●ホンダ タクト/タクト・ベーシック 車両解説
’70年代後半、一躍ブームとなったファミリーバイク(いわゆるソフトバイク)の普及に、その次に来たるべくモデルとして白羽の矢が立ったのは本格的なスクータースタイルの原付だった。ホンダからは、1980年9月にステップスルータイプのタクトがリリースされた。ロードパル(’76年2月発売)で若者や女性ユーザーの掘り起こしに成功したホンダが、より本格的な乗り物として「50ccの軽量でコンパクトな車体の中に、ゆとりある乗車スペース、ソフトな乗車感覚の乗り心地、セルスターターに代表される取り扱いやすい各種機構、そしてなによりも幅広いファッションにフィットするスタイル」を持つ原付スクーターとして市場へ投入したのだった。
このタクトが、’80年代を通してのホンダの原付モデルの顔として人気を持ち続けていくことになる。ちなみに販売計画台数は国内で“月間”15,000台。まさに空前のバイクブームならではの数字だった。翌’81年7月には、サイドトランクを装備したタクト・フルマークが登場。こちらの販売計画はさらに上を行く“月間”40,000台。
1982年9月には4.0馬力の新型2ストロークエンジン(初代は3.2馬力)を搭載する2代目に発展。デザインも若干直線的なイメージを強調するスタイルに変身。また、タクトフルマーク、そして1981年9月にタクト・フルマークに設定された特別カスタム仕様車(キー付きインナーボックス等を装備したモデルだった)を引き継ぐカタチでフルマーク・カスタムと、3タイプのラインナップに。販売計画はシリーズ合わせて“月間”30,000台だった。この2代目タクトをベースに、パリの高名なファッションデザイナー、アンドレ・クレージュ氏のデザインによる“クレージュ仕様のタクト”が発売されたのは1983年3月のことだった。
1984年5月、タクト、タクトフルマークのスタイルを一新。5馬力の新型2ストロークエンジンをVマチックと組み合わせ、ノイズインシュレーターの採用などにより’85年騒音規制(72dB)もクリア。販売計画台数は年間180,000台。9月になって、3代目タクトにもクレージュ仕様が登場。販売台数は限定10,000台。専用のクレージュデザインヘルメットなども発売されて人気を呼んだ。
1985年4月(フルマークは5月)、2ストロークエンジンの吸排気系を改良して出力を5.4馬力へとさらにアップ。3代目タクトの後期型に。セル、キック併用式の始動方式を新たに採用。5月、クレージュ・タクトも同様の改良を受ける。クレージュ・タクトは12月にさらにカラーリングの変更も受けている。
1986年2月、タクトフルマークの装備をより充実させたモデルをタクトフルマークSとして発売。大型スピードメーター、大型シート、折りたたみ式フロントキャリアなどを装備。1986年4月にはタクトのボディに4.1馬力の4ストロークエンジンを搭載するタクトアイビーが追加発売される。ボディと一体になったフロントフェンダーを採用するなど、その後のタクトのデザインを先取りするモデルだった。タクト本体は1986年9月にゴールドカラーホイールやタータンチェック柄のコンビシートを採用するなどの“特別仕様車”を追加発売。
1987年1月、タクトフルマークがフルモデルチェンジ。このモデルが実質的にタクトの4代目となる。フルフェイスヘルメットが収納可能な大型センタートランク“メットイン”をシート下に装備したのは、’86年に施行された原付一種のヘルメット規制に対するものだった。新設計6ポート2ストロークエンジンは、5.8馬力を発生。タクトアイビーで先鞭をつけたボディ一体のフロントフェンダースタイルを採用し、その後のタクトデザインの方向性を決定づけるモデルでもあった。9月には質感の高いメタリック塗装を施したタクトフルマークの特別仕様車を発売。
1989年3月、市販車として世界初の電動式オートスタンド(スタンドアップ機構)を採用するなど機能を充実させ、スタイルも一新したタクトフルマークを新型タクトとして発売。このモデルをもってタクトとタクトフルマークは、5代目タクトとして一本化されることになった(フルマークとしては7代目だった)。4.8リットル入り燃料タンクを採用、センタートランクの容量も22リットルにアップ。2ストロークエンジンの出力もついに6.0馬力となった。
1989年9月、スタンドアップ機構を省略した廉価版のベーシック仕様を追加。メーカー希望小売価格は、タクトの154,000円に対してベーシックは142,000円。1988年1月、6.4馬力エンジンを搭載し、よりスポーティで廉価(126,000円)な若者向けスポーティスクーターのディオが発売されたが、タクトの販売計画はこの時点でも年間シリーズ合計で140,000台が計画されていた。ちなみにDioの販売計画は年間200,000台だった。
1993年4月、タクトのデザインを一新、使い勝手の向上などにより6代目に。タクト、タクト・S、タクト・スタンドアップというラインナップという構成となった。若者向けのスポーティスクーターの役割は急速に人気を集めたディオにまかせて、タクトは“生活バイク”としての役割を強調する方向に向かうことになる。
1998年4月、フルモデルチェンジを受けて7代目に。従来のスポーティなイメージから一転、使い勝手に優れた装備やスムーズで力強い走りといった実用面での特長を前面に打ち出す戦略となった。デザインも従来のディオとよく似たスポーティなデザインから180度転換。実用性を意識したまったく新しい丸みを帯びたボディスタイルとなった。この7代目タクトは、リードシリーズに続き二輪車排出ガス規制および騒音規制にもいち早く適合している。販売計画台数は年間30,000台。
1999年1月、ベージュにパールをあしらったのボディの女性向け特別カラーモデル、タクトスプリングコレクションを発売。実質的にこのモデルの発売をもってタクトの歴史は一旦終了となる。
2015年1月発売で登場した新世代のタクトは、ホンダが原付スクーター市場の再活性化を目指すにあたって、原点に立ち返ると言うことで、あえて“名車”タクトの名称を復活させたものと説明されている。
新世代タクトのメカニズムの特長としては、Dunkに先行採用された「eSP(enhanced Smart Power)」水冷4ストローク単気筒OHC、50ccエンジンを、コンパクトなボディーサイズながらフラットで広いフロアスペースを持つ車体に搭載。Dunkよりも車両重量で約2kgの軽量化が図られたことにより、30km/h定地走行テスト値で80.0km/L、WMTCモード値で56.4km/Lの燃費性能を実現している。また、タクト・ベーシックを除くタクトではアイドリングストップシステムも採用している。このアイドリングストップシステムは、エンジン始動時にバッテリー電圧を検知しており、バッテリー電圧が低下している場合は、アイドリングストップ機能を停止し、バッテリー上がりを防止している。また、万が一バッテリーが上がってしまった場合でも、キックによりエンジンの始動が可能なシステムを採用している。
2019年1月には、このタクトシリーズの「ベーシック」に、受注期間限定で特別なカラーリングが施されたモデルが登場している。女性も注目するであろうナチュラルな色調の「ハーベストベージュ」という落ち着いた特別カラーが採用された。ちなみに2018年12月20日(木)から2019年2月28日(木)までの受注期間限定販売だった。
今回は、「タクト」と「タクト・ベーシック」の カラーバリエーションの変更だ。
タクトには「デジタルシルバーメタリック」の新色を採用。タクト・ベーシックは、「グラファイトブラック」、「ロスホワイト」、「パールディープマッドグレー」、「アーベインデニムブルーメタリック」を新たに採用。「ボルドーレッドメタリック」の継続色と合わせた全5色を設定したほか、ホイールとフロントフェンダーのカラーをブラックとすることで、より落ちついた印象を持たせている。
★ホンダ ニュースリリースより (2021年11月5日)
●原付一種スクーター「タクト」と「タクト・ベーシック」の カラーバリエーションを変更し発売
Hondaは、機能的なデザインの車体に、扱いやすい出力特性と環境性能に優れた水冷・4ストローク・OHC・単気筒エンジン「eSP(イーエスピー)」※1を搭載した原付一種(第一種原動機付自転車)スクーター「タクト」と「タクト・ベーシック」のカラーバリエーションを変更し、11月25日(木)に発売します。
今回、タクトには存在感のある「デジタルシルバーメタリック」を新たに採用。タクト・ベーシックには、精悍な「グラファイトブラック」、爽やかな「ロスホワイト」、都会的なイメージの「パールディープマッドグレー」、カジュアルな「アーベインデニムブルーメタリック」を新たに採用し、継続色の「ボルドーレッドメタリック」と合わせた全5色を設定したほか、ホイールとフロントフェンダーのカラーをブラックとすることで、より落ちついた印象を持たせています。
タクトおよびタクト・ベーシックは、ヘルメットや小物を収納できるラゲッジボックス※2、少ない荷重で掛けられるように配慮したセンタースタンドなど、日常の使い勝手を考慮した装備を採用。また、タクト・ベーシックはタクトと比較しシート高を15mm下げ、より足つき性に配慮したモデルとしています。
■タクトおよびタクト・ベーシックのカラーバリエーション
●タクト
・デジタルシルバーメタリック(新採用)
●タクト・ベーシック
・グラファイトブラック(新採用)
・ロスホワイト(新採用)
・パールディープマッドグレー(新採用)
・アーベインデニムブルーメタリック(新採用)
・ボルドーレッドメタリック(継続色)
※1 enhanced(強化された、価値を高める)Smart(洗練された、精密で高感度な)Power(動力、エンジン)の略で、低燃費技術やACGスターターなどの先進技術を採用し、環境性能と動力性能を高めたスクーター用エンジンの総称です
※2 ラゲッジボックスにはヘルメットの形状・大きさによっては入らない場合があります
- ●販売計画台数(国内・年間) シリーズ合計 34,000台
- ●メーカー希望小売価格(消費税8%込み)
- タクト 192,500円(消費税抜き本体価格175,000円)
- タクト・ベーシック 179,300円(消費税抜き本体価格163,000円)
- ※価格(リサイクル費用を含む)には保険料・税金(消費税を除く)・登録などに伴う諸費用は含まれておりません
主要諸元
車名型式 | 2BH-AF79 | |
---|---|---|
タクト〈タクト・ベーシック〉 | ||
発売日 | 2021年11月25日 | |
全長×全幅×全高(m) | 1.675×0.670×1.035 | |
軸距(m) | 1.180 | |
最低地上高(m)★ | 0.105 | |
シート高(m)★ | 0.720〈0.705〉 | |
車両重量(kg) | 79〈78〉 | |
乾燥重量(kg) | – | |
乗車定員(人) | 1 | |
燃費消費率(km/L)※3 | 80.0(国交省届出値 定地燃費値※4 30km/h 1名乗車時) | |
58.4(WMTCモード値※5 クラス1 1名乗車時)★ | ||
登坂能力(tanθ) | – | |
最小回転小半径(m) | 1.8 | |
エンジン型式 | AF74E | |
水冷4ストローク単気筒SOHC2バルブ | ||
総排気量(cm3) | 49 | |
内径×行程(mm) | 39.5×40.2 | |
圧縮比★ | 12.0 | |
最高出力(kW[PS]/rpm) | 3.3[4.5]/8,000 | |
最大トルク(N・m[kgf・m]/rpm) | 4.1[0.42]/7,500 | |
燃料供給装置形式 | 電子制御燃料噴射装置[PGM-FI] | |
始動方式★ | セルフ式(キック併用) | |
点火方式★ | フルトランジスタ式バッテリー点火 | |
潤滑油方式 | – | |
潤滑油容量(L) | – | |
燃料タンク容量(L) | 4.5 | |
変速機形式 | 無段変速(Vマチック) | |
変速比 | 1速 | – |
キャスター(度) | – | |
トレール(mm) | – | |
タイヤサイズ | 前 | 80/100-10 46J |
後 | 80/100-10 46J | |
ブレーキ形式 | 前 | 機械式リーディング・トレーリング |
後 | 機械式リーディング・トレーリング | |
懸架方式 | 前 | テレスコピック式 |
後 | ユニットスイング式 | |
フレーム形式 | アンダーボーン |
■道路運送車両法による型式認定申請書数値(★の項目はHonda公表諸元)
■製造事業者/本田技研工業株式会社
〈 〉内は、タクト・ベーシック
※3 燃料消費率は定められた試験条件のもとでの値です。使用環境(気象、渋滞など)や運転方法、車両状態(装備、仕様)や整備状態などの諸条件により異なります
※4 定地燃費値は、車速一定で走行した実測にもとづいた燃料消費率です
※5 WMTCモード値は、発進、加速、停止などを含んだ国際基準となっている走行モードで測定された排出ガス試験結果に基づいた計算値です。走行モードのクラスは排気量と最高速度によって分類されます