ではなく「ストリート」ハンドリング

「そうかそうか、ストリートか」と納得すれば、いくらか軽快すぎるかな?と感じていたハンドリングにも納得がいく。スタンダードのフロント19インチホイールは安定しているのに曲がりだすとグイーンン!と曲がっていき、かつバンク中の安定感が抜群で途中でラインを変更するのもバンク角度を変更するのも容易で許容度が高かった。対して18インチの方はよりクイックに向き変えができる反面、バンク中の許容度では19インチに譲る部分も感じられた。特に荒れた路面のワインディングなどでは、19インチの方が安心してペースを維持できる感覚があったのだ。
 しかしここでも「ストリート」と考えれば納得ができるのだ。18インチになったことでフロントの小回り感は確かに高まっている。スペック上の最小回転半径は19インチのスタンダードと変わらないが、交差点の右左折やUターン時の「クリッと」いける感覚は確かにこちらの方が高いのは18インチ化に伴って立ったキャスターや減少したトレール値によるものだろう。良好な足着きと相まってストリートでの気軽な取り回し感は確かに向上しているのだ。
 フロントに小径ホイールがついていた方がスポーティな印象もあるかと思うが、Wについては実際はそうとも言えず、この18インチ仕様は(シートから生み出されるポジション含め)その名の通り「ストリート」にフォーカスした18インチだと考えたい。峠道を積極的に走り込みたい人は、むしろ19インチの方が楽しめる場面が多そうだ。
 

 

次のクラシックファンへ。

 クラシックだとかネオレトロだとか、そういったカテゴリーが一般化して久しいが、一方でエストレヤやヤマハSRのような、誰でも「ちょっと乗ってみようか」と思える軽量(&手が出しやすい価格)車はむしろ減り、そもそも高級な趣味となってきたバイク全体の中でも、このレトロカテゴリーはまたさらに高級な分野へと変わってきているだろう。
 W650から続くニューWシリーズはそれを牽引してきたとも言えるが、今、そのラインナップの中でこのシンプルで、ストリートで楽しみやすい、そして比較的普及価格に設定した「STREET」をラインナップしてくれた意義は大きいと思う。360°クランクだとかフィーリングが云々と長々書いてきたが、「そんなことはどうでもよくて、カッコ良くて街中で気軽に乗れて、買い物もいけて、安心して彼女とタンデムできて、値段的にも手を出しやすいバイクが欲しいんだ!」と思っている若いライダーも多いはず。W800STREETはそんな層に訴えかける、とても魅力的かつ現実的な選択肢に思う。
(試乗・文:ノア セレン)
 

 

ライダーの身長は185cm。写真の上でクリックすると両足着き時の状態が見られます。

 

●W800 STREET [W800] 主要諸元
■エンジン種類:空冷4ストローク並列2気筒SOHC 4バルブ ■型式:8BL-EJ800E ■総排気量:773cm3 ■ボア× ストローク:77.0× 83.0mm ■圧縮比:8.4 ■最高出力:38 kW(52 PS)/6,500rpm ■最大トルク:62N・m(6.3 kgf・m)/4,800 rpm ■全長×全幅× 全高:2,135 × 925 × 1,120[2,190 × 790 × 1,075]< 2,135 × 825 × 1,135>mm ■軸距離:1,465mm ■シート高:770[790]<790>mm ■車両重量:221[226]<113>kg ■燃料タンク容量:15L ■変速機:5段リターン■タイヤ(前・後):100/90- 18M/C 56H[90/90- 19M/C 57H]< 100/90- 18M/C 56H >・130/18M/C 66H ■ブレーキ(前・後):油圧式シングルディスク(ABS)・油圧式シングルディスク(ABS) ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:エボニー×メタリックマットグラフェンスチールグレー[キャンディファイアレッド×メタリックディアブロブラック] <メタリックディアブロブラック×メタリックフラットスパークブラック> ■メーカー希望小売価格(消費税込み):1,089,000円[1,177,000円]<1,210,000円> ※[ ]はW800、< >はW800 CAFE

 



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2022/02/23掲載