なんと美しいバイクなのか
別段クラシカルなスタイルが好みだとか、旧くからある車体構成こそが王道だとか言うつもりは全くなく、最新モデルの最新デザインも魅力が多く、新しいものはいつでも肯定したいと思っている。しかしこのCB1100、新しいだとか旧いだとか、クラシックだとか伝統だとか、そういった尺度は置いておいても素直に美しい造形をしているではないか。今回、この季節特有の低い位置からの太陽光線に照らされた、贅沢にメッキを使った車体には惚れ惚れさせられ、キラキラと反射する光には温かみが感じられた。
CB1100シリーズは2010年に、当時の「ネオレトロ」ブームに対するホンダの回答として登場。CB1300SFのエンジンをベースに空冷化し、18インチの前後ホイールを装着。「鷹揚」をキーワードに、速さを求めた4気筒ではなく、かつてのCB750FOURのようなバラついたようなフィーリングを追求し、カムタイミングを気筒間でずらすといった取り組みもなされ、その作り込みがユーザーの心をつかみ一躍大ヒットモデルとなった。
今回試乗したファイナルエディションは、2014年にバリエーションモデルとしてスポークホイールと左右二本出しマフラーを装備したよりクラシカルな「EX」の方。この他にも2017年には前後17インチホイールのよりスポーティな「RS」が追加されCB1100シリーズは成熟していったが、ユーロ5規制導入のタイミングでこのファイナルエディション(EXの他にRSも有)が登場し、ほぼ干支を一回りしたその歴史に幕を下ろすことになった。
「伝統×最新」の作り込み
全体の美しさは一目見て納得なのだが、随所にみられる伝統もまた見逃せない。
例えばヘッドライトの中身はLEDだし、砲弾型のメーターは中心にデジタル表示があり純正装着されるグリップヒーターの強さの表示など充実しているのだが、しかしあくまで形は丸型にこだわり、ウインカーはLEDではなくあえてバルブ式を採用。また旧くからのホンダファンなら嬉しいメッキの飾りリングの付いたダブルホーンなど、昔からのホンダらしさもしっかりと引き継いでいる。細かいフィンの刻まれたエンジンが、ライダー目線でタンクから横にはみ出して見えているのもまた、かつてのCB-F的でファン心をくすぐってくれる。
さらには、装飾的なパーツだけでなく昔から変わらない正立フォークやラジアルマウントではないブレーキキャリパー、サブタンクを備えないリアサスペンションなど、足周りのパーツは旧世代的にもかかわらず、それなのにしっかりと過不足なく機能する所にも伝統を感じさせる。難しいセッティングや、ましてや説明書を読みこまなければ理解しにくい電子制御などに頭を悩ませる必要はなく、ライダーは素直に走ることだけを楽しめばいいのである。そんなシンプルさもまた魅力で、クラシカルな見た目の中にそういった付き合いやすさに対する作り込みも相当込められているな、と感じさせられる。
4気筒の別のアプローチ
先にルックスの部分や抽象的なフィーリングの話をしてしまうと、中身のないバイクなのではないかという印象を与えてしまっていないか不安になるが、CB1100は決してそんなことはない。4気筒エンジンで、ましてDOHCだとつい高回転高出力な特性を想像してしまうかと思うが、CB1100はクラシカルなフィーリングと実用領域での味わいを徹底追及。クラッチを繋いですぐの極低回転領域から3500回転辺りまでに表情をギュッと濃縮した、独自の魅力を持ったエンジンなのである。
DOHCの4気筒で高回転高出力ではないモデルを想像すると、「トルクアート」を謳った同じホンダのX4が思い浮かぶが、確かに高回転高出力だけが4気筒エンジンの魅力ではないだろう。より実用領域で気軽にフィーリングを楽しめるような設定があっても良いし、大排気量4気筒の極低回転域の粘りや洗練されたフィーリングはシングルやツインにはない安心感や付き合いやすさがある。
CB1100のユニットはインジェクションの設定がまず抜群に良い。アイドリングからほんのちょっとだけ開けた領域のコントロール性が良好で、思った以上に飛び出したり、または逆にアクセルのツキが意図に対してワンテンポ遅れてしまってUターン時にヒヤリとするような場面はない。これに加えてクラッチの軽さ、繋がりのわかりやすさなどが手伝い、低速域の扱いは本当に優秀だ。大きなバイクを意のままに操っている感覚を、発進直後から味わえてしまう。
走り出すと整い切っていない排気音やエンジンフィールがワイルド感を演出してくれていて、1500回転ほどから味わいたっぷりである。ただ、整い切っていないのはあくまでフィーリングや排気音でありそれは味わいを演出する物。操作性自体は整い切っているどころか完熟である。アクセルを開けると3000回転までが最も気持ちよく、トルクと潤沢な味わいに包まれて走れる。6速ミッションのおかげで速度域に関わらずこの低回転域を使うことができ、6速100km/h巡航時でおおよそ2700回転という低回転域、もとい味わい回転域で走り続けることができる。追い越し加速時には一速落として高回転域を使えばそれなりにパワーも出てくるが、逆に3500回転を超えると回転が重くなり、味わいが薄れてしまう印象もあるため、このエンジンはあくまで3500回転以下を楽しみ、まさに鷹揚な気分で乗るのが吉だろう。
ハーレー的なバランス感
ハーレー的、などと書いたらホンダからもハーレーからも叱られそうだが、しかしスポーツスターなどハーレーの中でも独自のスポーツ性を求めているモデルと、CB1100には共通するものがあるように感じた。というのも、エンジンは低回転域を楽しむ設定にもかかわらず車体の方はその重量からは想像できないほど軽快に操ることができてしまうからだ。
CB1100は18インチの前後ホイールを装着し、大径であることに加え細身であることがこの操作性のキモになっているだろう。今日日のワイドタイヤではいくらか身構えることもあるが、この細身のタイヤではタイヤを暖めるだとか、接地面を意識するだとかそういった心配事は非常に少ない。新しく発売されたGB350や、さらに言えばカブのように、スッと乗り出してススッとコーナーも楽しめてしまう。そのカジュアルな運動性と低回転で味わいを提供してくれるエンジンがものすごくマッチしており、これがなんともハーレー的に感じてしまったわけだ。
絶対性能が高いわけじゃないし、走らせているペースもそんなに速いわけではないだろうに、高い充実感が得られるのは素晴らしいこと。フォークを沈めるだとか、タイヤを潰すだとか、ハングオンだとか、そういったこととは無縁。何と競うわけでもなく、ただただ前にあるコーナーを次々とクリアしていく行為がたまらなく楽しかった。
良い大人の良いバイク
バイクは少なからずアクティブであったり、もしくはやんちゃな印象があったりする乗り物だろう。身軽で機動力が高いからこそ、場合によっては他の交通から煙たがられることや、もしくは危ないんじゃないか、といった目で見られることもある。しかしそういった印象から遠い所にいるバイクもあったりする。カブや、もしくはヤマハSRといったテイスティ系マシンは、比較的「オートバイですか。素敵な趣味ですね」的見られ方をすることが多いのではないだろうか。大排気量4気筒でそのような印象のバイクは少ない気がするが、CB1100はどちらかというとそちらの部類だと思う。
えい! やあ! と走らせるのではなく、テイストを噛みしめるようにゆっくりと、たおやかに走る。他者に対して攻撃的な要素はなく、周りの環境に融和しつつ魅力を発するオートバイ。さらに走りは現実的な速度域で高い充実感。そんな「オトナの趣味」としてCB1100は素晴らしいマシンだ。このモデルをもってファイナルとなってしまったが、人気のおかげで市場には多くの個体が存在するため、まだまだ楽しめる良車である。
(試乗・文:ノア セレン)
■エンジン種類:空冷4ストローク直列4気筒DOHC4バルブ ■総排気量:1,140cm3 ■ボア×ストローク:73.5×67.2mm ■圧縮比:9.5 ■最高出力:66kW(90PS)/7,500rpm ■最大トルク:91N・m(9.3kgf・m)/5,500rpm ■全長×全幅×全高:2,200×830×1,130[2,180×800×1,100]mm ■ホイールベース:1,490[1,485]mm ■シート高:780[785]mm ■車両重量:255[252]kg ■燃料タンク容量:16L ■変速機形式: 常時噛合式6段リターン ■タイヤ(前・後):110/80R18M/C・140/70R18M/C[120/70ZR17M/C・180/55ZR17M/C] ■ブレーキ(前/後):油圧式ダブルディスク(ABS)/油圧式シングルディスク(ABS) ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:キャンディークロモスフィアレッド、ダークネスブラックメタリック[マットジーンズブルーメタリック、マグナレッド]■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):1,362,900円[1,403,600円] ※[ ]はCB1100RS Final Edition
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