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試乗・解説

8年後には半分に。 28年後にはゼロに。 ホンダ、交通事故死ゼロへの本気
新しく発売されるホンダ製品だけでなく、既に市場にあるホンダの二輪・四輪製品が関与する交通事故を対象に、ホンダは2030年までには交通事故死を2020年比で50%減、そして2050年までにはゼロにする、と発表した。しかも全世界が対象である。そんなことが果たして可能なのか、その心意気を伺った。
■取材・文:ノア セレン ■写真:HONDAhttps://www.honda.co.jp/motor/




運転者教育・AI・そして仮想空間活用

 交通事故死はぜひとも減らしたい項目ではあるが、これから先たった8年でホンダ車に関係するその交通事故死を半分にする、というのはものすごい目標だろう。なにせこれから発売されるモデルにおいてだけではなく、すでに世の中に存在している全てのホンダ車が対象である。先進国で走る最新モデルだけでなく、南米やアフリカなどでまだまだ活躍する旧いホンダ車や、東南アジアで星の数ほど走っているカブ系二輪車も全て対象というのだから驚く。果たしてそんなことが可能なのだろうか。ただのアピールなのではないだろうか。
 

 
 会見の現場ではそんな質問が出た。「大きな目標に思えますが、ホンダは企業として本気で達成しに行くつもりですか」と。それに対する返答は「カーボンニュートラルへの取り組み同様、簡単には達成できなくとも、必ず実現させる目標として、ホンダ全体で取り組んでいきます」であった。
 これらを実現するために今回紹介されたメインの最新技術は、AIによる危険予知とドライバーへの直前のリマインド、そして全ての車両及び歩行者も含めネットワークでつながることで、起こり得る事故や危険を仮想空間上でシミュレーション、即座に現実環境における当人たちにリスクを伝えるという技術だ。これに加え、既に存在している車両についてはドライバー/ライダーへの安全運転教育を充実させて交通死亡事故を減らしていくという。
 

こちらの動画が見られない方、大きな画面で見たい方はYOU TUBEのWEBサイトで直接ご覧下さい。https://youtu.be/c8GHeiQl-pk

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運転時のヒューマンエラーゼロを目指すAI技術

 今最も身近になっている安全技術は様々な運転アシスト機能だろう。ホンダでは「ホンダセンシング」という先進の安全技術を持っており、今では多くの車に搭載している。これは衝突を予測してブレーキをかけたり、もしくは高速道路などで前の車に自動でついていってくれるような、安全で便利な機能を多数盛り込むもの。他社も同様の取り組みをしているが、ホンダは今後さらにグレードアップした「ホンダセンシング360」へと進化していくという。
 これは今までの機能に加え、交差点、路外逸脱、歩行者、二輪車を交通事故死ゼロに向けた重点領域とし、交差車両の検知、カーブでの減速支援、交差点での歩行者や二輪車の検知に重点を置いて進化。こういった探知を元に、メーターディスプレイ上のリスクインジケーターやドライバー耳元の立体音響、シートベルトの制御などによりドライバーに危険を知らせていく。
 もう一つは漫然運転の防止。眠気や疲労を検知し、休憩を促すことはもちろん、シートバックから振動刺激を与え居眠り運転などを防止する。
 既に存在する技術もあり、またこういったものは日進月歩であるため常にアップデートされていくが、歩行者に加え二輪車も重点項目に加えたあたり、二輪四輪両方を作っているホンダならではのアプローチだろうし、また世界的に多く走っているホンダ二輪車の死亡事故ゼロに向けての本気度もうかがえる。
 

 

仮想空間とは?

 ホンダセンシングの進化はなんとなくイメージしやすいが、「全ての交通参加者との共存」を掲げる、仮想空間を使った取り組みはまさに未来を感じさせるもの。車やバイクだけでなく、歩行者含めて全ての交通参加者が通信でつながる社会を目指しているのだ。これに加え路側カメラなどからの情報を組み合わせ、現実に起きている交通状況を常に仮想空間上で再現してモニタリング。起こり得るリスクを事前に予測し、ドライバーやライダー、さらにはスマートフォンやスマートウオッチを通じて歩行者にも伝えようというわけだ。まるでSF映画のような話ではあるが、そんな現実を目指しているホンダである。
 このシステムは2030年以降の社会実証に向け、2020年代前半にシステム構築、効果検証を完了させ、2020年代後半には標準化することを目指している。
 

 

ドライバーやライダーに対する知能化運転支援技術

 そしてもう一つの取り組みはドライバーやライダーに対する運転支援と安全運転教育。先述したメーターディスプレイ上のリスクインジケーターやドライバー耳元の立体音響、シートベルトの制御などにより、事前に予測された危険をドライバーに伝え、またそれぞれの運転者のスタイルや癖に合わせたアドバイスなど運転支援をしてくれる。
 例えば初心者では視点が前方に集中してしまい広い視野で見られていないといったことがあるため、そういった注意喚起をしたり、または高齢者には操作反応が遅れがちとなることがあるため操作アシストによるふらつき防止をしたりとサポートを行う。

 これには「人を理解する技術」が大切で、全ての運転者の「個」の状態を推定したうえで、その個々の状態を踏まえた総合リスクの抽出と回避策を導き出してくれる、というわけだ。
 なお、バイクのようにシートベルトや音響によるリマインドが難しい乗り物については、現時点ではEd techというアプリを提供予定。運転状況を常にモニタリングしてくれ、それについて後からアドバイスを受けたりすることができる安全運転教育アプリと言えるようなものである。またこのEd techだけでなく、この安全運転支援システムそのものが、ただただ法規を守らせるためのものではなく、「地域性なども加味したリアルワールドに即したものとしていく」という力強い言葉が聞けたのも、実用的な技術に期待させてくれた。
 

 

今まで通りの安全も追求&進化

 これらのように、ホンダセンシングのさらなる進化や、仮想空間といった先進的なものの他に、これまで通りエアバッグや灯火類、ABSといった安全技術も進化を続けている。
 最新のエアバッグを展示するエリアでは、車内のエアバッグに加えボンネットの前に展開するエアバッグも公開。歩行者や自転車を守るためのエアバッグ技術であり、これも新型車だけでなく、既存の車種にも後付けできないか、と小型化や汎用性を高めるなど取り組んでいるという。また歩行者と衝突した際、歩行者の体がどのように動き、頭がボンネットのどこに当たるのか、といった研究もしており、単なるクッションとしてだけではなく、いかに効率的に命を守るかを追求。実用化すれば対歩行者事故における死亡者はかなり減りそうな印象を受ける。
 エアバッグと言えば二輪車用についても語られることは多いが、実用されているのはごくわずか。現場にはPCXに装着されるバイク用エアバッグが展示されており、少なくともバイク側による衝突事故においてはかなりライダーを守ってくれそうな印象を受けた。これもボンネット前のエアバッグ同様、いかにコンパクト化させ、コストを下げ、広く普及させていくか、また既存のモデルに後付けできるか、といった課題に取り組んでいるという。
 

 
 灯火類及びブレーキのコーナーにおいては、ABSユニットの小型化や、より小排気量バイクには前後連動ブレーキをいかにたくさんつけているかをアピール。前後連動ブレーキであるCBSはメカニカルな仕組みのおかげで、コストのかけられない小排気量車にも広く普及しており、アジア地区などを中心にユーザーに支持されている技術だ。
 灯火類についてはドライバーやライダーにとって明るく安全かということと同時に、いかに被視認性が高いかも大切なポイント。近年では一般化してきたLEDも駆使し、ヘッドライトやテールライト、ウインカー、さらには話題のDRL(デイタイムランニングライト)などについても話が聞けた。特に薄暮時、雨天時などといった視界の悪い状況において、被視認性のためのライトオンをするという習慣が少ない日本においては、いかに灯火類によって安全性が高められるかは今、まさに大きな転換期にあると感じる。
 

 

転ばないバイク??

 2017年にホンダはすでにASIMOの技術を活用した、NC750Sをベースに開発した「倒れないバイク」を発表しており、世の中を驚かせている。今回紹介されたのはNM4をベースとした進化版。かつてのモデルがステアリングステム周辺に装着された機構でバランスを保っていたのに対し、今回お目見えしたのはスイングアームを上下だけでなく左右にも振り子のように動かせる機能を持たせたニューバージョンであった。テストライダーさんの話では、低速の取り回し時に自動的にバランスをとってくれるため、ライダーのコントロールの限界を超えるような極低速でさえ、全くふらつかずにUターンや8の字ができてしまうと言い、事実それをやって見せてくれた。このモデルにはフロントの機構は先代より受け継ぎつつ、スイングアームの振り子機構を追加した形。しかし乗っていて違和感は先代以上に少なく、「転ばないバイク」を意識することなく取り回せるという。
 

 
 この制御は20km/hまでしか介入しないため、恩恵にあやかるのは本当に低速の取り回し時のみ。ガレージから出すといった取り回しから、Uターンなど、低速でバイクがフラつきやすい場面でサポートしてくれるわけだ。やはりこういった低速時が、立ちゴケや取り回しの苦労となるとのことで、この技術が実用化すれば大排気量車や重量車のハードルはかなり下がると言えるだろう。
 ただ、実用化の目途は? との質問にはまだはっきりした返答は得られなかった。コスト面でまだまだ市販化は難しいというのがあるだろうし、技術者としては制御技術もまだまだ高めていきたい、という想いを持っていると感じさせられた。しかし将来的には、ガレージから出して道まで押していく、などという操作そのものが必要なくなるかもしれないし、Uターンゴケなどというものは存在しなくなるかもしれないと思うと、それはなかなか興味深く、期待させられてしまう。更なるバージョンアップが楽しみである。
 

 

多角的な安全追求。タイムリミットは刻一刻と。

 昔からある技術の延長線上にあり、それを更に突き詰め高めていこうとするもの。そして完全に未来のものと思っていた技術が現実的に検討されていること。これらを感じた今回の発表会。交通事故死が本当にゼロになればそれは素晴らしいこと、ただ、その数を全世界を対象に半減させるそのタイムリミットはあとたったの8年。さらにゼロ、ゼロという大きい目標にも、たったの28年しか残っていない。この先28年でどれだけ様々な技術が進歩していくのか見当もつかないが、今回ホンダが発表したことが現実へと変わっていくのを、楽しみに見守っていくしかない。
 

筆者雑感〈オマケ〉

 今回、この発表会に参加した感想を少し書いて終わりにしたいと思います。仕事としてバイクに係り、クルマも日々走らせ、もちろん一般公道を歩き回り、自転車にも乗る筆者は、毎日交通社会の一員として生活しています。ホンダも「本当に交通事故死しないのは家から一歩も出ないこと」と知りつつ、「自由な移動の喜び」と「豊かで持続可能な社会」を実現するべく今回の取り組みを進め、Honda 安全の大義として「好奇心に導かれ、外へ外へと向かい、リアルな世界を完成・五感豊かに感じて楽しむ」を掲げています。本当に素晴らしい取り組みに感じます。

 しかし一方で、もう少し足元を見た、身近な安全もあるのではないか、などということも考えさせられました。
 例えば灯火類について。今回のホンダ関係者も言っていた通り、薄暮や雨天といった視界の悪い場面でのライト点灯は欧州では当然のこと。国によっては車幅灯を消すことができないところもあるほどで、ライト点灯による被視認性向上の重要性を認知しています。しかし国内ではこういった安全意識は高いとは言えません。ドライバーに「夕方は早めのライトオン」と啓発しても、なかなかその意識は向上していないように思います。だったらなぜハードであるクルマ側でそれをやらないのかが不思議です。車幅灯は消せなくしてしまっても良いですし、少なくともワイパーとは連動して点くようにするべきでしょう。これにはたいして難しい技術は必要ありません。誰か偉い人が「その通りだな。そうしよう」と言えば即座にでも実現できるでしょう。
 DRL(デイタイムランニングライト)の普及についても疑問点が残ります。法整備が進んでDRLが一般化しましたが、一部外国車を除きあくまでDRLは前方のみ。デイタイムランニング「テール」ライトはほぼ皆無のようです。したがって、雨天時などは後方からの被視認性は変わらず低いままです。今の季節の朝日や夕日など、太陽が低い位置にあって視界が悪い時にもライトは点けておきたいものですね。DRLは本来の安全性向上目的からデザイン目的/ファッション目的にすり替わっているように感じ残念な思いでいます。

 また二輪のライトについては、LEDに代わってからホンダ車だけに限らず明るさが頼りないと感じる車種が散見されます。今回の担当者は「ユーザーからもそういった声が届いていますので、明るさの向上は今力を入れている所です」と答えて下さいましたが、これもまたDRLと同様、デザインの自由度が先走ってしまい、明るさ、もしくは本当に明るく感じるかどうか、といった部分がないがしろにされてきてしまった、もしくは今もないがしろにされているのではないかと危惧しています。

 最後にもう一つ、灯火類だけではありませんが、デザイン面における安全性については研究があるのかと伺いましたが、今の所そういった研究はなさそうな返答でした。四輪二輪に関わらず、最近のトレンドは睨みつけるようなシャープなデザインのようですが、これが交通社会におけるトラブルを誘発しているのではないか、と考える筆者は考えすぎでしょうか。もう少し和めるような、対外的に親和性のあるデザインとすれば交通トラブルも減るのではないかと思うのです。

 自分が運転する乗り物が、他の交通を睨みつけるようなデザインでは「どけどけ! 我先に!」というメンタリティが沸き上がってしまうように思うのに対し、どこか気の抜けた、柔らかいデザインの乗り物に乗っていれば「ははっ! いいですよ、お先にどーぞー」といった気持ちになりやすいのではないかと思うのです。
 そんな研究も進めば、交通事故死の減少、とまではいかないまでも、よりスムーズでフレンドリーな交通社会になるのではないかと想像する筆者です。
 ハイテクで未来的な新技術や最先端の研究なくして次世代の安全は確保できないでしょう。そこに力を注ぎコストをかけるホンダは本当に素晴らしい。それと同時に、地道な気付きにより簡単に向上させることのできる、足元のシンプルな安全も、スピーディかつコツコツと、確実に実現していけると良いな、と思うのであります。
(取材・文:ノア セレン)





2021/12/15掲載