HONDA CRF250R/CRF250RX 車両解説
2000年のMFJモトクロス日本グランプリで、CRF450Rのプロトタイプ車が世界に先駆けてデビュー。そして翌年の2001年から全日本モトクロス選手権シリーズ及び、AMAモトクロス選手権でワークスチームが使用して活躍、本格的な4ストロークモトクロッサーの時代が幕を開けた。そしてこの年の11月10日にCRF450Rが市販開始されている。
4ストロークエンジンを搭載する新時代のモトクロッサーCRFファミリーの一員として、CRF250Rが登場したのは、CRF450Rの発売から2年遅れの2003年11月。以来、イヤーモデルごとに戦力アップがはかられてきているCRF450RとCRF250Rだが、登場時期と同様、それぞれの進化の度合いは毎年異なったスケジューリングで行われてきている。
2012年モデルのCRF250Rは、エンジン面ではスロットルボディの小径化を図るとともに、コネクティングチューブ、吸気ポート、排気ポート、エキゾーストバルブの形状変更が行われ、車体周りではCRF450Rと共通するサスのチューニングやワイドフットペグの採用などが行われた。2013年モデルではCRF450Rがフルモデルチェンジを受けたのに対して、フロントフォークのダンパー部のピストン径のアップ、バネレートの変更が行われ、また新パターンのフロントタイヤの採用が行われた程度で、いわゆる戦闘力アップの熟成マイナーチェンジが行われたのみだった。
そして2014年モデルで、CRF250Rにフルモデルチェンジの番がやってきた。エンジンでは全域でトルクフルなパワーを生み出す新設計ピストンと燃焼室形状の採用、混合気の充填効率を高める吸気通路形状の最適化、低中速のパワー感とスロットルレスポンスを両立させる燃料噴射方式“デュアル・ステージ・フューエルインジェクション(1サイクル2度噴射制御)”の採用などが行われた。サイレンサー全長を短くすることで慣性マスの集中を行い、また、同時に左右対称配置で得られる重量バランスの良さから高い車体安定感と軽快感を生み出すショートデュアルマフラーを採用。排気圧を最適化する整流板を取り付けた新型エキゾーストパイプも導入された。
車体回りでは第6世代の新設計アルミツインチューブフレームを採用。フロントの接地感とリアトラクションの向上などを目標にヘッドパイプとメインパイプの結合部を下方に移動させ、ヘッドパイプまわりの剛性を最適化。リアクッション上部とメインパイプ、ピボットプレートをより近づけて剛性を上げ、作動性を向上。リアフレーム上下パイプ間の角度を大きくし、各ガセット類の軽量化などが行われた。また、この新型フレームは低重心化とマス集中化を狙ったレイアウトを徹底していることも特徴だ。ECU、コンデンサー、レギュレーター、ワイヤーハーネスなど、各電装部品もグラム単位で軽量化し、同時に車体中心付近に配置させてマス集中化に貢献している。
足周りでは、縦、横剛性を最適化した新設計のスイングアームを採用。パイプの形状を見直し、従来よりも縦剛性を大幅に上げつつ横剛性を適切に保つことで、しなやかさと路面をしっかり捉える剛性感を両立させているという。フロントフォークは従来モデルを熟成し新設計の車体に合わせてセッティング。マス集中化と共に軽快感を最大限に引き出した車体レイアウトとのマッチングを図っている。おなじみのホンダプログレッシブステアリングダンパーは継続採用。
スタイリングでは、ジャンプ中もより扱いやすいように必要最小限の外装部品、徹底したマス集中化による軽快で俊敏な動きへの寄与、そして“マンマキシマム・メカミニマム”MM思想によりダイナミックで自由なライディングアクションに対応、という3点をキーワードに進化させたという。
2014年9月に登場した2015年モデルはフルモデルチェンジが行われた翌年のモデルということもあってマイナーチェンジのみで、フロントフォークにエアサスペンションを採用し、エンジンは、3種類のエンジン特性モードを手元で切り替えられるエンジンモードセレクトスイッチとインジケーターが新たに採用された程度。
2015年9月に登場の2016年モデルも熟成版といえるもので、エンジンの出力向上を目的に、吸排気系部品の素材変更も含めて見直しを実施。また、PGM-FIのセッティングの最適化も行われ、特に高回転域での出力アップとドライバビリティーの向上が図られている。それ以外では、フロントサスペンションが、フォークの内部構造の見直しに加え、アウターチューブに空気弁を追加、より細かなサスペンションセッティングを可能にするとともに、初期作動性能を向上させ、サスペンションの動きの良さと反力を両立させるという改良が行われた。同時に2016年モデルが発表されたCRF450Rの方も熟成のマイナーチェンジ。
4年ぶりのフルモデルチェンジとなった2018年マシンは2017年10月に発売されている。最大の特徴としては、ついにDOHCヘッドが採用されたことがあげられるだろう。同時にボア×ストロークの最適化や、吸・排気ポートのストレート化、2系統に独立させた排気システムの採用などもおこなわれている。車体周りでも剛性と柔軟性を両立させながら軽量化を図ったニューフレーム、チタン製燃料タンクなども新採用。「モトクロスレースで勝つこと」を目的に行われる改良は留まることを知らない。
2018年9月(CRF250RXは10月)に発売された2019年モデルでもフルモデルチェンジの翌年とはいえ、カラーリングの変更でお茶を濁すわけにはいかない。エンジンのカムプロフィールの変更や吸・排気系のレイアウト見直しが行われるとともに、兄貴分のCRF450Rと同様、安定したスタートを実現するためローンチコントロールシステムが新たに採用された。
2019年8月の2020年モデルは“ビッグマイナーチェンジ”といえる変更内容で、エンジン周りの熟成、ギアレシオの最適化、フレームとスイングアームの剛性調整、前後サスのセッティング変更などが行われた。
今回の変更はフルモデルチェンジといえるもので、エンジンではバルブタイミングの最適化、エアクリーナー容量のアップ、拝跪ポート形状のストレート化、1本出しマフラーへの変更、クラッチ容量のアップ、ミッションアセンブリーの新設計、ギアレシオの変更など。
車体面では、構造の簡略化や合成の最適化などにより単体で約1㎏の軽量化を図った新型フレームの採用、車体全体でも細部の見直しによりRでマイナス4㎏、RXでマイナス3㎏の軽量化を実現している。
★HONDA ニュースリリースより (2021年8月27日)
モトクロス競技専用車「CRF250R」およびエンデューロ競技専用車「CRF250RX」をフルモデルチェンジし発売
エンジンは、DOHCの特性である高回転域の伸びはそのままに、より低回転域の力強さに焦点をあてて開発しています。バルブタイミングを最適化し、エアークリーナー容量を増やしたことで、低回転域のトルクの向上に貢献。またドライバビリティー向上のために排気ポート形状をストレート化するとともに、従来の二本出しマフラーから一本出しマフラーに変更。これにより、低回転域の燃焼安定化と排気効率の向上によって、力強く扱いやすいエンジン特性を実現しています。
クラッチは、細部の仕様を見直すとともに容量を増やすことで、タフネス性と操作性の向上を両立。ギアミッションは、ミッションアッセンブリーを新設計し、ギアレシオを見直すことで力強く扱いやすい特性としました。またシフトドラムを変更することで、シフトフィールを向上させ、トータルでのエンジンの扱いやすさに寄与しています。
また、ラジエーターは、放熱面積を増やしフィン角度の最適化により、冷却性能を向上。シュラウド形状の見直しにより、空気の流れが改善され冷却効率の更なる向上に貢献しています。また吸排気系、駆動系、冷却系のレイアウトを最適化し、高いタフネス性を確保しました。
フレームは、旋回性の高さと安定性を高次元で両立させながら、構造の簡略化や剛性の最適化によりフレーム単体で約1kg、また、細部の見直しにより車両全体ではCRF250Rで4kg、CRF250RXで3kgの軽量化を実現しています。前後サスペンションは、競技走行に必要な耐久性向上とともに、悪路での路面の外乱をいなし、路面追従性をより向上させるなど、ライダーの姿勢維持と疲労軽減に寄与しています。
CRF250RXは、CRF250Rをベースに、飛び石や枝からレバーへの干渉を抑制するナックルガードや、サイドスタンドを標準装備とし、大型燃料タンクを採用するなど、エンデューロ競技専用車として仕様を充実させたモデルです。
カラーリングは、両モデルともにHondaのオフロードモデルの力強さと情熱を表現するエクストリームレッドとしています。
※ 受注期間は2021年8月27日(金)から12月26日(日)まで
- ●販売計画台数(国内・年間)
- CRF250R 300台
- CRF250RX 80台
- ●メーカー希望小売価格(消費税8%込み)
- CRF250R 847,000円(消費税抜き本体価格 770,000円)
- CRF250RX 863,500円(消費税抜き本体価格 785,000円)
- ※価格(リサイクル費用を含む)には保険料・税金(消費税を除く)・登録などに伴う諸費用は含まれておりません
- ※CRF250R、CRF250RXは、公道および一般交通の用に供する場所では一切走行ができません。また、登録してナンバープレートを取得することもできません
- ※走行場所には十分注意してください。私道や林道、河原、海辺などの公共の道路以外の場所でも、人や車が自由に出入りできるところは道路とみなされ、道路交通法および道路運送車両法の違反になります
- CRF250Rの主な特徴
- エンジン
- ・排気ポート形状のストレート化ならびにバルブタイミングの最適化によって、低回転域での燃焼安定化と排気効率を向上。力強く扱い易いエンジン特性を実現。
- ・ミッションアッセンブリーを新作するとともに、ギアレシオの最適化とシフトドラム形状の変更による軽量化により、幅広い回転域でのエンジンの扱いやすさとシフトフィールを高めました。
- ・インジェクターの搭載角度を変更。吸気効率を改善するとともに、エアクリーナーボックスの容積拡大、マフラーを一本化するなど吸排気系を見直すことで、エンジンのトルクフィールを向上しました。
- ・クラッチディスクを前モデルの8枚組から9枚組に変更。摩擦材負荷を低減させるとともに、潤滑機能とプライマリーレシオを最適化することで、クラッチの耐久性を向上。また、クラッチスプリングの荷重低減及び細部仕様の見直しによりクラッチレバーの操作荷重を低減しました。
- 車体
- ・フレームを新設計し剛性を最適化することで、旋回性と安定性を高次元で両立させるとともに、構成部品を見直すことで、フレーム単体で約1kg、車両全体ではCRF250Rで4kg、CRF250RXで3kgの軽量化を実現しました。
- ・リアサスペンションのストローク量を5mm増やすことで、路面追従性をより向上させるなど、ライダーの姿勢維持と疲労軽減に寄与しています。
- ・左右方向の張り出しを抑えたサイドカバーと、一本出しマフラー化により、車体をスリム化することで、ライダーの体重移動などの自由度を高めています。
- CRF250RXの主な特徴
- CRF250Rをベースにエンデューロモデルとして以下の仕様を変更
- ・ウッドセクションやブッシュなどの多い林間コースを走行する際に、飛び石や枝などからレバーへの干渉を抑制するナックルガードを標準装備。
- ・よりエンデューロ競技に適応させた樹脂製大型燃料タンクを採用。
- ・リアホイールリム径を19インチから18インチに変更。
- ・サイドスタンドを新設計し、張り出しを抑えるとともに軽量化を実現。
主要諸元
車名型式 | ME12 | |
---|---|---|
CRF250R〈CRF250RX〉 | ||
発売日 | 2021年8月27日 | |
全長×全幅×全高(mm) | 2,117〈2,176〉×827〈839〉×1,265〈1,281〉 | |
軸距(mm) | 1,477 | |
最低地上高(m) | 0.333〈0.335〉 | |
シート高(m) | 0.961〈0.964〉 | |
車両重量(kg) | 104〈108〉 | |
乾燥重量(kg) | – | |
乗車定員(人) | – | |
燃費(km/L) | – | |
登坂能力(tanθ) | – | |
最小回転小半径(m) | – | |
エンジン型式 | – | |
水冷4ストローク単気筒DOHC4バルブ | ||
総排気量(cm3) | 249.4 | |
内径×行程(mm) | 79×50.9 | |
圧縮比 | 13.9 | |
最高出力(kW[PS]/rpm) | – | |
最大トルク(N・m[kgf・m]/rpm) | – | |
燃料供給装置形式 | 電子制御燃料噴射装置[PGM-FI] | |
始動方式 | セルフ式 | |
点火方式 | DC-CDI | |
潤滑油方式 | – | |
潤滑油容量(L) | – | |
燃料タンク容量(L) | 6.3〈8.0〉 | |
クラッチ形式 | 湿式多板コイルスプリング式 | |
変速機形式 | 常時噛合式5段リターン | |
変速比 | 1速 | 2.384 |
2速 | 1.933 | |
3速 | 1.600 | |
4速 | 1.350 | |
5速 | 1.153 | |
減速比1次/2次 | 3.047×3.846 | |
キャスター(度) | 27°19′〈27°09′〉 | |
トレール(mm) | 115〈114〉 | |
タイヤサイズ | 前 | 80/100-21 51M〈90/90-21 54M〉 |
後 | 100/90-19 57M〈110/100-18 64M〉 | |
ブレーキ形式 | 前 | 油圧式シングルディスク |
後 | 油圧式シングルディスク | |
懸架方式 | 前 | テレスコピック式(倒立タイプ) |
後 | スイングアーム式(プロリンク) | |
フレーム形式 | アルミツインチューブ |
(Honda測定値)
※製造事業者/本田技研工業株式会社 熊本製作所
〈 〉内はCRF250RXのデータ